本編
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黒ボスの隣にはギラギラと光る下品なアクセサリーを身にまとった女が歩いている。黒ボスも鬱陶しそうにしているが、客である手前無下に扱うこともできない。あの女としては別に黒ボスの人間性に惹かれているのではなく、地位や名誉で決めているのだろう。事実、黒ボスのいないときは白ボスの後を追いかけている。
構内でその様子を見ていると、制服を引っ張られた。なのでそちらを向くと、少し複雑そうな顔をしたミノルがこちらを見上げていた。
「おじちゃん、むらさき色のケガしたときは、なにをつかえばいい?」
「紫? なんや、どこかぶつけたんか。見せてみ」
遊んでいる最中に痣でも作ったのかと思い医務室へ連れて行こうとすると、ミノルは首を横に振った。
「ぼくじゃなくて、おねーちゃん。おじちゃん、治してくれる?」
「おう、どこに痣作ったんや。手当したる」
「おなかと、おっぱいのところ」
「それはわしには無理やなあ……」
ミノルの無理なお願いに苦笑いすると、そうなんだ、と悲しい顔をされた。しかし、腹と胸に痣ができるなんてそうそうないだろう。腕や脚ならともかくなぜ、と怪訝に思っていると、ミノルは黒ボスにつきまとっている女の方を嫌そうな顔で見た。
「なんでそんなところに痣なんか作ったんや」
「お仕事のときはがまんしなきゃいけないことがあるんだって。黒いおにーちゃんも言ってた。だから、あの変なかっこうのおばさんのことイヤって言えないんだって」
お客様トラブル、ということだろうか。ミノルは女の方からこちらに目線を戻すと、ぎゅっと抱きついてきた。
「ぼくね、ママとおねーちゃん以外の女の人キライ。すぐいじわるなこと言うから」
ミノルとやり取りをしてしばらく経ったあと、子どもの泣き声がホームに響いた。それがミノルの泣き声であることはわかるが、異常なくらい大声で泣いている。声の聞こえるホームへ走って行くと、右の頬を赤くしたナナシが泣いているミノルを抱きしめていて、ふたりの目の前には黒ボスたちにつきまとっている女がいた。すぐにインカムで暴力行為を働いた客がいると連絡を入れ、女とふたりの間に割り込み、合図灯で距離を取る。
「クラウド先輩」
ナナシの声に反応したミノルがこちらを見る。ナナシと同様に片頬を赤く膨らませていた。
「お客さん、鉄道員に暴力振るうのは立派な犯罪やで。それだけに飽き足らず、こんな小さい子にまで手ェ出すとは。なあ、向こうでちぃっと楽しくお話ししようや。あんたの大好きな黒ボスも一緒やで」
女は怒りで顔を赤くし、体を震わせていた。ミノルのことを睨んでいるので、何か言われたようだ。子どもの真っ直ぐな言葉は時に凶器になる。この女にとって、一番痛いところを突かれたのだろう。
「なんで、みんな助けてくれなかったの? おねーちゃん、たたかれてたのに、なんでみんな、見てるだけなの? みんな、見ないふり、しらんぷり」
静まり返ったホームの中でミノルの声が響いた。泣いているミノルの言葉に周りの大人たちが気まずそうに俯く。
「……ナナシ、ミノル、さっさと医務室行って手当てしてこい。あとはわしらで処理するから」
「すみません」
ミノルを抱えてぺこりとお辞儀をすると、ナナシは医務室へ向かった。
ふたりの手当てをするようシンゲンに連絡を入れていたので、雑にノックを済ませて医務室の扉を開けると、氷で頬を冷やしているミノルと、俯いた状態のシンゲンとナナシがいた。
「シンゲン、ありがとな。ふたりとも大丈夫か?」
「イエ……僕ハコレデ戻リマスネ」
重い空気の中出て行くシンゲンを見送る。しばらくして頬を赤く腫らしたまま俯いているナナシが口を開いた。
「クラウド先輩、助けてくれてありがとうございました。わたしは大丈夫です。でも、ミノルがまだ……」
ミノルと目線が同じになるようにしゃがんで頭を優しくなでる。氷で冷やしているミノルの頬はかわいそうなくらい赤く腫れていた。
「ミノル、よう頑張ったな。怖かったろうに、ナナシを守ろうとしたんやもんな。ナナシとミノルにひどいことしたやつはもう、ここには来れないから大丈夫や」
そう言うと、安心したのかミノルはポロポロと涙を零した。
「ナナシ、なんで嫌がらせされてたこと誰にも言わなかったんや。ミノルから聞いたで、体に痣があるってな。あの女に殴られた跡やろ」
「業務上、仕方のないことですから」
「おとなになると、がまんしなきゃいけないときがあるって、黒いおにーちゃんが言ってた。でも、がまんしちゃいけないこともあるって、さっきシンゲンおにーちゃんが言ってた」
「ミノルとシンゲンの言う通りや。今回みたいなことは我慢しちゃあかん。きちんと相談せなあかんことやで。報告・連絡・相談。お前が入ったばかりのとき、ちゃんと教えたはずや」
「……すみません。以後気をつけます」
ばつが悪そうに俯いているナナシの頬は、まだ手当てした様子がない。ナナシのことだから、大丈夫だと言って断ったのだろう。真面目なのに少し抜けていて、辛いことがあったときは手助けを断る、いじっぱりな後輩。
「ほら、こっち顔向けてみ」
「冷たっ」
突然氷を頬に当てられて、ナナシは思わず目を瞑った。
「大人なんやからそれくらい我慢せい」
構内でその様子を見ていると、制服を引っ張られた。なのでそちらを向くと、少し複雑そうな顔をしたミノルがこちらを見上げていた。
「おじちゃん、むらさき色のケガしたときは、なにをつかえばいい?」
「紫? なんや、どこかぶつけたんか。見せてみ」
遊んでいる最中に痣でも作ったのかと思い医務室へ連れて行こうとすると、ミノルは首を横に振った。
「ぼくじゃなくて、おねーちゃん。おじちゃん、治してくれる?」
「おう、どこに痣作ったんや。手当したる」
「おなかと、おっぱいのところ」
「それはわしには無理やなあ……」
ミノルの無理なお願いに苦笑いすると、そうなんだ、と悲しい顔をされた。しかし、腹と胸に痣ができるなんてそうそうないだろう。腕や脚ならともかくなぜ、と怪訝に思っていると、ミノルは黒ボスにつきまとっている女の方を嫌そうな顔で見た。
「なんでそんなところに痣なんか作ったんや」
「お仕事のときはがまんしなきゃいけないことがあるんだって。黒いおにーちゃんも言ってた。だから、あの変なかっこうのおばさんのことイヤって言えないんだって」
お客様トラブル、ということだろうか。ミノルは女の方からこちらに目線を戻すと、ぎゅっと抱きついてきた。
「ぼくね、ママとおねーちゃん以外の女の人キライ。すぐいじわるなこと言うから」
ミノルとやり取りをしてしばらく経ったあと、子どもの泣き声がホームに響いた。それがミノルの泣き声であることはわかるが、異常なくらい大声で泣いている。声の聞こえるホームへ走って行くと、右の頬を赤くしたナナシが泣いているミノルを抱きしめていて、ふたりの目の前には黒ボスたちにつきまとっている女がいた。すぐにインカムで暴力行為を働いた客がいると連絡を入れ、女とふたりの間に割り込み、合図灯で距離を取る。
「クラウド先輩」
ナナシの声に反応したミノルがこちらを見る。ナナシと同様に片頬を赤く膨らませていた。
「お客さん、鉄道員に暴力振るうのは立派な犯罪やで。それだけに飽き足らず、こんな小さい子にまで手ェ出すとは。なあ、向こうでちぃっと楽しくお話ししようや。あんたの大好きな黒ボスも一緒やで」
女は怒りで顔を赤くし、体を震わせていた。ミノルのことを睨んでいるので、何か言われたようだ。子どもの真っ直ぐな言葉は時に凶器になる。この女にとって、一番痛いところを突かれたのだろう。
「なんで、みんな助けてくれなかったの? おねーちゃん、たたかれてたのに、なんでみんな、見てるだけなの? みんな、見ないふり、しらんぷり」
静まり返ったホームの中でミノルの声が響いた。泣いているミノルの言葉に周りの大人たちが気まずそうに俯く。
「……ナナシ、ミノル、さっさと医務室行って手当てしてこい。あとはわしらで処理するから」
「すみません」
ミノルを抱えてぺこりとお辞儀をすると、ナナシは医務室へ向かった。
ふたりの手当てをするようシンゲンに連絡を入れていたので、雑にノックを済ませて医務室の扉を開けると、氷で頬を冷やしているミノルと、俯いた状態のシンゲンとナナシがいた。
「シンゲン、ありがとな。ふたりとも大丈夫か?」
「イエ……僕ハコレデ戻リマスネ」
重い空気の中出て行くシンゲンを見送る。しばらくして頬を赤く腫らしたまま俯いているナナシが口を開いた。
「クラウド先輩、助けてくれてありがとうございました。わたしは大丈夫です。でも、ミノルがまだ……」
ミノルと目線が同じになるようにしゃがんで頭を優しくなでる。氷で冷やしているミノルの頬はかわいそうなくらい赤く腫れていた。
「ミノル、よう頑張ったな。怖かったろうに、ナナシを守ろうとしたんやもんな。ナナシとミノルにひどいことしたやつはもう、ここには来れないから大丈夫や」
そう言うと、安心したのかミノルはポロポロと涙を零した。
「ナナシ、なんで嫌がらせされてたこと誰にも言わなかったんや。ミノルから聞いたで、体に痣があるってな。あの女に殴られた跡やろ」
「業務上、仕方のないことですから」
「おとなになると、がまんしなきゃいけないときがあるって、黒いおにーちゃんが言ってた。でも、がまんしちゃいけないこともあるって、さっきシンゲンおにーちゃんが言ってた」
「ミノルとシンゲンの言う通りや。今回みたいなことは我慢しちゃあかん。きちんと相談せなあかんことやで。報告・連絡・相談。お前が入ったばかりのとき、ちゃんと教えたはずや」
「……すみません。以後気をつけます」
ばつが悪そうに俯いているナナシの頬は、まだ手当てした様子がない。ナナシのことだから、大丈夫だと言って断ったのだろう。真面目なのに少し抜けていて、辛いことがあったときは手助けを断る、いじっぱりな後輩。
「ほら、こっち顔向けてみ」
「冷たっ」
突然氷を頬に当てられて、ナナシは思わず目を瞑った。
「大人なんやからそれくらい我慢せい」