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主人公♀
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 朝の7時、仕事の日ならすでにギアステーションに向かっている時間。しかし今日は休日なのでただテレビをぼーっと見ている。いつもの癖で早起きしたが、特にすることもないし二度寝でもしようかと思っていると黒ボスからライブキャスターに着信が入って驚いた。

『おはようございます。お休みのところ連絡を入れてしまって申し訳ありません』
「おはようさん、いやそれは大丈夫やけど……何かあったんか? あ、もしかして書類の内容間違えてたとか」

 昨日が締め日の書類がいくつかあった。一応確認はしたつもりだったが何分急いでいたためにどこか抜けがあったかもしれない。これは休日出勤コースか? と思っていると、画面に映し出された黒ボスは首を横に振った。

『ああ、業務のことで何か不備があったとか、そういう訳ではなくて……ちょっとクラウドに頼みたいことがあるのです』
「ん、なんや?」
『先ほど、ナナシを欠勤させて欲しいとミノルの方から連絡をもらったのです。どうもひどく具合が悪いようで、顔を赤くしてぼーっとしたまま呼びかけにも応えないと。ナナシが今まで遅刻や欠勤のときに連絡を怠ったことはないので、ミノルの方から連絡を入れるということは相当なのでしょう。そこで、ナナシの看病をしていただきたいのです。ナナシが動けないとミノルの面倒を見る人がいませんから』
「そうか、わかったで。ナナシん家ってどこにあるんや」
『シッポウシティのX丁目X番地です。申し訳ありません、せっかくの休日なのに』
「ええんや、家ですることなんてなんもないしな」
『それでは、ミノルの方にはクラウドが向かう主を伝えておきます』

 黒ボスに教えられていた住所に向かう。赤い屋根の家だと聞いていたので、ふたりの家の場所はすぐにわかった。扉を叩くとパジャマ姿のミノルが不安そうな顔で出てきた。

ミノル、おはようさん。ナナシの具合はどうや」
「おじちゃん、おはよ。おねーちゃん、まだぼーっとしたまま」

 ミノルの元気がない。家に上がり、ミノルに案内されてナナシのところへ行くと、ナナシは顔を赤くしてぼんやりと天井を見つめていた。

ナナシ、大丈夫か? 黒ボスから連絡をもらって来たんやけど」

 ナナシは何も応えない。こちらのことを認識しているかどうかすら怪しかった。試しに額を触るととても熱を帯びていた。

ミノル、体温計あるか?」

 襟元のボタンを開け、ミノルから渡された体温計を脇に挟む。しばらくして出た数字に驚いた。

「39度2分って……市販の風邪薬じゃダメやな。ミノル、タクシー乗って病院行くで」

 タクシーが来る前にミノルを着替えさせる。ナナシを着替えさせるのは流石に抵抗があるので、まあパジャマのままでいいかと思いながらタクシーの到着を待った。
 玄関先に車の止まる音が聞こえたので、ナナシを背負ってタクシーに乗車する。普段ならミノルを真ん中にするが、今回はナナシがふらふらと倒れたりしないように、ミノルを奥に座らせてナナシを真ん中に座らせた。体重をこちらに預けるよう寝かせているので、少しは安定するだろう。支えている体はとても熱い。しかし表情がないので辛くはないか、気分は悪くないかなど全くわからない。
 病院に着くと、看護師が車椅子を用意してくれた。それに乗せて受付を済ませると、あまりに高熱だからということで先にいろいろな検査をしてから先生の診断をしてもらうことになった。
 血液検査、CT検査、まだ流行していないが一応インフルエンザの検査。一通り終えてから診察の順番が回ってきたが、先生から出た言葉は意外なものだった。先生自身も首を傾げている。

「特に異常ありませんね。CT検査や血液検査もしましたが、何の問題もありませんでした。喉の様子を見ても特に腫れていることもなくウイルス性のものというわけでもありませんでしたし」
「こんな高熱出してんのに、何もないってあります?」
「そうですね……ここまで数値に異常がないとなるとストレスが原因でしょうか。何かお心当たりありますか。例えば、今日嫌なことがあるとか」
「はあ、確かに何でも抱え込みがちな子ですけど、あまり詳しくは」
「とりあえず、解熱剤を出しておきますね。数日経っても熱が引かないようでしたらまた受診してください」

 処方箋が出来上がるのを待っている間にタクシーを呼ぶ。市販のものよりも効果が高いのだろうが、それでもただの解熱剤。ここまで高熱を出しているのに、どこにも異常がないということが逆に不安を煽る。ひどい風邪だと言われた方がまだマシだった。
 タクシーでナナシの家に戻る途中、この時間にミノルが一緒にいる違和感を今更思い出した。ミノルの保育園に連絡を入れていない。

ミノル、今日は保育園に行く日やなかったか」
「ううん、ぼくはお休み。でも、おねーちゃんは、ほいくえんに行く日だった。仕事があるからダメって先生に言ったら、なしになったけど」
「そうなんか? とりあえず、家着いたら少し遅い朝飯にしよか」

 ミノルの説明はよくわからなかったが、一応ミノル自体は保育園に行かなくていいらしい。ナナシだけ行かなくてはいけない日とはなんだったのだろうか。仕事の都合ですでに断っているのなら特に連絡を入れなくてもいいのだろうが、ナナシなら行事のある日はあらかじめ休みを取るだろう。もしかしたら直前になって保育園側から知らされたのかもしれない。そう考えると、片親や働いている家庭には酷なシステムだ。

ナナシ、家着いたで」

 ナナシは何も言わない。ただ布団に寝かせたとき目線をこちらに動かしたため、認識は一応しているようだ。

「今飯作ったるから、待っててくれな」

 勝手に上がって勝手に台所を借りるのもどうなんだと思うが、それはナナシが起きてから謝ることにして冷蔵庫を開ける。冷蔵庫の中身は思っていたよりもすっきりしていた。いつもいろいろなおかずを弁当箱に詰めていたのでもっと食材にあふれているものかと想像していたが、そういえばナナシは作り置きをすることが多いと言っていたことを思い出す。冷凍庫の方を開けると日付の書かれたテープが貼られているタッパーがずらりと並んでいた。
 それでも作り置きの方を勝手に出していいのかよくわからないし、冷蔵庫には卵やソーセージが入っていたのでミノルの方には目玉焼きと焼いたソーセージを出すことにする。ナナシはたまご粥でいいだろう。炊飯器の方は予めセットされていてすでに飯が炊けていたので、ナナシの分もミノルの分もすぐに用意することができる。
 ミノルたちの朝食を用意したあとナナシ用に粥を作っていると、隣にパッチールが立っていた。鍋をじっと見つめている。

「どうしたんや、お前たちのはさっき向こうに用意したで。腹減ってるなら早よ食べな」

 しかしパッチールは移動する様子がない。それどころか口を開けて待っている。

「おいおい、これはナナシ用の粥やで。まあ、しゃあない。一口だけやぞ」

 蓮華で掬って口に運んでやる。ぱくりと口に入れるともぐもぐと食べ始めた。

「味なんかほとんどせんやろ」

 満足したのか、味が気に入らなかったのかはわからないが、食べ終わるとパッチールはふらふらと台所を出て行った。
 出来上がった粥を持ってナナシのところに向かう。ゆっくりと扉を開けてナナシの様子を見ると相変わらずぼーっとしていた。

ナナシ、粥できたで。食えそうか?」

 声をかけると天井を見つめていたナナシの顔がこちらを向いた。病院に行く前より動ける程度にはよくなったようだが、それでも自分で食べるのは難しそうだった。上体を起こして近くにあったカビゴンのクッションを背もたれに使う。ナナシの部屋はノーマルタイプのポケモンのぬいぐるみやクッションが多く置かれていた。
 ぼーっとしたままのナナシは口を小さく開いて待っていた。その姿はなんとなく先ほどのパッチールに似ている。蓮華を口に運ぶともぐもぐと食べ始めた。半分食べ終わったところでナナシは口を閉じたが、普段ナナシが職場で食べている量を考えるとそれなりに食べた方だと思う。
 食べ終わったものを片付けに台所に戻り、病院でもらった食後の薬を用意していると、ミノルが違う薬を持ってきた。

「どうしたんや、これ」
「まいにち飲まないといけないおくすり。こっちは朝、あっちは夜」

 ミノルが指差す方を向くと、投薬カレンダーと書かれたものが壁に掛けられていた。朝と寝る前のポケットに数種類の薬が入れられている。

ナナシ、服薬してたんか? 先生に薬の飲み合わせ聞くの忘れてたで。大丈夫やろか」

 処方された薬の説明が書かれた紙を広げてみると、とりあえずダメな飲み合わせはなさそうだった。しかし、ナナシが1日にこんなにも薬飲んでいると知らなかった。何の薬なのかはわからないが、ナナシはどこか悪いのだろうか。

ナナシ、朝食後の薬」
「クラウド先輩、今日はお休みだったのにすみません」

 水と薬を持ってナナシの部屋に戻ると、少し顔の赤いナナシがぺこりと頭を下げた。先ほどまで声をかけてもほぼ反応しない状態だったのに、普段の口調で謝罪をしたあと頭を下げるほど回復したことに驚いた。

「いや、それは大丈夫やけど……ずいぶん急に体調良くなったな」
「はい。少しだるいくらいで、特に問題ないです」
「一応、熱測るか。飯食ったあとやから少し高く出るだろうけど」

 しかし、体温計に表示された数字は37度4分だった。

「なんや、さっきまで39度以上あったのに、こんなに下がるもんかいな。でもまだ微熱やし、解熱剤飲んでおこか。あと、もともと飲まなあかん薬もあるみたいやけど」
「あ、はい。すみません、飲むの忘れてました」
「いや、忘れてたっちゅうか、飲める状態やなかったやろ」

 ナナシは数種類の錠剤をまとめて飲んだあと、解熱剤を口に入れた。それから、げえっ、と舌を出して嫌そうな顔を見せた。

「苦いっ」
「そっちは粉薬やしなあ、ゼリーかアイスでも買っておけばよかったな」
「そんな子どもじゃないですもん」

 子ども扱いされたことに拗ねたナナシはそっぽを向いた。それからしばらくして、掛け布団で少し顔を隠してこちらを見る。

「どうしたんや」
「いや、だって、わたし髪の毛ボサボサだし、化粧してないし、家にクラウド先輩来ると思ってなかったし……」
ナナシが動けんとミノルの面倒を見るやつがおらんと黒ボスから連絡が来たからな。わしは家でやることなかったから別にええんやけど、起きたら男が家に上がってたとかまあ驚くわな」
「それは、その」
「子どもの前で病人に手ェ出すほど畜生やないから安心せい」
「そういうつもりじゃ……でも、クラウド先輩にこういう格好は見られたくなかったというか、なんというか」

 ナナシは顔を赤くしながら寝癖を直そうと手櫛をしている。

「いつも通りかわええから大丈夫やで」
「か、からかわないでください」
「まあ、ミノルの面倒はこっちで見とるから、ナナシはゆっくり寝とき。返事は『はい』か『イエス』やで」
「う……はい」
「ええ子や」
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