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二 行くへも知らぬ恋の道

 その日、野原さおりは校門前で人を待っていた。夏休みもあと一週間で終わるというのに、真夏の暑さはまだまだ続く。ミンミンゼミの声をぼんやり聞きながら、部活を終えてやって来るであろう待ち人のことを考える。
 ――和三盆、メッセージでは喜んでくれていたけれど……。
 お盆休みに入る前、クラスメートの滝川ほのかに、日頃の感謝という名目で渡したプレゼント。さおりの自己満足を多分に含んだそれを、ほのかは気に入ってくれたようだった。けれどその後は会うことのないままにお盆休みとなり、今日は少し久々に顔を合わせるのだった。
 と、考え事をしていると。
「さおりん、お待たせー!」
 ほのかが満面の笑みで昇降口から出てきた。古典の苦手な彼女が、先日贈った和歌の内容を正しく理解したかは疑わしい。けれど良いのだ、これはさおりの自己満足なのだから。
「そんなに待っていないよ。今日はお昼どうする?」
「勿論、いつもの定食屋さんでしょー。ちょっと久々だから楽しみにしてたんだー」
 にこにこと笑う彼女は、きっとこちらの考えなど知らないだろう。プレゼントの感想を今更また聞くのも憚られる。もうその話は終わったのだと心の中で自分に言い聞かせながら、さおりはほのかの隣を歩いた。
「もうすぐ夏休み終わっちゃうねー。宿題が大変なんだよー」
「わたしは大体終わったよ。まだ古典が少し残っているけれど」
「さおりんは凄いねえ。ウチなんてまだ、英数が半分終わったくらいでさー」
「それは少し急いだ方が良いんじゃないかな」
 赤信号で二人は立ち止まる。
「え、まさかウチの知らない宿題の存在が……? そうなの、さおりん。助けて、さおりん!」
 いつもの顔色七変化を眺めている間に、信号が青に変わった。鳥の鳴くような電子音がやけに響く。
「無言……まさかさおりん、遂にウチに愛想尽かしちゃった?」
 ほのかは立ち止まったまま、どこかうるんだ目をさおりに向けた。そんな訳はないのだが、滅多に見られないその表情をもう少しだけ見ていたくもある。見ていたくもあるけれど、本当に欲しいのはもっと別の面差しだ。
「違うよ。ほのかが可愛かったから少し意地悪をしてみたの」
 我ながら少し思い切ったことを言ったな、とさおりは思う。
「もーう、さおりんったらー。この前も何かイイ雰囲気の和歌くれてたし、さおりんったらー」
 ほのかは照れ臭そうに応じた。
 さおりは少しどきりとする。
「その話はもう終わったものとばかり」
「まだ始まってないんだよー。続きはランチしながら、ね?」
 一体この道はどうなってしまうのだろう。さおりの頭の中に、俄かに「ゆら」の二文字が浮かんだ。
 二人が歩き出そうとしたところで、信号は赤に変わった。
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