本編
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『……、遊びに来たよー』
『あのね、……わたしの……って思うんだ。わたしは……から、……わけでもないし』
『だから、もし素敵な……、……色々な世界を見てほしいんだ』
『でもその人が現れるまで……この……』
『また……』
ナナシさんは夢を見ますか、という僕からの唐突な質問に対してナナシさんは、夢? と首を傾げた。
「夢は見ないなー。幽霊になってから寝る必要がなくなったからね。あ、でもケーキをホールで食べたいっていう夢ならあるよ。ねえねえ、ジャッキー、今度お供えしてよ」
「そうですか……」
色気より食い気とはナナシさんらしいが、売店にケーキなんてあっただろうか。僕はあまり甘いものを食べないから全然気にしてなかった。しかし、ひとつ言えるのは売店にホールのケーキなんて置いていないだろう。お供えするにしても、カットされたもので我慢してほしい。
「それで、ジャッキー、何か嫌な夢でも見たの?」
「え、ああ、嫌な夢でないことは確かなんですけど、途切れ途切れにしか覚えていなくて。ただ、暖かいのに少しさびしい、そんな夢でした」
「ふうん」
「森の中か草原の中か……植物の茂った少し暗い場所で、女性がポケモンと仲良く会話をしていたんです。それなのになぜか、すこしさびしそうで」
「暗い森の中って、あんまり良くない夢じゃないの? まあ、わたしはあんまり夢占いとか信じない質だけど、悪いことが起きないといいねー」
なぜかナナシさんの口調はぶっきらぼうなものだった。それからしばらく黙ったかと思うと、神妙な面持ちで僕を呼んだ。
「……ねえねえジャッキー」
「どうしました?」
「もし誰かと会う約束をしていたのにそれをすっぽかされたら、ジャッキーは怒る?」
「そりゃあ怒るでしょうね。その人のために予定を空けていたわけですから」
「それが、次の日も、その次の日も、そのまた次の日も、ずっとずっとすっぽかされたら、ジャッキーはどう思う?」
「1日だけだったら怒るだけで済むでしょうけど、それがずっととなると、その人のことはもう諦めるでしょうね。虚しいというか、なんというか。もう、待っていてもしょうがないですから」
少しだけ、僕たちの間に沈黙が流れた。
「ナナシさんは何か、誰かとの約束をすっぽかしたんですか」
「30年前にね。なんか、ジャッキーが見た夢の話を聞いたら急に思い出しちゃった。それでね、わたしのこと、どう思ってるかなって」
ナナシさんは、亡くなる直前に誰かと約束をしていたのだろうか。
「……事情を知ったら、その人はきっと、許してくれると思いますよ」
「そうだといいなー」
僕の答えを聞くと、ナナシさんはさびしそうな顔で笑った。それから僕に「ねえねえねえ、ジャッキー、神父さんの役をやって」と頼んできた。
「はあ、なんですかいきなり」
「いいから、いいから」
そう言うとナナシさんは片膝をついて座った、ように見える。
「わたしは、とても大切な友人との約束を破ったまま、30年もの長い刻を過ごしてきました。罪深きわたしを、どうかお赦しください」
その言葉は、罪を許してほしいのではなく罪を背負うために発せられたように感じた。ナナシさんの友人とナナシさん自身のために、彼女の願いを赦すべきなのか赦さぬべきなのか、僕にはわからなかった。
『あのね、……わたしの……って思うんだ。わたしは……から、……わけでもないし』
『だから、もし素敵な……、……色々な世界を見てほしいんだ』
『でもその人が現れるまで……この……』
『また……』
ナナシさんは夢を見ますか、という僕からの唐突な質問に対してナナシさんは、夢? と首を傾げた。
「夢は見ないなー。幽霊になってから寝る必要がなくなったからね。あ、でもケーキをホールで食べたいっていう夢ならあるよ。ねえねえ、ジャッキー、今度お供えしてよ」
「そうですか……」
色気より食い気とはナナシさんらしいが、売店にケーキなんてあっただろうか。僕はあまり甘いものを食べないから全然気にしてなかった。しかし、ひとつ言えるのは売店にホールのケーキなんて置いていないだろう。お供えするにしても、カットされたもので我慢してほしい。
「それで、ジャッキー、何か嫌な夢でも見たの?」
「え、ああ、嫌な夢でないことは確かなんですけど、途切れ途切れにしか覚えていなくて。ただ、暖かいのに少しさびしい、そんな夢でした」
「ふうん」
「森の中か草原の中か……植物の茂った少し暗い場所で、女性がポケモンと仲良く会話をしていたんです。それなのになぜか、すこしさびしそうで」
「暗い森の中って、あんまり良くない夢じゃないの? まあ、わたしはあんまり夢占いとか信じない質だけど、悪いことが起きないといいねー」
なぜかナナシさんの口調はぶっきらぼうなものだった。それからしばらく黙ったかと思うと、神妙な面持ちで僕を呼んだ。
「……ねえねえジャッキー」
「どうしました?」
「もし誰かと会う約束をしていたのにそれをすっぽかされたら、ジャッキーは怒る?」
「そりゃあ怒るでしょうね。その人のために予定を空けていたわけですから」
「それが、次の日も、その次の日も、そのまた次の日も、ずっとずっとすっぽかされたら、ジャッキーはどう思う?」
「1日だけだったら怒るだけで済むでしょうけど、それがずっととなると、その人のことはもう諦めるでしょうね。虚しいというか、なんというか。もう、待っていてもしょうがないですから」
少しだけ、僕たちの間に沈黙が流れた。
「ナナシさんは何か、誰かとの約束をすっぽかしたんですか」
「30年前にね。なんか、ジャッキーが見た夢の話を聞いたら急に思い出しちゃった。それでね、わたしのこと、どう思ってるかなって」
ナナシさんは、亡くなる直前に誰かと約束をしていたのだろうか。
「……事情を知ったら、その人はきっと、許してくれると思いますよ」
「そうだといいなー」
僕の答えを聞くと、ナナシさんはさびしそうな顔で笑った。それから僕に「ねえねえねえ、ジャッキー、神父さんの役をやって」と頼んできた。
「はあ、なんですかいきなり」
「いいから、いいから」
そう言うとナナシさんは片膝をついて座った、ように見える。
「わたしは、とても大切な友人との約束を破ったまま、30年もの長い刻を過ごしてきました。罪深きわたしを、どうかお赦しください」
その言葉は、罪を許してほしいのではなく罪を背負うために発せられたように感じた。ナナシさんの友人とナナシさん自身のために、彼女の願いを赦すべきなのか赦さぬべきなのか、僕にはわからなかった。