ブランカ
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南部・ブーリア州。
アルベロベッロからマルティーナ・フランカまで、ギアッチョの運転する車で二十分とかからなかった。
茶色い円錐形の屋根ばかりが連なる特有の景色は緑に飲まれ、そしてちらちらと白、白の連なる街の風景へと移り変わっていく。
吸血鬼が卒倒しそうな大蒜の束。
陶器の壷や真鍮の平鍋。
埃を被った絵皿と上手くもない肖像画。
いぶされて磨かれた木肌の色になった、まるごとモモ肉の生ハム。
それらがブラ下がった素朴なオステリアで、予想外の量の肉団子スパゲッティに挑みかかったのが、一週間も前の出来事に感じられる。
田舎の午後の静けさが、白い白い白い街にシンと居座っていた。
白漆喰の化粧塗りを施されたバロック調の家々が、道より他には隙間をあけず、どこまでも壁を繋げている。
長方形に切られた灰茶の石を行儀よく埋め込んだ路地が、白い壁の隙間を縫うように伸び、まるで迷路だ。
二度か三度、闇雲に過度を曲がってしまえば、二度と同じところへ帰り着けないのではないか。
スペイン南部、セビリアの町並みを彷彿とさせる静かな白い空間はふと、そんな虚妄を錯覚させる。
「眩しい」
思わず漏らした呟きや、細かな砂利を踏みつける靴底のきしみ、近すぎる距離で触れ合った互いの衣擦れまで、白い白い白い壁に吸いつくされるようだ。
静寂の中で見上げる空の色さえ、上から青色絵の具を塗られたポートレイトのように白々しい。
「クソ。こんなところじゃあ、血なんか流せねェな」
代わりに、どこから流れてきたのか本人にも解らないホームレスの心臓がいつの間にか止まり、その手足を投げ出して……或いは丸めて……静かに息を引き取っているのには、絵になりすぎるほど美しい街。
『臨機応変に』の一言で一任されたターゲットの殺害方法は、ギアッチョが至妙の技を発揮することで意見が一致する。
どこかにたどり着きたかったのか。
そこはどこなのか。
目的、目的地などなく漂い歩いたのか。
日や雨や風や、奇異や哀れみの目に晒されてきた旅人の、終着点。
暑いくらいの気温の中で、彼の心臓だけが未曾有のブリザードに晒されでもしたように、完全に凍りつく。
脈が止み、呼吸が止まり、血液に残った体温が少しづつ、もう二度と鼓動しない心臓を、元通りに溶かしていく。
「完璧主義にも『程度』ってモンがあるだろ?」
「仕方がないわ」
男の足取りを追い始めて十三日目。
白壁と門塀の脇で、行儀よく並べられた灰茶の石畳に真っ黒な影を落とすカメリアが揺れた。
塀の下にわだかまる影の裾が同時に幾度かはためき、大人しくなった。
―――フランカ 白
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