本編
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「ジャッキー、ナナシのこと好きだよね」
業務のことで呼ばれたので管制室に行くと、暇そうにしていたクダリさんにナナシさんのことを聞かれた。正直、またか、と思ってしまう。
「なんですか、またこの間のことをからかうためにわざわざここへ呼んだんですか」
「違うって。呼んだのは、業務のことで用があったから。まあ、それも少しあるけど」
「やっぱりからかうんじゃないですか……」
はあ、とため息をつくとクダリさんにしては珍しい表情を見せた。眉を下げて、少し困ったような、けれども優しい笑顔。
「ジャッキーがああやって人に甘えてるとこ、はじめて見たからちょっと気になった。しかも、女の子相手に」
「いや、男が男に泣きついてたら絵面的にひどいと思うんですけど」
「クラウドは、はじめてナナシを見たとき、僕にも泣きついてきたけど。そういうことじゃなくて、悲しそうというか、悔しそうというか。あのときのジャッキー、そんな顔してた」
すぐ出て行ったくせに、よく見ているなと思う。クダリさんは見た目や喋り方の割にそういうところは鋭い。ノボリさんとはまた別のベクトルで侮れない人だ。
「……すごくリアルで、とても悲しい夢を見たんです」
「夢?」
それはどんな夢? と聞いてきたので、僕は見たものを話すことにした。
「30年前の、ナナシさんが亡くなる3日前から当日までの夢です。そこで、生前のナナシさんと、ムンナに会いました。ムンナはナナシさんの手持ちじゃなくて野生のポケモンなんですけど、ナナシさんとはとても仲良しでした。
30年前のライモンシティは、ナナシさんの言うようにとてもまっさらなところでした。ギアステーションもまだ建設途中で、知らない街と、はじめて見た空に戸惑っているとき、ナナシさんが声をかけてくれたんです。
広いところと明るいところが苦手だと言うと、ナナシさんは羽織っていたカーディガンを僕に被せてムンナの住んでいる隠れ穴に連れて行ってくれました。そこで、僕のことを特に怪しむわけでもなく、変わったものを持っているから未来人なのだろうとか言って、いつものように笑っていました。なんの根拠もないのに、ムンナが笑っているからきっとそうなんだろうって。それから、僕の持っているモンスターボールに興味を示したのです。それを見せたら、ここではじめてバトルを見せたときと同じ反応で。
ナナシさんは生前も今と同じくらいニコニコ笑う人でした。ただ少し、今よりドライな部分もあり、将来のこととか年相応の悩みを持っている子でした。それでも、学校での出来事を話したり、未来のことを聞いてきたり、フローゼルをかわいがってくれたり。
ナナシさんが亡くなる日の前日、僕はナナシさんと一緒にムンナの住んでいる隠れ穴に行きました。ですが、そこでのナナシさんとムンナのやり取りが、以前僕が見た夢とそっくりだったんです。それから帰るとき、ナナシさんは『また明日遊びに来るね』と言いました。夢の話をしたときに『また明日と約束したのにすっぽかされたらどう思うか』と聞かれたことがあったのですが、その約束をした相手はムンナだったんだと思います。
亡くなる当日、ナナシさんはいつもの格好をしていました。そこで僕は彼女を引き止めたんです。行かないでほしい、今日は一緒にいてほしい、と。僕が抱きしめると少し驚いていましたが、ナナシさんは僕が未来へ帰れないことに対してさびしくなったんだと思ったようで、早く帰ってくるから、と言って僕の背中をさすると、遅刻しちゃうからもう行くねと言って家を出てしまいました。
しばらく経った後、外からけたたましい音が響いたんです。玄関の扉を開けたら救急車が工事現場の近くに止まっているのが見えました。そうしたら、どこからともなく隠れ穴の中で涙を流しているムンナの姿が見えて、その影はすぐに消えてしまいました。外へ出ようとすると、突然、過去へ行ってから使えなくなっていたライブキャスターの電源が入り、時計が表示されたんです。それも、その日の日付ではなく現在の日付で。そして気がついたら、僕は医務室にいたのです。
僕は、ナナシさんを守れませんでした。すみません、話が長くなっちゃって」
僕が謝るとクダリさんは軽く首を横に振った。
「ううん、大丈夫。ジャッキー、ナナシのことすっごく大切なんだね。ナナシを守れなくて、悔しくて悲しかったこと、すごく伝わってくる」
「……そうですね。ナナシさんは僕の大切な人、です」
はじめて会ったときは、なんだこいつ、とか、やっかいなものに好かれたな、なんて思ったけれど。いつからだろう、大切な人だと思い始めたのは。
「ナナシさんはいつもニコニコしているけど、その笑顔はときどきさびしそうで、隠れて泣いていたりして。そんな顔をさせたくないんです。でも僕は」
ナナシさんを守れませんでした。そう言うと、クダリさんは僕の頭をぽんぽんとなでた。いつもは子どもっぽいのに、これが大人の余裕というやつなんだろうか。僕より少し、年上なだけなのに。
「夢の中で守れなかったことを後悔してるなら、今度はちゃんと守ってあげなよ」
業務のことで呼ばれたので管制室に行くと、暇そうにしていたクダリさんにナナシさんのことを聞かれた。正直、またか、と思ってしまう。
「なんですか、またこの間のことをからかうためにわざわざここへ呼んだんですか」
「違うって。呼んだのは、業務のことで用があったから。まあ、それも少しあるけど」
「やっぱりからかうんじゃないですか……」
はあ、とため息をつくとクダリさんにしては珍しい表情を見せた。眉を下げて、少し困ったような、けれども優しい笑顔。
「ジャッキーがああやって人に甘えてるとこ、はじめて見たからちょっと気になった。しかも、女の子相手に」
「いや、男が男に泣きついてたら絵面的にひどいと思うんですけど」
「クラウドは、はじめてナナシを見たとき、僕にも泣きついてきたけど。そういうことじゃなくて、悲しそうというか、悔しそうというか。あのときのジャッキー、そんな顔してた」
すぐ出て行ったくせに、よく見ているなと思う。クダリさんは見た目や喋り方の割にそういうところは鋭い。ノボリさんとはまた別のベクトルで侮れない人だ。
「……すごくリアルで、とても悲しい夢を見たんです」
「夢?」
それはどんな夢? と聞いてきたので、僕は見たものを話すことにした。
「30年前の、ナナシさんが亡くなる3日前から当日までの夢です。そこで、生前のナナシさんと、ムンナに会いました。ムンナはナナシさんの手持ちじゃなくて野生のポケモンなんですけど、ナナシさんとはとても仲良しでした。
30年前のライモンシティは、ナナシさんの言うようにとてもまっさらなところでした。ギアステーションもまだ建設途中で、知らない街と、はじめて見た空に戸惑っているとき、ナナシさんが声をかけてくれたんです。
広いところと明るいところが苦手だと言うと、ナナシさんは羽織っていたカーディガンを僕に被せてムンナの住んでいる隠れ穴に連れて行ってくれました。そこで、僕のことを特に怪しむわけでもなく、変わったものを持っているから未来人なのだろうとか言って、いつものように笑っていました。なんの根拠もないのに、ムンナが笑っているからきっとそうなんだろうって。それから、僕の持っているモンスターボールに興味を示したのです。それを見せたら、ここではじめてバトルを見せたときと同じ反応で。
ナナシさんは生前も今と同じくらいニコニコ笑う人でした。ただ少し、今よりドライな部分もあり、将来のこととか年相応の悩みを持っている子でした。それでも、学校での出来事を話したり、未来のことを聞いてきたり、フローゼルをかわいがってくれたり。
ナナシさんが亡くなる日の前日、僕はナナシさんと一緒にムンナの住んでいる隠れ穴に行きました。ですが、そこでのナナシさんとムンナのやり取りが、以前僕が見た夢とそっくりだったんです。それから帰るとき、ナナシさんは『また明日遊びに来るね』と言いました。夢の話をしたときに『また明日と約束したのにすっぽかされたらどう思うか』と聞かれたことがあったのですが、その約束をした相手はムンナだったんだと思います。
亡くなる当日、ナナシさんはいつもの格好をしていました。そこで僕は彼女を引き止めたんです。行かないでほしい、今日は一緒にいてほしい、と。僕が抱きしめると少し驚いていましたが、ナナシさんは僕が未来へ帰れないことに対してさびしくなったんだと思ったようで、早く帰ってくるから、と言って僕の背中をさすると、遅刻しちゃうからもう行くねと言って家を出てしまいました。
しばらく経った後、外からけたたましい音が響いたんです。玄関の扉を開けたら救急車が工事現場の近くに止まっているのが見えました。そうしたら、どこからともなく隠れ穴の中で涙を流しているムンナの姿が見えて、その影はすぐに消えてしまいました。外へ出ようとすると、突然、過去へ行ってから使えなくなっていたライブキャスターの電源が入り、時計が表示されたんです。それも、その日の日付ではなく現在の日付で。そして気がついたら、僕は医務室にいたのです。
僕は、ナナシさんを守れませんでした。すみません、話が長くなっちゃって」
僕が謝るとクダリさんは軽く首を横に振った。
「ううん、大丈夫。ジャッキー、ナナシのことすっごく大切なんだね。ナナシを守れなくて、悔しくて悲しかったこと、すごく伝わってくる」
「……そうですね。ナナシさんは僕の大切な人、です」
はじめて会ったときは、なんだこいつ、とか、やっかいなものに好かれたな、なんて思ったけれど。いつからだろう、大切な人だと思い始めたのは。
「ナナシさんはいつもニコニコしているけど、その笑顔はときどきさびしそうで、隠れて泣いていたりして。そんな顔をさせたくないんです。でも僕は」
ナナシさんを守れませんでした。そう言うと、クダリさんは僕の頭をぽんぽんとなでた。いつもは子どもっぽいのに、これが大人の余裕というやつなんだろうか。僕より少し、年上なだけなのに。
「夢の中で守れなかったことを後悔してるなら、今度はちゃんと守ってあげなよ」