ルーティンワーク5
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ようやく揃った買い物の品ももそのままにマーケットの細い通路を駆け抜けるはめになったリゾットが、ペッシとギアッチョとプロシュートを『ジャッポーネ式セイザ・スタイル』で床に座らせ、滾滾と説教を垂れていた。
両膝を折って脛をクッション代わりに尻に敷き、膝から下に全体重がかかるこの『ジャッポーネ式セイザ・スタイル』は、はじめの数分間は何の苦もなく過ごせる。
……しかし時間を追うごとに足の筋肉は固く緊張し、膝や脛がひどく痛み、自重で血液を塞き止められた足全体が地獄のしびれに襲われる。これはジャッポーネに住む者にはお馴染みの、日常的に行われる拷問の一種である。死者を天に送る葬送の場では『生きるものの痛みを持って死者の罪を浄化するよう』、婚姻の儀式の際には『いかなる苦痛をも共に生きる決意』とさまざまに意味を変えて根付く、勤勉なジャポネーゼの生み出した恐ろしい責め苦だ。
仕事が無いと手の付けられない悪ガキに逆行してしまう厄介なメンバーを戒めるため、リゾットは身体に外傷が残らず後遺症の心配のないこの手軽な拷問を、この暗殺チームにいち早く取り入れた。
買い物の品を全て置いてきてしまったリゾットは、足が痺れきって動くこともままならない三人に、部屋掃除の仕上げに加えてバスルームとトイレの掃除、更に山積みの食器洗いを命じてアジトへ置き去りにした。
ナナシを連れて改めて外へ出たところで、ちょうど帰還したメローネと出くわす。メローネはリゾットとナナシの顔を交互に見、とくにリゾットのポーカーフェイスから何らかの意図を汲み取ったのか、並びのいい歯を見せびらかす笑顔でナナシの肩に腕をかけた。
「オレもご一緒しちゃおうかな」
「それもいいが、掃除と食器洗いをペッシとギアッチョとプロシュートに任せてきたんだ。『ジャッポーネ式セイザ・スタイル』の後だから、食器を割られると困るんだが」
言い終わらぬうちに、メローネはぱっと踵を返し、嬉々としてドア奥へ駆け込んだ。足を痺れさせたエモノは鮮度が命。それが三人もいると知ったからには、ドス黒い腹の色が更に濃くなるというものだ。
直後、悲鳴と咆哮とメローネの悪魔のような爆笑が階段まで響いた。
アジトでどんな雄叫びをあげられても絶対に聞こえないだろう距離まで歩いてから、ナナシの雑談を中断させ、一息ついてから唐突に言った。
「何のために電話をしたと思っているんだ?」
「電話?あぁ、さっきの。メモだけじゃあ正確に買い物ができなかったからでしょう?」
ごくごく薄いオブラートに包んで『要領が悪い』と言い放ったナナシに、リゾットは「察しが悪いな」と口に出して言った。
「いつもなら「埒があかない」とか言って、出てくるだろう?」
リゾットは四方に気配を配らせ、何者の気配もないだろうことを確認してからナナシの腕に自分の腕を当てた。
逞しい腕を見、リゾットの顔を見上げる。正面を向いたまま、眼球だけがツ、と動いてナナシを見下ろす。
ナナシは諦め、リゾットの腕に自分の手を絡めた。
「この期に及んで行き先はスーパーマーケットだなんて言わないだろうな」
「察しが悪いですね。リーダーには罰として、美味しい食事を奢ってもらいますから。わざわざ戻って食事を用意する必要が無くなれば、食材は明日でも全く問題ありません。食料調達係が戻らなかったら、残留兵は何とかするしかありませんもの。足の痺れが治って、部屋の掃除が早く片付いていたらね」
「手際の悪い奴らだ。時間がかかるだろう」
「食事をして戻る頃には終わっていますよ」
「あぁ、食器洗いまで任せたのが問題だったな。朝までかかるだろうから、邪魔はしないほうがいい」
ナナシは思わず身を引いてしまった。失敬なリアクションにもリゾットは眉一つ動かさなかったが、上腕二頭筋がきれいな逆三角形に盛り上がる腕に挟まれたナナシの腕は、リゾットの身体と腕の間から引っこ抜けなかった。
ジタバタと藻掻くみっともない光景を路上に晒すより、ナナシは大人しく従うことを選んだ。
.
1/1ページ