本編
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5番道路とホドモエシティをつなぐ橋を渡る。ここでは橋のどっしりとした構えと、下に広がるゆったりとした海と、空を飛んでいるコアルヒーとスワンナの親子を見ることができる。ときどき、空から落ちてくるコアルヒーたちの羽根も幻想的で、絵のモチーフになりそうだ。
橋ももうじき渡り終え、ホドモエシティが目と鼻の先というところでジャノビーを連れた女の子がバトルをしていた。ジャローダの進化前であるジャノビー。失恋したことを思い出して少し寂しくなるが、ふたりのバトルはとてもしなやかでのびのびとしていた。リュックサックの中からガサゴソと画材を取り出して、邪魔にならないよう気をつけながら絵を描き始める。スランプ気味だと思っていても、案外良いモチーフに出会えるとさらさら描けるものだった。
わたしは、あの女の子のように生き生きとバトルできていただろうかと少し考えたけれど、体質的にたぶん無理だったろうなと思う。それに、以前カモ扱いしているだろうと怪しまれたこともあり、絶対にそういう風には見えていなかっただろう。
ジャノビーの優雅な姿を葉が覆う。女の子は、絶対に勝つという自信に溢れている。その姿をスケッチブックにパステルで収めて、粉が落ちないようにフィキサチーフをかける。この作業をギアステーションで行ったら、危険物持ち込みの注意どころでは済まされないだろう。
「あの! ちょっと、すみません!」
荷物をまとめて出発しようとしていると、先ほどモチーフにしていた女の子に声をかけられた。勝手にモデルにされたことを怒っているのかもしれない。こういったことは割りとトラブルに発展するので先に頭を下げる。
「ごめんなさい。バトル中じろじろ見られたり、絵を描かれたりしたら嫌だったよね」
「あ、いや、違うんです! どんな絵を描いていたのか見せてもらいたくて」
てっきり怒られるものだと思ったので、絵を見せて欲しいと頼まれたことに少し驚いた。女の子はニコニコぴょこぴょこしていて、元気めいっぱいという感じだった。
「わたし、メイっていいます!」
「ナナシ。よろしくね〜」
握手を求められたので名乗りながら片手を差し出すと、メイちゃんは大きい目をさらに大きくさせて驚いていた。
「あれっ、ナナシさんってもしかして、前にヒウンシティで個展開いてた……?」
「うん。ときどきスペース貸してもらって作品展示してるよ。見てくれたの?」
「はい! ナナシさんの絵、すごく素敵でした! しなやかで、すごく生き生きとしていて、見ていると暖かい気持ちになって……だけどその中に1枚不思議な絵があって。冷たい金属なのに、その奥になんだか暖かいものがあって……うう、感想を言うのがすごく難しい!」
「ふふふ〜、少し趣向を変えてみたんだ。いつもは森や滝みたいな自然がモチーフなんだけど、あれは電車がモチーフなの」
メイちゃんはもう片方の手でわたしの手を包むようにしてぶんぶんと振っている。勢いが半端でなくて、若い人の元気は恐ろしい。それから思い出したように声を出した。
「あ! それで、わたしの絵、見せてもらってもいいですか?」
一度リュックサックにしまったスケッチブックを取り出すと、メイちゃんは嬉しそうにそれを開いた。隣にいるジャノビーも興味深そうにのぞき込んでいる。
「わあ、すっごい! 見てジャノビー、グラスミキサーしてるところだよ!」
木の葉のベールに包まれたジャノビーの姿。わたしの力じゃまだまだその優雅さや力強さを表現できない。けれども、メイちゃんもジャノビーも喜んでくれてよかった。それから次のページを開く。そちらにはメイちゃんをアップにしたものを描いていた。
「わたし、こういう表情でバトルしてるんだあ……」
「すごく生き生きした表情だったから描いちゃった。お気に召さなかったかな」
「そんなことないです! あの、この2枚の絵をもらったりすることできますか?」
「うん、喜んでもらえて嬉しいな〜」
スケッチブックから丁寧に切り取って手渡すと、大事そうにバッグにしまった。それからお茶をしないか誘われたのでOKを出すと、カフェに向かう途中で知り合いを見つけたようだった。男の子に向かって手を振っている。
「あ、ヒュウ! これから一緒にカフェ行かない?」
ヒュウくんと呼ばれた男の子は振り返ると、ああ、メイか、と言ったあとわたしの方に視線を移した。
「そっちの人は?」
「ナナシさん! ヒウンシティで個展開いてた人だよ!」
「ああ、それなら俺も見たぜ! 芸術って難しいことはよくわかんねえけど、俺はあんたの絵好きだぜ」
「嬉しいな〜」
若いファン2人目ゲット。芸術にあまり関心のなかった子にも好きだと言われて嬉しくなる。
3人でカフェに入り、とりあえずオーダーを通す。意外と最近の若い子は大人っぽいものを好むようで、ふたりがアイスラテやコーヒーを頼んでいるというのに、一番年上のわたしがオレンジジュースとショートケーキで少し恥ずかしい。もう少し威厳を出すためにコーヒーでも頼んだ方がよかったかと思ったけれど、メイちゃんにもヒュウくんにもイメージ通りだと言われてしまった。
「ナナシさんって彼氏いるんですか?」
女の子はやはりこの手の話に食いつきがいいらしい。目をキラキラさせてこちらを見るのでとても眩しく、傷心中の身としては漫画のように矢印がちくちくと体に刺さる。
「いっぱいいるよ〜、カンバスにイーゼルにパステルに……」
そこまで言ったところで、ふたりから冷ややかな視線を向けられてしまった。
「冗談……好きな人ならいたよ〜」
「いたってことは、今は好きじゃないのかよ」
「失恋しちゃった」
「どんな人だったんですか?」
どんな人、と言われると難しい。かっこいい人、のような言い方だと人によって解釈が違ってしまいそうだ。そもそも、わたしがキャメロンさんのことをかっこいいと思ったことはあったかなあ、と少し悩んでしまう。
「う〜ん、ちょっとチャラい感じの人?」
「ええ意外! ナナシさん、のんびりしたイメージあるから、そういうタイプ苦手かと思った」
メイちゃんは口元を隠すようにして驚いた。他の人から見たわたしのイメージってのんびりした人なんだなあ、と思いつつ、特に人の好き嫌いをしたことはなかったようなと考える。
「ふふふ〜、その人はね、わたしの絵を褒めてくれた第1号さんなんだ。美学校に通っていたとき、いっつも先生から絵のことで怒られてて、みんなは何らかの賞をもらってたのにわたしは1個も賞を取ったことがなかった。それなのにその人はわたしの絵を褒めてくれて、嬉しかったんだ〜」
倒れて介抱してもらったあとに手渡したあの絵は今頃どうなっているだろう。大事に取っておいてくれているといいけれど、キャメロンさんはそういうタイプだろうか。
「つい最近アーティさんに恋してるねって言われて、どうなんだろ〜って思ってたんだけど、その人が彼女さんと一緒にいるところを見たら苦しくなっちゃって、ああ恋してたんだな〜って思った」
「は? じゃあ告白とかしてないのかよ」
「してないよ〜」
「言ってみなきゃわかんねえじゃん。第一、そいつ彼女なのかよ」
「う〜ん、たぶん」
そう答えると、ふたりとも信じられないと言いたげな顔をしていた。何か間違ったことを言ってしまっただろうか。化け物を見るような目を向けられて、とてもケーキが食べづらい。思わず視線を泳がせてしまう。
「ナナシさん、その人ってどこで働いてる人ですか?」
「ギアステーションだけど」
「ナナシさん! 今から行きましょう!」
ガバッと椅子から立ち上がると、メイちゃんはテーブルをバンッと力強く叩いた。テーブルに乗っていたグラスが揺れる。驚いた周りのお客さんがこちらをじーっと見てくるので、余計にケーキが食べづらい。
「どこに?」
「ギアステーション! 告白ですよ、告白! 本当に失恋しちゃったのか確かめに行くんです」
「でもな〜」
「さっき言ってた電車をモチーフにした絵、その好きな人を考えて描いたんじゃないですか? だから冷たい金属の奥に暖かい命が吹き込まれていたんです!」
「そこまで深く考えてなかったなあ」
あの絵を描くとき何を考えてただろうと思い出しながら残り一口のケーキを口に運ぶと、頬杖をついたヒュウくんが余裕のある笑顔で「いいから行ってこいよ。本当に失恋したときは話を聞いてやるから」とこちらを見た。本当にわたしより年下なんだよね? と少し疑いたくなる。
「若い人は元気いっぱいだなあ」
「俺とあんたじゃ3、4個しか離れてないだろ」
ヒュウくんがハッと笑う。
「ここからギアステーションなら走っていける距離ですよ! もうケーキも食べ終わったことだし行きましょう!」
「お、お会計……」
「俺が払っておくから。健闘を祈るぜ」
メイちゃんに腕を取られ、画材が詰まったリュックサックを揺らしながら走らされる。最近の若い人というのは、行動力にあふれていて、年上の意見をあまり聞いてくれないようだ。
橋ももうじき渡り終え、ホドモエシティが目と鼻の先というところでジャノビーを連れた女の子がバトルをしていた。ジャローダの進化前であるジャノビー。失恋したことを思い出して少し寂しくなるが、ふたりのバトルはとてもしなやかでのびのびとしていた。リュックサックの中からガサゴソと画材を取り出して、邪魔にならないよう気をつけながら絵を描き始める。スランプ気味だと思っていても、案外良いモチーフに出会えるとさらさら描けるものだった。
わたしは、あの女の子のように生き生きとバトルできていただろうかと少し考えたけれど、体質的にたぶん無理だったろうなと思う。それに、以前カモ扱いしているだろうと怪しまれたこともあり、絶対にそういう風には見えていなかっただろう。
ジャノビーの優雅な姿を葉が覆う。女の子は、絶対に勝つという自信に溢れている。その姿をスケッチブックにパステルで収めて、粉が落ちないようにフィキサチーフをかける。この作業をギアステーションで行ったら、危険物持ち込みの注意どころでは済まされないだろう。
「あの! ちょっと、すみません!」
荷物をまとめて出発しようとしていると、先ほどモチーフにしていた女の子に声をかけられた。勝手にモデルにされたことを怒っているのかもしれない。こういったことは割りとトラブルに発展するので先に頭を下げる。
「ごめんなさい。バトル中じろじろ見られたり、絵を描かれたりしたら嫌だったよね」
「あ、いや、違うんです! どんな絵を描いていたのか見せてもらいたくて」
てっきり怒られるものだと思ったので、絵を見せて欲しいと頼まれたことに少し驚いた。女の子はニコニコぴょこぴょこしていて、元気めいっぱいという感じだった。
「わたし、メイっていいます!」
「ナナシ。よろしくね〜」
握手を求められたので名乗りながら片手を差し出すと、メイちゃんは大きい目をさらに大きくさせて驚いていた。
「あれっ、ナナシさんってもしかして、前にヒウンシティで個展開いてた……?」
「うん。ときどきスペース貸してもらって作品展示してるよ。見てくれたの?」
「はい! ナナシさんの絵、すごく素敵でした! しなやかで、すごく生き生きとしていて、見ていると暖かい気持ちになって……だけどその中に1枚不思議な絵があって。冷たい金属なのに、その奥になんだか暖かいものがあって……うう、感想を言うのがすごく難しい!」
「ふふふ〜、少し趣向を変えてみたんだ。いつもは森や滝みたいな自然がモチーフなんだけど、あれは電車がモチーフなの」
メイちゃんはもう片方の手でわたしの手を包むようにしてぶんぶんと振っている。勢いが半端でなくて、若い人の元気は恐ろしい。それから思い出したように声を出した。
「あ! それで、わたしの絵、見せてもらってもいいですか?」
一度リュックサックにしまったスケッチブックを取り出すと、メイちゃんは嬉しそうにそれを開いた。隣にいるジャノビーも興味深そうにのぞき込んでいる。
「わあ、すっごい! 見てジャノビー、グラスミキサーしてるところだよ!」
木の葉のベールに包まれたジャノビーの姿。わたしの力じゃまだまだその優雅さや力強さを表現できない。けれども、メイちゃんもジャノビーも喜んでくれてよかった。それから次のページを開く。そちらにはメイちゃんをアップにしたものを描いていた。
「わたし、こういう表情でバトルしてるんだあ……」
「すごく生き生きした表情だったから描いちゃった。お気に召さなかったかな」
「そんなことないです! あの、この2枚の絵をもらったりすることできますか?」
「うん、喜んでもらえて嬉しいな〜」
スケッチブックから丁寧に切り取って手渡すと、大事そうにバッグにしまった。それからお茶をしないか誘われたのでOKを出すと、カフェに向かう途中で知り合いを見つけたようだった。男の子に向かって手を振っている。
「あ、ヒュウ! これから一緒にカフェ行かない?」
ヒュウくんと呼ばれた男の子は振り返ると、ああ、メイか、と言ったあとわたしの方に視線を移した。
「そっちの人は?」
「ナナシさん! ヒウンシティで個展開いてた人だよ!」
「ああ、それなら俺も見たぜ! 芸術って難しいことはよくわかんねえけど、俺はあんたの絵好きだぜ」
「嬉しいな〜」
若いファン2人目ゲット。芸術にあまり関心のなかった子にも好きだと言われて嬉しくなる。
3人でカフェに入り、とりあえずオーダーを通す。意外と最近の若い子は大人っぽいものを好むようで、ふたりがアイスラテやコーヒーを頼んでいるというのに、一番年上のわたしがオレンジジュースとショートケーキで少し恥ずかしい。もう少し威厳を出すためにコーヒーでも頼んだ方がよかったかと思ったけれど、メイちゃんにもヒュウくんにもイメージ通りだと言われてしまった。
「ナナシさんって彼氏いるんですか?」
女の子はやはりこの手の話に食いつきがいいらしい。目をキラキラさせてこちらを見るのでとても眩しく、傷心中の身としては漫画のように矢印がちくちくと体に刺さる。
「いっぱいいるよ〜、カンバスにイーゼルにパステルに……」
そこまで言ったところで、ふたりから冷ややかな視線を向けられてしまった。
「冗談……好きな人ならいたよ〜」
「いたってことは、今は好きじゃないのかよ」
「失恋しちゃった」
「どんな人だったんですか?」
どんな人、と言われると難しい。かっこいい人、のような言い方だと人によって解釈が違ってしまいそうだ。そもそも、わたしがキャメロンさんのことをかっこいいと思ったことはあったかなあ、と少し悩んでしまう。
「う〜ん、ちょっとチャラい感じの人?」
「ええ意外! ナナシさん、のんびりしたイメージあるから、そういうタイプ苦手かと思った」
メイちゃんは口元を隠すようにして驚いた。他の人から見たわたしのイメージってのんびりした人なんだなあ、と思いつつ、特に人の好き嫌いをしたことはなかったようなと考える。
「ふふふ〜、その人はね、わたしの絵を褒めてくれた第1号さんなんだ。美学校に通っていたとき、いっつも先生から絵のことで怒られてて、みんなは何らかの賞をもらってたのにわたしは1個も賞を取ったことがなかった。それなのにその人はわたしの絵を褒めてくれて、嬉しかったんだ〜」
倒れて介抱してもらったあとに手渡したあの絵は今頃どうなっているだろう。大事に取っておいてくれているといいけれど、キャメロンさんはそういうタイプだろうか。
「つい最近アーティさんに恋してるねって言われて、どうなんだろ〜って思ってたんだけど、その人が彼女さんと一緒にいるところを見たら苦しくなっちゃって、ああ恋してたんだな〜って思った」
「は? じゃあ告白とかしてないのかよ」
「してないよ〜」
「言ってみなきゃわかんねえじゃん。第一、そいつ彼女なのかよ」
「う〜ん、たぶん」
そう答えると、ふたりとも信じられないと言いたげな顔をしていた。何か間違ったことを言ってしまっただろうか。化け物を見るような目を向けられて、とてもケーキが食べづらい。思わず視線を泳がせてしまう。
「ナナシさん、その人ってどこで働いてる人ですか?」
「ギアステーションだけど」
「ナナシさん! 今から行きましょう!」
ガバッと椅子から立ち上がると、メイちゃんはテーブルをバンッと力強く叩いた。テーブルに乗っていたグラスが揺れる。驚いた周りのお客さんがこちらをじーっと見てくるので、余計にケーキが食べづらい。
「どこに?」
「ギアステーション! 告白ですよ、告白! 本当に失恋しちゃったのか確かめに行くんです」
「でもな〜」
「さっき言ってた電車をモチーフにした絵、その好きな人を考えて描いたんじゃないですか? だから冷たい金属の奥に暖かい命が吹き込まれていたんです!」
「そこまで深く考えてなかったなあ」
あの絵を描くとき何を考えてただろうと思い出しながら残り一口のケーキを口に運ぶと、頬杖をついたヒュウくんが余裕のある笑顔で「いいから行ってこいよ。本当に失恋したときは話を聞いてやるから」とこちらを見た。本当にわたしより年下なんだよね? と少し疑いたくなる。
「若い人は元気いっぱいだなあ」
「俺とあんたじゃ3、4個しか離れてないだろ」
ヒュウくんがハッと笑う。
「ここからギアステーションなら走っていける距離ですよ! もうケーキも食べ終わったことだし行きましょう!」
「お、お会計……」
「俺が払っておくから。健闘を祈るぜ」
メイちゃんに腕を取られ、画材が詰まったリュックサックを揺らしながら走らされる。最近の若い人というのは、行動力にあふれていて、年上の意見をあまり聞いてくれないようだ。