本編
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休憩室に入ったら珍しくナナシさんが頬杖をついてひとり暇そうに座っていた。途中でぼんやりと途切れているためわかりにくいが、足をぱたぱたと動かしている。ナナシさんは僕に気がつくと手を振ってきたので、今日は彼女の向かいに座って昼食を取ることにした。
今日暇なんだ、全然人来ないし、とナナシさんが机に突っ伏す。でもカズマサが来たから一応話し相手できてよかった、なんて言うので、僕に対するナナシさんの扱いってだいぶ悪いなあと苦笑いをしてしまった。
「ナナシさんって、ジャッキーさんと付き合ってるんですか?」
「何、いきなり。頭打った?」
先日から気になっていたことをナナシさんにぶつけてみる。すると僕の質問に対し、ナナシさんは頭をトントンと指で叩いて「頭ダイジョウブデスカ」と言いたげな表情をした。
「打ってないですよ! ほら、ジャッキーさんとナナシさんは一日中ギアステーションにいるし、いつも一緒に喋ってるし。だから、なんかこう、僕たちが退勤したあとに何かしてるんじゃないかなって。プラトニックラブみたいな!」
「残念ながら、ジャッキーとの間には何もありませーん」
ナナシさんは呆れたように首を振った。しかし、残念、ということは何か期待しているところもあるのだろうか。いつも一緒にいるし、何かあると一番にジャッキーさんのところへ飛んでいくし、この間シママの件で抱きついていたし、なんらかの感情が芽生えていてもおかしくないと思うけど。肉体がなくとも精神的なところでつながっているとかとてもロマンチックだと思うし。
「ナナシさんはジャッキーさんのこと、好きじゃないんですか?」
「好きだよ? 友達として」
「それ以外、本当に何もないんですか?」
僕がそう聞くと、彼女は少し鬱陶しそうな顔をした。
「ないよ。そもそも、わたしとジャッキーじゃ年が離れすぎてるし。死んでなかったらお母さんと子どもくらい年齢差があるよ」
「あ、体がないとかじゃなくて年齢の話なんですね」
その答えはもしかして、好きだけど年齢という壁があるから諦めているということだろうか。それならば、まだ可能性はあるじゃないか。
「でも、ナナシさん享年19歳だからジャッキーさんと年近いし大丈夫じゃないですか。なんなら、普段の振る舞い的にもっと幼く見えるし、逆にジャッキーさんが捕まりそう」
「何? カズマサはわたしのことをガキだと言いたいわけ?」
ナナシさんの目がものすごく怖い。もしかして、かなりやばい地雷を踏んでしまったのではないだろうか。
「え、いや、決してそういうわけでは。冗談ですよ、はは」
シャララランという音が休憩室に響く。黒ボスも休憩時間のため、シャンデラがナナシさんのところへ遊びに来たようだった。ナナシさんが笑顔でシャンデラを呼ぶ。
「シャンデラちょうどいいところに! シャンデラ、カズマサに火ぃ吹いちゃって!」
ナナシさんと黒ボスのシャンデラはとても仲がいい。だから、ナナシさんの曖昧な指示でも察して動くことができる……のはいいけれど。
「や、ちょっと待ってくださいよ〜!」
シャンデラが息を吸い込み火を吹く直前、もうだめだと思っていると「ストップ」という声が入った。その声の主の方へ顔を向けると、呆れたと言わんばかりの表情をしたジャッキーさんが立っていた。救世主!
「ナナシさんもカズマサさんも、何やってるんですか。それからシャンデラも、いくらカズマサさんが丈夫だからって人に向かって鬼火はだめですよ」
「助かった……」
ほっと胸をなでおろす僕とは対照的に、シャララランと鳴くシャンデラはどことなく不満げな様子だった。
「あのね、聞いてよジャッキー。カズマサがわたしのことを子ども扱いするんだよ」
「いや、僕は別にナナシさんのことを子ども扱いしたわけでは……」
ナナシさんの主張に対し、僕は必死に弁明した。これ以上神経を逆撫でると命の危険に迫る。
「でも実際、ナナシさんは子どもっぽいところあると思いますけど」
「なっ、ジャッキーまで! わたし、これでも49年前に生まれてるんだよ! 30年前に死んだけど、ジャッキーよりも、カズマサよりも、ずーっと」
「ほら、そうやってすぐにむくれるところです」
頬を膨らませていたナナシさんの顔が少し赤くなる。上手い返しが見つからなかったようで、口をモゴモゴさせて椅子から飛び降りた。
「む……もうしーらない。シャンデラ、まだ休憩時間でしょ? 一緒に遊ぼ、向こうにシママもいるからさ」
ナナシさんはそう言うと走ってシャンデラと一緒に休憩室を出て行ってしまった。本当に19歳だったのかな。ナナシさん、自分の年齢を数え間違えてるんじゃないかと思う。
「ジャッキーさん、助かりました……」
ナナシさんの姿が完全に見えなくなったことを確認してから、改めてジャッキーさんにお礼を述べる。ジャッキーさんがいなかったら完全に木炭にされていた。
「いえ別に大丈夫ですけど、なんであんな状況になったんですか?」
「いやあ、ははは……ジャッキーさんとナナシさんっていつも一緒にいるから付き合ってるのかと思って聞いてみたら『付き合ってない』と言われて、そのあと話の流れで年齢という地雷を踏んで、結果黒ボスのシャンデラに木炭にされるところでした……」
「いい年して何恋バナしようとしてるんですかあなたは」
そう言うジャッキーさんの表情は、さっきのナナシさんと同じだった。
「別に、僕とナナシさんは付き合ったりしてないですよ。それに、一日中一緒にいるわけでもないし」
「そうなんですか? 僕たちが退勤したあととか、何もないんですか?」
年の近い男女が同じ屋根の下でふたりっきり。何かしらあるでしょ。
「何もないです。ナナシさん、『幽霊に睡眠は必要ないから』と言って、夜はどこかへ行ってますからね。まあギアステーション内にいることは確かですけど」
本当に? 何もないなんて、そんなことある?
「休日にナナシさんを部屋に呼んだんじゃないんですか?」
「ポケモンの毛づくろいをしたり、雑誌を呼んだり、テレビを見たりしただけですよ」
「それだけ?」
「それだけです」
「この間、休憩室でナナシさんに抱きつかれてたじゃないですか?」
「あれはシママに警戒心を解いてもらうためであって、深い意味はないですよ」
咳払いをしながらジャッキーさんの頬が少し赤く染まる。
「そうですかー……」
「なんでそんなあからさまに残念そうな顔をするんですか」
残念です。おふたりには悪いけど、本当に残念なんです。
「どうやった?」
「僕たちの負けですー……はあ。危うく、近くにいた黒ボスのシャンデラに木炭にされるところでした」
「はあ? なんや、つまらんなあ。あんな人様の前で抱き合ったりしたくせに、何もないんかいな」
「ほら、僕の言った通りなのさ。草食系男子のジャッキーが女の子に手を出せるわけがないのさ」
「うー……あ、でもナナシさん、『ジャッキーとは年が離れすぎてるから何もない』って言うんですよ。おもしろいですよね」
「幽霊ダカラトカ、体ガナイカラトカジャナクテ、年ガ離レテルカラッテ理由ガナナシラシイネ」
「年齢のことを気にしなくなったら、何か進展するのかなー」
お似合いだと思うんだけどなあ、あのふたり。ジャッジさんもナナシさんのこと好きみたいだし、うかうかしてると取られちゃうんじゃ?
今日暇なんだ、全然人来ないし、とナナシさんが机に突っ伏す。でもカズマサが来たから一応話し相手できてよかった、なんて言うので、僕に対するナナシさんの扱いってだいぶ悪いなあと苦笑いをしてしまった。
「ナナシさんって、ジャッキーさんと付き合ってるんですか?」
「何、いきなり。頭打った?」
先日から気になっていたことをナナシさんにぶつけてみる。すると僕の質問に対し、ナナシさんは頭をトントンと指で叩いて「頭ダイジョウブデスカ」と言いたげな表情をした。
「打ってないですよ! ほら、ジャッキーさんとナナシさんは一日中ギアステーションにいるし、いつも一緒に喋ってるし。だから、なんかこう、僕たちが退勤したあとに何かしてるんじゃないかなって。プラトニックラブみたいな!」
「残念ながら、ジャッキーとの間には何もありませーん」
ナナシさんは呆れたように首を振った。しかし、残念、ということは何か期待しているところもあるのだろうか。いつも一緒にいるし、何かあると一番にジャッキーさんのところへ飛んでいくし、この間シママの件で抱きついていたし、なんらかの感情が芽生えていてもおかしくないと思うけど。肉体がなくとも精神的なところでつながっているとかとてもロマンチックだと思うし。
「ナナシさんはジャッキーさんのこと、好きじゃないんですか?」
「好きだよ? 友達として」
「それ以外、本当に何もないんですか?」
僕がそう聞くと、彼女は少し鬱陶しそうな顔をした。
「ないよ。そもそも、わたしとジャッキーじゃ年が離れすぎてるし。死んでなかったらお母さんと子どもくらい年齢差があるよ」
「あ、体がないとかじゃなくて年齢の話なんですね」
その答えはもしかして、好きだけど年齢という壁があるから諦めているということだろうか。それならば、まだ可能性はあるじゃないか。
「でも、ナナシさん享年19歳だからジャッキーさんと年近いし大丈夫じゃないですか。なんなら、普段の振る舞い的にもっと幼く見えるし、逆にジャッキーさんが捕まりそう」
「何? カズマサはわたしのことをガキだと言いたいわけ?」
ナナシさんの目がものすごく怖い。もしかして、かなりやばい地雷を踏んでしまったのではないだろうか。
「え、いや、決してそういうわけでは。冗談ですよ、はは」
シャララランという音が休憩室に響く。黒ボスも休憩時間のため、シャンデラがナナシさんのところへ遊びに来たようだった。ナナシさんが笑顔でシャンデラを呼ぶ。
「シャンデラちょうどいいところに! シャンデラ、カズマサに火ぃ吹いちゃって!」
ナナシさんと黒ボスのシャンデラはとても仲がいい。だから、ナナシさんの曖昧な指示でも察して動くことができる……のはいいけれど。
「や、ちょっと待ってくださいよ〜!」
シャンデラが息を吸い込み火を吹く直前、もうだめだと思っていると「ストップ」という声が入った。その声の主の方へ顔を向けると、呆れたと言わんばかりの表情をしたジャッキーさんが立っていた。救世主!
「ナナシさんもカズマサさんも、何やってるんですか。それからシャンデラも、いくらカズマサさんが丈夫だからって人に向かって鬼火はだめですよ」
「助かった……」
ほっと胸をなでおろす僕とは対照的に、シャララランと鳴くシャンデラはどことなく不満げな様子だった。
「あのね、聞いてよジャッキー。カズマサがわたしのことを子ども扱いするんだよ」
「いや、僕は別にナナシさんのことを子ども扱いしたわけでは……」
ナナシさんの主張に対し、僕は必死に弁明した。これ以上神経を逆撫でると命の危険に迫る。
「でも実際、ナナシさんは子どもっぽいところあると思いますけど」
「なっ、ジャッキーまで! わたし、これでも49年前に生まれてるんだよ! 30年前に死んだけど、ジャッキーよりも、カズマサよりも、ずーっと」
「ほら、そうやってすぐにむくれるところです」
頬を膨らませていたナナシさんの顔が少し赤くなる。上手い返しが見つからなかったようで、口をモゴモゴさせて椅子から飛び降りた。
「む……もうしーらない。シャンデラ、まだ休憩時間でしょ? 一緒に遊ぼ、向こうにシママもいるからさ」
ナナシさんはそう言うと走ってシャンデラと一緒に休憩室を出て行ってしまった。本当に19歳だったのかな。ナナシさん、自分の年齢を数え間違えてるんじゃないかと思う。
「ジャッキーさん、助かりました……」
ナナシさんの姿が完全に見えなくなったことを確認してから、改めてジャッキーさんにお礼を述べる。ジャッキーさんがいなかったら完全に木炭にされていた。
「いえ別に大丈夫ですけど、なんであんな状況になったんですか?」
「いやあ、ははは……ジャッキーさんとナナシさんっていつも一緒にいるから付き合ってるのかと思って聞いてみたら『付き合ってない』と言われて、そのあと話の流れで年齢という地雷を踏んで、結果黒ボスのシャンデラに木炭にされるところでした……」
「いい年して何恋バナしようとしてるんですかあなたは」
そう言うジャッキーさんの表情は、さっきのナナシさんと同じだった。
「別に、僕とナナシさんは付き合ったりしてないですよ。それに、一日中一緒にいるわけでもないし」
「そうなんですか? 僕たちが退勤したあととか、何もないんですか?」
年の近い男女が同じ屋根の下でふたりっきり。何かしらあるでしょ。
「何もないです。ナナシさん、『幽霊に睡眠は必要ないから』と言って、夜はどこかへ行ってますからね。まあギアステーション内にいることは確かですけど」
本当に? 何もないなんて、そんなことある?
「休日にナナシさんを部屋に呼んだんじゃないんですか?」
「ポケモンの毛づくろいをしたり、雑誌を呼んだり、テレビを見たりしただけですよ」
「それだけ?」
「それだけです」
「この間、休憩室でナナシさんに抱きつかれてたじゃないですか?」
「あれはシママに警戒心を解いてもらうためであって、深い意味はないですよ」
咳払いをしながらジャッキーさんの頬が少し赤く染まる。
「そうですかー……」
「なんでそんなあからさまに残念そうな顔をするんですか」
残念です。おふたりには悪いけど、本当に残念なんです。
「どうやった?」
「僕たちの負けですー……はあ。危うく、近くにいた黒ボスのシャンデラに木炭にされるところでした」
「はあ? なんや、つまらんなあ。あんな人様の前で抱き合ったりしたくせに、何もないんかいな」
「ほら、僕の言った通りなのさ。草食系男子のジャッキーが女の子に手を出せるわけがないのさ」
「うー……あ、でもナナシさん、『ジャッキーとは年が離れすぎてるから何もない』って言うんですよ。おもしろいですよね」
「幽霊ダカラトカ、体ガナイカラトカジャナクテ、年ガ離レテルカラッテ理由ガナナシラシイネ」
「年齢のことを気にしなくなったら、何か進展するのかなー」
お似合いだと思うんだけどなあ、あのふたり。ジャッジさんもナナシさんのこと好きみたいだし、うかうかしてると取られちゃうんじゃ?