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たとえ貴方が忘れても

 夕暮れの道を一人寂しく家へと向かう青年の影があった。彼の名はアサミチ。黒髪黒眼で、黒いマフラーにベージュのマントを羽織っている。
 その後ろを、こっそり付いていく影があった。その影の主はセニアという女性である。薄青色の眼と、薄黄色の髪は、夕陽を受けて照らされ、何時も以上に輝いていた。
「さっむいなー……」
 セニアは呟くと、アサミチに向かって走り出す。その足音を聞きつけ、彼は振り向いた。
「どうした、セニア」
「ん、寒いの。アサミチあったかそうだし、マフラーくらい貸してよ」
「いや、僕は寒いからマフラーしてるんだ」
「ふーん。じゃあ、あたしが凍死しても良いって言うんだー?」
「そんなことは言ってないだろう」
 二人並んで歩きながら、そんな風に他愛も無い会話を続ける。
「今日はどうしたの?」
「いや、会社に忘れ物した気がして取りに戻っただけだ。結局忘れてなかったけど」
「戻る前に確認しようよ。残業とか遅番って訳じゃないんだね」
「この不況で長々と働かせてくれるような会社じゃないし」
 アサミチは苦笑すると、セニアを横目で見た。
「ん、何」
「髪、切ったのか?」
「分かる? 前髪少し切っただけなんだけど」
「よく分かる。セニアの顔はいろんな意味で特徴的だから」
「ちょっと、どういう意味?」
「良いだろ。声優業に顔は関係無いんだし」
 セニアは怒るべきか呆れるべきか迷い、
「ラジオって声優業なの?」
と笑うことにした。
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