本編
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ナナシの入院している病院はライモンからそこまで離れていない。そらをとぶを使えばすぐに行って帰って来れる距離だ。なのでミノルと一緒に乗れる大きさのポケモンを連れて行こうとしていたら、ナナシのボーマンダがボールから出てきた。どうやら乗せてくれるようだ。
午後の面会時間は13時から15時と決まっている。そのため面会時間に合わせるよう休憩時間を他の職員とずらしてもらった。ナナシが入院することになったこと、ミノルを朝からギアステーションに連れてくること、面会のため少し仕事を抜けたい主を黒ボスと白ボスに頼んだとき、ふたりとも何も反対しなかった。ただ一言、あまり無理をしないように、と告げられた。
「ミノル、昼飯はちゃんと食ったか」
「うん、黒いおにーちゃんと食べた」
「ほんなら行こか」
ボーマンダは人を乗せて飛び慣れているようだった。ふたり乗りで荷物もそれなりにあったのに、全くそれを苦にせず病院まで飛んでくれた。
ナナシの部屋は個室だった。ノックしてから扉を開けると、ぼーっとして窓の外を見ている。
「おねーちゃん」
「ミノル、クラウド先輩……」
声をかけられてナナシはこちらを向いた。疲れているのか、目が半分閉じている。
「体調は大丈夫か」
「すみません、ご迷惑を」
「わしは体調のことを聞いてるんやで」
「おねーちゃん、どこか痛い?」
「ううん、痛くない。体調はもう、大丈夫です」
大丈夫そうには到底見えないが、そうか、とだけ返す。ふと視線を移すと、ナナシが寝ているベッドの横の床頭台に昼食が置かれていた。
「飯、食っとらんのか。まだ手ェつけてないやろこれ」
「ごはん食べないと元気でないって、おねーちゃんいつも言ってるのに」
「そうだね。ミノルにいつも言ってるのに、お姉ちゃんができてない。ダメだよね」
ナナシは悲しそうに笑った。
「職場でもまともに食ってなかったやろ。あんな小さい弁当箱で。もともと食欲ないんか」
「いつからか食べるのが億劫で。今日は特に」
「少しでええから食べとき。ナナシ、口開けてみ」
「そんな、子どもじゃあるまいし」
「こうでもしないとお前、食わないやろ」
スプーンで掬って飯をナナシの口に運ぶ。ナナシは面倒くさそうに口を開いた。そして口に入れたものを咀嚼し始めると、飲み込まずに何度か動きを止めた。よっぽど食べるのが億劫らしい。
「飲み込めそうか」
「……はい」
用意された昼食の3分の1を食べたくらいでナナシの口は閉じた。それでも、何も食べないよりはマシだ。
「今日はおねーちゃんの好きなもの持ってきたんだよ。ママが作ったパッチールのぬいぐるみ」
「ありがとう」
ナナシはミノルからぬいぐるみを受け取ると大事そうに抱きしめた。裁縫が得意な姉に作ってもらったパッチールのぬいぐるみ。子どもの頃にもらったのだろうか。ナナシにとって、大事な形見のひとつ。
「クラウド先輩、ミノルは昨日」
「わしの家に泊めたんや。お前が退院するまで置いとくつもりやで。保育園の方にはしばらく休むと連絡したわ」
そうですか、とナナシは俯いた。
「ミノル、少しだけ向こうで遊んでてくれんか。ふたりだけで話したいことがあるんや」
「おじちゃん、おねーちゃんに怒ったりしない?」
「そんなことせんから大丈夫や」
あまり納得のいってない様子だったが、ミノルはボールからパッチールを出すと、手を繋いで部屋から出て行った。ミノルが部屋の扉を閉める音で、俯いていたナナシの顔がこちらを向いた。
「ナナシ、お前はずっとひとりで頑張ってきたんやな。入社して半年も経ってない、仕事を早よ覚えなあかんと気い張ってるなか、まだ姉さんのことで気持ちの整理もつかんうちにミノルの面倒も見て。いつも、真面目に仕事こなして、ミノルの良い母になろうとして。せやけど、なんでもひとりで抱え込んだら、いつか心が壊れてしまうで」
「わたしがしっかりしないと、あの子が。でも、なんだか上手くいかなくて、気がついたらこんなところにいるなんて。わたしよりも、ミノルの方がずっとしっかりしてる」
「ミノルはホンマに頭のええ子や。ナナシのことも周りのこともよう見てる。どないしたらナナシが喜んでくれるか、元気になれるか、いろいろ考えて、内緒で相談してくれて。せやけど、わしみたいな大人は、ナナシのちぃっとした変化になかなか気づけん。だから、辛いことがあったら抱え込まないで相談してくれや……」
ナナシは何も答えない代わりに涙を流した。目頭を拭うこともなく、ただこちらをじっと見ている。頬を伝った涙はぽたぽたとナナシの手の甲に落ちていった。
「ミノルのことは任せてくれや。あの子といると、いろいろなことに気づかされる。その間、お前はここでゆっくり休むんや。それが今のナナシの仕事やで。約束してくれるか?」
「……はい」
「……ええ子や」
しばらくして戻ってきたミノルは複雑そうな顔を見せた。目を赤くして頬に涙の伝った跡を見たミノルはナナシが何かされたと思ったようだ。それを否定するように、ナナシは軽く首を横に振った。
「おじちゃん、何したの? なんでおねーちゃん泣いてるの?」
「ううん、何でもないよ。ちょっとね、痛くなっちゃって」
「ほんとに? かんごしさん呼んでくるよ」
「大丈夫、しばらくしたら治るから」
壁にかけられた時計を見るともうじき15時になろうとしていた。面会の時間ももう終わる。
「仕事に戻らなあかんから、わしらはこれで帰るで。明日また昼に来るから。晩飯はちゃんと食うんやで。ええな」
「おじちゃん、ぼくまだここにいたい」
「面会の時間は決まってるんや。それにまた明日も来るから、今日は我慢してくれや」
ミノルは嫌だと首を振ったが、しばらくしてナナシに抱きつき「おねーちゃん、また明日くるね」と約束をした。ナナシもミノルの背中をさすって、ありがとう、と笑顔を見せる。
「クラウド先輩、ミノルを、よろしくお願いします」
「任せとき。何かあったら連絡せえよ。欲しいもんあったら持って来たるから」
午後の面会時間は13時から15時と決まっている。そのため面会時間に合わせるよう休憩時間を他の職員とずらしてもらった。ナナシが入院することになったこと、ミノルを朝からギアステーションに連れてくること、面会のため少し仕事を抜けたい主を黒ボスと白ボスに頼んだとき、ふたりとも何も反対しなかった。ただ一言、あまり無理をしないように、と告げられた。
「ミノル、昼飯はちゃんと食ったか」
「うん、黒いおにーちゃんと食べた」
「ほんなら行こか」
ボーマンダは人を乗せて飛び慣れているようだった。ふたり乗りで荷物もそれなりにあったのに、全くそれを苦にせず病院まで飛んでくれた。
ナナシの部屋は個室だった。ノックしてから扉を開けると、ぼーっとして窓の外を見ている。
「おねーちゃん」
「ミノル、クラウド先輩……」
声をかけられてナナシはこちらを向いた。疲れているのか、目が半分閉じている。
「体調は大丈夫か」
「すみません、ご迷惑を」
「わしは体調のことを聞いてるんやで」
「おねーちゃん、どこか痛い?」
「ううん、痛くない。体調はもう、大丈夫です」
大丈夫そうには到底見えないが、そうか、とだけ返す。ふと視線を移すと、ナナシが寝ているベッドの横の床頭台に昼食が置かれていた。
「飯、食っとらんのか。まだ手ェつけてないやろこれ」
「ごはん食べないと元気でないって、おねーちゃんいつも言ってるのに」
「そうだね。ミノルにいつも言ってるのに、お姉ちゃんができてない。ダメだよね」
ナナシは悲しそうに笑った。
「職場でもまともに食ってなかったやろ。あんな小さい弁当箱で。もともと食欲ないんか」
「いつからか食べるのが億劫で。今日は特に」
「少しでええから食べとき。ナナシ、口開けてみ」
「そんな、子どもじゃあるまいし」
「こうでもしないとお前、食わないやろ」
スプーンで掬って飯をナナシの口に運ぶ。ナナシは面倒くさそうに口を開いた。そして口に入れたものを咀嚼し始めると、飲み込まずに何度か動きを止めた。よっぽど食べるのが億劫らしい。
「飲み込めそうか」
「……はい」
用意された昼食の3分の1を食べたくらいでナナシの口は閉じた。それでも、何も食べないよりはマシだ。
「今日はおねーちゃんの好きなもの持ってきたんだよ。ママが作ったパッチールのぬいぐるみ」
「ありがとう」
ナナシはミノルからぬいぐるみを受け取ると大事そうに抱きしめた。裁縫が得意な姉に作ってもらったパッチールのぬいぐるみ。子どもの頃にもらったのだろうか。ナナシにとって、大事な形見のひとつ。
「クラウド先輩、ミノルは昨日」
「わしの家に泊めたんや。お前が退院するまで置いとくつもりやで。保育園の方にはしばらく休むと連絡したわ」
そうですか、とナナシは俯いた。
「ミノル、少しだけ向こうで遊んでてくれんか。ふたりだけで話したいことがあるんや」
「おじちゃん、おねーちゃんに怒ったりしない?」
「そんなことせんから大丈夫や」
あまり納得のいってない様子だったが、ミノルはボールからパッチールを出すと、手を繋いで部屋から出て行った。ミノルが部屋の扉を閉める音で、俯いていたナナシの顔がこちらを向いた。
「ナナシ、お前はずっとひとりで頑張ってきたんやな。入社して半年も経ってない、仕事を早よ覚えなあかんと気い張ってるなか、まだ姉さんのことで気持ちの整理もつかんうちにミノルの面倒も見て。いつも、真面目に仕事こなして、ミノルの良い母になろうとして。せやけど、なんでもひとりで抱え込んだら、いつか心が壊れてしまうで」
「わたしがしっかりしないと、あの子が。でも、なんだか上手くいかなくて、気がついたらこんなところにいるなんて。わたしよりも、ミノルの方がずっとしっかりしてる」
「ミノルはホンマに頭のええ子や。ナナシのことも周りのこともよう見てる。どないしたらナナシが喜んでくれるか、元気になれるか、いろいろ考えて、内緒で相談してくれて。せやけど、わしみたいな大人は、ナナシのちぃっとした変化になかなか気づけん。だから、辛いことがあったら抱え込まないで相談してくれや……」
ナナシは何も答えない代わりに涙を流した。目頭を拭うこともなく、ただこちらをじっと見ている。頬を伝った涙はぽたぽたとナナシの手の甲に落ちていった。
「ミノルのことは任せてくれや。あの子といると、いろいろなことに気づかされる。その間、お前はここでゆっくり休むんや。それが今のナナシの仕事やで。約束してくれるか?」
「……はい」
「……ええ子や」
しばらくして戻ってきたミノルは複雑そうな顔を見せた。目を赤くして頬に涙の伝った跡を見たミノルはナナシが何かされたと思ったようだ。それを否定するように、ナナシは軽く首を横に振った。
「おじちゃん、何したの? なんでおねーちゃん泣いてるの?」
「ううん、何でもないよ。ちょっとね、痛くなっちゃって」
「ほんとに? かんごしさん呼んでくるよ」
「大丈夫、しばらくしたら治るから」
壁にかけられた時計を見るともうじき15時になろうとしていた。面会の時間ももう終わる。
「仕事に戻らなあかんから、わしらはこれで帰るで。明日また昼に来るから。晩飯はちゃんと食うんやで。ええな」
「おじちゃん、ぼくまだここにいたい」
「面会の時間は決まってるんや。それにまた明日も来るから、今日は我慢してくれや」
ミノルは嫌だと首を振ったが、しばらくしてナナシに抱きつき「おねーちゃん、また明日くるね」と約束をした。ナナシもミノルの背中をさすって、ありがとう、と笑顔を見せる。
「クラウド先輩、ミノルを、よろしくお願いします」
「任せとき。何かあったら連絡せえよ。欲しいもんあったら持って来たるから」