オーフリー
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ピン。リゾットの手の中でジッポーライターの蓋が開く。
ナナシは身構えたが、武器になりそうなものは何もない。そして足も、全く動かない。
ガツガツとブーツを鳴らして歩み寄るホルマジオの利き手は、背の後ろ側に回されている。
何を持っている?銃か。ナイフか。鈍器か。
スタンドが発現しない。
足と同じように、何らかの絡繰りで縛られているのか。
思案の余地はなかった。
僅かな光を反射させたナイフの切っ先が、ついに姿を現す。
ホルマジオは、人の命の灯火を吹き消すその時の、慎重で残酷で寂しい色を混ぜこぜにした、あの真っ直ぐな眼差しだった。
ナナシが動けないと知っているのか。悪戯に切り刻むこともフェイントもなく、肘を突き出すように真っ直ぐに、胸の中心、短い刃でも確実に心臓へと到達する肋骨の隙間を的確に狙ってきた。
ホルマジオのモーションがスローに見えた。
両腕を胸の前に組めば、とりあえず命だけは助かるだろう。しかし、胸に刃物が突き立つほどの力を両腕で受ければ相応の負傷を免れることはできず、反撃の手段を失う。そうなれば、ホルマジオはナナシの首を折る。彼の身体に染み付いた経験を持ってすれば、悪戯に野花を摘み取るくらいに造作も無く、とても退屈な作業だ。
それなら。
ホルマジオのナイフの距離はもう、胸からたったの数センチ。
ナナシは背中をベッドへ倒した。
倒れざま、腹の前で組んだ両手の拳を上方向へ、力いっぱい放り上げた。
弾かれたナイフは服の腹から胸にかけて服を裂いたが、ナナシの顎は刃先から逃れることができた。
金属が床に落ち、転がり滑る音がした。
ナナシは自分の上へと倒れ込んだホルマジオの首を、力のかぎりホールドする。寝技に持ち込むための手順を無視した不自由な体制の羽交い絞めは、思うように力を入れられずにいた。
そのはずである。白く細い腕が自分の首にかかる前に、ホルマジオは腕で防壁を築いていた。相手は、簡単に急所を差し出すズブの素人ではないのだ。
褐色の腕が、ナナシの渾身の締め付けをジリジリと緩ませる。
一回りも太さの違う筋肉に抗うことが叶わず、ナナシは食い縛った歯の間から呻き声を漏らした。
カシン。
ジッポーライターの蓋が閉まる音がした。
途端に、ホルマジオの腕がナナシの腕をいとも簡単に払いのけた。
形勢逆転。
足の動かないナナシはまた、死出の旅路へ出る準備と覚悟を迫られた。
起き上がったホルマジオのくちびるが、笑った形を作ったように見えた。
しかし、やはり何も言わずに部屋を出て行く。
薄暗い影の濃淡が見せた、一瞬の幻想かも知れなかった。
裂けた服地を掻き合わせ、ナナシは嫌な汗が流れるのを感じていた。
.