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二十五 岩にせかるる滝川の

 十二月最後の日、大晦日。その日、野原さおりは、少し久し振りにデートをすることになっていた。
 部活と文化祭が終わってからは勉強ばかりで、そうこうしているうちに学年末テストも終わり、十二月になった。冬休みに入ってからもさおりは勉強に明け暮れており、毎日のように図書館に籠もっては予想問題や過去問に取り組んでいた。そんなある日、恋人・滝川ほのかに「一日くらい羽を伸ばしたって良くない?」と提案された。正直さおりは少し乗り気でなかったけれど、気分転換にはなるかな、と応じることにしたのだった。
「木橋さんの登場を許すだなんて、ほのかちゃんは優しいね?」
「考えたのさおりんだよー」
「さおりちゃんが優しいんだ?」
「そだよ! さおりんは世界一優しい!」
 駅前のペデストリアンデッキにある謎の像の前。その待ち合わせ場所にさおりが着いた時、ほのかは同じクラスの元文芸部・木橋まみと談笑していた。この前クリスマスプレゼントにあげたマフラーを巻いてくれている。何だか嬉しくなりながら、さおりは平静を装って言った。
「おはよう。二人とも、早いね。まだ集合時間前なのに」
「さおりちゃんのことが待ち切れないほのかちゃんを、間近で観察出来る貴重な機会だもの」
「まみちゃんは相変わらずだね……」
「さおりちゃんも観察させて? 清水くんに頼まれているの」
「わたしは構わないけれど……」
 妖しく微笑するまみにさおりが少し困惑していると、ほのかが手を握ってきた。寒空の下で冷えた素手は、それでも温かい。その温度と感触を確かめるために、さおりも握り返す。女の子同士で手を繋ぐのはやっぱり少し人目が気になるけれど、大晦日の人混みの中なら、逆に誰にも気付かれないような気がした。
「それじゃ、行こっかー。どこから行くー?」
 ほのかは明るい声で言う。
「ほのか、その前に」
 さおりは鞄からラッピングされた小さな箱を取り出し、まみに渡した。今日はまみの誕生日だから、いつも何かと世話になっているので――世話というより、ストーキングされている感も否めないけれど――そのプレゼントだ。
 まみは初めきょとんとしていたが、「成程ね?」と納得した。
「ありがとう。二人で選んだんだ?」
「そだよー。ブックカバーとしおり! きっと気に入ると思う!」
 じゃあ改めて、とほのかは歩き出した。後についていくけれど、何処に向かっているのか見当は付かない。多分これは、行き先を決めていないやつだ。でも、今日のデートの目的は久々にデートすること。別に問題は無いだろう。
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