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六 やすらはで寝なましものを

 秘密の交際を始めてから一か月ほどが経った。その日、野原さおりは自室の机に向かっていた。彼女は計画を立て、十日後に迫る中間テストの勉強を進めていた。国語は初見文章を出さないと言っていたから、授業ノートを見直せばそれで済む。今日は英単語と生物基礎と数学をやって……。
 ノルマをこなすべくシャープペンシルを動かしていると、ベッドの上に置いておいたスマートフォンが特別な通知音を鳴らした。
 恋人は勉強に優先する。考える作業は一時中断だ。
「ほのか、どうしたのかな」
 ベッドの上に座り、スマートフォンを手に取る。通知内容は、恋人・滝川ほのかからの、テスト勉強のことで救いを求めるメッセージだった。いつものことながら可愛らしいなとさおりは微笑んだ。助けて欲しいのは数学らしい。関数の問題が出来ないと送られてきた画像は、解き途中の計算が写った写真だった。
 この問題なら昨日やったから解説出来る。その方がすぐに終わるから電話でも良いかなとメッセージを返すと、「電話はダメ」と悲しそうな返事が来た。家の事情なのだと言われてしまえば、声が聞きたいんだよ、なんて言い返すことは出来ない。さおりは「ちょっと待ってね」と言葉を送信し、要らない紙の裏側に解法を記して写真を撮った。数分すると、感嘆符の並ぶメッセージが送られてきた。
「持つべきものは頭の良いカノジョ、ね……」
 嬉しいような、そうでないような、複雑な気持ちだ。テスト最終日にはさおりの家でデートをして、ほのかの点数が平均より上なら更に買い物デートもするという約束が、彼女を奮い立たせていることは理解出来る。それで頼られるのは嬉しいし、ほのかのためになることなら何でもしてあげたいけれど、何というか、一方的に利用されているような気分でもある。
 ――ただのクラスメートだった時はそうは思わなかったなあ。わたしはいつの間にか、見返りが欲しくなっちゃったんだ。
 ぼんやり考えながら英単語を覚え、生物基礎の計算問題をやり、数学の演習に取り組む。気が付けばもうすぐ日付が変わる頃だ。明日はテスト前最後の土曜の部活。その後にはほのかとのランチデートが待っている。そろそろ寝ようか。でもその前に、いつものごとく、ほのかのテスト勉強の進捗を確認しておかなくては。
「他に分からないところあった? ……っと」
 返事が来たら寝よう。多分まだ起きている時間だから、きっとすぐに陽気な文面が送られてくるだろう。そう思っていたけれど、十分経っても既読が付かない。もしかしたらお風呂かも。さおりはベッドに入った。電気は点けたまま、動画を観ながら返事を待つ。
「え」
 ふと気が付けば、日付が変わってからもうすぐ一時間半。
「……寝よう」
 翌朝、さおりがアラームで目を覚ますと、「ごめん、関数のあとすぐ寝ちゃった」とメッセージが届いていた。
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