本編
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「ねえねえジャッキー、ここは何をする場所? わたしが生きてたときは『駅が建つ』って聞いてたんだけどなー。なんか、あんまり駅っぽくない」
ナナシさんがギアステーション内を見たいと僕に頼んできたので、仕方なく事務所を出て構内をふたりで歩いていた。まだ始発の電車が走る時間じゃないし、ノボリさんが休憩室でお休み中のため朝礼もできないから暇つぶしといえばまあそうだけど、なぜ僕が……と少し思う。
歩くたびにナナシさんはキョロキョロと辺りを見渡し、あれはなに、これはなに、と僕に尋ねた。
「ここはバトルサブウェイです。通常の電車も走っていますが、バトルサブウェイの最大の特徴は何と言っても電車の中でポケモンバトルができることですね」
「ふうん」
「そして、バトルに連勝すると、サブウェイマスターであるノボリさんとクダリさんへの挑戦権を得ることができるんですよ」
「へー、あの白黒兄弟、意外と偉い人なんだ。全然威厳ないのに。特に白い方」
「ひどい言われよう……」
ノボリさんとクダリさんのファンの方に聞かれたらボコボコにされそうな発言だ。ナナシさんの場合、霊体だから物理的にボコボコにされることはないだろうけど。
「ジャッキーもバトルするの?」
ナナシさんがじーっと僕を見つめる。
「ええ。ここの鉄道員は皆トレーナーです。これでも、一般トレーナーの方よりは腕の立つ方なんですよ。まあ、ノボリさんとクダリさんには敵いませんが……」
ちょっと誇らしげに答えると、ナナシさんは「へえー」とだけ言い、もうすでに興味の対象が他へ移っていた。彼女の心はチョロネコ並みにきまぐれらしい。それからまた、あれはなに、これはなに、と尋ねるので、そのたびにあれはですね……と説明をする羽目になった。
「ねえねえ」
「今度は何ですか」
構内を一通り見て回ったあと、ナナシさんがまた僕に尋ねる。しかしその質問は、僕では答えられないものだった。
「今のライモンってどんな感じ? 駅以外に何かできた?」
僕はこのギアステーション内で生まれてから一度も外へ出たことがない。だから、ライモンシティがどんな街なのか知らない。一応、職員たちの話は聞いているから全く知識がないわけじゃないけれど、それでもナナシさんの期待に添えそうな答えは出せない。
「さあ……僕にはわかりません」
「なんで?」
ナナシさんが不思議そうに僕を見つめる。
「僕は生まれたときからここを出たことがありません。外に何があるのか、どんな景色なのか、わかりません」
「ふうん、そうなんだ」
ナナシさんは、僕の言葉をさほど深刻に捉えていないようだった。少し間を置いたあと、また能天気な声で、
「アハハ、わたしと一緒だね。わたしもここから出られないんだ。まあ、わたしの場合、死んでからなんだけど」
いつの日か、一緒に出られるといいねーと笑った。
「あのねー、わたしが若いときのライモンは、なーんもなかったんだ。だから駅ができるって言われたとき、びっくりしちゃった。こんなところに? って感じ。それなのに、起きてみたら想像してた駅と全然違ってたからもっとびっくりしちゃった」
それから少しさびしげに、30年も経ったら、街の風景も全然違うんだろうなあ……とつぶやいた。
ナナシさんが化けて出てから2週間も経つと、はじめは幽霊にびくびくしていた職員たちも普通にナナシさんと接するようになった。それでもナナシさんは何かあると僕のところへやって来る。ナナシさんは足がないから足音はしないけれど、きっとぱたぱた音を鳴らしながら歩くんだろうなあ、と思う。
「ナナシさんは、僕とばかり話をしていて楽しいですか?」
ある日、何気なく聞いてみたらナナシさんは「なんで?」というように僕を見つめた。
「話し相手なら他にもたくさんいるでしょうに」
「だって、ノボリとクダリは彼女がいるらしいから、あんまり隣にいちゃ彼女さんに悪いかなと思って。それに、クラウドは幽霊嫌いだし、シンゲンは幽霊のわたしより幽霊やってるし、カズマサはあっちフラフラこっちフラフラで頼りないし、キャメロンはヤラシーし、ラムセスとトトメスはナルシーだし、それから……」
「しょ、消去法で僕ってことですか……」
少しショックを受けている僕を見て、ナナシさんはえへへと笑う。
「でも、ジャッキーと話しているときが一番楽しいよ」
ナナシさんがギアステーション内を見たいと僕に頼んできたので、仕方なく事務所を出て構内をふたりで歩いていた。まだ始発の電車が走る時間じゃないし、ノボリさんが休憩室でお休み中のため朝礼もできないから暇つぶしといえばまあそうだけど、なぜ僕が……と少し思う。
歩くたびにナナシさんはキョロキョロと辺りを見渡し、あれはなに、これはなに、と僕に尋ねた。
「ここはバトルサブウェイです。通常の電車も走っていますが、バトルサブウェイの最大の特徴は何と言っても電車の中でポケモンバトルができることですね」
「ふうん」
「そして、バトルに連勝すると、サブウェイマスターであるノボリさんとクダリさんへの挑戦権を得ることができるんですよ」
「へー、あの白黒兄弟、意外と偉い人なんだ。全然威厳ないのに。特に白い方」
「ひどい言われよう……」
ノボリさんとクダリさんのファンの方に聞かれたらボコボコにされそうな発言だ。ナナシさんの場合、霊体だから物理的にボコボコにされることはないだろうけど。
「ジャッキーもバトルするの?」
ナナシさんがじーっと僕を見つめる。
「ええ。ここの鉄道員は皆トレーナーです。これでも、一般トレーナーの方よりは腕の立つ方なんですよ。まあ、ノボリさんとクダリさんには敵いませんが……」
ちょっと誇らしげに答えると、ナナシさんは「へえー」とだけ言い、もうすでに興味の対象が他へ移っていた。彼女の心はチョロネコ並みにきまぐれらしい。それからまた、あれはなに、これはなに、と尋ねるので、そのたびにあれはですね……と説明をする羽目になった。
「ねえねえ」
「今度は何ですか」
構内を一通り見て回ったあと、ナナシさんがまた僕に尋ねる。しかしその質問は、僕では答えられないものだった。
「今のライモンってどんな感じ? 駅以外に何かできた?」
僕はこのギアステーション内で生まれてから一度も外へ出たことがない。だから、ライモンシティがどんな街なのか知らない。一応、職員たちの話は聞いているから全く知識がないわけじゃないけれど、それでもナナシさんの期待に添えそうな答えは出せない。
「さあ……僕にはわかりません」
「なんで?」
ナナシさんが不思議そうに僕を見つめる。
「僕は生まれたときからここを出たことがありません。外に何があるのか、どんな景色なのか、わかりません」
「ふうん、そうなんだ」
ナナシさんは、僕の言葉をさほど深刻に捉えていないようだった。少し間を置いたあと、また能天気な声で、
「アハハ、わたしと一緒だね。わたしもここから出られないんだ。まあ、わたしの場合、死んでからなんだけど」
いつの日か、一緒に出られるといいねーと笑った。
「あのねー、わたしが若いときのライモンは、なーんもなかったんだ。だから駅ができるって言われたとき、びっくりしちゃった。こんなところに? って感じ。それなのに、起きてみたら想像してた駅と全然違ってたからもっとびっくりしちゃった」
それから少しさびしげに、30年も経ったら、街の風景も全然違うんだろうなあ……とつぶやいた。
ナナシさんが化けて出てから2週間も経つと、はじめは幽霊にびくびくしていた職員たちも普通にナナシさんと接するようになった。それでもナナシさんは何かあると僕のところへやって来る。ナナシさんは足がないから足音はしないけれど、きっとぱたぱた音を鳴らしながら歩くんだろうなあ、と思う。
「ナナシさんは、僕とばかり話をしていて楽しいですか?」
ある日、何気なく聞いてみたらナナシさんは「なんで?」というように僕を見つめた。
「話し相手なら他にもたくさんいるでしょうに」
「だって、ノボリとクダリは彼女がいるらしいから、あんまり隣にいちゃ彼女さんに悪いかなと思って。それに、クラウドは幽霊嫌いだし、シンゲンは幽霊のわたしより幽霊やってるし、カズマサはあっちフラフラこっちフラフラで頼りないし、キャメロンはヤラシーし、ラムセスとトトメスはナルシーだし、それから……」
「しょ、消去法で僕ってことですか……」
少しショックを受けている僕を見て、ナナシさんはえへへと笑う。
「でも、ジャッキーと話しているときが一番楽しいよ」