燃やして。跡形もなく
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「そういうわけだから、ね。ここまで正直に話したんだ、解るだろう?」
今日の女に昨日の女の痕跡を責められても、ちっとも悪びれずに言い逃れてみせるメローネが、たった一枚の紙をのめぐってたじろいでいる。
実入りの悪い、とかく暇を持て余しがちな連中ときたら、くだらない事件をいかに面白く、かつ長く引き伸ばすかが、暇つぶしのお約束となりつつある。
時に自分がターゲットとなる妙な時間つぶしだが、標的にされる側も別段まんざらでもない様子でイジられている。メローネはわざとらしく困ったポーズをとっているようにも見える、だが、目だけは笑っていない。
ナカユビと薬指の二指に複写の紙を挟んでちらつかせるホルマジオは、普段のおふざけとは違い、この取引を引き伸ばせないことを知っている。
「いくらで買う?」
「いいぜ、いくらででも。ただしカネは『ソレ』アから出るんだ、アンタも共犯てことになるがね」
「マジか!?まぁ、そういうことになるのか。……しょうがねぇな」
メローネのニヤニヤには余裕がない。腕を組んだまま、指がキーボードを叩くときのように動いている。メローネが急いている時の癖だ。
片眉を持ち上げて上目づかいに見やったホルマジオが、くちびるの端を持ち上げた。
「よし。ひとまず、カフェ・ロマーノを」
満足のいく交渉結果に、メローネは心底ほっとした。ファミリーの財布に直結した横領レベルの金額の工作だが、命をはるつもりはなかったからだ。
「見つかったのがアンタで助かったよ。リーダーだったら、こうはいかなかった」
「上に知れなきゃあ万々歳だ、そうだろ?」
「まあね。百や二百の紙切れの中の全部の数字を疑って見る奴なんか、居ないと思ってやってるから」
紙切れはホルマジオの手で小さく折り畳まれ、鼠の尾のようにはみ出させた一つの角をライターで炙った。
灰皿へと放られた紙は空中でぱっと火の玉になる。
「そりゃあ、そうだな」
レモンの輪切りが沈んだコーヒーのカップをうやうやしく当て、レモンを擦りつけたフチに、それぞれがくちづけている頃。折りたたまれた形のまま灰になった紙は、次にアジトへとやってきたギアッチョによって開け放たれた窓から吹き込む雨の前の風で、細かく千切れたゴミと舞い上がった。
『燃やして。跡形もなく』
そんな危ない橋、渡らなければいいのに。
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今日の女に昨日の女の痕跡を責められても、ちっとも悪びれずに言い逃れてみせるメローネが、たった一枚の紙をのめぐってたじろいでいる。
実入りの悪い、とかく暇を持て余しがちな連中ときたら、くだらない事件をいかに面白く、かつ長く引き伸ばすかが、暇つぶしのお約束となりつつある。
時に自分がターゲットとなる妙な時間つぶしだが、標的にされる側も別段まんざらでもない様子でイジられている。メローネはわざとらしく困ったポーズをとっているようにも見える、だが、目だけは笑っていない。
ナカユビと薬指の二指に複写の紙を挟んでちらつかせるホルマジオは、普段のおふざけとは違い、この取引を引き伸ばせないことを知っている。
「いくらで買う?」
「いいぜ、いくらででも。ただしカネは『ソレ』アから出るんだ、アンタも共犯てことになるがね」
「マジか!?まぁ、そういうことになるのか。……しょうがねぇな」
メローネのニヤニヤには余裕がない。腕を組んだまま、指がキーボードを叩くときのように動いている。メローネが急いている時の癖だ。
片眉を持ち上げて上目づかいに見やったホルマジオが、くちびるの端を持ち上げた。
「よし。ひとまず、カフェ・ロマーノを」
満足のいく交渉結果に、メローネは心底ほっとした。ファミリーの財布に直結した横領レベルの金額の工作だが、命をはるつもりはなかったからだ。
「見つかったのがアンタで助かったよ。リーダーだったら、こうはいかなかった」
「上に知れなきゃあ万々歳だ、そうだろ?」
「まあね。百や二百の紙切れの中の全部の数字を疑って見る奴なんか、居ないと思ってやってるから」
紙切れはホルマジオの手で小さく折り畳まれ、鼠の尾のようにはみ出させた一つの角をライターで炙った。
灰皿へと放られた紙は空中でぱっと火の玉になる。
「そりゃあ、そうだな」
レモンの輪切りが沈んだコーヒーのカップをうやうやしく当て、レモンを擦りつけたフチに、それぞれがくちづけている頃。折りたたまれた形のまま灰になった紙は、次にアジトへとやってきたギアッチョによって開け放たれた窓から吹き込む雨の前の風で、細かく千切れたゴミと舞い上がった。
『燃やして。跡形もなく』
そんな危ない橋、渡らなければいいのに。
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