本編
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「ねえねえねえ、今日はカミツレさんが来るんだって!」
「ええ、そうですね」
事務所に着いて早々、興奮気味に話してきたナナシさんにそう返すと、唇を尖らせて「なんだ知ってるの?」と不満げに言われた。ナナシさんは僕の職業についてきちんと理解をしているのだろうか。
「そりゃあ、ここの職員ですからね……普段と違う配置になるからイベント時は大変です」
カミツレさんはライモンシティのジムリーダーでもあり、人気モデルでもある。なので、今日はお客様でごった返すだろう。バトルにお客様誘導に、やることがたくさんあって大変だ。しかし、なぜナナシさんがカミツレさんのことを知っているのだろうか。少なくとも僕は今日のことを話した覚えがない。
「ナナシさんは誰からカミツレさんのことを聞いたんですか?」
「ジャッジが教えてくれたんだ。とってもシャイニングな人なんだって!」
「へえ、そうですか」
ジャッジさんから教わったという言葉になぜだか少しムッとする。ナナシさんは最近、ちょくちょくジャッジさんのところへ遊びに行っているようだった。
「ジャッキーはカミツレさんのこと見たことある?」
「イベント時に何度か。お話したことはないですけど」
「そうなんだ、どんな人か楽しみだなー」
お客様を誘導している最中にナナシさんが「ジャッキー、ジャッキー!」と笑顔で僕を呼んだ。営業時間中は構内で姿を見せないようあれほど注意したのに。ヨーテリーのようにぴょこぴょこと駆けて来ている、ように見える。
「ちょっと、ナナシさん、他のお客様に見られたらまずいんですから、ちゃんと姿を隠していてくださいよ」
「あ、ごめん。えへへ、さっきカミツレさんを見たんだけど、なんだかすっごい人だったからジャッキーに教えたくなっちゃって。じゃあ休憩時間にね!」
まくし立てるように言うと、ナナシさんは姿を消した。何か嬉しいものを見たり聞いたりしたとき、一番に僕のところへ来てくれるのはいいけれど、勤務中だということをちゃんと覚えておいてほしい。まるで、母親に今日の出来事を話す子どものようだ。このやりとりを誰かに見られていませんように、と心の中でつぶやきながら、延々とお客様の誘導を続けた。
「あのねー、カミツレさん、すっごいキラキラした人だったんだよ! 笑顔がステキな美人さんでね、体もスラっとしてた。
それからね、一緒にいたポケモンも堂々としていて自信にあふれている感じで、なんかね、すごかった!」
他の職員と交代して休憩室に入ると、ナナシさんの『話を聞いて聞いて』攻撃に遭った。よっぽど感動したらしい。そのせいで、いつもより余計に言葉遣いが子どもっぽくなっている。僕はいつもより少し遅い昼食を取りながら、はいはいとナナシさんの話を聞いた。
「ナナシさん、語彙力なさすぎじゃないですか?」
「だって、なんて言ったらいいかわかんなくなるくらい、キレイな人だったんだもん」
「あら、そんなに褒めていただけるとは光栄ね」
ナナシさんの後ろから聞こえる第三者の声の主の方へ視線を向けると、今まさにナナシさんが熱弁していたカミツレさんが立っていた。
「え、あれ、カミツレさん? なんで、ここ、鉄道員たちの休憩室……」
目の前に現れた憧れの人にナナシさんはオロオロしているが、同じく休憩室にいた職員たちも突然の来訪者にザワザワしている。僕も思わず箸を落としそうになった。
「ごめんなさいね。イベント中、なんだかかわいらしいお化けが嬉しそうに鉄道員と話をしていたから、気になってノボリに頼んで入れてもらったの」
「ほら、だからナナシさん、構内では姿を見せないように言ったのに……」
「ご、ごめん」
まさか見られているとは思っていなかったナナシさんは申し訳なさそうにこちらを見るが、カミツレさんは気にしていないようだった。堂々とした歩みでナナシさんの方へと近づいていく。
「あなた、ナナシちゃんっていうのね。わたしはカミツレ」
「あ、えーっと、ナナシです。さっきのステージ、とってもステキでした! わたし、ああいうの見るのはじめてで」
ナナシさんが言い終えるとカミツレさんが手を差し出してきた。しかし彼女は人に触れることができない。好意を無下にしてしまったことにナナシさんはシュンとした表情をした。
「ごめんなさい、わたし、人やものに触れなくて……」
「いいのよ、気分だけでも、ほら」
ナナシさんとカミツレさんは握手をする振りをした。本当に握手をしているわけではない。それでもナナシさんは嬉しそうで、カミツレさんも優しい顔をしている。それからナナシさんとカミツレさんが少し話をしていると、コンコンコンと扉をノックしてノボリさんが休憩室に入ってきた。
「カミツレ様、ご用事はお済みですか」
「ええ、ありがとうノボリ、わがままに付き合ってもらっちゃって。でもおかげでステキなものを見られたわ。初々しくて、なんだかクラクラしちゃった。それじゃあね、ナナシちゃんと、そこの鉄道員さん」
カミツレさんはナナシさんのついでに僕にも軽く手を振ってきたので軽く会釈をする。それからノボリさんにエスコートされると彼女は優雅に休憩室を出て行った。
「スマートな人は対応もスマートなんだ。憧れちゃうなあ」
ナナシさんは手を組みながら、キラキラした目でカミツレさんとノボリさんの後ろ姿を見つめている。カミツレさん風に言うとクラクラしているようだ。
「ナナシさん、すっかりカミツレさんのファンですね」
「うん。だって、わたしが若いときはああいうキレイな人いなかったもん」
みーんな芋ばっかり、なんて言うので、やっぱりナナシさんは見た目の割に口の悪い人だなと改めて感じた。
「ねえねえ、ジャッキーはカミツレさんみたいな人がタイプ?」
「なんですか急に」
「なんとなく聞いてみただけ」
「うーん、そうですね……カミツレさんはキレイな方だと思いますけど、タイプってわけではないです。そもそも僕の場合、女性と関わる機会がほとんどないから好きなタイプがわからないというか」
「ふうん、ジャッキーってチェ」
「うるさいです」
「最後まで言ってないのにー!」
話の流れ的に何を言うつもりなのかわかっていたので、言い切る前にナナシさんの言葉を遮った。女の子がそういう言葉を恥じらいもなく言おうとするのはどうなんだろうか。
「わたしも、カミツレさんみたいにスラっとした人になりたいなあ。足も長くてかっこいい」
「ナナシさんは十分細いと思いますけど」
女性の平均体重なんて知らないが、ナナシさんの背丈だとだいたい平均より下くらいじゃないかな、と思うけれど。ナナシさんが、はあ、とため息をつく。
「でもなー、わたし、今は足ないし」
「問題はそこなんですか……」
ナナシさんの悩みポイントはイマイチよくわからない。
「ええ、そうですね」
事務所に着いて早々、興奮気味に話してきたナナシさんにそう返すと、唇を尖らせて「なんだ知ってるの?」と不満げに言われた。ナナシさんは僕の職業についてきちんと理解をしているのだろうか。
「そりゃあ、ここの職員ですからね……普段と違う配置になるからイベント時は大変です」
カミツレさんはライモンシティのジムリーダーでもあり、人気モデルでもある。なので、今日はお客様でごった返すだろう。バトルにお客様誘導に、やることがたくさんあって大変だ。しかし、なぜナナシさんがカミツレさんのことを知っているのだろうか。少なくとも僕は今日のことを話した覚えがない。
「ナナシさんは誰からカミツレさんのことを聞いたんですか?」
「ジャッジが教えてくれたんだ。とってもシャイニングな人なんだって!」
「へえ、そうですか」
ジャッジさんから教わったという言葉になぜだか少しムッとする。ナナシさんは最近、ちょくちょくジャッジさんのところへ遊びに行っているようだった。
「ジャッキーはカミツレさんのこと見たことある?」
「イベント時に何度か。お話したことはないですけど」
「そうなんだ、どんな人か楽しみだなー」
お客様を誘導している最中にナナシさんが「ジャッキー、ジャッキー!」と笑顔で僕を呼んだ。営業時間中は構内で姿を見せないようあれほど注意したのに。ヨーテリーのようにぴょこぴょこと駆けて来ている、ように見える。
「ちょっと、ナナシさん、他のお客様に見られたらまずいんですから、ちゃんと姿を隠していてくださいよ」
「あ、ごめん。えへへ、さっきカミツレさんを見たんだけど、なんだかすっごい人だったからジャッキーに教えたくなっちゃって。じゃあ休憩時間にね!」
まくし立てるように言うと、ナナシさんは姿を消した。何か嬉しいものを見たり聞いたりしたとき、一番に僕のところへ来てくれるのはいいけれど、勤務中だということをちゃんと覚えておいてほしい。まるで、母親に今日の出来事を話す子どものようだ。このやりとりを誰かに見られていませんように、と心の中でつぶやきながら、延々とお客様の誘導を続けた。
「あのねー、カミツレさん、すっごいキラキラした人だったんだよ! 笑顔がステキな美人さんでね、体もスラっとしてた。
それからね、一緒にいたポケモンも堂々としていて自信にあふれている感じで、なんかね、すごかった!」
他の職員と交代して休憩室に入ると、ナナシさんの『話を聞いて聞いて』攻撃に遭った。よっぽど感動したらしい。そのせいで、いつもより余計に言葉遣いが子どもっぽくなっている。僕はいつもより少し遅い昼食を取りながら、はいはいとナナシさんの話を聞いた。
「ナナシさん、語彙力なさすぎじゃないですか?」
「だって、なんて言ったらいいかわかんなくなるくらい、キレイな人だったんだもん」
「あら、そんなに褒めていただけるとは光栄ね」
ナナシさんの後ろから聞こえる第三者の声の主の方へ視線を向けると、今まさにナナシさんが熱弁していたカミツレさんが立っていた。
「え、あれ、カミツレさん? なんで、ここ、鉄道員たちの休憩室……」
目の前に現れた憧れの人にナナシさんはオロオロしているが、同じく休憩室にいた職員たちも突然の来訪者にザワザワしている。僕も思わず箸を落としそうになった。
「ごめんなさいね。イベント中、なんだかかわいらしいお化けが嬉しそうに鉄道員と話をしていたから、気になってノボリに頼んで入れてもらったの」
「ほら、だからナナシさん、構内では姿を見せないように言ったのに……」
「ご、ごめん」
まさか見られているとは思っていなかったナナシさんは申し訳なさそうにこちらを見るが、カミツレさんは気にしていないようだった。堂々とした歩みでナナシさんの方へと近づいていく。
「あなた、ナナシちゃんっていうのね。わたしはカミツレ」
「あ、えーっと、ナナシです。さっきのステージ、とってもステキでした! わたし、ああいうの見るのはじめてで」
ナナシさんが言い終えるとカミツレさんが手を差し出してきた。しかし彼女は人に触れることができない。好意を無下にしてしまったことにナナシさんはシュンとした表情をした。
「ごめんなさい、わたし、人やものに触れなくて……」
「いいのよ、気分だけでも、ほら」
ナナシさんとカミツレさんは握手をする振りをした。本当に握手をしているわけではない。それでもナナシさんは嬉しそうで、カミツレさんも優しい顔をしている。それからナナシさんとカミツレさんが少し話をしていると、コンコンコンと扉をノックしてノボリさんが休憩室に入ってきた。
「カミツレ様、ご用事はお済みですか」
「ええ、ありがとうノボリ、わがままに付き合ってもらっちゃって。でもおかげでステキなものを見られたわ。初々しくて、なんだかクラクラしちゃった。それじゃあね、ナナシちゃんと、そこの鉄道員さん」
カミツレさんはナナシさんのついでに僕にも軽く手を振ってきたので軽く会釈をする。それからノボリさんにエスコートされると彼女は優雅に休憩室を出て行った。
「スマートな人は対応もスマートなんだ。憧れちゃうなあ」
ナナシさんは手を組みながら、キラキラした目でカミツレさんとノボリさんの後ろ姿を見つめている。カミツレさん風に言うとクラクラしているようだ。
「ナナシさん、すっかりカミツレさんのファンですね」
「うん。だって、わたしが若いときはああいうキレイな人いなかったもん」
みーんな芋ばっかり、なんて言うので、やっぱりナナシさんは見た目の割に口の悪い人だなと改めて感じた。
「ねえねえ、ジャッキーはカミツレさんみたいな人がタイプ?」
「なんですか急に」
「なんとなく聞いてみただけ」
「うーん、そうですね……カミツレさんはキレイな方だと思いますけど、タイプってわけではないです。そもそも僕の場合、女性と関わる機会がほとんどないから好きなタイプがわからないというか」
「ふうん、ジャッキーってチェ」
「うるさいです」
「最後まで言ってないのにー!」
話の流れ的に何を言うつもりなのかわかっていたので、言い切る前にナナシさんの言葉を遮った。女の子がそういう言葉を恥じらいもなく言おうとするのはどうなんだろうか。
「わたしも、カミツレさんみたいにスラっとした人になりたいなあ。足も長くてかっこいい」
「ナナシさんは十分細いと思いますけど」
女性の平均体重なんて知らないが、ナナシさんの背丈だとだいたい平均より下くらいじゃないかな、と思うけれど。ナナシさんが、はあ、とため息をつく。
「でもなー、わたし、今は足ないし」
「問題はそこなんですか……」
ナナシさんの悩みポイントはイマイチよくわからない。