本編
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「ナナシさん、その格好で行くのはちょっと……」
僕が苦言を呈していると、ナナシさんは少し不満げな声を上げた。
「えー、だって早く驚かせたくない? きっとみんなびっくりするよ」
「いや、二重、三重の意味で驚くと思うんですけど」
「わたし着替え持ってないんだから仕方ないじゃん。それに、ちょっと丈の短いワンピースって考えればよくない? わたしが若いとき超ミニのスカート流行ってたよ」
「いや、まあそうかもしれませんが……」
ナナシさんの洋服が幽霊だったときに着ていたワンピース1着しかないので仕方なく僕のトレーナーを着せているが、その格好で事務所に行くと言って聞かない。その姿を他の男に見せるのは気がひけるのだが、本人としては幽霊じゃなくなったことを一刻も早く知らせたいようで、僕の方にもさっさと支度を済ませるように急かしてくる。
「ジャッキー、遅い! ムシャーナ、ジャッキー置いて早く行こ! 事務所に向かって出発進行!」
「ちょっと、待ってくださいってば!」
帽子とジャケットを持って僕もナナシさんのあとを追いかける。廊下を走らないとか、そんなことを言っている場合ではない。
「ノボリー、シャンデラー、おはよ!」
「おはようございます。ナナシ様、廊下は走らないでくださいま、し……?」
ナナシさんに挨拶をされたノボリさんは驚いて固まっていた。シャンデラの方も、なんで? と言いたげな表情をしている。昨日まで幽霊だった人がこんな格好で現れたら誰だって驚くだろう。
「ナナシ様、その体は」
「生き返った!」
「その服は」
「ジャッキーのトレーナー!」
「そのムシャーナは」
「私の旧友! あのねー、七夕歳のお願いが叶ったんだ! すごくない? すごいでしょ! ノボリが七夕歳のこと教えてくれなかったら、今頃わたしは生き返ってなかったし、ジャッキーとは付き合えなかったし、ムシャーナとも再会できなかったと思うんだ。だから、ありがと!」
ナナシさんはまくし立てるようにして言うと、嵐のようにノボリさんの前を過ぎ去って行った。
「ジャッキー、一体これは……」
「えーっと、だいたいさっきナナシさんが言った通りです。すみません、それでは!」
結構一生懸命走っているつもりなのに、ナナシさんとの距離があまり縮まらない。本当に30年ぶりの体なのだろうか? 昨日は鉛のように重くて動かないとか言っていたのに。ナナシさんの方が若いから? だとしても、僕だってナナシさんより少し年上なだけで、まだ若いはずなんだけどなあ、と目の前を走る彼女を見て少しショックを受ける。
「おはよークラウド!」
「うわっなんや、ってはあ!? なんやツッコミどころ多すぎて何から言えばいいかわからんで」
僕が息を切らして事務所に着く頃、ナナシさんはすでにクラウドさんへいたずらを仕掛けていた。
「おはようナナシ、幽霊やめちゃった?」
「クダリおはよ、幽霊やめたよー」
「白ボス順応早すぎやしないか」
状況を全く飲み込めていない職員を他所に、クダリさんはあっけらかんとした態度でナナシさんに挨拶をする。ナナシさんも嬉しそうで、このやりとりはなんなのだろう……と思う。
「うん、昨日は七夕だったでしょ。僕、ナナシが短冊に書いたお願い知ってたんだ。あれの飾り付け手伝ってたから。それに、昨日の七夕は幻のポケモンが現れるといわれる、千年に一度の特別な日だって聞いてたから、何かあってもおかしくないかなって。けど、ナナシ、その格好はだめ。ジャッキーの?」
そんな趣味あったの? とでも言いたげな目でクダリさんがこちらを見る。別に僕の趣味で着せたわけではない。
「そうだよー。わたし、あの服以外に着替え持ってないんだ。だからジャッキーの借りたの。ワンピースみたいでいいでしょ」
ナナシさんは自慢げに腕を広げてみせているが、あまりそうやって大きく動かないでほしい。
「いわゆる彼シャツってやつなのさ」
「デモ流石ニ、ソレヲワンピースッテ言イ張ルノハ無理ガアルヨウナ」
ナナシさんの背が低いことが幸いし、一応足を上げたりしなければギリギリ下着が見えない丈ではあるが。
「わたしが若いときはもっと短いやつが流行ってたよ」
「時代を考えろ時代を!」
クラウドさんが書類の束でナナシさんの頭をパシッと叩く。幽霊だったときには考えられない音だ。
「ナナシ、ファッションに詳しい人へ連絡入れておくから、今日、一緒に買ってきてもらいなよ」
「本当? クダリ、ありがとう! あ、でも、服を買いに行くための服がないや」
「いや、事情を話せば気合を入れて着替えを持って迎えにくるだろうし、その心配は大丈夫、たぶん」
クダリさんがすごく遠い目をしているので、なんとなく誰が来るのか予想できる。
「ネエ、ナナシ、チョットバンザイシテミテヨ」
「キャ・メ・ロ・ンさん?」
「どアホ、地下鉄の風紀を乱すような発言はやめんか」
「ジョ、冗談ダッテ。ソレト、ジャッキー、目ガ怖イ」
「昨日からジャッキーと付き合い始めたんだ」
ナナシさんが僕の腕に抱きつきながらそう言うと、
「知ッテル」
「見ればわかるのさ」
「逆になんで今まで付き合ってなかったんか不思議なくらいや」
「七夕の日に願いが叶って付き合うなんて、ロマンチックですねー」
という返事が返ってきた。ナナシさんとしてはもっと驚いて欲しかったようで、えー、と言いたげな顔をしている。
「わたし、一生ジャッキーのこと幸せにする!」
「ナナシ、それは男が言うセリフやで」
クラウドさんが笑うと、ナナシさんは少し頬を膨らませた。
「最近は男だからとか女だからとかあんまり気にしないんでしょ。だからいーの」
「そうですね、確かにナナシさんが生まれた時代と今では価値観が大きく変わりましたから。昨日も言いましたが、僕もナナシさんのこと一生幸せにしてみせます」
「神様からもらった新しい命、今度は大事にする!」
「うわっ、ナナシさん、その格好で跳ねないでください」
見える、見える。下着が見えますってば!
「朝っぱらからあっついわー」
「でも、ふたりが幸せそうで何よりなのさ」
僕たちが事務所で騒いでいると、中の様子を見るようにしてシママが入ってきた。
「あ、シママ起こしちゃった? おはよ! えへへ、びっくりした? シママ、この子わたしの友達のムシャーナっていうの。ムシャーナ、シママはここでできた友達だよ」
ナナシさんがシママとムシャーナをお互いに紹介していると、シママが不思議そうにナナシさんの足にすり寄った。かと思うと、いつもと違う服装に興味をもったようで洋服を引っ張り始めた。
「あー、あー、シママだめだって。洋服引っ張っちゃ」
ナナシさんは一生懸命服を抑えているが、他の職員の視線が痛いのでナナシさんを引きずり事務所を出ることにする。
「ナナシさん、やっぱりその格好で出歩くのだめです! 部屋に戻りますよ」
ムシャーナはナナシさんの横をふわふわと浮いていて、シママは後ろから楽しそうに追いかけてくる。
「えへへ、ジャッキー妬いてる?」
「そりゃ、ナナシさんのそんな姿を他の男に見せたくありませんから」
部屋を出る前に再三言ったつもりなんだけどなあ、と呑気に笑う彼女に苦笑いしてしまう。
「僕の予想ではクダリさんの言っていた『ファッションに詳しい人』はそんなに時間をかけないでここに来るでしょうから、それまで部屋で待っててもらえますか。僕は業務があるので一緒にはいられませんが」
「えへへ、どんな人が来るんだろう」
「たぶん、ナナシさんも知っている人ですよ」
「新しい服を買ったら、一番にジャッキーに見せに行くね」
「楽しみにしています」
「えへへ、お仕事いってらっしゃい」
「はい、いってきます」
ぎゅっとナナシさんを抱きしめる。胸の鼓動やぬくもりが、ナナシさんがここに存在しているという実感を与えてくれる。もう少しこの時間が続けばいいのに、と思いながら体を離し、笑顔で手を振るナナシさんに手を振り返しながら、再び事務所へと歩いて行った。
僕が苦言を呈していると、ナナシさんは少し不満げな声を上げた。
「えー、だって早く驚かせたくない? きっとみんなびっくりするよ」
「いや、二重、三重の意味で驚くと思うんですけど」
「わたし着替え持ってないんだから仕方ないじゃん。それに、ちょっと丈の短いワンピースって考えればよくない? わたしが若いとき超ミニのスカート流行ってたよ」
「いや、まあそうかもしれませんが……」
ナナシさんの洋服が幽霊だったときに着ていたワンピース1着しかないので仕方なく僕のトレーナーを着せているが、その格好で事務所に行くと言って聞かない。その姿を他の男に見せるのは気がひけるのだが、本人としては幽霊じゃなくなったことを一刻も早く知らせたいようで、僕の方にもさっさと支度を済ませるように急かしてくる。
「ジャッキー、遅い! ムシャーナ、ジャッキー置いて早く行こ! 事務所に向かって出発進行!」
「ちょっと、待ってくださいってば!」
帽子とジャケットを持って僕もナナシさんのあとを追いかける。廊下を走らないとか、そんなことを言っている場合ではない。
「ノボリー、シャンデラー、おはよ!」
「おはようございます。ナナシ様、廊下は走らないでくださいま、し……?」
ナナシさんに挨拶をされたノボリさんは驚いて固まっていた。シャンデラの方も、なんで? と言いたげな表情をしている。昨日まで幽霊だった人がこんな格好で現れたら誰だって驚くだろう。
「ナナシ様、その体は」
「生き返った!」
「その服は」
「ジャッキーのトレーナー!」
「そのムシャーナは」
「私の旧友! あのねー、七夕歳のお願いが叶ったんだ! すごくない? すごいでしょ! ノボリが七夕歳のこと教えてくれなかったら、今頃わたしは生き返ってなかったし、ジャッキーとは付き合えなかったし、ムシャーナとも再会できなかったと思うんだ。だから、ありがと!」
ナナシさんはまくし立てるようにして言うと、嵐のようにノボリさんの前を過ぎ去って行った。
「ジャッキー、一体これは……」
「えーっと、だいたいさっきナナシさんが言った通りです。すみません、それでは!」
結構一生懸命走っているつもりなのに、ナナシさんとの距離があまり縮まらない。本当に30年ぶりの体なのだろうか? 昨日は鉛のように重くて動かないとか言っていたのに。ナナシさんの方が若いから? だとしても、僕だってナナシさんより少し年上なだけで、まだ若いはずなんだけどなあ、と目の前を走る彼女を見て少しショックを受ける。
「おはよークラウド!」
「うわっなんや、ってはあ!? なんやツッコミどころ多すぎて何から言えばいいかわからんで」
僕が息を切らして事務所に着く頃、ナナシさんはすでにクラウドさんへいたずらを仕掛けていた。
「おはようナナシ、幽霊やめちゃった?」
「クダリおはよ、幽霊やめたよー」
「白ボス順応早すぎやしないか」
状況を全く飲み込めていない職員を他所に、クダリさんはあっけらかんとした態度でナナシさんに挨拶をする。ナナシさんも嬉しそうで、このやりとりはなんなのだろう……と思う。
「うん、昨日は七夕だったでしょ。僕、ナナシが短冊に書いたお願い知ってたんだ。あれの飾り付け手伝ってたから。それに、昨日の七夕は幻のポケモンが現れるといわれる、千年に一度の特別な日だって聞いてたから、何かあってもおかしくないかなって。けど、ナナシ、その格好はだめ。ジャッキーの?」
そんな趣味あったの? とでも言いたげな目でクダリさんがこちらを見る。別に僕の趣味で着せたわけではない。
「そうだよー。わたし、あの服以外に着替え持ってないんだ。だからジャッキーの借りたの。ワンピースみたいでいいでしょ」
ナナシさんは自慢げに腕を広げてみせているが、あまりそうやって大きく動かないでほしい。
「いわゆる彼シャツってやつなのさ」
「デモ流石ニ、ソレヲワンピースッテ言イ張ルノハ無理ガアルヨウナ」
ナナシさんの背が低いことが幸いし、一応足を上げたりしなければギリギリ下着が見えない丈ではあるが。
「わたしが若いときはもっと短いやつが流行ってたよ」
「時代を考えろ時代を!」
クラウドさんが書類の束でナナシさんの頭をパシッと叩く。幽霊だったときには考えられない音だ。
「ナナシ、ファッションに詳しい人へ連絡入れておくから、今日、一緒に買ってきてもらいなよ」
「本当? クダリ、ありがとう! あ、でも、服を買いに行くための服がないや」
「いや、事情を話せば気合を入れて着替えを持って迎えにくるだろうし、その心配は大丈夫、たぶん」
クダリさんがすごく遠い目をしているので、なんとなく誰が来るのか予想できる。
「ネエ、ナナシ、チョットバンザイシテミテヨ」
「キャ・メ・ロ・ンさん?」
「どアホ、地下鉄の風紀を乱すような発言はやめんか」
「ジョ、冗談ダッテ。ソレト、ジャッキー、目ガ怖イ」
「昨日からジャッキーと付き合い始めたんだ」
ナナシさんが僕の腕に抱きつきながらそう言うと、
「知ッテル」
「見ればわかるのさ」
「逆になんで今まで付き合ってなかったんか不思議なくらいや」
「七夕の日に願いが叶って付き合うなんて、ロマンチックですねー」
という返事が返ってきた。ナナシさんとしてはもっと驚いて欲しかったようで、えー、と言いたげな顔をしている。
「わたし、一生ジャッキーのこと幸せにする!」
「ナナシ、それは男が言うセリフやで」
クラウドさんが笑うと、ナナシさんは少し頬を膨らませた。
「最近は男だからとか女だからとかあんまり気にしないんでしょ。だからいーの」
「そうですね、確かにナナシさんが生まれた時代と今では価値観が大きく変わりましたから。昨日も言いましたが、僕もナナシさんのこと一生幸せにしてみせます」
「神様からもらった新しい命、今度は大事にする!」
「うわっ、ナナシさん、その格好で跳ねないでください」
見える、見える。下着が見えますってば!
「朝っぱらからあっついわー」
「でも、ふたりが幸せそうで何よりなのさ」
僕たちが事務所で騒いでいると、中の様子を見るようにしてシママが入ってきた。
「あ、シママ起こしちゃった? おはよ! えへへ、びっくりした? シママ、この子わたしの友達のムシャーナっていうの。ムシャーナ、シママはここでできた友達だよ」
ナナシさんがシママとムシャーナをお互いに紹介していると、シママが不思議そうにナナシさんの足にすり寄った。かと思うと、いつもと違う服装に興味をもったようで洋服を引っ張り始めた。
「あー、あー、シママだめだって。洋服引っ張っちゃ」
ナナシさんは一生懸命服を抑えているが、他の職員の視線が痛いのでナナシさんを引きずり事務所を出ることにする。
「ナナシさん、やっぱりその格好で出歩くのだめです! 部屋に戻りますよ」
ムシャーナはナナシさんの横をふわふわと浮いていて、シママは後ろから楽しそうに追いかけてくる。
「えへへ、ジャッキー妬いてる?」
「そりゃ、ナナシさんのそんな姿を他の男に見せたくありませんから」
部屋を出る前に再三言ったつもりなんだけどなあ、と呑気に笑う彼女に苦笑いしてしまう。
「僕の予想ではクダリさんの言っていた『ファッションに詳しい人』はそんなに時間をかけないでここに来るでしょうから、それまで部屋で待っててもらえますか。僕は業務があるので一緒にはいられませんが」
「えへへ、どんな人が来るんだろう」
「たぶん、ナナシさんも知っている人ですよ」
「新しい服を買ったら、一番にジャッキーに見せに行くね」
「楽しみにしています」
「えへへ、お仕事いってらっしゃい」
「はい、いってきます」
ぎゅっとナナシさんを抱きしめる。胸の鼓動やぬくもりが、ナナシさんがここに存在しているという実感を与えてくれる。もう少しこの時間が続けばいいのに、と思いながら体を離し、笑顔で手を振るナナシさんに手を振り返しながら、再び事務所へと歩いて行った。