黒
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ずっと見ていると、ほんのささいなことに気がつくことがある。
長引いていた仕事がひとつ片付いたと核心に至るのは、無造作に放り出された洗濯物を干している時。
世界じゅうに展開する安いブランドの、無難な黒いシャツ。
サイズはエックス・エル。袖に合わせるとそうなるらしい。
それと同じ物が数着。
頭髪の抜け落ちという、DNAの遺留品を残さぬためのフード。
水分を含んだそれは真っ黒に見えるが、実際は濃いグレーをしている。
素人はよく『黒い服』というが、実際の真黒は夜闇に紛れられない。
闇に飲み込まれるためなら、ほんの少しシアンを混ぜたブラック、もしくは限りなく黒に近いチャコールグレー。
もしこれがプロシュートなら、もっと違う黒を選ぶ。
シャツの色を、どぎつい橙に。
それも、トスカーナの畑で収穫を待つ赤葡萄色とつややかな葉の緑色で、ペイズリーの花をびっしりと刺繍してあるもの。
合わせるベストこそ、まるで黒。
それすらも、背中と前身頃が別布で接がれていて、体の前面……肩から胸にかけて自然光に映されるまま光を浴びれば、皺の山ひとつひとつが表情を変える玉虫色の糸で、細かなヘリンボーンに織られているのが判別できる。
そんな装飾のための黒はリゾットに必要が無いようだった。
防弾処理を施した特殊なラバーコスチュームは、屈強な体にぴったりと沿う。
水分を吸うことのない襟足にすっと汗の雫が流れるさまなど、得も言われぬエロティックさを醸しだす。
「エナメルのボンテージなんかより、ずっと厭らしいですね」
「お前は皮革フェチだったのか?」
口に出したら、いらぬ誤解を招いた。
「いえ、……素敵だと思います。機能美として」
否定したつもりだったが、結局は皮革フェティシズムの気があると認めたようなもの。
それにしても、ふとすれば死に装束になるかもしれないものに、何を言っているのか。
『服装なんてどうだっていいんです』
フォローに続けようと思った言葉は、後悔の深い穴に自らを突き落としかねなかった。
黒い衣類と同じ数だけ、黒い影がコンクリートに落ちている。
―――ネロ 黒