見ないで。そんなに真っ直ぐ
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ギアッチョは部屋でひとり、目の前のセクシーと見つめ合っていた。
メローネは、ギアッチョが自分用のパスタを茹でようと握っていた絶妙のタイミングで現れ「オレもすっごく腹が空いているんだ」とのたまった。
ギアッチョは、調理中には歓迎できない「クソ」といった悪態をつきながらも二人前のパスタとソースを用意した、その最中の出来事だ。
造り付けの小型クロゼットの脇、別段何かを張る予定もなかったタイルの壁に、メローネはわざわざワインコルクを縦半分に切って接着剤で貼り付けた。
ギアッチョはフライパンの中のニンニクを焦がさないよう、忙しくフライパンを揺すりながら「勝手なことをするな」と怒鳴った。しかし、メローネは勝手にしゃべりつつ手際よく作業を進める。
そうしてまたたく間に、一枚のポスターを貼り付けてしまった。
エキゾチックな雰囲気のモデルは、どことなくナナシに似ている(とメローネがゴリ押した)。髪はナナシと同じくらいの長さ、光の加減によってはこんな色に見えることもある(だろう?とメローネが熱弁を振るった)。不自然に小さな水着で強調された豊かなバストは、これもナナシとほぼ同じサイズ(だとメローネがさらに熱く、口角泡を飛ばしていた)。なめらかな腰はかるく捻られてうっとりするようなラインを描き、大きな尻のサイズもバスト同様ナナシとほぼ同じ(奇跡の数字なんだ!とメローネが略)。
などと何やら勝手にしゃべくりながら、そこにポスターをピン留めする。
一連の作業の最後には、「嫌なら剥がしていい」と言った。なら、貼らなければいいのに。
そのうえ、出来上がる直前のパスタを視界にも入れずにメローネは帰っていった。男二人で丁度のはずだった山盛りのパスタと、セクシーと、ギアッチョを残して。
ひと皿に積み上げられたパスタを乱暴にかき混ぜたせいで、服にソースが飛んだ。
建の狭いクロゼットを開け、着替えようと服を脱ぐ。
目が合う。
「……そんなに似てるかァ?」
ひとりぼやきつつも、ギアッチョはこの部屋に住み始めて初めて、クロゼットに背を向けて服を脱ぎ、着替えた。
夜。
昼にパスタを胃の限界まで詰め込んだせいで、未だ消化しきらない腹の中のものが、気持ちばかりこなれてきた頃。
最近『出して』いないな、と、虫干しの機会が少なくなったポルノ雑誌を引っ張りだした。見慣れた、お世話になった女優が、紙に焼かれたその時のポージングで官能を促す。
パンツのファスナーに手をかけようとしたところで、ふと視線を感じ、顔をあげた。
昼間からずっと同じ位置に貼られているポスターが目に入る。
ナナシに似ている(とメローネがゴリ押した)。
髪もナナシと同じくらいの長さ、光の加減によってはこんな色に見えることもある(だろう?とメローネが熱弁を振るった)。
不自然に小さな水着で強調された豊かなバストは、これもナナシとほぼ同じサイズ(だとメローネがさらに熱く、口角泡を飛ばしていた)。
なめらかな腰はかるく捻られてうっとりするようなラインを描き、大きな尻のサイズもバスト同様ナナシとほぼ同じ(奇跡の数字なんだ!とメローネが略)。
ギアッチョは頭を振ってメローネの声を追い払い、自分に言い聞かせた。
『たかが紙一枚に印刷された女の写真』
しかし、やはり落ち着かない。
『手の中で開かれたポルノ雑誌の女優と同じだ』
ポスターを見上げ、いかがわしい雑誌に目を落とし、もう一度ポスターを見上げ、いかがわしい雑誌を閉じて、立ち上がった。
見れば見るほど、そう見えなくもないという幻想に取り憑かれるのだから、思い込みとは恐ろしい。
「あぁ!クソ!チクショウ!!」
ギアッチョは力任せに壁のポスターを引っ裂いた。
ピンのところで縦に千切れた哀れなピンナップ・ガールはポーズを崩すこと無く、青緑色のひとみを正面に向け続けた。
『見ないで。そんなに真っ直ぐ』
気が散る。
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