本編
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アーティさんのアトリエでの手伝いを終えてしまったあとは、もうやることがない。絵を描こうにもうまく描けないし、何をしようにもやる気が出ないし、ギアステーションにはしばらく行く予定がない。次の個展を開くのもまだ先なので、ずるずるとムダな1日を過ごしている。しかし、このままだと流石に人間が腐ると思ったので、リュックサックにクロッキー帳、スケッチブック、パステル、フィキサチーフ、その他諸々を詰めた。はたから見ればバックパッカーだと思われるかもしれない程度にリュックサックは膨れ上がった。それから、とりあえずホドモエシティの方を目指して歩いて行こうと考えた。普段あまり行かないが、あの辺もモチーフになるものはたくさんあるだろう。もっと先に進めば洞窟なんかもあったはずだ。
そらをとぶを使えるポケモンがいないので、移動は全て徒歩になる。重い荷物を背負ってホドモエシティへ向かうためにライモンシティを歩いていると、ねえ、ちょっと、とナンパをされた。おしゃれでかわいい人なんてその辺にたくさんいるだろうに面倒だなあと思いつつ振り返ると、そこには困った様子の知っている顔があった。
「ねえ、きみ、ちょっと聞きたいことが!」
「あ、カズマサさん。仕事は?」
「あれ、ナナシさん! いや、ギアステーションで仕事なんですけど、久しぶりに道に迷っちゃって……案内してもらえますか」
ははは……と苦笑いをしているカズマサさんをギアステーションに送り届けるため、元来た道をUターンしている。毎日通う職場なのに道に迷うなんて本当に器用な人だ。ただ、あんまりギアステーション付近に行きたくないんだけどなあ、と思っていると、カズマサさんはわたしのリュックサックを不思議そうに見つめながら質問をしてきた。
「最近、バトルサブウェイに挑戦されてないですよね? 個展の準備とかですか?」
「ううん。しばらく個展をやる予定はないよ。でもね、ちょっと傷心中で絵もスランプ気味だし何もやる気が起きないんだ〜」
「傷心中って、何かあったんですか?」
「失恋しちゃった」
ふふふ〜と半ば自嘲気味に言うと、カズマサさんは目を丸くして口元を手で覆いかぶせていた。よっぽど驚いたらしい。ただ、そこまで驚くことだろうか。失礼しちゃうなあ、わたしだって恋の1つや2つくらいするさ、気づいたのは最近だけど、と思ってしまう。
「え! ナナシさんって好きな人いたんですね! どんな人ですか?」
「それはヒミツ〜」
あなたの同僚ですよ〜と冗談交じりに言いたくなるのを我慢して、口元に指を当てた。
「振られちゃったんですか?」
「告白はしてないけど、彼女さんと一緒にいるところを見たんだ」
「え? だったらまだ失恋したわけじゃないんじゃ。だって、その人が彼女だと限らないじゃないですか」
カズマサさんはそう言うが、実際にあの現場を見たとき彼女さんではないと否定する方が難しいと思う。それくらい仲が良さそうに話していたし、ボディタッチも多いように見えたし、わたしと比べ物にならないくらいかわいくておしゃれな人だった。それに、彼女さんも、とても黄色の映える人だった。
「あのふたりの淡い黄色は冷たい鉄の中を照らすバルビートとイルミーゼのような暖かい光だったんだよ」
「芸術家の例え話は難しくて僕にはちょっと理解不能……」
「わたしも鉄道員さんの言い回しはあんまりよくわからないけどなあ。とりあえず、お似合いなふたりだったから、わたしの入り込む余地なしな気がするな〜」
「どうせなら当たってから砕けた方がいいと思います!」
「う〜ん、一応考えておく」
「ナナシさん、考えるだけで行動に移さなそう」
「どうだろ。まあ、心の整理がついたらまたバトルサブウェイに挑戦するね〜」
なあなあで済ませようとするわたしに、カズマサさんは必死に食いつく。正直、なんで人の恋愛話にここまで一生懸命になっているんだろうと不思議に思うけれど、やっぱり惚れた腫れたの話は人の気持ちを盛り上がらせるのだろうか。今後の創作活動のために、わたしも恋人の2、3人くらい作った方がいいのかもしれない。芸術家は性に奔放な人が多い。
ギアステーションの前までカズマサさんを送り届けたので、今度こそホドモエシティに向かう。手を振るとカズマサさんは納得のいかなそうな、クルマユのような表情をしていたけれど、しばらく会う予定もないし放っておいて大丈夫だろう。
そらをとぶを使えるポケモンがいないので、移動は全て徒歩になる。重い荷物を背負ってホドモエシティへ向かうためにライモンシティを歩いていると、ねえ、ちょっと、とナンパをされた。おしゃれでかわいい人なんてその辺にたくさんいるだろうに面倒だなあと思いつつ振り返ると、そこには困った様子の知っている顔があった。
「ねえ、きみ、ちょっと聞きたいことが!」
「あ、カズマサさん。仕事は?」
「あれ、ナナシさん! いや、ギアステーションで仕事なんですけど、久しぶりに道に迷っちゃって……案内してもらえますか」
ははは……と苦笑いをしているカズマサさんをギアステーションに送り届けるため、元来た道をUターンしている。毎日通う職場なのに道に迷うなんて本当に器用な人だ。ただ、あんまりギアステーション付近に行きたくないんだけどなあ、と思っていると、カズマサさんはわたしのリュックサックを不思議そうに見つめながら質問をしてきた。
「最近、バトルサブウェイに挑戦されてないですよね? 個展の準備とかですか?」
「ううん。しばらく個展をやる予定はないよ。でもね、ちょっと傷心中で絵もスランプ気味だし何もやる気が起きないんだ〜」
「傷心中って、何かあったんですか?」
「失恋しちゃった」
ふふふ〜と半ば自嘲気味に言うと、カズマサさんは目を丸くして口元を手で覆いかぶせていた。よっぽど驚いたらしい。ただ、そこまで驚くことだろうか。失礼しちゃうなあ、わたしだって恋の1つや2つくらいするさ、気づいたのは最近だけど、と思ってしまう。
「え! ナナシさんって好きな人いたんですね! どんな人ですか?」
「それはヒミツ〜」
あなたの同僚ですよ〜と冗談交じりに言いたくなるのを我慢して、口元に指を当てた。
「振られちゃったんですか?」
「告白はしてないけど、彼女さんと一緒にいるところを見たんだ」
「え? だったらまだ失恋したわけじゃないんじゃ。だって、その人が彼女だと限らないじゃないですか」
カズマサさんはそう言うが、実際にあの現場を見たとき彼女さんではないと否定する方が難しいと思う。それくらい仲が良さそうに話していたし、ボディタッチも多いように見えたし、わたしと比べ物にならないくらいかわいくておしゃれな人だった。それに、彼女さんも、とても黄色の映える人だった。
「あのふたりの淡い黄色は冷たい鉄の中を照らすバルビートとイルミーゼのような暖かい光だったんだよ」
「芸術家の例え話は難しくて僕にはちょっと理解不能……」
「わたしも鉄道員さんの言い回しはあんまりよくわからないけどなあ。とりあえず、お似合いなふたりだったから、わたしの入り込む余地なしな気がするな〜」
「どうせなら当たってから砕けた方がいいと思います!」
「う〜ん、一応考えておく」
「ナナシさん、考えるだけで行動に移さなそう」
「どうだろ。まあ、心の整理がついたらまたバトルサブウェイに挑戦するね〜」
なあなあで済ませようとするわたしに、カズマサさんは必死に食いつく。正直、なんで人の恋愛話にここまで一生懸命になっているんだろうと不思議に思うけれど、やっぱり惚れた腫れたの話は人の気持ちを盛り上がらせるのだろうか。今後の創作活動のために、わたしも恋人の2、3人くらい作った方がいいのかもしれない。芸術家は性に奔放な人が多い。
ギアステーションの前までカズマサさんを送り届けたので、今度こそホドモエシティに向かう。手を振るとカズマサさんは納得のいかなそうな、クルマユのような表情をしていたけれど、しばらく会う予定もないし放っておいて大丈夫だろう。