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十四 いづこも同じ

 秋が深まり始めた九月中旬、第三火曜日。その日、野原さおりは全員参加の部活動に参加していた。
 夏の大会に出た熱心な先輩たちが八月で引退し、九月からは二年生であるさおりの代が幹部として部の運営をすることになっていた。さおりは何とか役職を免れたが、新部長の豊田は前部長に負けず劣らず熱意があり、毎週火曜日は原則として全員参加、練習試合とミーティング、という方針を打ち出した。そんな訳でさおりは、恋人・滝川ほのかと過ごせる放課後のひと時を部活に奪われてしまった。
 部活動が終わると、夕焼け空はほとんど終わり、夜が始まろうとしていた。「お疲れ様」と皆に声を掛けて、さおりは部室棟を足早に出た。校門を抜けて、横断歩道を駅の方向へと進んでいく。
 冷静沈着な性格で通っているさおりだが、頭の中にあるのは、ほのかが今何をしているのか、今夜は通話出来るチャンスがあるだろうかという、恋人への強い想いだ。料理部の活動日は月・木・土曜日で、それ以外の日、ほのかは家事をこなすために早めに帰る必要がある。対するさおりは火曜日以外、自由に部活動に参加しているから、ほのかと示し合わせれば、火曜日と日曜日を除く五日間、共に過ごすことが可能だ。
 ――同じクラスではあるけれど。
 毎日一緒にはいられる。でも、それとこれとはまた別だ。
 駅のすぐ近くまで来ると、信号が丁度赤になった。学校帰りの学生や帰宅途中の会社員たちが、さおりと共に足を止める。様々な形状の自動車が目の前を横切ってゆき、あるいは隣を通り過ぎてゆく。この数十秒だけで、さおりは一体、どれほどの人と擦れ違ったのだろう。さおりは一体、どれくらい多くの人と同じ空間で息をしているのだろう。
 それでも、たった一人だけで生きている感覚がする。そんな風に思うのは、何かと物思いに耽らせがちな季節のせいだろうか。秋になると寂しさが増す、どこを見ても同じような光景である……そんな歌があったな、決まり字は何だったかな、と考えている間に、信号が変わった。
 ――分かってる。ほのかが隣にいないせい。
 人混みの中でただ一人、さおりは帰路を進んだ。
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