あの街の夜の物語
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「今の男と暮らしてるのか?」
「あら、聞いてたの」
リゾットとナナシの会話に、店の客がみな耳を澄ました。プライベートな話題はのらりくらりで煙に巻いてきたナナシの、逃げようのない事実が今そこにあったからだ。
「そうよ、一緒に暮らしてるわ。派手なひとだったでしょう。手のかかるのがもう一人いるから、三人でね」
言って、意味ありげに笑った。男やもめの『ソリッド』はカウンターの反対の端で、苦い顔をしてコップの底に残ったビールのしずくを口に落とした。小上がりでは普段より酒の過ぎたブチャラティの手が止まり、アバッキオは中身が減っていないブチャラティのおちょこに熱燗を注いだ。
しんとした店内に、有線で流れていた『銀座の恋の物語』のデュエットだけが流れる。
「……いやあね。みんなが心配するような、色っぽいモンじゃあないわヨ」
ナナシはわざとらしく、カラカラ笑ってみせた。誤解はちっとも溶けていないだろう。
でも、あれが兄貴で待っているのは弟だ、なんて。ちょっと面白いから、もうしばらくは言わないでおこうと思うのだった。だって、嘘をついているつもりは全く無いのだから。
今日は、これでお仕舞い。
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