◇ハロウィン2019
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「トリックアンドトリート! お菓子くれてもイタズラするよー」
「あいかわらずナナシさんの質問は選択肢がないですね」
「いいじゃん。お菓子も欲しいし、イタズラもしたい」
お昼休憩でお弁当を食べようとしたら、ナナシさんが元気に休憩室の扉を開けた。ナナシさんも、ジョインアベニューでの仕事の休憩時間らしい。だからといって、休憩室の扉を開けて、僕の姿を見つけて、第一声がそれなのはどうかと思う。
「イベントに参加している子どもたちを見習っていただきたいですね……それにしてもナナシさん、特に仮装とかしないんですね。なんとなく、こういったイベント事だから気合いを入れてくるものかと」
魔女とか、クロバットとか、チョロネコとか、別に期待していたわけではないけれど、そういった類のものを着てくるだろうと思っていたから、大していつもと変わらない服装に少しだけ驚く。しかし、僕の答えにナナシさんは腰に手を当ててジト目でこちらを見てきた。
「なーに言ってんの、仮装ならちゃんとしてるでしょ」
「普通のワンピースじゃないですか」
ハロウィンの仮装とはかけ離れた淡い黄色のワンピース。ナナシさんにとってどの辺が仮装なのかと思っていると眉間にしわを寄せて「この寒い時期にわざわざ春物のワンピースを着ている理由をちゃんと考えてよ!」と声を荒らげた。そしてやっと、ナナシさんの怒っている理由に気づく。
「あ、幽霊だったときの……」
「正解! もう、髪型まで前と同じに見えるようセットしたのに。全く、元お化けが直々にお菓子とイタズラを要求してるんだから従ってよね。ジャッキー、ちゃんとわたしのこと見てる? 見てないでしょ、こんな簡単なことにも気づかないんだもんね」
ナナシさんはむくれた様子で、腕を組んでしまった。ぱたぱたぱた、と片足を鳴らしていて、相当機嫌を損ねているようだ。
「み、見てますけど、普通の生活に溶け込んでて、ついこの間まで幽霊だったことを忘れていたというか……」
一応弁解しておく。本当にナナシさんは幽霊だったと思えないくらい生活に馴染んでいるのだ。壊滅的に機械音痴なことは置いておいて、それ以外は本当にどこにでもいるような普通の女の子。おしゃれをして喜んで見せに来たり、嬉しそうにご飯を食べたり、仕事場での出来事を話したり、街でナンパされたことを自慢してきて少しイラっとさせてきたり、手を繋いだり、抱きついてきたり、以下省略。だけど、ナナシさんはまだ機嫌を損ねたままだ。頬を膨らませている。
「ジャッキーがちゃんと見てくれないんじゃ、わたしもどっかフラフラ行っちゃうかもよ」
「どこかって、どこですか」
ナナシさんの言葉に不安になって思わず手首を掴む。僕がギアステーションからあまり出ていけない以上、ナナシさんとの物理的な距離は離れてしまった。外でもっと素敵な人を見つけたらそちらに行ってしまうかもしれない。ここから出られない僕よりも、外で遊んだり、食事に行ったりすることのできる人と一緒にいる方が楽しいかもしれない。そんなことを考えていたら、ナナシさんが固まっていた。僕が掴んでいた手首が少し赤くなっている。強く掴んでしまったことに驚いてパッと離すとナナシさんは堰を切ったように声を出し、僕に向かって指を差した。
「そ、そんなのどこでもいいじゃん! とにかく、お菓子とイタズラ! トリックアンドトリート!」
「お菓子はありますけど、ナナシさんはどんなイタズラをするつもりなのですか?」
イベントで配布する用のお菓子を手渡すとナナシさんは嬉しそうな表情を見せたが、どんなイタズラ、という言葉で少し首を傾げた。視線を斜め上に向け、何かを考えている。それからきょとんとした表情で「特に何も決めてなかったや。何かしてもらいたいことある?」と答えた。
あんなにお菓子とイタズラを要求していたのに、どんなイタズラをするのか考えていなかったあたりナナシさんらしい。
「それ、イタズラって言わないですよね……」
ちょっと心配した僕の気持ちを返してくれ……という僕の思いと裏腹にナナシさんは、アハハ、確かに、と笑っていた。しかし、どうせナナシさんにイタズラをしてもらうなら、少し、僕の方もしてもらいたいことがある。
「そうですね、どうせなら『夜に』イタズラをしていただきたいです」
さて、この問いにどう答えるか。そう思っていると、ナナシさんは少し顔を赤くして難しい顔をしたあと僕のネクタイを引っ張って耳元で囁いた。
「……いいよ、ジャッキーをゴーストタイプにしてやるまで離さないから」
「ぶ、物騒ですね……」
ナナシさんが体を手に入れた代わりに今度は僕が体を失うことになるのか? と少し慄いていると、アハハ、半分冗談だって、と笑った。でも半分は本気かもね、といたずらっ子のように舌を見せた。
「まあいいや。夜になったらまた遊びに来るね!」
そう言うと、ナナシさんは手を振ってパタパタと走ると休憩室を出て行った。これから午後の仕事があるのだろう。僕もお弁当を食べ終えたら午後の配置に着かないといけない。少しだけ、休憩室にいた他の職員にニヤニヤした視線を向けられたが、できるだけ無視して箸を進める。
ナナシさんは一体、どんなイタズラを仕掛けてくるだろう。流石にゴーストタイプにされてしまうのは困るが、ちょっとイイコトだといいな、なんて下心があったりなかったり。今から夜の約束が楽しみだ。
「あいかわらずナナシさんの質問は選択肢がないですね」
「いいじゃん。お菓子も欲しいし、イタズラもしたい」
お昼休憩でお弁当を食べようとしたら、ナナシさんが元気に休憩室の扉を開けた。ナナシさんも、ジョインアベニューでの仕事の休憩時間らしい。だからといって、休憩室の扉を開けて、僕の姿を見つけて、第一声がそれなのはどうかと思う。
「イベントに参加している子どもたちを見習っていただきたいですね……それにしてもナナシさん、特に仮装とかしないんですね。なんとなく、こういったイベント事だから気合いを入れてくるものかと」
魔女とか、クロバットとか、チョロネコとか、別に期待していたわけではないけれど、そういった類のものを着てくるだろうと思っていたから、大していつもと変わらない服装に少しだけ驚く。しかし、僕の答えにナナシさんは腰に手を当ててジト目でこちらを見てきた。
「なーに言ってんの、仮装ならちゃんとしてるでしょ」
「普通のワンピースじゃないですか」
ハロウィンの仮装とはかけ離れた淡い黄色のワンピース。ナナシさんにとってどの辺が仮装なのかと思っていると眉間にしわを寄せて「この寒い時期にわざわざ春物のワンピースを着ている理由をちゃんと考えてよ!」と声を荒らげた。そしてやっと、ナナシさんの怒っている理由に気づく。
「あ、幽霊だったときの……」
「正解! もう、髪型まで前と同じに見えるようセットしたのに。全く、元お化けが直々にお菓子とイタズラを要求してるんだから従ってよね。ジャッキー、ちゃんとわたしのこと見てる? 見てないでしょ、こんな簡単なことにも気づかないんだもんね」
ナナシさんはむくれた様子で、腕を組んでしまった。ぱたぱたぱた、と片足を鳴らしていて、相当機嫌を損ねているようだ。
「み、見てますけど、普通の生活に溶け込んでて、ついこの間まで幽霊だったことを忘れていたというか……」
一応弁解しておく。本当にナナシさんは幽霊だったと思えないくらい生活に馴染んでいるのだ。壊滅的に機械音痴なことは置いておいて、それ以外は本当にどこにでもいるような普通の女の子。おしゃれをして喜んで見せに来たり、嬉しそうにご飯を食べたり、仕事場での出来事を話したり、街でナンパされたことを自慢してきて少しイラっとさせてきたり、手を繋いだり、抱きついてきたり、以下省略。だけど、ナナシさんはまだ機嫌を損ねたままだ。頬を膨らませている。
「ジャッキーがちゃんと見てくれないんじゃ、わたしもどっかフラフラ行っちゃうかもよ」
「どこかって、どこですか」
ナナシさんの言葉に不安になって思わず手首を掴む。僕がギアステーションからあまり出ていけない以上、ナナシさんとの物理的な距離は離れてしまった。外でもっと素敵な人を見つけたらそちらに行ってしまうかもしれない。ここから出られない僕よりも、外で遊んだり、食事に行ったりすることのできる人と一緒にいる方が楽しいかもしれない。そんなことを考えていたら、ナナシさんが固まっていた。僕が掴んでいた手首が少し赤くなっている。強く掴んでしまったことに驚いてパッと離すとナナシさんは堰を切ったように声を出し、僕に向かって指を差した。
「そ、そんなのどこでもいいじゃん! とにかく、お菓子とイタズラ! トリックアンドトリート!」
「お菓子はありますけど、ナナシさんはどんなイタズラをするつもりなのですか?」
イベントで配布する用のお菓子を手渡すとナナシさんは嬉しそうな表情を見せたが、どんなイタズラ、という言葉で少し首を傾げた。視線を斜め上に向け、何かを考えている。それからきょとんとした表情で「特に何も決めてなかったや。何かしてもらいたいことある?」と答えた。
あんなにお菓子とイタズラを要求していたのに、どんなイタズラをするのか考えていなかったあたりナナシさんらしい。
「それ、イタズラって言わないですよね……」
ちょっと心配した僕の気持ちを返してくれ……という僕の思いと裏腹にナナシさんは、アハハ、確かに、と笑っていた。しかし、どうせナナシさんにイタズラをしてもらうなら、少し、僕の方もしてもらいたいことがある。
「そうですね、どうせなら『夜に』イタズラをしていただきたいです」
さて、この問いにどう答えるか。そう思っていると、ナナシさんは少し顔を赤くして難しい顔をしたあと僕のネクタイを引っ張って耳元で囁いた。
「……いいよ、ジャッキーをゴーストタイプにしてやるまで離さないから」
「ぶ、物騒ですね……」
ナナシさんが体を手に入れた代わりに今度は僕が体を失うことになるのか? と少し慄いていると、アハハ、半分冗談だって、と笑った。でも半分は本気かもね、といたずらっ子のように舌を見せた。
「まあいいや。夜になったらまた遊びに来るね!」
そう言うと、ナナシさんは手を振ってパタパタと走ると休憩室を出て行った。これから午後の仕事があるのだろう。僕もお弁当を食べ終えたら午後の配置に着かないといけない。少しだけ、休憩室にいた他の職員にニヤニヤした視線を向けられたが、できるだけ無視して箸を進める。
ナナシさんは一体、どんなイタズラを仕掛けてくるだろう。流石にゴーストタイプにされてしまうのは困るが、ちょっとイイコトだといいな、なんて下心があったりなかったり。今から夜の約束が楽しみだ。