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 休憩室に入ると床に座ったナナシさんが目に入った。どうして椅子ではなく床に座っているのだろうと考えていると、彼女は笑顔で僕の名前を呼んだ。


「ジャッジ、ジャッジ、休憩中? ちょっとこの子のポケモン診断してよ」

「うん? いいですよ」


 ナナシさんからの意外なお願いに驚きながらも彼女のところへ行こうとする。するとナナシさんに、だめ、と言って止められてしまった。


「ごめん、これ以上近づかないでね。この子、怖がりなんだ」


 ナナシさんの言う診断してほしいポケモンはシママのことだった。シママはナナシさんの太ももに顎を乗せる真似をしている。とてもリラックスしているようで怖がりにはあまり見えないが、彼女がそう言うならばそうなんだろう。

 離れた場所からポケモンを診断するというのははじめてだった。しかも、ナナシさんには仕事の話をしてはいるものの実際に見せたことはなかったので、恥かしい結果を出すわけにもいかない。「難しい注文ですね……」と言いながら、僕はじーっとシママの様子を観察した。


「そうですね、この距離からだと詳しく診断できませんが、あまりバトルには向いていない体のようですね。平均より能力がやや下回っています」


 ナナシさんは僕の回答に少しシュンとした表情をした。


「それって、バトルは全然だめってことなの?」

「だめってわけではありませんが……能力の高いポケモンの方が育てやすいですからね」

「努力したらなんとかなる?」

「それはトレーナーの腕次第ですね。トレーナーの腕が悪ければ、いくらポテンシャルの高いポケモンでもその強さを引き出せませんし、腕のいいトレーナーであれば、そのポケモンの苦手な部分をカバーしてバトルできますから」


 シュンとしていた表情から目を輝かせた表情に変わる。かと思うと一転して眉間にしわを寄せた。

「じゃあ、きっと、この子のトレーナーは能力が低いやつだったんだ。嫌なやつ」

「そのシママはどこで見つけたんですか?」

「構内を歩いていたらね、端っこの方で怯えていたから声をかけたんだ。それで、ちょっと痩せてるしお腹空かせてそうだったから、ご飯食べさせようと思って連れてきたの」


 でも、全然ご飯食べてくれないんだ、ジャッキーが用意してくれたのに、とナナシさんは悲しそうな目でシママを見た。


「そうなんですね……痩せている他に、無理やりバトルをさせられたような跡があるのも気になりますね。珍しい特性だから捕まえたものの、バトルに向いていないと知って手放したというところでしょうか」

「珍しい特性?」


 なにそれ、というようにナナシさんは首を傾げた。ナナシさんは生前ポケモントレーナーではなかったようなので、あまりポケモンのことに詳しくない。


「はい。ポケモンにはそれぞれ特性というものがあります。例えば、ノボリさんのシャンデラは『もらいび』という、ほのおタイプの技を受けるとほのお技の威力が上がる特性を持っています。しかしシャンデラにはもうひとつ特性があって、『ほのおのからだ』という特性の個体もいます。こちらは、直接攻撃を受けたときに相手をやけどにさせる効果があるんです。このふたつが、シャンデラの主な特性です。

 ですが、中には『かげふみ』という特性を持った珍しいシャンデラもいるそうです。こちらは個体の数が少なく、僕もまだ見たことがありません。


 それでですね、シママの主な特性は『ひらいしん』と『でんきエンジン』です。『ひらいしん』はでんきタイプの技の対象を全て自分のものにしてでんき技の威力をアップさせる特性で、『でんきエンジン』はでんきタイプの技を受けると素早さが上昇する特性です。しかし、僕が見たところによると、今ナナシさんと一緒にいるシママは『そうしょく』のようです。この特性は、くさタイプの技を受けると攻撃力が上昇するんですよ。さっき言ったかげふみシャンデラと同じように、あまり見ることのできない珍しい特性です」


 僕が説明し終わると、ぱちぱちぱち、とナナシさんが拍手をした。


「へえ、ジャッジ、遠くからだと詳しく診断できないって言ったけど、やっぱりすごいね。ポケモンのこと、たくさん勉強してる証拠だ」

「そんな、僕はまだまだですよ」


 やっぱり格好いいところ見せたいですしね……とニコニコしているナナシさんを見ながらそう思う。


「シママって、なんかカミツレさんが連れてたポケモンに似てるね。でんきタイプだし、体の模様もそんな感じ」

「カミツレさんが連れていたのはゼブライカというポケモンです。シママが進化した姿ですよ」

「じゃあ、今はかわいいけど、将来は格好良くなるんだねー」


 ナナシさんは優しくシママをなでる真似をした。


「シママはナナシさんに懐いているようですね」

「うん。なんでだろ。幽霊だからかな? 触れられないことを不思議に思ってはいるみたいだけど、こうやって顔を寄せてくれるんだ。でも、他の人は全然だめ。さっきから休憩室に人が入るたびに警戒するの」

 扉が開くたびにシママの体毛に電気が走る。ナナシさんはそれをなだめるように「ここにいる人たちはみんな、優しい人だから大丈夫だよー」と言ってシママを抱きしめた。
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