本編
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「残念だったね、運が味方してくれなかったようだ」
「別に残念じゃないです。どんなタイプとも渡り合えるということですから」
「強がっているけど、全体的に弱い子たちじゃないか」
「そんなに大口叩いていると、負けたときに恥をかきますよ」
ナナシの対戦相手である新人職員がナナシのことを煽っている。相手はよっぽどバトルに勝つ自信があるようだ。それでも、ナナシは相手の挑発に乗らず、凛とした姿を見せた。バトルというものはバトル前から始まっている。以前、納得のいくバトルができなかったと言ってバトルレコーダーを見せられたとき、堂々とした姿勢でいるように注意したことがあった。それを意識しているのだろう。
「弱くないもん! おねーちゃんもポケモンも弱くないもん。おじちゃんが、おねーちゃん強いって言ってたもん」
バトルがよく見えるようにと思いフィールド外でミノルを抱えていたら、ふたりのやり取りを見ていたミノルが大きな声で対戦相手に文句を言った。ミノルはナナシのバトル姿を見たことがないようだったが、やはりナナシをバカにされたことが悔しかったようで、「おねーちゃん弱くないもん」とぎゅっとしがみついてきた。実際、ナナシは弱くない。入社試験でも良い成績を残していて、新人職員の中では1番強いと言ってもいいくらいだ。
今回、ミノルがナナシのバトルを見たいと白ボスに頼んだため、新人のバトル検定を見せることになった。業務と違い、トレインではなく通常のバトルフィールドで、使用できるポケモンはランダムで手渡される6体の内3体のみ。しかし、ナナシが手渡されたポケモンはあまりにもタイプや能力値が偏っていて、それを知って対戦相手はナナシを煽ってきたのだ。
「おねーちゃん、パッチールいた? ボーマンダは?」
普段ナナシが使っているポケモンがいるか、ミノルは少し不安そうにナナシに尋ねた。するとナナシは、使用するポケモンのボールを腰につけると、唇に指を当ていたずらっ子のような笑みを見せた。
「それは、バトルが始まってからのお楽しみ」
こんな状況でもそんな風に笑顔を見せられるとは、ナナシもバトルに関しては肝の据わった人間だ。しかし、あまりにも酷い仕打ちに思わず「黒ボスも白ボスも意地悪やなあ……」とこちらがため息をついてしまう。
「なんで?」
「相手のポケモンが強すぎるんや。ナナシのポケモンはノーマルタイプだけなのに、相手は他のタイプも持ったドラゴンタイプやで」
「ノーマルタイプなら、パッチール出るかなあ」
「ミノルはそればっかりやなあ」
バトル開始の合図が鳴る。フィールドに立っていたふたりが同時にボールを投げた。
「いけ、ボーマンダ!」
「オドシシ、バトルスタンバイ!」
「あー、ボーマンダがおにーちゃんの方にいる。おねーちゃんのポケモンなのに」
ミノルが残念そうな顔で指を差すので、苦笑いしてしまう。
「おいおい、あれはナナシの手持ちと違うやつやで」
「オドシシもボーマンダも怒ってる」
オドシシの特性は『いかく』だったようだ。これにより、お互いの攻撃力が下がっている。
「ボーマンダ、げきりん!」
「オドシシ、ひかりのかべ」
ボーマンダは物理攻撃にも特殊攻撃にも優れている。しかし特性により攻撃力が下がっているため、どちらにも対応できるようにひかりのかべを選択したのだろう。げきりんは物理攻撃なので効果を受けないが、ナナシの思った通り、特性のおかげで体力があまり削られていないようだ。
「ボーマンダ、もう一度げきりんだ!」
「オドシシ、トリックルーム」
「んなっ」
オドシシの出すトリックルームで空間がぐにゃりと歪んだ。これでオドシシの方が早く動ける。ボーマンダの攻撃は直撃したが、それでもオドシシはまだいけるようだった。このオドシシがタフなのか、相手とボーマンダの連携が上手く取れていないのか。おそらく両方だろう。
「オドシシ、リフレクター」
先ほどとはまた別の壁が展開される。相手のボーマンダは攻撃に疲れて混乱していた。
蹌踉めく隙をナナシは見逃さない。腰につけている2つ目のボールに手をかけると、凛とした声で指示を出した。
「オドシシ、交代。パッチール、バトルスタンバイ!」
高く投げられたボールから出てきたのは、ナナシとミノルのフェイバリットポケモン。それを見たミノルは嬉しそうな声を上げる。
「あ、パッチール!」
「ナナシ、相手がドラゴンタイプだとわかっていてパッチール入れてきたんか」
いくらナナシに手渡されたポケモンたちが低種族値だったとはいえ、もっと能力の優れたポケモンは他にいた。それにも関わらず、お世辞にも能力が高いとは言えないパッチールを入れてくるとは、何か策があるのだろう。
「いけっ、パッチール!」
ナナシは攻撃名を言わなかった。しかし、パッチールはナナシの指示を察してボーマンダに突っ込んでいく。フィールドに乾いた音が響き、突然のことに相手トレーナーもポケモンも動けなくなっている。のんびりした見た目のポケモンに、まさかねこだましを咬まされるとは思っていなかったのだろう。
ボーマンダが動けなくなっているうちに場を整えないと、パッチールはすぐにやられてしまう。ナナシはすぐさま次の指示を出した。
「続けてばかぢから!」
ばかぢからは威力こそ高いが、デメリットも大きい。使えば使うほど、自分の能力が下がってしまう。しかし、フィールドに立っているパッチールは様子が違っていた。使うたびに能力が上がっている。このデメリットこそが、1番のメリットだったようだ。小さな体がボーマンダの大きな体を投げ飛ばす。負けじとボーマンダも攻撃を仕掛けてくるが、壁に守られていることに加え、パッチールの能力自体が上がっているためダメージはほぼ通らない。徐々に強くなっていくパッチールによって、ボーマンダの四肢は投げ出された。
「パッチール、強くなってる?」
ミノルが不思議そうな目でフィールドを見つめていた。ナナシに似ているパッチールとは、このことだったのだろうか。
ぐにゃり、ぐにゃりと揺れていた空間が徐々に戻りつつある。トリックルームの効果がもうじき切れるようだ。対戦相手はこれを好機と見たようだ。戦闘不能になったボーマンダを戻すと、ボールを投げて指示を出した。
「いけ、カイリュー! りゅうのまいだ!」
「パッチール、スキルスワップ」
猛々しく舞っているカイリューとフラフラしたパッチールの間に不思議な光が交差する。これにより、カイリューの特性はパッチールと同じく『あまのじゃく』になった。
パッチールはバトルサブウェイで使用されることの少ないポケモンなので、相手は珍しい特性に気づかないかもしれない。その証拠に、りゅうのまいを続けている。
パッチールは十分強くなった。しかし、特性が変わってしまった以上、この場に留まるわけにはいかない。ナナシは3つ目のボールを手に取ると、凛とした声でパッチールに指示を出した。
「パッチール、バトンタッチ! ミミロップ、バトルスタンバイ!」
ふたつのボールがクロスして、パッチールの能力はミミロップに受け継がれた。攻撃力も防御力も十分に備わっている状態。体が小さくても、かわいい姿でも、トレーナーがポケモンのことを理解していれば例え不利な種族でも勝利へ導くことができる。
トリックルームが切れても、特性を理解していないトレーナーのおかげでミミロップの方が早く動ける。彼女もやる気に満ち溢れているようだ。
「ミミロップ、カイリューに向かってれいとうパンチ!」
ミミロップの拳から作り出される氷は、カイリューを1発で戦闘不能にさせるのに十分だった。対戦相手はかなり焦っている。様子を見るに、次のポケモンもこおりタイプの技にかなり弱いドラゴンタイプなのだろう。
これから繰り出されるポケモンは、ミミロップよりも素早く動ける。それでも、このミミロップが簡単に倒されることはない。
「いけ、フライゴン! ドラゴンダイブだ!」
ボールから飛び出たフライゴンの尾がミミロップを地面に叩きつける。その振動はこちらにも伝わってきて、驚いたミノルがぎゅっと抱きついてくる。しかし、フィールド上に倒れているのは相手のフライゴンの方だった。砂埃の舞う中ミミロップは何事もなかったかのように起き上がると、体毛についた埃を振り払った。
「なんでフライゴンがたおれてるの?」
「ミミロップの特性が『メロメロボディ』だからやろなあ……」
「フライゴン、ミミロップのこと好きになっちゃったの?」
「まあそんなとこやな」
シン、とした会場の中にナナシの冷たい声が響く。メロメロ状態で動けなくなっているフライゴンにミミロップがれいとうパンチを当てる様は、まるで女王様のようだ。そこで、バトル終了のブザーが鳴った。対戦相手のポケモンは全て戦闘不能になり、ナナシのポケモンは3体ともバトルできる状態だ。
「おねーちゃん、勝ったね! ねえ、ポケモン見せて」
ミノルは抱えられていた腕から飛び降りると、嬉しそうな顔でナナシに駆け寄った。ナナシは、はいはい、と言いながらボールに入っている2体を出す。フィールドに残っていたミミロップもナナシのもとへ戻ってきた。
「オドシシ、怒ってない?」
「バトルじゃないから怒ってないよ。頭、なでていいよだって」
頭を差し出しているオドシシを、よしよし、と言ってなでる。それから、先程威力の高いれいとうパンチを繰り出したミミロップの手をもふもふと触ったり、パッチールを抱っこしたりと楽しそうにしている。
「ナナシ、頑張ったな」
そう声をかけると、恥ずかしそうに笑ってみせた。バトルしているときと全く違う、真面目なのに少し抜けている、そんないつもの後輩。
「ありがとうございます。ミノルの子守、任せちゃってすみません」
「いいんや。ふたりで面白いもん見られたし。な、ミノル」
「うん」
相手フィールド上では白ボスとナナシの対戦相手の声が聞こえた。相手はぺこぺこと頭を下げている。どうやら説教を垂れているようだ。
「きみねえ、あんなにハンデあげたのに、大口叩いた挙句に負けるって、恥ずかしいと思わないの?」
「すみません……」
「もっとポケモンのこと、勉強しなきゃだめだよ」
「おねーちゃんたちのポケモン、弱くなかったでしょ。おにーちゃん、弱いポケモンって言ってたけど、パッチールたち、強かったでしょ」
「こら、ミノル! すみません、失礼なことを」
パッチールと手を繋いだミノルは対戦相手と白ボスに話しかけた。それをナナシは急いで止めに入る。しかし、白ボスはミノルと同じ目線になるようにかがむと、ミノルの頭を優しくなでた。
「そうだよ、ナナシのポケモンたちはみんな強かった。僕たちね、ちょっとだけ意地悪したんだ。みんなは他のタイプも混ざったポケモンなのに、ナナシだけ6体全部ノーマルだけのポケモン。でも勝っちゃった。それは、ナナシがポケモンたちのこと、ちゃんと理解していたからだよ。特にパッチールの特性、知ってないとあんなバトルできないもんね」
それから立ち上がると、ナナシに笑いかけた。
「ナナシごめんね。意地悪しちゃって。でも本当にいいバトルだったよ」
「いえ、わたしノーマルタイプ好きなので」
好きなタイプで全力を出せて良かったです、と微笑んだ。
「別に残念じゃないです。どんなタイプとも渡り合えるということですから」
「強がっているけど、全体的に弱い子たちじゃないか」
「そんなに大口叩いていると、負けたときに恥をかきますよ」
ナナシの対戦相手である新人職員がナナシのことを煽っている。相手はよっぽどバトルに勝つ自信があるようだ。それでも、ナナシは相手の挑発に乗らず、凛とした姿を見せた。バトルというものはバトル前から始まっている。以前、納得のいくバトルができなかったと言ってバトルレコーダーを見せられたとき、堂々とした姿勢でいるように注意したことがあった。それを意識しているのだろう。
「弱くないもん! おねーちゃんもポケモンも弱くないもん。おじちゃんが、おねーちゃん強いって言ってたもん」
バトルがよく見えるようにと思いフィールド外でミノルを抱えていたら、ふたりのやり取りを見ていたミノルが大きな声で対戦相手に文句を言った。ミノルはナナシのバトル姿を見たことがないようだったが、やはりナナシをバカにされたことが悔しかったようで、「おねーちゃん弱くないもん」とぎゅっとしがみついてきた。実際、ナナシは弱くない。入社試験でも良い成績を残していて、新人職員の中では1番強いと言ってもいいくらいだ。
今回、ミノルがナナシのバトルを見たいと白ボスに頼んだため、新人のバトル検定を見せることになった。業務と違い、トレインではなく通常のバトルフィールドで、使用できるポケモンはランダムで手渡される6体の内3体のみ。しかし、ナナシが手渡されたポケモンはあまりにもタイプや能力値が偏っていて、それを知って対戦相手はナナシを煽ってきたのだ。
「おねーちゃん、パッチールいた? ボーマンダは?」
普段ナナシが使っているポケモンがいるか、ミノルは少し不安そうにナナシに尋ねた。するとナナシは、使用するポケモンのボールを腰につけると、唇に指を当ていたずらっ子のような笑みを見せた。
「それは、バトルが始まってからのお楽しみ」
こんな状況でもそんな風に笑顔を見せられるとは、ナナシもバトルに関しては肝の据わった人間だ。しかし、あまりにも酷い仕打ちに思わず「黒ボスも白ボスも意地悪やなあ……」とこちらがため息をついてしまう。
「なんで?」
「相手のポケモンが強すぎるんや。ナナシのポケモンはノーマルタイプだけなのに、相手は他のタイプも持ったドラゴンタイプやで」
「ノーマルタイプなら、パッチール出るかなあ」
「ミノルはそればっかりやなあ」
バトル開始の合図が鳴る。フィールドに立っていたふたりが同時にボールを投げた。
「いけ、ボーマンダ!」
「オドシシ、バトルスタンバイ!」
「あー、ボーマンダがおにーちゃんの方にいる。おねーちゃんのポケモンなのに」
ミノルが残念そうな顔で指を差すので、苦笑いしてしまう。
「おいおい、あれはナナシの手持ちと違うやつやで」
「オドシシもボーマンダも怒ってる」
オドシシの特性は『いかく』だったようだ。これにより、お互いの攻撃力が下がっている。
「ボーマンダ、げきりん!」
「オドシシ、ひかりのかべ」
ボーマンダは物理攻撃にも特殊攻撃にも優れている。しかし特性により攻撃力が下がっているため、どちらにも対応できるようにひかりのかべを選択したのだろう。げきりんは物理攻撃なので効果を受けないが、ナナシの思った通り、特性のおかげで体力があまり削られていないようだ。
「ボーマンダ、もう一度げきりんだ!」
「オドシシ、トリックルーム」
「んなっ」
オドシシの出すトリックルームで空間がぐにゃりと歪んだ。これでオドシシの方が早く動ける。ボーマンダの攻撃は直撃したが、それでもオドシシはまだいけるようだった。このオドシシがタフなのか、相手とボーマンダの連携が上手く取れていないのか。おそらく両方だろう。
「オドシシ、リフレクター」
先ほどとはまた別の壁が展開される。相手のボーマンダは攻撃に疲れて混乱していた。
蹌踉めく隙をナナシは見逃さない。腰につけている2つ目のボールに手をかけると、凛とした声で指示を出した。
「オドシシ、交代。パッチール、バトルスタンバイ!」
高く投げられたボールから出てきたのは、ナナシとミノルのフェイバリットポケモン。それを見たミノルは嬉しそうな声を上げる。
「あ、パッチール!」
「ナナシ、相手がドラゴンタイプだとわかっていてパッチール入れてきたんか」
いくらナナシに手渡されたポケモンたちが低種族値だったとはいえ、もっと能力の優れたポケモンは他にいた。それにも関わらず、お世辞にも能力が高いとは言えないパッチールを入れてくるとは、何か策があるのだろう。
「いけっ、パッチール!」
ナナシは攻撃名を言わなかった。しかし、パッチールはナナシの指示を察してボーマンダに突っ込んでいく。フィールドに乾いた音が響き、突然のことに相手トレーナーもポケモンも動けなくなっている。のんびりした見た目のポケモンに、まさかねこだましを咬まされるとは思っていなかったのだろう。
ボーマンダが動けなくなっているうちに場を整えないと、パッチールはすぐにやられてしまう。ナナシはすぐさま次の指示を出した。
「続けてばかぢから!」
ばかぢからは威力こそ高いが、デメリットも大きい。使えば使うほど、自分の能力が下がってしまう。しかし、フィールドに立っているパッチールは様子が違っていた。使うたびに能力が上がっている。このデメリットこそが、1番のメリットだったようだ。小さな体がボーマンダの大きな体を投げ飛ばす。負けじとボーマンダも攻撃を仕掛けてくるが、壁に守られていることに加え、パッチールの能力自体が上がっているためダメージはほぼ通らない。徐々に強くなっていくパッチールによって、ボーマンダの四肢は投げ出された。
「パッチール、強くなってる?」
ミノルが不思議そうな目でフィールドを見つめていた。ナナシに似ているパッチールとは、このことだったのだろうか。
ぐにゃり、ぐにゃりと揺れていた空間が徐々に戻りつつある。トリックルームの効果がもうじき切れるようだ。対戦相手はこれを好機と見たようだ。戦闘不能になったボーマンダを戻すと、ボールを投げて指示を出した。
「いけ、カイリュー! りゅうのまいだ!」
「パッチール、スキルスワップ」
猛々しく舞っているカイリューとフラフラしたパッチールの間に不思議な光が交差する。これにより、カイリューの特性はパッチールと同じく『あまのじゃく』になった。
パッチールはバトルサブウェイで使用されることの少ないポケモンなので、相手は珍しい特性に気づかないかもしれない。その証拠に、りゅうのまいを続けている。
パッチールは十分強くなった。しかし、特性が変わってしまった以上、この場に留まるわけにはいかない。ナナシは3つ目のボールを手に取ると、凛とした声でパッチールに指示を出した。
「パッチール、バトンタッチ! ミミロップ、バトルスタンバイ!」
ふたつのボールがクロスして、パッチールの能力はミミロップに受け継がれた。攻撃力も防御力も十分に備わっている状態。体が小さくても、かわいい姿でも、トレーナーがポケモンのことを理解していれば例え不利な種族でも勝利へ導くことができる。
トリックルームが切れても、特性を理解していないトレーナーのおかげでミミロップの方が早く動ける。彼女もやる気に満ち溢れているようだ。
「ミミロップ、カイリューに向かってれいとうパンチ!」
ミミロップの拳から作り出される氷は、カイリューを1発で戦闘不能にさせるのに十分だった。対戦相手はかなり焦っている。様子を見るに、次のポケモンもこおりタイプの技にかなり弱いドラゴンタイプなのだろう。
これから繰り出されるポケモンは、ミミロップよりも素早く動ける。それでも、このミミロップが簡単に倒されることはない。
「いけ、フライゴン! ドラゴンダイブだ!」
ボールから飛び出たフライゴンの尾がミミロップを地面に叩きつける。その振動はこちらにも伝わってきて、驚いたミノルがぎゅっと抱きついてくる。しかし、フィールド上に倒れているのは相手のフライゴンの方だった。砂埃の舞う中ミミロップは何事もなかったかのように起き上がると、体毛についた埃を振り払った。
「なんでフライゴンがたおれてるの?」
「ミミロップの特性が『メロメロボディ』だからやろなあ……」
「フライゴン、ミミロップのこと好きになっちゃったの?」
「まあそんなとこやな」
シン、とした会場の中にナナシの冷たい声が響く。メロメロ状態で動けなくなっているフライゴンにミミロップがれいとうパンチを当てる様は、まるで女王様のようだ。そこで、バトル終了のブザーが鳴った。対戦相手のポケモンは全て戦闘不能になり、ナナシのポケモンは3体ともバトルできる状態だ。
「おねーちゃん、勝ったね! ねえ、ポケモン見せて」
ミノルは抱えられていた腕から飛び降りると、嬉しそうな顔でナナシに駆け寄った。ナナシは、はいはい、と言いながらボールに入っている2体を出す。フィールドに残っていたミミロップもナナシのもとへ戻ってきた。
「オドシシ、怒ってない?」
「バトルじゃないから怒ってないよ。頭、なでていいよだって」
頭を差し出しているオドシシを、よしよし、と言ってなでる。それから、先程威力の高いれいとうパンチを繰り出したミミロップの手をもふもふと触ったり、パッチールを抱っこしたりと楽しそうにしている。
「ナナシ、頑張ったな」
そう声をかけると、恥ずかしそうに笑ってみせた。バトルしているときと全く違う、真面目なのに少し抜けている、そんないつもの後輩。
「ありがとうございます。ミノルの子守、任せちゃってすみません」
「いいんや。ふたりで面白いもん見られたし。な、ミノル」
「うん」
相手フィールド上では白ボスとナナシの対戦相手の声が聞こえた。相手はぺこぺこと頭を下げている。どうやら説教を垂れているようだ。
「きみねえ、あんなにハンデあげたのに、大口叩いた挙句に負けるって、恥ずかしいと思わないの?」
「すみません……」
「もっとポケモンのこと、勉強しなきゃだめだよ」
「おねーちゃんたちのポケモン、弱くなかったでしょ。おにーちゃん、弱いポケモンって言ってたけど、パッチールたち、強かったでしょ」
「こら、ミノル! すみません、失礼なことを」
パッチールと手を繋いだミノルは対戦相手と白ボスに話しかけた。それをナナシは急いで止めに入る。しかし、白ボスはミノルと同じ目線になるようにかがむと、ミノルの頭を優しくなでた。
「そうだよ、ナナシのポケモンたちはみんな強かった。僕たちね、ちょっとだけ意地悪したんだ。みんなは他のタイプも混ざったポケモンなのに、ナナシだけ6体全部ノーマルだけのポケモン。でも勝っちゃった。それは、ナナシがポケモンたちのこと、ちゃんと理解していたからだよ。特にパッチールの特性、知ってないとあんなバトルできないもんね」
それから立ち上がると、ナナシに笑いかけた。
「ナナシごめんね。意地悪しちゃって。でも本当にいいバトルだったよ」
「いえ、わたしノーマルタイプ好きなので」
好きなタイプで全力を出せて良かったです、と微笑んだ。