夢幻
始まったモノは何時か終わってしまう。忌まわしい労苦も、楽しい語り合いも。儚い恋物語も、恐れていた嫌み言も、全て。
その中で、もしも終わらないものが「在る」のだとすれば――。
私には、叶えたい夢がある。優しさに出逢う事。ただそれだけ。
私は今、他に誰も居ない、真っ暗な夢幻の中に居る。
何処から来たのか? 名前は? そんな事、考える必要は無い。私にはそれが分からない。知ったところで何にもならない。
欲しいのは、優しさだけ。誰からでも良い。私に優しさを下さい。
“御前はずるい”
暗い空間の外から、声が聴こえてくる。声の主は、毎回違う。そして毎回、私に鋭い言葉を投げつける。
何故だろう。私は何も、悪い事などしていないのに。
どうして優しくしてくれないのだろう。私が居ていいのか不安になってしまうじゃない。
ある時、私は夢を叶える為に、この暗い空間を歩いてみた。何処かに、優しさの欠片が落ちているかもしれないから。そう思ってしばらく歩いてみたけれど、周りはやっぱり暗黒でしかない。ただこの足が疲れるのみなのならば、もう、止めよう。
こんな孤独な世界……夢幻には居たくない。優しさには出逢えない。
“全てを愛するお人好しなんてこの世界には必要無い”
遠くで聴こえた。そして感じた。この夢幻の中に、私以外の誰かが存在する。
歩いた事で、何かが変わったのかもしれない。けれど、私が変えたその何かは、きっとこの世界に居る事を望まない。
私がそうだから。居ても意味が無いから。
……出逢ったその人は、私を見て微笑んだ。
「貴方を好きになっても、良いかな?」
私が居る世界には、何処かから暴言が飛んでくる。ついさっきだって、“必要無い”って聴こえたばかりなのに。
その人は笑うと言った。
「わたしは、わたしが居る世界が好きだから」
その人は語った。
わたしが生きていられるのは、世界がわたしを愛してくれるから。だからわたしも、私に出来る最高の愛で、世界の中の色々なモノを愛したい。それをお人好しって言う人も居るけれど、それでも、その人とわたしが出逢ったのは、世界がわたしを生かしてくれているから。
わたしが出逢えた人は皆、わたしの“大好き”なんだよ。
初めて出逢った人が、こんなにも温かいなんて。こんなにも、私に優しくしてくれるなんて。
言葉が出なかった。どうしていいのか、分からなかったから。
「わたしは、白い世界に居たんだ。こことは逆の」
その人は、私に手を差し伸べた。
握っても、良いのだろうか。
「良いんだよ。貴方が私を好きじゃなくても、私は貴方が好きだから」
その人は、また笑った。
私は、その手を握った。初めてこんなに温かいモノに触れた。
「わたしは貴方が好きだから。たとえわたしが苦しくてもね」
……それは一体、どういう事なの?
思っている間に、指先の温かさが消えていくのを感じた。
「ここは負の夢幻。わたしの生きられない場所。わたしの居るべきは正の夢幻」
「正の夢幻……?」
「けれどわたしは、貴方の存在を知った。わたしが元気になれる言葉を聴いている間、貴方はずっと耐えていた。だからわたしは進んだの。貴方の世界に。貴方がいないと崩れてしまう、人の弱さを受け止める世界に――」
その人は、言葉を言い終わらないうちに、薄くなって、そして消えた。
また私は独りになってしまった。
わたしがここに居たから。ここに居るから。だから、消えてしまった。
私は温かさを消すために生きているの? そんなの、生きている意味、無い。
“消えろ”
安心して。私もそのつもりだから。
私が居なくなったって、何も変わらない。
――貴方が居ないと崩れてしまう。
ついさっきまで感じていた温もりが、ゆっくり思い出される。すっかり冷えてしまったこの手でも、救えるモノがあるのなら――。
ならば私は、生きよう。
自分が消えることも承知で、私に気付かせてくれた人の為に。自分への見返りを求めずに、私を愛してくれた人の為に。
始まったものは終わってしまうから。永遠なんて、無いから。
私には今、叶えたい夢がある。もう一度、優しい温もりに出逢う事。ただそれだけ。
私にはあなたのように、全てを愛する事は出来ないだろうけど。
この夢はまだ、終わらない。
その中で、もしも終わらないものが「在る」のだとすれば――。
私には、叶えたい夢がある。優しさに出逢う事。ただそれだけ。
私は今、他に誰も居ない、真っ暗な夢幻の中に居る。
何処から来たのか? 名前は? そんな事、考える必要は無い。私にはそれが分からない。知ったところで何にもならない。
欲しいのは、優しさだけ。誰からでも良い。私に優しさを下さい。
“御前はずるい”
暗い空間の外から、声が聴こえてくる。声の主は、毎回違う。そして毎回、私に鋭い言葉を投げつける。
何故だろう。私は何も、悪い事などしていないのに。
どうして優しくしてくれないのだろう。私が居ていいのか不安になってしまうじゃない。
ある時、私は夢を叶える為に、この暗い空間を歩いてみた。何処かに、優しさの欠片が落ちているかもしれないから。そう思ってしばらく歩いてみたけれど、周りはやっぱり暗黒でしかない。ただこの足が疲れるのみなのならば、もう、止めよう。
こんな孤独な世界……夢幻には居たくない。優しさには出逢えない。
“全てを愛するお人好しなんてこの世界には必要無い”
遠くで聴こえた。そして感じた。この夢幻の中に、私以外の誰かが存在する。
歩いた事で、何かが変わったのかもしれない。けれど、私が変えたその何かは、きっとこの世界に居る事を望まない。
私がそうだから。居ても意味が無いから。
……出逢ったその人は、私を見て微笑んだ。
「貴方を好きになっても、良いかな?」
私が居る世界には、何処かから暴言が飛んでくる。ついさっきだって、“必要無い”って聴こえたばかりなのに。
その人は笑うと言った。
「わたしは、わたしが居る世界が好きだから」
その人は語った。
わたしが生きていられるのは、世界がわたしを愛してくれるから。だからわたしも、私に出来る最高の愛で、世界の中の色々なモノを愛したい。それをお人好しって言う人も居るけれど、それでも、その人とわたしが出逢ったのは、世界がわたしを生かしてくれているから。
わたしが出逢えた人は皆、わたしの“大好き”なんだよ。
初めて出逢った人が、こんなにも温かいなんて。こんなにも、私に優しくしてくれるなんて。
言葉が出なかった。どうしていいのか、分からなかったから。
「わたしは、白い世界に居たんだ。こことは逆の」
その人は、私に手を差し伸べた。
握っても、良いのだろうか。
「良いんだよ。貴方が私を好きじゃなくても、私は貴方が好きだから」
その人は、また笑った。
私は、その手を握った。初めてこんなに温かいモノに触れた。
「わたしは貴方が好きだから。たとえわたしが苦しくてもね」
……それは一体、どういう事なの?
思っている間に、指先の温かさが消えていくのを感じた。
「ここは負の夢幻。わたしの生きられない場所。わたしの居るべきは正の夢幻」
「正の夢幻……?」
「けれどわたしは、貴方の存在を知った。わたしが元気になれる言葉を聴いている間、貴方はずっと耐えていた。だからわたしは進んだの。貴方の世界に。貴方がいないと崩れてしまう、人の弱さを受け止める世界に――」
その人は、言葉を言い終わらないうちに、薄くなって、そして消えた。
また私は独りになってしまった。
わたしがここに居たから。ここに居るから。だから、消えてしまった。
私は温かさを消すために生きているの? そんなの、生きている意味、無い。
“消えろ”
安心して。私もそのつもりだから。
私が居なくなったって、何も変わらない。
――貴方が居ないと崩れてしまう。
ついさっきまで感じていた温もりが、ゆっくり思い出される。すっかり冷えてしまったこの手でも、救えるモノがあるのなら――。
ならば私は、生きよう。
自分が消えることも承知で、私に気付かせてくれた人の為に。自分への見返りを求めずに、私を愛してくれた人の為に。
始まったものは終わってしまうから。永遠なんて、無いから。
私には今、叶えたい夢がある。もう一度、優しい温もりに出逢う事。ただそれだけ。
私にはあなたのように、全てを愛する事は出来ないだろうけど。
この夢はまだ、終わらない。
1/1ページ