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「ノボリさん、好きです」
ぽっかりと夜空に浮かぶ満月の光が、わたしたちを仄かに照らしている。彼が働いているライモンシティはいつでも明るいけれど、ここはとても静かだ。
「ええ、わたくしもナナシ様をお慕い申しております」
わたしの言葉に応えるように、低くて厚みのあるノボリさんの声が、ひんやりと冷たい空気中を響いた。声を張り上げたわけでもないのに、とても力強く響いている。
ノボリさん、と抱きついたら、彼は優しく抱きしめ返してくれた。こうやって触れ合うのはいつぶりだろう。コートの中は暖かくて、彼の胸に耳を当てていると、同じ時間を生きているんだって実感が湧いた。
なんだか、わたしはいつも寒い時期にイッシュ地方へ戻っている気がする。気温が下がり、陽が落ちるのも早くなると、気持ちも寂しくなるのかもしれない。
「どのくらい、ここで待っていたのですか」
「うーん……3時間くらい、かな。でも、鉄道員さんが話しかけてくれたので、退屈はしなかったですよ」
わたしたちがいる橋の下には車両基地があって、土日は鉄道ファンでそれなりに賑わうらしい。少し日が暮れた頃、ひとりで橋の下を眺めていたら、近くにいた鉄道員が教えてくれた。きっと、退屈そうに見えたんだろうな。
わたしは、鉄道員の話を聞きながらノボリさんを待っていた。こっちに来た連絡を入れていないので、帰りが遅いことはわかっている。それでも、なんとなく彼が早く来てくれるような気がした。根拠なんてなにもない。
それなのに、本当に彼が来た。黒い制服に身を包み、コツコツと革靴を鳴らして電車を降りた彼はとても目立っている。そして、橋の上に立っていたわたしを見つけると、彼は微笑んだ。予想外のことでぽかんとしているわたしを他所に、鉄道員は持ち場に戻って上司であるノボリさんにあいさつをしている。
しばらくして、鉄道員とのやりとりを終えたノボリさんは、コツコツと革靴を鳴らしてわたしの隣に並んだ。
「どうして、わたしがここにいるってわかったんですか? 連絡、入れてないのに」
「職員の方から連絡が来まして。まったく、お節介な方たちですね」
少し困ったように、彼は眉を下げている。けれども、どこか嬉しそうだった。
「ノボリさん。いつも、なにも言わないで帰ってきてごめんなさい」
「いえ、構いませんよ。わたくしは、ナナシ様の夢を見守りたい、一番の理解者でありたいと、図々しながら思っておりますから」
ぎゅっと、抱きしめる力を強める。
「ノボリさん、好きです」
わたしがもう一度言うと、彼は「ええ、わたくしもですよ」と返した。
「もう! わたしが『好き』って言ったんだから、ノボリさんも『好き』って言ってくださいよ」
なんだか、わたしばっかり好きみたいな気がする。きっと、そんなことはないのに。胸に埋めていた顔を上げて、少しだけ抗議をしたら、ノボリさんは優しい瞳をしていた。
「『好き』を伝えるのにも、いろいろな表現があるのですよ。例えば、『月がきれいですね』のように」
「なんですか? それ」
月がきれいなことと、『好き』がどう関係しているのだろう。わたしが頭にはてなを浮かべていると、ノボリさんは月を見上げながら教えてくれた。
「他の地方の表現ですよ。そうですね、カントーあたりでしょうか」
「わたし、カントーも旅をしたけど、そんなこと言われたことないです」
「もし、どなたかに言われていたとしたら、少し妬いてしまいますね」
わたしの方へ視線を戻す。
「好きだと直接伝えるのではなく、月を用いることで言葉に奥ゆかしさを持たせているのです。旅をする上で、ポケモン以外にその地域の文化や習わしを勉強するのもいいと思いますよ。ちなみに、『月がきれいですね』と言われた際は、『わたし、死んでもいいわ』と返して好意を伝えるようです」
「ええ! 『死んでもいいわ』って返すの、わたしはなんとなく嫌だな。だって、死んじゃったら会えなくなるじゃないですか」
「返しの言葉もいろいろあるのですよ。自分に合った表現を見つけてくださいまし」
カントーの人は、『死んでもいい』って思うくらい相手のことが好きなんだ。でも、どんなに相手のことが好きでも、わたしは好きな人の前で死んでもいいなんて言いたくない。好きな人と一緒に生きて、いろいろな場所に行くんだ。そこで、たくさん思い出を作りたい。
「わたしは、『好き』って伝えるのが一番好き。ノボリさん、好きです」
「ええ。わたくしも、ナナシ様のことが好きです」
ぽっかりと夜空に浮かぶ満月の光が、わたしたちを仄かに照らしている。彼が働いているライモンシティはいつでも明るいけれど、ここはとても静かだ。
「ええ、わたくしもナナシ様をお慕い申しております」
わたしの言葉に応えるように、低くて厚みのあるノボリさんの声が、ひんやりと冷たい空気中を響いた。声を張り上げたわけでもないのに、とても力強く響いている。
ノボリさん、と抱きついたら、彼は優しく抱きしめ返してくれた。こうやって触れ合うのはいつぶりだろう。コートの中は暖かくて、彼の胸に耳を当てていると、同じ時間を生きているんだって実感が湧いた。
なんだか、わたしはいつも寒い時期にイッシュ地方へ戻っている気がする。気温が下がり、陽が落ちるのも早くなると、気持ちも寂しくなるのかもしれない。
「どのくらい、ここで待っていたのですか」
「うーん……3時間くらい、かな。でも、鉄道員さんが話しかけてくれたので、退屈はしなかったですよ」
わたしたちがいる橋の下には車両基地があって、土日は鉄道ファンでそれなりに賑わうらしい。少し日が暮れた頃、ひとりで橋の下を眺めていたら、近くにいた鉄道員が教えてくれた。きっと、退屈そうに見えたんだろうな。
わたしは、鉄道員の話を聞きながらノボリさんを待っていた。こっちに来た連絡を入れていないので、帰りが遅いことはわかっている。それでも、なんとなく彼が早く来てくれるような気がした。根拠なんてなにもない。
それなのに、本当に彼が来た。黒い制服に身を包み、コツコツと革靴を鳴らして電車を降りた彼はとても目立っている。そして、橋の上に立っていたわたしを見つけると、彼は微笑んだ。予想外のことでぽかんとしているわたしを他所に、鉄道員は持ち場に戻って上司であるノボリさんにあいさつをしている。
しばらくして、鉄道員とのやりとりを終えたノボリさんは、コツコツと革靴を鳴らしてわたしの隣に並んだ。
「どうして、わたしがここにいるってわかったんですか? 連絡、入れてないのに」
「職員の方から連絡が来まして。まったく、お節介な方たちですね」
少し困ったように、彼は眉を下げている。けれども、どこか嬉しそうだった。
「ノボリさん。いつも、なにも言わないで帰ってきてごめんなさい」
「いえ、構いませんよ。わたくしは、ナナシ様の夢を見守りたい、一番の理解者でありたいと、図々しながら思っておりますから」
ぎゅっと、抱きしめる力を強める。
「ノボリさん、好きです」
わたしがもう一度言うと、彼は「ええ、わたくしもですよ」と返した。
「もう! わたしが『好き』って言ったんだから、ノボリさんも『好き』って言ってくださいよ」
なんだか、わたしばっかり好きみたいな気がする。きっと、そんなことはないのに。胸に埋めていた顔を上げて、少しだけ抗議をしたら、ノボリさんは優しい瞳をしていた。
「『好き』を伝えるのにも、いろいろな表現があるのですよ。例えば、『月がきれいですね』のように」
「なんですか? それ」
月がきれいなことと、『好き』がどう関係しているのだろう。わたしが頭にはてなを浮かべていると、ノボリさんは月を見上げながら教えてくれた。
「他の地方の表現ですよ。そうですね、カントーあたりでしょうか」
「わたし、カントーも旅をしたけど、そんなこと言われたことないです」
「もし、どなたかに言われていたとしたら、少し妬いてしまいますね」
わたしの方へ視線を戻す。
「好きだと直接伝えるのではなく、月を用いることで言葉に奥ゆかしさを持たせているのです。旅をする上で、ポケモン以外にその地域の文化や習わしを勉強するのもいいと思いますよ。ちなみに、『月がきれいですね』と言われた際は、『わたし、死んでもいいわ』と返して好意を伝えるようです」
「ええ! 『死んでもいいわ』って返すの、わたしはなんとなく嫌だな。だって、死んじゃったら会えなくなるじゃないですか」
「返しの言葉もいろいろあるのですよ。自分に合った表現を見つけてくださいまし」
カントーの人は、『死んでもいい』って思うくらい相手のことが好きなんだ。でも、どんなに相手のことが好きでも、わたしは好きな人の前で死んでもいいなんて言いたくない。好きな人と一緒に生きて、いろいろな場所に行くんだ。そこで、たくさん思い出を作りたい。
「わたしは、『好き』って伝えるのが一番好き。ノボリさん、好きです」
「ええ。わたくしも、ナナシ様のことが好きです」
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