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十六 夢の通ひ路

 その日、野原さおりは憂鬱な気分になっていた。十一月末の期末テストが終わり、一週間後にはスキーや観光を楽しめる修学旅行が控えているというこのタイミングで、何故そんな気分になるのか。それは、彼女の恋人・滝川ほのかが、熱を出して学校を休んだからだ。
 午前中の四時間の授業を終え、昼休みになった今、さおりはお弁当も食べずに机に突っ伏していた。
 ――ほのかがいないだけで、こんなに調子が出ないなんて。
 耳を澄まさなくとも、窓の外で雨が降っていることが分かる。教室内ではクラスメートたちの話し声や、食事の時に出る様々な雑音が聞こえる。それらの中に溶け込めずに、一人だけ取り残されたみたいな感覚を、さおりは強く感じていた。
 ――ちょっと眠いかも。
 昼休みは一時間ある。三十分くらい眠ったら、窓外の空のようにどんよりしたこの気分も、少しは良くなるだろうか。鞄からハンドタオルを取り出して、机の上に敷く。寝る前にスマートフォンの通知を確かめることにする。ほのかから何か連絡が来ていないかと淡い期待を持ったけれど、企業の宣伝メッセージと迷惑メールの他に連絡は来ていない。
 ――それはそう。ほのかは体調が悪いんだから。
 スマートフォンを鞄に仕舞うと、さおりはハンドタオルに顔を埋めて目を閉じた。
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