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「何だ、この匂いは」
バニラエッセンスと砂糖の焦げるのと卵とバターとココアとそのほか。
「美味しそうないい匂い」にはもう程遠い異臭が、狭い空間に充満していた。
アジトの中に凝縮された菓子地獄の悪臭に、昼食で腹を満たしたばかりのリゾットは思わず胃の辺りを強く抑える。
気の利いた料理を並べる際にスープ皿の下に敷く、キッチンの食器棚の奥へとしまわれていた一番大きな皿に山積みのドーナッツ。
そして、皿は一つではなかった。
砂糖がかかったの。チョコレートがかかったの。砂糖のグレイズにカラースプレーをかけたの。シナモンシュガーをまぶしたの。
リゾットは甘ったるい悪臭をプンプンさせる忌々しい輪っかに近寄ることさえ躊躇した。
ダイニングテーブルを陣取るひとつの皿の前に、ペッシが座って丸い菓子を食っていた。
生地を作っては伸ばし、ロックグラスで外周、小ぶりのショットグラスで真ん中を抜いて、沸いた油に突っ込む。
そうして作った揚げ菓子の、ショットグラスで繰り抜かれた真ん中の丸いやつだけをモグモグと。
「ギアッチョが「ドーナッツの穴だけ喰ってりゃあ太らねェ」て言うからよォ」
「お前にはアレの皮肉が伝わらなかったようだが、ドーナッツの穴は空っぽで売られているだろう?つまり「何も喰うな」という意味だ」
苦く濃くドッピオで入れたエスプレッソが欲しくなり、急に脚が萎えたような疲労を感じて椅子を引いた。
座ったせいで甘ったるい臭いが近くなる。
リゾットは頭の痛くなるような事実に目をつぶり、ついでに鼻をも塞ぎたくなった。
「ドーナッツなんて、砂糖と炭水化物の複合体に油を吸わせたカロリー爆弾だぜ。どれくらい喰ったんだ?」
「オイオイメローネよォ、そういう言い方やめろよなァ?あの穴の開いたヤツを片付けるのに、きっと緊急招集かかるぜ」
どう逃げてやろうかと及び腰のメローネとホルマジオの後ろで、玄関のドアが開いた。
「ただいまー、ドーナッツ買ってきたよォ」
久しぶりのショッピングを堪能し、ストレスを脱ぎ捨ててきたナナシの快活な声。
しかし次の瞬間には、全員に行き渡るのに充分な数のドーナッツが入った長い箱を掲げたまま、甘ったるい匂いに顔をこわばらせた。
thee end
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