あの街の夜の物語
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
小路の上に細長く見えている夜の黒い空に、月が姿を表していた。そう遅くもない時間だからだ。深夜にならなければ、月は建物の陰に隠れて見えない。星が霞んでいる。
珍しく、冷やしていた瓶ビールが少なくなった。普段は出くわさない常連が二人と、普段はあまり酒を飲まない常連が、酒飲みの同僚を連れてきたせいだ。
ナナシは裏口を開け、酒屋が置いていったケースに空瓶を戻しつつフウと息をついた。業者に出しておく汚れたおしぼりも、今日は赤いプラスチック篭に山積みだ。
「閉める時間だろう?混んでるのか」
ふとかけられた声に、ナナシは顔を上げた。派手なシャツの胸元を大きく開けた、やくざな雰囲気の男だ。全く見慣れた容貌なのでナナシはとくに驚きもせず、にこりと笑う。
「プロシュート、わざわざ来てくれたの」
「ペッシも待ってたんだぜ。甘ったれた声出して、もう寝ちまったけどな」
「アラ、そう。可哀想なことしたわね。でも、今日はまだお客が残っているから」
ナナシは店の中に視線を送った。どうしてか、今日は皆なかなか帰らない。
「精出して稼ぎな。先に帰ってるぜ」
「ポテトサラダ、残りそうだから持って帰るわね」
いつまでもカウンターを留守にできないナナシは、返事の代わりに手を上げたのを見ないまま、裏口のドアを閉めた。
→