オーフリー
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ホルマジオが出て行ってから一分か、だいたいそれくらいしか経っていないだろうか。
扉が開く。
時計の針が見えなくとも、それがごく短い時間であることは確かだった。
呼吸はまだ整わず、恐怖の後味は消え切らない。ナナシは身体を起こし、扉の向こうを凝視した。
ギアッチョが入ってくる。
ピン。リゾットの手の中でジッポーライターの蓋が開く。
ギアッチョは何も言わない。問うても答えはないだろうとナナシは感じていたし、その勘は概ね合っていた。
キリ、カシャン。
ギアッチョの手の中では、シリンダーが回転し、所定の位置に収まる音がした。リボルヴァー銃を持っている。
ツカツカと歩み寄り、ナナシの額へ狙いを定めて真っ直ぐに手を伸ばす。
眼鏡のレンズが微かな光を受け、ギアッチョの表情は読めない。
人差し指が引き金にかけられる。
発射音。密閉された部屋が、音叉のごとく反響させる。
ことを、間一髪阻止することに成功した。
寸前、ナナシは振り払うように銃を掴んでいた。
伸ばしていた爪が犠牲になったが、撃鉄の間にうまくナカユビが入った。余計なおしゃべりの間を置かずに向けられた銃口に、思いついた対処法はただひとつ。一か八かの危険すぎる手口だった。
『雷管に衝撃が伝わらなければ、弾は発射されない。リボルヴァーならシリンダーが回転しないように手で力いっぱい握り込めばいい、それか、撃鉄に指を挟んでしまえば』
使い慣れないシングルアクションのコルト・ガバメントをナナシに握らせ、後ろから抱きすくめて構えさせたギアッチョが随分と前に言っていた。「危機的状況でそんな真似ができるはずが無ェ。所詮は机上の空論、だけどな」そう付け加えて、自分の指を撃鉄に挟んで見せて。
―――そう。理論上は可能だが、かつてギアッチョが言ったとおり、この土壇場でうまくいったのは偶然だった。それも、限りなく奇跡に近い偶然だ。そして今だって、ギアッチョが力の限り手首を捻れば、爪だけでなく指そのものを折り千切られる危険性を孕んでいる。
ナナシの額に汗が吹き出した。
次は、この後はどうすればいい?
しかし、一発で仕留めるつもりであったギアッチョにも、思考の隙が生じていた。
ナナシは両手でリボルヴァーを掴み、懇親の力を込めてギアッチョの手から引き剥がす。
撃鉄に差し込んだままの指が、嫌な音をさせた。
撃鉄から慎重に指を抜く。暴発はない。
ためらうこと無く、ナナシはギアッチョの広い胸の中心へと銃口を構えた。この距離なら、確実に当たる!
ギアッチョはあっさり両手を広げ、上へ向けた。
次の手段をとる様子もなく降伏し、背を向けずに下がって後ろ手にノブを捻る。
扉が開き、ギアッチョが部屋から出て行く。
扉が完全に閉まるのをすっかり見届け、ナナシは両腕をがっくりと落とした。
ザラザラと血液が流れる断続的な音を、耳の奥に感じる。
呼吸が早い。密閉された部屋の酸素を使いきってしまいそうだった。
カシャン。
ジッポーライターの蓋が閉まる。
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