雲外蒼天
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「集中を切らすな!魔術回路はお前の手足だ。魔眼はあくまでお前の所有物。主導権を渡すな」
昨日の騒動のせいで、今日の学校はほぼ休校であった。そのため朝から、魔術の心得があるランサーに魔眼のコントロールを指導してもらっていた。
彼に言われたとおり、魔眼の魔術回路を自分の魔術回路に上乗せするイメージで、精神を研ぎ澄ました。
何となくではあるが、魔力が回っているという感覚は理解出来るようになった気がする。
しかしこれは魔術師が何年もかけて習得する技術であり、その上十分に回路が開いていない状態の私が付け焼き刃で身につけられるものではなかった。油断すると魔眼は容赦なく牙をむく。この体の主は自分だと主張するかのように。
「はぁ…これ、すっごく神経使うのね」
「そりゃお前さんはずぶの素人だからな。慣れるまでの辛抱だ」
「これに慣れるのかあ…」
5km全力で走りながら分厚い専門書を読んでいるような…例えようがないが、とにかく身体も頭も酷使されてとても疲れる。
「呼吸する時、息を吸うタイミングや吐くタイミングをいちいち考えたりしないだろ?魔術ってのはそれと同じだ」
「意識せず、あくまで当然のことのように扱えるようにならなきゃいけないってわけね」
乱れた息を整えて、額に滲む汗を拭いとった。
「今日はこれくらいにしておくか?」
ランサーは少し意地悪な笑みを浮かべている。
「まさか。…魔眼 を完全に支配するには、こんなもんじゃ足りないよ。…まだまだ!」
ランサーの両耳についているものと同じ、ルーン魔術のかけられた銀のピアスが、光にあたってチラチラ煌めいた。
午後。
「お見舞いの方ですね、こちらへどうぞ」
昨日魂食いをされて入院している友人達のお見舞いのため、私は冬木で1番大きな病院を訪れていた。
「あ、麻音!来てくれたんだ〜〜」
案内された部屋に足を踏み入れると、思ったよりも元気な様子で迎えてくれた。
「友香!良かった、元気そうで」
「入院なんて大げさだと思わない?昨日みんなで搬送されて検査受けて、ぶっちゃけ帰れないこともなかったんだけど念の為一日だけここで様子見なさいってお母さんに言われてさぁ〜」
そう言う彼女はいつもと同じく快活に笑った。
「ほんとに元気で安心したよ」
「それにしてもガス漏れで生徒全員衰弱なんてね。麻音は運良く昨日のうちに帰れて良かったね、ピンピンしてるし」
昨日1人だけ抜け出してゴメン、と心の中で謝った。
「物騒だよね。そういえばハイこれ、お見舞い」
「ナニナニ?…こ、これは駅前のなめらかプリン…!!やったー!!!」
「美味しそうなのいっぱいあったから何個か買ってきちゃった」
「麻音大好き!病院食がマズくてちょっと凹んでたんよ!!」
「煩いぞ青柳!」
喜ぶ友香の声に痺れを切らしたのか、隣のベッドの患者が仕切りのカーテンを開けて文句を言ってきた。
「げっ、柳洞くん…」
「病院では静かにしろ青柳。見舞いの言峰よりお前の方が声が大きいとは何事だ」
「はいはい、すいませーん」
声の主は我らが生徒会長だった。歯切れの良い柳洞節は健在だが、普段より少し元気がないように見える。
「柳洞くんもこの部屋だったんだ」
「あぁ。C組の病室はここら一帯に割り当てられているらしい」
「そっかぁ。良かったら柳洞くんもコレ食べる?」
彼がちらっとプリンの方を見たのを見逃さなかった。
「いや、青柳のために買ってきたのだろう。俺は結構だ」
「4つも買ってきちゃったから。嫌いじゃなければ貰ってほしいな」
そう言うと彼の目が眼鏡の奥で少しだけ輝いた。…ような気がした。
「そうか…!…コホン、かたじけない。では有難く、施しを受けるとしよう」
「あたし抹茶味ね!」
「あ、飲み物買ってこなきゃ。ごめん、二人とも先食べてて」
「ついでにコーラ買ってきてー!」
「ハイハイ」
たしかフロア内に自販機があったはずだ。部屋を離れると柳洞くんの、友人をパシリ使うとは何事か!いう叱責が聞こえてきた。
「あれ?言峰?」
すれ違いざま、見覚えのある橙色の髪が視界に入った。
「…衛宮くん!」
「…プリン、ありがとな」
「う、うん」
柳洞くんのお見舞いに来ていたらしい衛宮くんと、何やかんやあって一緒に帰ることになってしまった。
昨日1人で先に帰ってしまったこともあり、非常に気まずい。
しばしの沈黙。
神都の街並みは相変わらず雑然としていて、いつもと同じく、どこか忙しない。とにかくなにか喋らなければ、と彼の方をこっそりと覗き見てみたが、眩しすぎる夕陽のせいで表情は読み取れなかった。
「「あのさ」」
「あっ」
「あっ…」
声が重なった。思わず顔を見合わせるとなんだか笑いがこみあげてきて、さっきの微妙な空気はどこ吹く風、一瞬にして和やかな雰囲気が流れた。
「あぁすまん、お先にどうぞ」
「ありがとう。…えっと…昨日はごめんなさい。その…衛宮くんと遠坂さんに助けて貰ったのに、怖くて1人だけで逃げ帰っちゃった。」
「別に気にしてないよ。言峰が無事に帰れてよかった。だから、頭を上げてくれ」
彼がセイバーを喚んだ事については触れず、あくまで「助けて貰った」ことにのみ言及した。
彼はそれに気づいたようだったが、何も言ってくることはなかった。
「ありがとう。衛宮くんの要件もどうぞ」
立ち話もなんだから、と近くの公園のベンチに腰掛けた。
「大した話じゃないんだけど…こないだ、お前の親父さんと会う機会があったんだ」
世間話に見せかけて教会と父さんの話を出すことで、私が聖杯戦争についてどの程度知っているのか聞き出そうとしているということだろうか。
「父さん、神父とは思えない性格してるでしょ」
「え、いや…変わってるっていうか、ことみ…お前と全然似てないなとは思ったけど」
「呼び方ややこしいでしょ。麻音でいいよ。まぁ養子だからね。似てないのも無理ないよ」
むしろ似ていると言われたら割とショックである。
「そうだったのか」
「うん。…10年前の大火災のときにね、父さんに拾われたの」
「……!!」
好奇の目を向けられることが多いため身の上話をするのはいつもは避けているのだが、この時は何故か、彼には話しておかなければ、という気持ちだった。
「…衛宮くん?どうしたの?」
彼は差し迫った表情で私を見つめる。額には汗が滲んでいるのが見えた。
私が声をかけるとはっとしたように居直して、にわかに私の両肩を掴んできた。
「えっ、何、何何」
「麻音!…今後困ったことがあったらすぐに俺に言えよ、絶対にだ」
「何、何なの、急に!?わかった、わかったってば」
その後、空が暗くなり始めるまで他愛もない話をし続けていた。彼はこれ以上聖杯戦争について問うてくることはなく、私も右手に隠した令呪を明かすことはなかった。
「ありがとう。ごめんね、家まで送ってもらって」
空はすっかり夕闇に支配されていた。近いからひとりで帰れるよと言ったのだが、危ないからと衛宮くんはここまで着いてきてくれた。
「物騒だからな。今後も夜道はひとりで歩いたりするなよ」
「うん、わかった。ありがとう」
「あと学校に居残ったりもするなよ。危ないから」
「あ、うん」
「さっきも言ったけど困り事があったらすぐに頼れよ!じゃ!」
「……」
矢継ぎ早に言葉を残して、衛宮くんはすたこらと帰路に着いていった。
ちょっと過保護過ぎないか。お前は私のお母さんか。
『なんだありゃ。お前のお袋か何かか?』
ランサーの声が響いた。まさに今私が思っていたことである。
『さぁ…?』
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追記:何度か出てきた主人公の友達ですが、「友人」呼びだとあまりにもそっけないので名前をつけました。『青柳友香(あおやなぎ ともか)』です。
昨日の騒動のせいで、今日の学校はほぼ休校であった。そのため朝から、魔術の心得があるランサーに魔眼のコントロールを指導してもらっていた。
彼に言われたとおり、魔眼の魔術回路を自分の魔術回路に上乗せするイメージで、精神を研ぎ澄ました。
何となくではあるが、魔力が回っているという感覚は理解出来るようになった気がする。
しかしこれは魔術師が何年もかけて習得する技術であり、その上十分に回路が開いていない状態の私が付け焼き刃で身につけられるものではなかった。油断すると魔眼は容赦なく牙をむく。この体の主は自分だと主張するかのように。
「はぁ…これ、すっごく神経使うのね」
「そりゃお前さんはずぶの素人だからな。慣れるまでの辛抱だ」
「これに慣れるのかあ…」
5km全力で走りながら分厚い専門書を読んでいるような…例えようがないが、とにかく身体も頭も酷使されてとても疲れる。
「呼吸する時、息を吸うタイミングや吐くタイミングをいちいち考えたりしないだろ?魔術ってのはそれと同じだ」
「意識せず、あくまで当然のことのように扱えるようにならなきゃいけないってわけね」
乱れた息を整えて、額に滲む汗を拭いとった。
「今日はこれくらいにしておくか?」
ランサーは少し意地悪な笑みを浮かべている。
「まさか。…
ランサーの両耳についているものと同じ、ルーン魔術のかけられた銀のピアスが、光にあたってチラチラ煌めいた。
午後。
「お見舞いの方ですね、こちらへどうぞ」
昨日魂食いをされて入院している友人達のお見舞いのため、私は冬木で1番大きな病院を訪れていた。
「あ、麻音!来てくれたんだ〜〜」
案内された部屋に足を踏み入れると、思ったよりも元気な様子で迎えてくれた。
「友香!良かった、元気そうで」
「入院なんて大げさだと思わない?昨日みんなで搬送されて検査受けて、ぶっちゃけ帰れないこともなかったんだけど念の為一日だけここで様子見なさいってお母さんに言われてさぁ〜」
そう言う彼女はいつもと同じく快活に笑った。
「ほんとに元気で安心したよ」
「それにしてもガス漏れで生徒全員衰弱なんてね。麻音は運良く昨日のうちに帰れて良かったね、ピンピンしてるし」
昨日1人だけ抜け出してゴメン、と心の中で謝った。
「物騒だよね。そういえばハイこれ、お見舞い」
「ナニナニ?…こ、これは駅前のなめらかプリン…!!やったー!!!」
「美味しそうなのいっぱいあったから何個か買ってきちゃった」
「麻音大好き!病院食がマズくてちょっと凹んでたんよ!!」
「煩いぞ青柳!」
喜ぶ友香の声に痺れを切らしたのか、隣のベッドの患者が仕切りのカーテンを開けて文句を言ってきた。
「げっ、柳洞くん…」
「病院では静かにしろ青柳。見舞いの言峰よりお前の方が声が大きいとは何事だ」
「はいはい、すいませーん」
声の主は我らが生徒会長だった。歯切れの良い柳洞節は健在だが、普段より少し元気がないように見える。
「柳洞くんもこの部屋だったんだ」
「あぁ。C組の病室はここら一帯に割り当てられているらしい」
「そっかぁ。良かったら柳洞くんもコレ食べる?」
彼がちらっとプリンの方を見たのを見逃さなかった。
「いや、青柳のために買ってきたのだろう。俺は結構だ」
「4つも買ってきちゃったから。嫌いじゃなければ貰ってほしいな」
そう言うと彼の目が眼鏡の奥で少しだけ輝いた。…ような気がした。
「そうか…!…コホン、かたじけない。では有難く、施しを受けるとしよう」
「あたし抹茶味ね!」
「あ、飲み物買ってこなきゃ。ごめん、二人とも先食べてて」
「ついでにコーラ買ってきてー!」
「ハイハイ」
たしかフロア内に自販機があったはずだ。部屋を離れると柳洞くんの、友人をパシリ使うとは何事か!いう叱責が聞こえてきた。
「あれ?言峰?」
すれ違いざま、見覚えのある橙色の髪が視界に入った。
「…衛宮くん!」
「…プリン、ありがとな」
「う、うん」
柳洞くんのお見舞いに来ていたらしい衛宮くんと、何やかんやあって一緒に帰ることになってしまった。
昨日1人で先に帰ってしまったこともあり、非常に気まずい。
しばしの沈黙。
神都の街並みは相変わらず雑然としていて、いつもと同じく、どこか忙しない。とにかくなにか喋らなければ、と彼の方をこっそりと覗き見てみたが、眩しすぎる夕陽のせいで表情は読み取れなかった。
「「あのさ」」
「あっ」
「あっ…」
声が重なった。思わず顔を見合わせるとなんだか笑いがこみあげてきて、さっきの微妙な空気はどこ吹く風、一瞬にして和やかな雰囲気が流れた。
「あぁすまん、お先にどうぞ」
「ありがとう。…えっと…昨日はごめんなさい。その…衛宮くんと遠坂さんに助けて貰ったのに、怖くて1人だけで逃げ帰っちゃった。」
「別に気にしてないよ。言峰が無事に帰れてよかった。だから、頭を上げてくれ」
彼がセイバーを喚んだ事については触れず、あくまで「助けて貰った」ことにのみ言及した。
彼はそれに気づいたようだったが、何も言ってくることはなかった。
「ありがとう。衛宮くんの要件もどうぞ」
立ち話もなんだから、と近くの公園のベンチに腰掛けた。
「大した話じゃないんだけど…こないだ、お前の親父さんと会う機会があったんだ」
世間話に見せかけて教会と父さんの話を出すことで、私が聖杯戦争についてどの程度知っているのか聞き出そうとしているということだろうか。
「父さん、神父とは思えない性格してるでしょ」
「え、いや…変わってるっていうか、ことみ…お前と全然似てないなとは思ったけど」
「呼び方ややこしいでしょ。麻音でいいよ。まぁ養子だからね。似てないのも無理ないよ」
むしろ似ていると言われたら割とショックである。
「そうだったのか」
「うん。…10年前の大火災のときにね、父さんに拾われたの」
「……!!」
好奇の目を向けられることが多いため身の上話をするのはいつもは避けているのだが、この時は何故か、彼には話しておかなければ、という気持ちだった。
「…衛宮くん?どうしたの?」
彼は差し迫った表情で私を見つめる。額には汗が滲んでいるのが見えた。
私が声をかけるとはっとしたように居直して、にわかに私の両肩を掴んできた。
「えっ、何、何何」
「麻音!…今後困ったことがあったらすぐに俺に言えよ、絶対にだ」
「何、何なの、急に!?わかった、わかったってば」
その後、空が暗くなり始めるまで他愛もない話をし続けていた。彼はこれ以上聖杯戦争について問うてくることはなく、私も右手に隠した令呪を明かすことはなかった。
「ありがとう。ごめんね、家まで送ってもらって」
空はすっかり夕闇に支配されていた。近いからひとりで帰れるよと言ったのだが、危ないからと衛宮くんはここまで着いてきてくれた。
「物騒だからな。今後も夜道はひとりで歩いたりするなよ」
「うん、わかった。ありがとう」
「あと学校に居残ったりもするなよ。危ないから」
「あ、うん」
「さっきも言ったけど困り事があったらすぐに頼れよ!じゃ!」
「……」
矢継ぎ早に言葉を残して、衛宮くんはすたこらと帰路に着いていった。
ちょっと過保護過ぎないか。お前は私のお母さんか。
『なんだありゃ。お前のお袋か何かか?』
ランサーの声が響いた。まさに今私が思っていたことである。
『さぁ…?』
---------------------------
追記:何度か出てきた主人公の友達ですが、「友人」呼びだとあまりにもそっけないので名前をつけました。『青柳友香(あおやなぎ ともか)』です。