二十七 昔はものを思はざりけり
その日、野原さおりは卒業式を終えて、三年五組の教室でどこか呆然としながら時間を過ごしていた。卒業アルバムが配られ、表紙裏に寄せ書きをするクラスメートたち。三年間の思い出を振り返っては泣きながら笑う子もいる。進路が決まっている人とそうでない人、その両方が混在するクラスの中で、後者であるさおりは、そうであるからか否か、おめでたい空気の中に溶け込めずにいた。
「野原さん」
元図書委員の清水が、卒業アルバム片手に話し掛けてきた。
「皆からコメントをもらっているんだ、野原さんも何か一言」
「あ、うん」
促されて、さおりはアルバムの空いているところに黒いペンで「三年間ありがとう 野原さおり」と書き記した。
思えば清水とは一年の時からクラスがずっと同じだ。図書委員会として図書室で一緒に仕事をしたり、勉強のことで意見交換をしたりもしたっけ。ちょっとストーカー気質なところもあるけれど、本当は頼れる人だってことも知っている。
さおりがそんなことを思っていると、清水は「こちらこそ」と言って席を離れた。彼の行動は、さおりもクラスの皆から寄せ書きをもらおうかなという気にさせた。さおりは「卒業」というものに今一つ実感を持てずにいる。けれど実際問題、明日以降、このメンバーでこの教室に集まることは二度と無いのだから、自分の所属する集団の痕跡を形に残しておくくらいは。そう思って教室を見回すと、他のクラスまで行っている子もいるようだけれど、仲良くしてくれた人からメッセージを書いてもらうくらいなら出来そうだ。
「わたしにもコメント、良いかな」
さおりは寄せ書きを集め始めた。
「野原さん」
元図書委員の清水が、卒業アルバム片手に話し掛けてきた。
「皆からコメントをもらっているんだ、野原さんも何か一言」
「あ、うん」
促されて、さおりはアルバムの空いているところに黒いペンで「三年間ありがとう 野原さおり」と書き記した。
思えば清水とは一年の時からクラスがずっと同じだ。図書委員会として図書室で一緒に仕事をしたり、勉強のことで意見交換をしたりもしたっけ。ちょっとストーカー気質なところもあるけれど、本当は頼れる人だってことも知っている。
さおりがそんなことを思っていると、清水は「こちらこそ」と言って席を離れた。彼の行動は、さおりもクラスの皆から寄せ書きをもらおうかなという気にさせた。さおりは「卒業」というものに今一つ実感を持てずにいる。けれど実際問題、明日以降、このメンバーでこの教室に集まることは二度と無いのだから、自分の所属する集団の痕跡を形に残しておくくらいは。そう思って教室を見回すと、他のクラスまで行っている子もいるようだけれど、仲良くしてくれた人からメッセージを書いてもらうくらいなら出来そうだ。
「わたしにもコメント、良いかな」
さおりは寄せ書きを集め始めた。