本編
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マリンチューブへ行く約束の日。待ち合わせはギアステーション前。けれどもいつもと同じように道に迷ってしまったため、結局ナナシちゃんがペリッパーさんと一緒に迎えに来てくれた。そして、ペリッパーさんから降りたナナシちゃんの姿に驚く。
「今日はローラーシューズじゃないんだ?」
「風を感じて走るより、ゆっくり歩けた方がいいかと思って」
普段と違う格好をしてきた理由がかわいくてつい笑ってしまったら、ムッとした表情でいつものようにナナシちゃんは僕の腕を掴んだ。しかし、それは徐々に下がっていき、僕の手に触れた。その小さな手はとても冷たい。
「ごめん、だいぶ待たせちゃったみたいだね」
「待ち合わせ時間的にはぴったりですよ」
「前もそうだったでしょ。21時に待ち合わせだったのに、20時半から待ってたこと」
「……わたしが勝手にやってることだから、気にしないでください」
早く行こう、とナナシちゃんは僕の手を引っ張った。サザナミタウンにはギアステーションにある電車で行ける。同僚にこの姿を見られるのは少し恥ずかしかったが、ナナシちゃんはそんなことなど気にせず目的の電車を見つけると改札を通り抜けて行った。
「地下鉄ってはじめて乗ったけど、窓の外も真っ暗でずっと夜みたい」
「ライモンシティを抜けてしばらくしたら外が見えるから大丈夫だよ」
座席に座ると、ナナシちゃんはそのときが来ないか窓をずっと見つめている。それから、僕の手をきゅっと握った。所謂恋人繋ぎ、ではないけれど、ナナシちゃんの方からこういうことをするとは思っていなかったので少し驚いた。それでも嬉しくて、僕も軽く握り返す。僕の体温が伝わったのか、ナナシちゃんの手もだいぶ温かくなっていた。
「わたしがセイガイハシティに行ったことがないって、どうしてわかったんですか」
「はじめてご飯食べに行ったときイッシュ地方は人も建物も多いって言ってたし、出身地のこともサンヨウシティのことをサンヨウタウンって間違えてたから、最近こっちに来たばかりなんだろうなって思っただけだよ」
「気づいていたのに指摘しなかったんですね」
「それ自体に意味は持たないからさ、どこ出身でもナナシちゃんはナナシちゃんだし」
「カズマサさんって頼りなさそうだしわたしと同い年みたいな見た目をしてる割に、そういうところは大人っぽいというか、余裕があるというか」
「褒められてるのかな、それとも貶されてるのかな……」
ナナシちゃんの言葉に苦笑いをしていると窓の外が明るくなった。暗くて冷たいコンクリの壁から青と緑の風景に変わる。
「よく『言い方がきつい』って言われました」
「うん?」
「コンテストに出場してるときは明るくて元気な子なのに、そうじゃないときは醒めてるし、言葉に棘があるって。一応、直してはいるつもりなんですけど」
「それもナナシちゃんの面白いところだからいいと思うけどな」
「本当、変な人」
「その変な人の誘いに乗ってくれたり、こうやって手を繋いだりしてくれるナナシちゃんも十分変わった子だね」
「別に手を繋ぎたいから繋いでるわけじゃなくて、カズマサさんが道に迷ってどこかに行かないよう手を繋いでるんです」
「流石に電車の中でふらふらどこかへ行くことはないと思うけど……」
「嫌ならいいです」
「嫌じゃないよ」
ナナシちゃんが手を離そうとしたので、逃げてしまわないように少しだけ力を入れてきゅっと握る。すると彼女はそっぽを向いてしまった。それでも、向かいの窓に映る姿でナナシちゃんの表情が見える。目を瞑って考え事をしているようだ。
「本当に嫌じゃないんですか」
「好きな子に手を繋いでもらって嫌な気持ちになる男はあんまりいないと思うよ」
「わたし、今までアクセサリー代わりにされてたとはいえ、いろんな人と付き合った嫌な女ですよ。それに優柔不断で、カズマサさんにまだイエスともノーとも答えてないし」
「うーん、それは少し寂しいけど、過去のことは変えられないから仕方ないかなって! それに、そうやって気にかけてくれるってことは、ナナシちゃんなりに僕のことを大事にしてくれてるのかなって勝手に思ってる。告白の答えは、ナナシちゃんの心の整理がついてからでいいよ」
「……変な人」
そう言ってこちらを向いたナナシちゃんは笑顔を見せた。いつもの少しだけ口角を上げた笑顔でも、観客に見せる元気一杯な笑顔でもない、毒っ気も棘もない柔らかい笑顔。ふふっと笑う彼女を見て、「こんなやつだと思わなかった」なんて言った過去の男は見る目ないなあ、なんて思う。
しばらくして、まず先にサザナミタウンに着いた。ここにはイッシュ地方の四天王が過ごす別荘があるらしい。夏は避暑地として人が集まるようだけど、もう12月ともなると観光客もいなくてプライベートビーチのようだ。寒くないかと聞いたら、手を繋いでいるから寒くないと返ってきた。
カタカタカタ、とナナシちゃんのボールが鳴る。中から出てきたのはヒトデマンだった。結構気ままな性格のようで、海の近くに来たことがわかると一目散に飛び込んでいった。
「冷たい海なのに大丈夫かな」
「ぷかぷか浮いてるから大丈夫みたいです」
ヒトデマンが海で遊んでいるため、マリンチューブへ行く前に少しだけ砂浜で遊ぶことにした。柔らかい地面なので僕もボールからダグトリオを出す。寄せては返す波を見て少し驚いていたけれど、波の届かない位置に行くと砂に潜って遊んでいた。
「はじめて捕まえたポケモンはヒトデマンなんです」
「そういえば、ペリッパーさんが一番最後だって言ってたね」
「ヒトデマンは今みたいに海をぷかぷか浮いて遊んでいて、試しにボールを投げたら捕まえられたんです。ギャラドスの方は、釣りをしていたらコイキングが釣れて、ただ地面の上で跳ねていたからそのままボールに入れました。進化したのはペリッパーさんが手持ちに加わったあとかな。ペリッパーさんは、ヒトデマンと一緒に海で遊んでいるときに溺れたわたしを助けてくれて、それからいつも心配そうに様子を見にきてくれたから、しばらくして手持ちに加えました」
「じゃあ、性格的にはナナシちゃんってヒトデマンに似てるんだね」
「否定はしないけど肯定もしません」
「ごめんって。でも、ヒトデマンって少し表情がわかりにくいけど、ああやって好きなことをしているときは嬉しそうな姿がナナシちゃんに似てるなって思ったんだ。ナナシちゃんも大きく表情を変えることは少ないけど、ローラーシューズを走らせたり、甘いものを食べるときは嬉しそうだし、さっきも電車の中で柔らかい笑顔を見せてくれたし」
「そんなつもりは」
「無自覚だったの? 嬉しいな、そういうところを見ることができて」
ナナシちゃんは何も言わずに手を強く握ってきた。怒ったのかな、と思って顔色を伺うと目を瞑っていて、しばらくするとぱちぱちと瞬きをした。
「どうしたの?」
「なんでもないです……ヒトデマン、そろそろ行くよ。セイガイハシティにも海あるから」
ナナシちゃんがヒトデマンをボールに戻したので、僕も穴を掘っていたダグトリオを戻す。それから約束していたマリンチューブへと入っていった。
海の中を渡っているような造りで、ナナシちゃんはとても嬉しそうな表情をしていた。ときどき、あれ見てください、なんて指を差したり、手を引っ張ってガラスの近くへ行き気になったものを眺めたりと楽しそうにしている。特にホウエン地方に生息しているポケモンを見つけると目を輝かせた。
「ナナシちゃんが楽しそうでよかった」
「だって、海辺の街で育ったからみずタイプのポケモンが身近にいるのが当たり前だったのに、こっちに来たら全然いなくて」
「これでもここ2年の間で増えた方なんだよ。前はもっといなかったんだ」
「じゃあ、もし早い時期に引っ越してきたら、すごく寂しい思いしてたんだ……」
ホウエン地方はイッシュ地方と比べ物にならないくらい自然豊かだと聞いている。前にナナシちゃんがつぶやいた、イッシュ地方は人も建物も多い、という言葉の裏には、自然がない、海もないなんて意味が込められていたんじゃないかな、と思う。
「でもカズマサさんが連れてきてくれたおかげで、いっぱい見ることができて、嬉しい、です」
ふふ、っと照れたようにナナシちゃんは笑った。それからホエルオーを見つけて、嬉しそうに指を差した。マリンチューブでホエルオーを見られることはほとんどないと係員に言われていたので、とてもラッキーな日だ。連れてきて本当によかったと思う。
セイガイハシティに到着するとまたヒトデマンが勝手に飛び出して海へ潜っていったので、ナナシちゃんはペリッパーさんとギャラドスのボールも高く投げた。海に潜ったギャラドスは気持ちよさそうに体を伸ばしている。けれども、ペリッパーさんは浮き桟橋の上で翼をたたんでふたりの様子を眺めていた。
「ペリッパーさんは海で遊ばなくていいの?」
「ヒトデマンがぷかぷか浮いて流されないように監視してるんです」
くああ、と肯定するようにペリッパーさんは鳴いた。お母さん気質なんだな、と思っているとナナシちゃんに手を引っ張られて、街の中を見て回ろうと笑いかけられた。
「カズマサさん、お土産って買いますか?」
「お土産? うーん、職場のっていうのはちょっとなあ……鉄道員だけでも結構人いるし」
「じゃあ、自分の分」
「ナナシちゃんは何か欲しいものあるの?」
「ストラップが欲しいです」
それから「お揃いの」という言葉を付け足した。
「なら、お土産屋さんを回ろうか」
そう答えるとナナシちゃんはまた手を引っ張った。そして、いろいろと見て回ってやっと見つけたお揃いのストラップ。真珠と貝殻で飾られた鈴をちりんと鳴らすとナナシちゃんは笑顔を見せた。
「今日はローラーシューズじゃないんだ?」
「風を感じて走るより、ゆっくり歩けた方がいいかと思って」
普段と違う格好をしてきた理由がかわいくてつい笑ってしまったら、ムッとした表情でいつものようにナナシちゃんは僕の腕を掴んだ。しかし、それは徐々に下がっていき、僕の手に触れた。その小さな手はとても冷たい。
「ごめん、だいぶ待たせちゃったみたいだね」
「待ち合わせ時間的にはぴったりですよ」
「前もそうだったでしょ。21時に待ち合わせだったのに、20時半から待ってたこと」
「……わたしが勝手にやってることだから、気にしないでください」
早く行こう、とナナシちゃんは僕の手を引っ張った。サザナミタウンにはギアステーションにある電車で行ける。同僚にこの姿を見られるのは少し恥ずかしかったが、ナナシちゃんはそんなことなど気にせず目的の電車を見つけると改札を通り抜けて行った。
「地下鉄ってはじめて乗ったけど、窓の外も真っ暗でずっと夜みたい」
「ライモンシティを抜けてしばらくしたら外が見えるから大丈夫だよ」
座席に座ると、ナナシちゃんはそのときが来ないか窓をずっと見つめている。それから、僕の手をきゅっと握った。所謂恋人繋ぎ、ではないけれど、ナナシちゃんの方からこういうことをするとは思っていなかったので少し驚いた。それでも嬉しくて、僕も軽く握り返す。僕の体温が伝わったのか、ナナシちゃんの手もだいぶ温かくなっていた。
「わたしがセイガイハシティに行ったことがないって、どうしてわかったんですか」
「はじめてご飯食べに行ったときイッシュ地方は人も建物も多いって言ってたし、出身地のこともサンヨウシティのことをサンヨウタウンって間違えてたから、最近こっちに来たばかりなんだろうなって思っただけだよ」
「気づいていたのに指摘しなかったんですね」
「それ自体に意味は持たないからさ、どこ出身でもナナシちゃんはナナシちゃんだし」
「カズマサさんって頼りなさそうだしわたしと同い年みたいな見た目をしてる割に、そういうところは大人っぽいというか、余裕があるというか」
「褒められてるのかな、それとも貶されてるのかな……」
ナナシちゃんの言葉に苦笑いをしていると窓の外が明るくなった。暗くて冷たいコンクリの壁から青と緑の風景に変わる。
「よく『言い方がきつい』って言われました」
「うん?」
「コンテストに出場してるときは明るくて元気な子なのに、そうじゃないときは醒めてるし、言葉に棘があるって。一応、直してはいるつもりなんですけど」
「それもナナシちゃんの面白いところだからいいと思うけどな」
「本当、変な人」
「その変な人の誘いに乗ってくれたり、こうやって手を繋いだりしてくれるナナシちゃんも十分変わった子だね」
「別に手を繋ぎたいから繋いでるわけじゃなくて、カズマサさんが道に迷ってどこかに行かないよう手を繋いでるんです」
「流石に電車の中でふらふらどこかへ行くことはないと思うけど……」
「嫌ならいいです」
「嫌じゃないよ」
ナナシちゃんが手を離そうとしたので、逃げてしまわないように少しだけ力を入れてきゅっと握る。すると彼女はそっぽを向いてしまった。それでも、向かいの窓に映る姿でナナシちゃんの表情が見える。目を瞑って考え事をしているようだ。
「本当に嫌じゃないんですか」
「好きな子に手を繋いでもらって嫌な気持ちになる男はあんまりいないと思うよ」
「わたし、今までアクセサリー代わりにされてたとはいえ、いろんな人と付き合った嫌な女ですよ。それに優柔不断で、カズマサさんにまだイエスともノーとも答えてないし」
「うーん、それは少し寂しいけど、過去のことは変えられないから仕方ないかなって! それに、そうやって気にかけてくれるってことは、ナナシちゃんなりに僕のことを大事にしてくれてるのかなって勝手に思ってる。告白の答えは、ナナシちゃんの心の整理がついてからでいいよ」
「……変な人」
そう言ってこちらを向いたナナシちゃんは笑顔を見せた。いつもの少しだけ口角を上げた笑顔でも、観客に見せる元気一杯な笑顔でもない、毒っ気も棘もない柔らかい笑顔。ふふっと笑う彼女を見て、「こんなやつだと思わなかった」なんて言った過去の男は見る目ないなあ、なんて思う。
しばらくして、まず先にサザナミタウンに着いた。ここにはイッシュ地方の四天王が過ごす別荘があるらしい。夏は避暑地として人が集まるようだけど、もう12月ともなると観光客もいなくてプライベートビーチのようだ。寒くないかと聞いたら、手を繋いでいるから寒くないと返ってきた。
カタカタカタ、とナナシちゃんのボールが鳴る。中から出てきたのはヒトデマンだった。結構気ままな性格のようで、海の近くに来たことがわかると一目散に飛び込んでいった。
「冷たい海なのに大丈夫かな」
「ぷかぷか浮いてるから大丈夫みたいです」
ヒトデマンが海で遊んでいるため、マリンチューブへ行く前に少しだけ砂浜で遊ぶことにした。柔らかい地面なので僕もボールからダグトリオを出す。寄せては返す波を見て少し驚いていたけれど、波の届かない位置に行くと砂に潜って遊んでいた。
「はじめて捕まえたポケモンはヒトデマンなんです」
「そういえば、ペリッパーさんが一番最後だって言ってたね」
「ヒトデマンは今みたいに海をぷかぷか浮いて遊んでいて、試しにボールを投げたら捕まえられたんです。ギャラドスの方は、釣りをしていたらコイキングが釣れて、ただ地面の上で跳ねていたからそのままボールに入れました。進化したのはペリッパーさんが手持ちに加わったあとかな。ペリッパーさんは、ヒトデマンと一緒に海で遊んでいるときに溺れたわたしを助けてくれて、それからいつも心配そうに様子を見にきてくれたから、しばらくして手持ちに加えました」
「じゃあ、性格的にはナナシちゃんってヒトデマンに似てるんだね」
「否定はしないけど肯定もしません」
「ごめんって。でも、ヒトデマンって少し表情がわかりにくいけど、ああやって好きなことをしているときは嬉しそうな姿がナナシちゃんに似てるなって思ったんだ。ナナシちゃんも大きく表情を変えることは少ないけど、ローラーシューズを走らせたり、甘いものを食べるときは嬉しそうだし、さっきも電車の中で柔らかい笑顔を見せてくれたし」
「そんなつもりは」
「無自覚だったの? 嬉しいな、そういうところを見ることができて」
ナナシちゃんは何も言わずに手を強く握ってきた。怒ったのかな、と思って顔色を伺うと目を瞑っていて、しばらくするとぱちぱちと瞬きをした。
「どうしたの?」
「なんでもないです……ヒトデマン、そろそろ行くよ。セイガイハシティにも海あるから」
ナナシちゃんがヒトデマンをボールに戻したので、僕も穴を掘っていたダグトリオを戻す。それから約束していたマリンチューブへと入っていった。
海の中を渡っているような造りで、ナナシちゃんはとても嬉しそうな表情をしていた。ときどき、あれ見てください、なんて指を差したり、手を引っ張ってガラスの近くへ行き気になったものを眺めたりと楽しそうにしている。特にホウエン地方に生息しているポケモンを見つけると目を輝かせた。
「ナナシちゃんが楽しそうでよかった」
「だって、海辺の街で育ったからみずタイプのポケモンが身近にいるのが当たり前だったのに、こっちに来たら全然いなくて」
「これでもここ2年の間で増えた方なんだよ。前はもっといなかったんだ」
「じゃあ、もし早い時期に引っ越してきたら、すごく寂しい思いしてたんだ……」
ホウエン地方はイッシュ地方と比べ物にならないくらい自然豊かだと聞いている。前にナナシちゃんがつぶやいた、イッシュ地方は人も建物も多い、という言葉の裏には、自然がない、海もないなんて意味が込められていたんじゃないかな、と思う。
「でもカズマサさんが連れてきてくれたおかげで、いっぱい見ることができて、嬉しい、です」
ふふ、っと照れたようにナナシちゃんは笑った。それからホエルオーを見つけて、嬉しそうに指を差した。マリンチューブでホエルオーを見られることはほとんどないと係員に言われていたので、とてもラッキーな日だ。連れてきて本当によかったと思う。
セイガイハシティに到着するとまたヒトデマンが勝手に飛び出して海へ潜っていったので、ナナシちゃんはペリッパーさんとギャラドスのボールも高く投げた。海に潜ったギャラドスは気持ちよさそうに体を伸ばしている。けれども、ペリッパーさんは浮き桟橋の上で翼をたたんでふたりの様子を眺めていた。
「ペリッパーさんは海で遊ばなくていいの?」
「ヒトデマンがぷかぷか浮いて流されないように監視してるんです」
くああ、と肯定するようにペリッパーさんは鳴いた。お母さん気質なんだな、と思っているとナナシちゃんに手を引っ張られて、街の中を見て回ろうと笑いかけられた。
「カズマサさん、お土産って買いますか?」
「お土産? うーん、職場のっていうのはちょっとなあ……鉄道員だけでも結構人いるし」
「じゃあ、自分の分」
「ナナシちゃんは何か欲しいものあるの?」
「ストラップが欲しいです」
それから「お揃いの」という言葉を付け足した。
「なら、お土産屋さんを回ろうか」
そう答えるとナナシちゃんはまた手を引っ張った。そして、いろいろと見て回ってやっと見つけたお揃いのストラップ。真珠と貝殻で飾られた鈴をちりんと鳴らすとナナシちゃんは笑顔を見せた。