本編
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退院した次の日、ナナシは復職の手続きをしにミノルを連れて事務所に来ていた。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「いいえ、こうしてナナシが戻って来られたことを嬉しく思います。しかし、もうお体の方は大丈夫なのですか? 一応、診断書には復職可と書かれていますが」
「はい。完治はしていませんが、お医者さんから許可は出ていますので、病気と付き合いながら業務に励もうと思います」
「また無理して自分を追い詰めることがないよう、気をつけてくださいまし」
「はい、気をつけます」
黒ボスから軽く注意を受けるとナナシは笑顔で答えた。今までだったらぺこりと頭を下げて、すみません、とばかり言っていたので、黒ボスと近くにいた白ボスも驚いている。
「ナナシ、なんか、雰囲気変わった?」
「え、そうですか?」
「前より笑い方が柔らかくなった。少し、いたずらっ子みたいな、そんな顔。でも、いいことだと思うよ」
えへへ、とナナシが笑う。その様子を黒ボスと白ボスは優しそうな目をして見ていた。
白ボスから渡された書類をすべて記入し終えると、ナナシは帰宅の準備を始めた。ナナシは明日から仕事に復帰し、ミノルもまた保育園に通うので、今日のうちに支度を済ませないといけない。
「わたしとミノルはこれで失礼します。明日からまたよろしくお願いします」
朝礼前で事務所に集まっている職員にぺこりとお辞儀をすると、職員たちも帽子を取ってあいさつを返した。帰ろうとしているふたりに軽く手を振る。ナナシもそれを笑顔で返した。しかし、ミノルが事務所の方へと戻っていくので、手を繋いでいたナナシも不思議そうにミノルのあとをついてくる。
今日提出する予定の書類の束を机でトントンと揃えていると、ミノルはじっとこちらを見ながら歩いてきた。そして制服を引っ張ってくるのでどうしたのかと思っていると、ミノルは事務所内に響くほど大きな声を出した。
「おとうさん、早くゆびわ買ってね。ゆびわ買ったら結婚できるんだよね?」
動揺して思わず書類の束を落とす。他の職員もミノルの言葉に驚いていた。
「オ、オ父サン!? オッサンカラオ父サンニ昇格シタノ!?」
「いつの間にそんな進展したのさ」
「え、い、いや、わしも知らんというか、ミノルいきなりどうしたんや」
「おじちゃんは、おねーちゃんのこと好き。おねーちゃんはおじちゃんのこと好き。ちがう?」
「えっと、うん? そ、それは、うん、そうだけど」
突然のことにナナシも混乱しながら肯定している。
「ぼくね、ずっと前からおじちゃんがぼくのパパになってくれたらいいなって思ってた」
「そ、そうなんか」
「でもね、ふたりとも『よわごし』だから『そとぼりをうめる』のが大事なんだって、テレビで見た」
カズマサを見ると首を横にぶんぶんと振っているが、十中八九カズマサと見たドラマのせいだろう。
みんなの前で言うことで、こちらの後押しをしたつもりなのだろうか。ミノルにとっては憧れているであろう父と母のいる家庭。その中に本当に自分が入っていいのだろうか。ミノルはじっとこちらを見ている。
「ミノルはわしのことを父親として認めてくれるんか」
「うん。おじちゃんは、いつもおねーちゃんのことを守ってくれる。でもね、ほんとのパパは別の人だから、おじちゃんはパパじゃなくておとうさん。
おねーちゃんは、ぼくのもうひとりのママ。でも、ママはもうお空の上。だから、おねーちゃんはママじゃなくておかあさん」
ミノルは交互に顔を見ながら答えた。ナナシは、ミノルの口から出た『もうひとりのママ』という言葉に涙を流している。
事務所内がしんみりとした雰囲気になっている。ミノルはこちらの答えを待っていた。
「ついこの間告白したばかりやけど……ナナシ、わしをこの子の父親にしてくれるか」
「……クラウド先輩が保育園の行事に参加してくれたときのミノルの笑顔がとても眩しくて、わたしもそんな生活に憧れていて。わたしの体のことを知っても引かないで優しくしてくれて……わたしも、クラウド先輩と、ミノルと、ずっと一緒にいたいです」
その言葉に周りの職員から拍手をもらった。涙を流している者もいる。正直、こんな形でプロポーズをすることになるとは思っていなかった。
「しっかしミノル、なんで指輪を買ったら結婚できると思ってるんや」
「あのね、カズマサおにーちゃんと見たテレビで、ちゅーして、男の人がゆびわパカってしたら結婚したんだよ。おとうさんたちはもう病院で」
「言わんでええ!」
あのとき売店でチョコレートを買うだけなのにやたらと時間がかかっていたのは、そのやり取りを影で見ていたからだろう。職員たちがニヤニヤしながらこちらを見ている。とりあえず、感謝の気持ちも込めてカズマサには一発殴っておこうと思う。
「しかし、おめでたいことですね」
「あーあ、書類書き直し。でもクラウド、ふたりのこと、幸せにしてあげなよ」
「おう、任せとき」
ナナシと一緒にミノルの手を繋いで笑い合った。
初心者マークのお父さんとお母さん。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「いいえ、こうしてナナシが戻って来られたことを嬉しく思います。しかし、もうお体の方は大丈夫なのですか? 一応、診断書には復職可と書かれていますが」
「はい。完治はしていませんが、お医者さんから許可は出ていますので、病気と付き合いながら業務に励もうと思います」
「また無理して自分を追い詰めることがないよう、気をつけてくださいまし」
「はい、気をつけます」
黒ボスから軽く注意を受けるとナナシは笑顔で答えた。今までだったらぺこりと頭を下げて、すみません、とばかり言っていたので、黒ボスと近くにいた白ボスも驚いている。
「ナナシ、なんか、雰囲気変わった?」
「え、そうですか?」
「前より笑い方が柔らかくなった。少し、いたずらっ子みたいな、そんな顔。でも、いいことだと思うよ」
えへへ、とナナシが笑う。その様子を黒ボスと白ボスは優しそうな目をして見ていた。
白ボスから渡された書類をすべて記入し終えると、ナナシは帰宅の準備を始めた。ナナシは明日から仕事に復帰し、ミノルもまた保育園に通うので、今日のうちに支度を済ませないといけない。
「わたしとミノルはこれで失礼します。明日からまたよろしくお願いします」
朝礼前で事務所に集まっている職員にぺこりとお辞儀をすると、職員たちも帽子を取ってあいさつを返した。帰ろうとしているふたりに軽く手を振る。ナナシもそれを笑顔で返した。しかし、ミノルが事務所の方へと戻っていくので、手を繋いでいたナナシも不思議そうにミノルのあとをついてくる。
今日提出する予定の書類の束を机でトントンと揃えていると、ミノルはじっとこちらを見ながら歩いてきた。そして制服を引っ張ってくるのでどうしたのかと思っていると、ミノルは事務所内に響くほど大きな声を出した。
「おとうさん、早くゆびわ買ってね。ゆびわ買ったら結婚できるんだよね?」
動揺して思わず書類の束を落とす。他の職員もミノルの言葉に驚いていた。
「オ、オ父サン!? オッサンカラオ父サンニ昇格シタノ!?」
「いつの間にそんな進展したのさ」
「え、い、いや、わしも知らんというか、ミノルいきなりどうしたんや」
「おじちゃんは、おねーちゃんのこと好き。おねーちゃんはおじちゃんのこと好き。ちがう?」
「えっと、うん? そ、それは、うん、そうだけど」
突然のことにナナシも混乱しながら肯定している。
「ぼくね、ずっと前からおじちゃんがぼくのパパになってくれたらいいなって思ってた」
「そ、そうなんか」
「でもね、ふたりとも『よわごし』だから『そとぼりをうめる』のが大事なんだって、テレビで見た」
カズマサを見ると首を横にぶんぶんと振っているが、十中八九カズマサと見たドラマのせいだろう。
みんなの前で言うことで、こちらの後押しをしたつもりなのだろうか。ミノルにとっては憧れているであろう父と母のいる家庭。その中に本当に自分が入っていいのだろうか。ミノルはじっとこちらを見ている。
「ミノルはわしのことを父親として認めてくれるんか」
「うん。おじちゃんは、いつもおねーちゃんのことを守ってくれる。でもね、ほんとのパパは別の人だから、おじちゃんはパパじゃなくておとうさん。
おねーちゃんは、ぼくのもうひとりのママ。でも、ママはもうお空の上。だから、おねーちゃんはママじゃなくておかあさん」
ミノルは交互に顔を見ながら答えた。ナナシは、ミノルの口から出た『もうひとりのママ』という言葉に涙を流している。
事務所内がしんみりとした雰囲気になっている。ミノルはこちらの答えを待っていた。
「ついこの間告白したばかりやけど……ナナシ、わしをこの子の父親にしてくれるか」
「……クラウド先輩が保育園の行事に参加してくれたときのミノルの笑顔がとても眩しくて、わたしもそんな生活に憧れていて。わたしの体のことを知っても引かないで優しくしてくれて……わたしも、クラウド先輩と、ミノルと、ずっと一緒にいたいです」
その言葉に周りの職員から拍手をもらった。涙を流している者もいる。正直、こんな形でプロポーズをすることになるとは思っていなかった。
「しっかしミノル、なんで指輪を買ったら結婚できると思ってるんや」
「あのね、カズマサおにーちゃんと見たテレビで、ちゅーして、男の人がゆびわパカってしたら結婚したんだよ。おとうさんたちはもう病院で」
「言わんでええ!」
あのとき売店でチョコレートを買うだけなのにやたらと時間がかかっていたのは、そのやり取りを影で見ていたからだろう。職員たちがニヤニヤしながらこちらを見ている。とりあえず、感謝の気持ちも込めてカズマサには一発殴っておこうと思う。
「しかし、おめでたいことですね」
「あーあ、書類書き直し。でもクラウド、ふたりのこと、幸せにしてあげなよ」
「おう、任せとき」
ナナシと一緒にミノルの手を繋いで笑い合った。
初心者マークのお父さんとお母さん。