オーフリー
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
―――ピン。
金属の蓋を空ける軽い音が、深い深い眠りからナナシを呼び覚ます。
ナナシは朦朧とする頭に、自分なりに精一杯の機動を仕掛け、眼を開いたはずだった。
しかし、ハーブの香りが漂う清涼な風も燦々たる輝きもない。朝であるはずの世界は、息の詰まるような薄闇に支配されている。
メインライトの電球が切れたままの照明器は、頼りない予備電球だけを灯していた。部屋の隅までくまなく、とはいかないまでも、心もとない明かりを精一杯に広げ、窓のない部屋をぼんやりと映している。
ナナシは眼をめぐらす。アジトの仮眠室だった。先住者が気難しい音楽家だったとかで、防音に優れて窓はなく、ジメジメと陰気な臭いがする。ナナシは深く眠っていたような気がした。しかし、こんなところで眠りについた覚えはない。
そして、陰気な部屋に自分以外の人間の気配を認めた。
「……リーダー?」
気配の先の黒い影の肩幅を見て判断し、ナナシは声をかける。
リゾットの形をした影は答えなかった。
足をかるく開き、椅子に座った形の物言わぬオブジェと化して、ただそこにいる。
カシン。
火を灯さないまま、リゾットの手の中でジッポーライターの蓋が閉じられる。
眠りを見張っていたようなリゾットに、ナナシはいささかの不信感を抱く。
暗い部屋の寝台から降りようとして、ナナシははじめて、自分の両足が動かないことに気がついた。
.