本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
どこからそんな元気が溢れてくるんだろうと不思議に思いながら、メイちゃんに腕を引っ張られて走っている。画材を詰めたバックパッカー風のリュックサックが揺れる。橋を渡っていると、歩きながら見た景色と走りながら見る景色では少し印象が違う。今度から絵を描く前に体力作りも兼ねて走った方がいいのかもしれない。
カズサマさんを送り届けたぶりに来たギアステーション。地下へ続く階段を降りるのは気が引けるが、メイちゃんはそんなことを気にしない。タッタッタと駆け降りていく様子を見ながら、走って荒くなっていた呼吸を整えてわたしも階段を降りる。久しぶりに会うジャッジさんに手を振られ、複雑な気持ちになりながらも一応振り返す。
「ナナシさん! 好きな人ってギアステーションのどこの人? 売店? 受付? 鉄道員?」
「鉄道員だけど」
「鉄道員の誰さん?」
「ええ、言わなきゃダメ?」
「教えてくれないと探せないですよ!」
メイちゃんは頬を膨らませるが、わたしとしては探してもらわなくていいんだけどなあ、と思ってしまう。しかし、生命力溢れる元気な女の子の頼みに根負けして、彼の名前を教えた。それを聞くと、メイちゃんは近くの鉄道員さんのところへ走って行ってしまった。
元気めいっぱいという様子のメイちゃんは鉄道員さんに必死にお願いをしていた。たぶん断られたのだろう。それでも彼女は折れなくて手を合わせている。わたしはその様子を少し離れた位置から見ていたけれど、鉄道員さんは目の前にいる彼女と遠くにいるわたしを交互に見ながら口を開いた。メイちゃんはそれを喜んでこちらに報告しに来た。
「ナナシさん、わかりました! 今日はスーパーシングルトレインだそうです! どのポイントにいるかは公正のため教えてもらえませんでしたけど」
「あれま。残念」
会えるかどうかわからないなら帰ろう。そう思って踵を返すと、逃がさないというようにガシッと腕を掴まれた。
「でも勝ち進めば会えますから!」
「そんな御無体な〜」
「ナナシさん、頑張ってくださいね!」
半ば無理やりメイちゃんに押し込まれる。メイちゃんはものすごく笑顔だけど、思わず顔が引きつってしまう。正直、今の状態で7両目までたどり着ける自信がない。しかも、仮に7両目まで行ったとして1回でキャメロンさんに会えるかわからない。カフェでケーキを食べたので空腹については問題ないけれど、今日は気合のリストバンドを持ってきていないし、おまじないも使えない。それでも、メイちゃんとヒュウくんに報告できるように、できるだけ頑張らないといけない。
1両目、2両目、3両目……次の車両に進むたびに目の前がちかちかする。気合のリストバンドとおまじないが使えないのはやはり、自分にとって致命的らしい。バトル中、心配そうにペンドラーが何度もこちらを向くので、わたしは大丈夫だからバトルに集中しよう〜と額に脂汗をかきながら笑顔を見せる。
そしてやっとついた7両目、待ち構えていたのはクラウドさん。申し訳ないけれど外れ枠。いつも負けっぱなし、コンディションはいつも以上に最悪、さっさと電車から降りたい、それでも負けたくない。それを察してくれたのか、手持ちのポケモンたちがいつも以上に頑張ってくれた。トレーナーがこんな状態なのに、必死にバトルをしてくれる仲間にいろいろな意味で頭が上がらない。
「まさかナナシに負けるとはなあ。ほら、BP受け取りや」
「ありがと。今日は頑張ったよ〜」
「いつもは頑張っとらんのかい。あれか、失恋したとか言うてたから、それのせいか」
「それもあるかもね〜」
クラウドさんからBPを受け取ると、一休みというようにホームに着くまで座席に座り、手すりに寄りかかった。クラウドさんが知っているということは、キャメロンさんも知っているかもしれない。カズマサさん、言いふらしたなと思いながら目を閉じる。手すりは冷たくて固いけれど、立っているよりはだいぶ楽だった。
ホームに着いたとクラウドさんに起こされて、電車を降りて記録をつける。そして、鉄道員さんに声をかけられた。
「お疲れ様でした。ここで休憩ですよね」
「続ける」
「ええ! ナナシさんが?」
いつも「ちょっと休憩〜」と返しているので、鉄道員さんの方も「続けるかライモンに戻るか」という質問をしなくなった。なので、続けると答えたわたしに驚いて目を丸くしている。
「今日はちょっと頑張るよ〜」
「でも、なんだか顔色悪くないですか?」
「大丈夫。電車来るまでベンチにいるから、来たら呼んでね」
額にかいた汗をぬぐってベンチで一休み。いつもならここで寝てしまうことが多いけれど、今日は寝ないように我慢。それからしばらくして心配そうな鉄道員さんが呼びに来てくれたので、ありがと〜とお礼を言いながら再び動く箱に乗った。
しかし、大丈夫と空元気を見せても、やはり早く7両目に着かないかなあと思う程度に大丈夫ではなかった。ベンチで一休みしたのに目の前がちかちかする。
「お、おい、大丈夫か?」
5両目の対戦相手にまで心配されてしまった。一度リタイアするか聞かれたけれど、首を横に振った。
「大丈夫、大丈夫。ペンドラー、シザ」
ふふふ〜と余裕があるように見せて指示を出そうとしたら、口が動かなくなってしまった。目の前がちかちかどころかぐにゃぐにゃし始めて立っていられない。思わずうずくまってしまったけれど、それでも床が動いている。電車の揺れのせいなのか、自分の平衡感覚がずれているだけなのか。どう考えても両方だけど。
ペンドラーがフィールドを離れてこちらに向かう。心配そうに顔をのぞき込もうとするので、大丈夫だと顔を上げてすぐに背けた。カフェで食べたものが床に溢れる。やってしまった。これは鉄道員さんと清掃員さんと対戦相手とその他いろいろに申し訳なくて余計に汗が出る。それから、何かサイレンのような音が鳴っていて、それが非常ボタンを押した音だと気づいたあとの記憶はあまりない。
カズサマさんを送り届けたぶりに来たギアステーション。地下へ続く階段を降りるのは気が引けるが、メイちゃんはそんなことを気にしない。タッタッタと駆け降りていく様子を見ながら、走って荒くなっていた呼吸を整えてわたしも階段を降りる。久しぶりに会うジャッジさんに手を振られ、複雑な気持ちになりながらも一応振り返す。
「ナナシさん! 好きな人ってギアステーションのどこの人? 売店? 受付? 鉄道員?」
「鉄道員だけど」
「鉄道員の誰さん?」
「ええ、言わなきゃダメ?」
「教えてくれないと探せないですよ!」
メイちゃんは頬を膨らませるが、わたしとしては探してもらわなくていいんだけどなあ、と思ってしまう。しかし、生命力溢れる元気な女の子の頼みに根負けして、彼の名前を教えた。それを聞くと、メイちゃんは近くの鉄道員さんのところへ走って行ってしまった。
元気めいっぱいという様子のメイちゃんは鉄道員さんに必死にお願いをしていた。たぶん断られたのだろう。それでも彼女は折れなくて手を合わせている。わたしはその様子を少し離れた位置から見ていたけれど、鉄道員さんは目の前にいる彼女と遠くにいるわたしを交互に見ながら口を開いた。メイちゃんはそれを喜んでこちらに報告しに来た。
「ナナシさん、わかりました! 今日はスーパーシングルトレインだそうです! どのポイントにいるかは公正のため教えてもらえませんでしたけど」
「あれま。残念」
会えるかどうかわからないなら帰ろう。そう思って踵を返すと、逃がさないというようにガシッと腕を掴まれた。
「でも勝ち進めば会えますから!」
「そんな御無体な〜」
「ナナシさん、頑張ってくださいね!」
半ば無理やりメイちゃんに押し込まれる。メイちゃんはものすごく笑顔だけど、思わず顔が引きつってしまう。正直、今の状態で7両目までたどり着ける自信がない。しかも、仮に7両目まで行ったとして1回でキャメロンさんに会えるかわからない。カフェでケーキを食べたので空腹については問題ないけれど、今日は気合のリストバンドを持ってきていないし、おまじないも使えない。それでも、メイちゃんとヒュウくんに報告できるように、できるだけ頑張らないといけない。
1両目、2両目、3両目……次の車両に進むたびに目の前がちかちかする。気合のリストバンドとおまじないが使えないのはやはり、自分にとって致命的らしい。バトル中、心配そうにペンドラーが何度もこちらを向くので、わたしは大丈夫だからバトルに集中しよう〜と額に脂汗をかきながら笑顔を見せる。
そしてやっとついた7両目、待ち構えていたのはクラウドさん。申し訳ないけれど外れ枠。いつも負けっぱなし、コンディションはいつも以上に最悪、さっさと電車から降りたい、それでも負けたくない。それを察してくれたのか、手持ちのポケモンたちがいつも以上に頑張ってくれた。トレーナーがこんな状態なのに、必死にバトルをしてくれる仲間にいろいろな意味で頭が上がらない。
「まさかナナシに負けるとはなあ。ほら、BP受け取りや」
「ありがと。今日は頑張ったよ〜」
「いつもは頑張っとらんのかい。あれか、失恋したとか言うてたから、それのせいか」
「それもあるかもね〜」
クラウドさんからBPを受け取ると、一休みというようにホームに着くまで座席に座り、手すりに寄りかかった。クラウドさんが知っているということは、キャメロンさんも知っているかもしれない。カズマサさん、言いふらしたなと思いながら目を閉じる。手すりは冷たくて固いけれど、立っているよりはだいぶ楽だった。
ホームに着いたとクラウドさんに起こされて、電車を降りて記録をつける。そして、鉄道員さんに声をかけられた。
「お疲れ様でした。ここで休憩ですよね」
「続ける」
「ええ! ナナシさんが?」
いつも「ちょっと休憩〜」と返しているので、鉄道員さんの方も「続けるかライモンに戻るか」という質問をしなくなった。なので、続けると答えたわたしに驚いて目を丸くしている。
「今日はちょっと頑張るよ〜」
「でも、なんだか顔色悪くないですか?」
「大丈夫。電車来るまでベンチにいるから、来たら呼んでね」
額にかいた汗をぬぐってベンチで一休み。いつもならここで寝てしまうことが多いけれど、今日は寝ないように我慢。それからしばらくして心配そうな鉄道員さんが呼びに来てくれたので、ありがと〜とお礼を言いながら再び動く箱に乗った。
しかし、大丈夫と空元気を見せても、やはり早く7両目に着かないかなあと思う程度に大丈夫ではなかった。ベンチで一休みしたのに目の前がちかちかする。
「お、おい、大丈夫か?」
5両目の対戦相手にまで心配されてしまった。一度リタイアするか聞かれたけれど、首を横に振った。
「大丈夫、大丈夫。ペンドラー、シザ」
ふふふ〜と余裕があるように見せて指示を出そうとしたら、口が動かなくなってしまった。目の前がちかちかどころかぐにゃぐにゃし始めて立っていられない。思わずうずくまってしまったけれど、それでも床が動いている。電車の揺れのせいなのか、自分の平衡感覚がずれているだけなのか。どう考えても両方だけど。
ペンドラーがフィールドを離れてこちらに向かう。心配そうに顔をのぞき込もうとするので、大丈夫だと顔を上げてすぐに背けた。カフェで食べたものが床に溢れる。やってしまった。これは鉄道員さんと清掃員さんと対戦相手とその他いろいろに申し訳なくて余計に汗が出る。それから、何かサイレンのような音が鳴っていて、それが非常ボタンを押した音だと気づいたあとの記憶はあまりない。