思い出して。本当に大切なことは何なのか
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ホルマジオとナナシとを組み合わせると、途端に精神年齢が低くなるのか何故なのか。年頃のクソガキの如き悪さを、大人の知恵をフル活用して行うタチの悪さといったら無い。
いつもターゲットにされるのは、いちいち過剰な反応を返すギアッチョ、イルーゾォ、ペッシ。後々厄介なことになりかねないリゾットやプロシュートには手出しをしないのも腹立たしい。メローネが狙われにくいのも、そう、反応が『気持ち悪い』せいだ。あの変態は怖いものを知らない、これもまた別の意味では不気味だ。
ホルマジオとナナシ。この二人はどんな場合でも、示し合わせたかのように悪戯を始める。
偶然通りかかったギアッチョと鉢合わせただけで、それはまた、当然の如く始まった。
「オメーらは夜遊びか」
「そう、二人で、ね」
「まぁ、いわゆる『大人の夜遊び』だ」
何が『大人の夜遊び』だ。ギアッチョは思ったが、ホルマジオが思わせぶりに、ナナシの肩を抱き寄せた。軽口と冗談に騙されることはないのだが、ギアッチョは「からかわれている」という事実でイラつき始める。
「こっちはこんな時間からイケ好かねぇプロシュート兄貴とのクソ暑苦しい夜だっつーのに、てめェらは随分と楽しそうなこった」
「そうよ、ペッパー(辛口)なギアッチョ。邪魔を し な い で」
「オレたち、これから、イイトコロ」
ホルマジオはコロナビールの瓶のふたを、ピンと弾いてギアッチョの額に直撃させる。
ギアッチョはキれた、いつも通り簡単に、プッツン。さぁ、始まりだ!
二人はくるりと踵を返して、今出てきたばかりの店の一本奥の小路へと駆け抜けた。
もう姿が見えない。ホルマジオのやつは、またあの小狡いスタンド能力で小さくなりやがって逃げようって算段だろう。
が、ギアッチョが駆け抜けた背後から、ヒールの足音が向こうへと駆け出した。振り返ったが、小路をひらりと抜けていくスカートの裾が見えただけだ。
気配を消すのは仕事上の専売特許。だが、多少頭に血が登りかけていたとはいえ、暗がりに隠れてやり過ごす、なんて子供だましに引っかかるとは、なんとも腹立たしい。
ホルマジオとセットにすると、ナナシもこうして調子に乗って、人をおちょくりやがる。
大通りに出れば、ナナシはホルマジオのように身を隠すことが困難になる。ならばと獲物をナナシに絞る。
足に急ブレーキをかけ、ギアッチョはくるりと方向転換して駈けた。
ナナシがギアッチョの追跡に敵うはずがない。
ナナシが次の路地へと滑り込んだ瞬間、足の下のアスファルトは後ろから超高速で伸びてきた氷に覆われる。ナナシは無様にもかかとを真ん前に振り上げた姿勢で、後ろへと転倒しかかった。
追い付いてきたギアッチョがさっと背中を抱きとめる。タイミングぴったりのヒーロー!まぁ、コイツが転ばせたのだが。
「ごめんごめん!私の負けだわ!ね、ごめんなさいったら!」
走ったせいで荒くなったナナシの呼吸からは、酒の匂いがしていた。
「クソ、許すか」
人通りのない、狭く暗い小路の中。片一方の逃走劇は、あっけない幕引きとなった。
ギアッチョはナナシの唇に深くキスを、しかけて、あわてて辺りを見渡した。ホルマジオの覗き見にあっては厄介だ。さっと、かるく触れ合わせるだけに留める。
だが、ギアッチョはナナシの背を抱いたまま、彼女のカーディガンの合わせを襟元から下へと指でたどった。腹の前に並ぶボタンを、一番上からそっと外していく。
「なぁ、いいよな」
「私は敗者よ。断れないんでしょ?」
「少しの間だけだ」
ナナシは自分からカーディガンの肩を下ろし、キャミソールの紐がかかる肩を、夜の空気の中で露わにした。
..
....
.......
スタンド能力によって小さくなったホルマジオは、そびえるゴミの山を避けながら駆けた。
ギアッチョがナナシに気を取られ、小路を追わずに大通りへと引き返したのは気配で解る。ナナシには悪いと思ったが、腐っても暗殺家業の一味、逃げおおせることが出来て当然、と、ささやかに健闘を祈る。
路地を突っ切り、隣の通りへ出たところで体のサイズを元に戻す。
さて、と見渡すと、意外にもすぐにナナシは見つかった。
「上手いこと、巻いたみてェだな」
見覚えのある色のカーディガンの肘が建物の角から中途半端に突き出しているのに、ホルマジオは苦笑した。
通り抜けるバイクの音に足音を隠し、距離を詰める。
「オイオイ、しょうがねぇな。それじゃぁ、ギアッチョに捕まるぜ?」
驚かせるつもりで腕を掴んだ。
骨が固く、筋肉質で太い腕だ。
え。
引きつるホルマジオを、路地のずっと奥から顔を覗かせたナナシが、キャミソール姿でクスクスと笑う。『ごめんなさい』と、東洋人がするように、両手のひらを顔の前で合わせて。
『思い出して。本当に大切なことは何なのか』
さぁ、今、何をしなければいけない時だったっけ?
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