罪無き恋人に幸福な夢を
人間は古くから、歴史を重視してきた。当時の暮らしぶりを知れば知るほど、現在と過去の相違や共通点が見えてくる。そこからは、何故それが歴史にならざるを得なかったかも、知ることが出来る。学べば学ぶほど、現在のままではいずれ歴史の一部となることも想像出来る。
「そういう理由でこの職を選んだと思ったら、大間違いだ」
青年は読んでいた新聞記事を二つに破った。彼は今、幾星霜も昔に栄えた街の遺跡に来ていた。
遺跡とはいえ、現在も人々はそこで生活している。昔とは違って電気もガスも水道もあるが、文化は当時のものを継承しており、訪れる価値はあると聞いた。
「あ、お兄ちゃん旅人?」
街の一角にある石造りのベンチで休んでいると、青年は少女に声を掛けられた。警戒心の無い所を見ると、この街に来る考古学者は皆、悪人ではないらしい。
「ああ、おれは歴史を研究しながら旅をしてる。君は?」
「んとねー、民宿の人だよ。この街はあんまり大きくないから、泊まるとこ少ないんだ、だからね、是非うちに」
「そうだな。暫くの間、泊めさせて貰うよ」
すると少女は朗笑し、青年の手を引いて歩き出した。二つに破いた新聞を持ったまま、彼は彼女に導かれて街を歩いた。
建造物は石造で、壁は白く、三角形の屋根は赤茶色い。どれもが平屋建てで、高い位置に小さな窓を持っていた。道は石畳で轍が多くあったが、車輪を持つものは一つも見当たらない。
「家の中は比較的涼しくて暗い。自動車の類が無いのはこの街で物資が足りているから。昔は交易で栄えたのか?」
「お兄ちゃん、凄いね。街外れに農場があって、それで足りるくらいの人数しかいないから。名物は銀製品だったけど、掘り尽くしちゃったみたいー」
「衰退の原因はそれか。おれが探してるのも、銀製品」
「この街に来る旅人、皆そう。蛇使いの騎士の剣でしょ?」
「ネク=ウォ=ナイト。別名を裏切り者の夜ともいう」
「そこまで知ってるんだ。じゃ、ロサンホセは?」
「花の宿。色気の欠片も無い男が、そんな精彩な名の宿に泊まってもいいのか?」
少女が止まったので、青年も足を止めた。目の前には、他よりは多少大きな石造りの建物があった。両開きの扉は木製で、看板が掛かっている。
「お金払ってくれるならねー」
「それはそうだ」
部屋に案内された後、荷物を下ろした。比較的新しい素材を使った家具からは、以前文化が栄えた頃に木材が無かったことが窺えた。
彼の身長では、高い窓から外の様子を確認することは難しかった。そんなことは気にせず、少々暑かった屋外に対し、快適な屋内の温度を感じる。
「ネク=ウォ=ナイト……見付かるといいけど」
両手に持っていた新聞をゴミ箱に投げ入れ、呟いた。
「そういう理由でこの職を選んだと思ったら、大間違いだ」
青年は読んでいた新聞記事を二つに破った。彼は今、幾星霜も昔に栄えた街の遺跡に来ていた。
遺跡とはいえ、現在も人々はそこで生活している。昔とは違って電気もガスも水道もあるが、文化は当時のものを継承しており、訪れる価値はあると聞いた。
「あ、お兄ちゃん旅人?」
街の一角にある石造りのベンチで休んでいると、青年は少女に声を掛けられた。警戒心の無い所を見ると、この街に来る考古学者は皆、悪人ではないらしい。
「ああ、おれは歴史を研究しながら旅をしてる。君は?」
「んとねー、民宿の人だよ。この街はあんまり大きくないから、泊まるとこ少ないんだ、だからね、是非うちに」
「そうだな。暫くの間、泊めさせて貰うよ」
すると少女は朗笑し、青年の手を引いて歩き出した。二つに破いた新聞を持ったまま、彼は彼女に導かれて街を歩いた。
建造物は石造で、壁は白く、三角形の屋根は赤茶色い。どれもが平屋建てで、高い位置に小さな窓を持っていた。道は石畳で轍が多くあったが、車輪を持つものは一つも見当たらない。
「家の中は比較的涼しくて暗い。自動車の類が無いのはこの街で物資が足りているから。昔は交易で栄えたのか?」
「お兄ちゃん、凄いね。街外れに農場があって、それで足りるくらいの人数しかいないから。名物は銀製品だったけど、掘り尽くしちゃったみたいー」
「衰退の原因はそれか。おれが探してるのも、銀製品」
「この街に来る旅人、皆そう。蛇使いの騎士の剣でしょ?」
「ネク=ウォ=ナイト。別名を裏切り者の夜ともいう」
「そこまで知ってるんだ。じゃ、ロサンホセは?」
「花の宿。色気の欠片も無い男が、そんな精彩な名の宿に泊まってもいいのか?」
少女が止まったので、青年も足を止めた。目の前には、他よりは多少大きな石造りの建物があった。両開きの扉は木製で、看板が掛かっている。
「お金払ってくれるならねー」
「それはそうだ」
部屋に案内された後、荷物を下ろした。比較的新しい素材を使った家具からは、以前文化が栄えた頃に木材が無かったことが窺えた。
彼の身長では、高い窓から外の様子を確認することは難しかった。そんなことは気にせず、少々暑かった屋外に対し、快適な屋内の温度を感じる。
「ネク=ウォ=ナイト……見付かるといいけど」
両手に持っていた新聞をゴミ箱に投げ入れ、呟いた。
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