雲外蒼天
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昨夜は変な夢を見た。
いや、途中までは『いつもの悪夢』だったはずだ。終盤見たこともない男が現れたのだ。しかしその男の風貌だけはなぜか靄がかかったように思い出せず、名状しがたい微妙な気分だ。
校門をくぐると、ずしんと身体が重くなったような感覚に襲われた。
「…?」
…そんなに疲れているのだろうか?
「おはよー麻音…って!なにそのヒドい顔」
「おはよ〜…ひどいとは何よ、昨日あんまり眠れなかったの」
この倦怠感はきっと寝不足のせいなのだろう。一見してわかるほどひどい顔をしていたとは…
「スキあり!」
「わっ」
友人に眼鏡を奪われた。
「せっかくすっぴんでも可愛い顔してんだから日頃のケアはちゃんとしなさいよ!ほら、コンシーラー塗ってあげる」
友人は慣れた手つきで私の顔にいろいろと施してゆき、私は完全にされるがままだった。
「なんか…恥ずかしいなぁ」
「時間が許す限り可愛くしてあげるわよ〜!」
なんだかスイッチが入ってしまったのか、ポーチからなんやらかんやら化粧品を取り出す友人を横目に前方の時計を確認すると、たしかに十分に時間はあるようだった。
「てか麻音、メガネなくてもそこそこ見えてんじゃん」
「目が悪いわけじゃないんだ。お守りみたいなもので」
「えぇ〜伊達なの!?」
この眼鏡は数年前に父から貰ったものだ。曰く、護符のような意味合いをもつ有難いものらしい。肌身離さずつけていなさいと言われたので、入浴時以外は基本着けている。
「あれ、麻音って――右目と左目、ちょっと色違うんだね」
マスカラを塗りながら、彼女が何の気なしに呟いた。
「え、――――」
そんな筈は。
「よっし終わりっ!ほら、マシになったっしょ?」
背中をどんっと叩かれ、喉から出かかった言葉は押し留められた。
ずい、と鏡を押し付けられ、見るとたしかに隈は隠れていたしなんだか顔色が良くなったように見える。
「おぉ…!すごい、ありがとう」
「あたしにかかれば楽勝よっ」
ふふん、と得意げな友人。
先生が来るまであと15分、教室内は人が集まり始めていた。
「衛宮くん、いるかしら?」
鈴のような声が、ザワつく教室内に凛として響きわたった。
声の主は隣のクラスの遠坂さんだった。その名を冠するに相応しい、容姿も所作もまさに凛とした、つねに皆の注目の的である美少女。
彼女は衛宮くんの席のあたりに目をやり、やがて私と視線が交わった。
「………!」
彼女は私を見るなり少しだけ引きつったような表情をした…ように見えた。本当に少しだけだが、眉がぴくりと動いたのだ。
やや不自然な沈黙。目が合ったのに黙っているのも印象が悪いと思い、不自然にならぬよう精一杯の笑みを浮かべ、返答をした。
「えっと…衛宮くん、たぶん生徒会室にいると思う」
「…あ、そう。ありがとう」
遠坂さんは少し驚いたような顔をして、踵を返していった。
初めて喋ったなぁ…
その後なんとなく惚けたままでいるといつのまにかHRは始まっており、あわてて眼鏡をかけ直し前を向いた。
なんだか今日は思考がまとまらないし、ちょっと身体もだるい。早く帰って、礼拝堂に寄って、早めに寝よう。
今日のお夕飯は何にしようかな。父さんは放っておくといつも激辛麻婆豆腐しか食べないから…
やや痛む頭を回転させ、夕焼けに染まる階段を下る。先生に頼まれたプリントを職員室に持っていく最中だった。
「あれ?言峰じゃん」
げ。
思わず声が出そうになったがすんでのところで抑えられた。顔を上げるとやはり、クラスメイトの間桐慎二が取り巻きの女の子数名を連れて立っていた。
単刀直入に言うと私はこの男が苦手である。
容姿も成績もよく女子には人気があるらしいが、衛宮くんへのつっかかり方を間近で見ているとどうも苛々してしまう。
「…あら。ごきげんよう?」
特に話すこともないし、早く用事を済ませて帰ろう。
「まあまあ言峰さん、ちょっと待てって」
そう言いつつ彼は私の持っているプリントの束に、自分の持っていた封筒を載せてきた。
「今から職員室に行くんだろ?僕いまちょっと忙しくてさ。悪いんだけどこれ、持って行ってくれない?」
貼り付けたような笑みで、私に仕事を押し付けてきた。
私もそれに負けじと、とびきりのつくりものの笑顔を向ける。
「うん、いいよ、ついでだし」
「悪いね悪いね。それにしても言峰さん、今日なんかいつもより可愛いじゃん」
なんだ?この男 忙しいのではなかったのか?
「さらっとそんなこと言うなんてさすが間桐くんだね」
笑顔を崩さぬよう細心の注意を払った。
「どうしたの?心境の変化?最近衛宮と仲良いし、好きになっちゃったとか?」
何言ってんだこいつ
これ以上無駄話をする気はない。放っておけばどんどん彼は話をエスカレートさせていくだろう。それにしても間桐くんの取り巻きは彼の話を面白いと思って聞いているのか?ほとほと疑問である。
「間桐くん、多忙なのに時間を割いてもらって悪いね。私は貴方ほど忙しいわけじゃないけど…全然興味のない人の話を長々と聞く程、暇でもないんだ。じゃあ、また明日ね!」
「なっ」
彼の話を遮るようにして、私は職員室へと再び歩き出した。
後方から癇癪めいた声が聞こえ、歩みを早めた。
思ったより遅い帰宅になっちゃったな。
お夕飯を作り終え、礼拝堂へと向かった。きっと父もそこにいるだろう。
扉に近づくと、うっすらと父と誰かの話し声が聞こえてきた。
ギィーと年季の入った音を響かせ中に入ると、居るのは父だけだった。
「帰ったか、麻音」
「あれ?父さんいま誰かと話してなかった?」
「気のせいだ」
確かに声がした気がしたのだが。
「そう?ご飯出来たから食べよ、父さん」
彩り良いおかずが何品も並ぶ食卓だが、2人で囲むにはいささか広すぎるなあ、と常日頃から思っている。
いただきます。
手を合わせ神に感謝を伝えると、めずらしく父が先に口を開いた。
「麻音、最近、変わったことはあるか」
「変わったこと…?特にないなぁ。父さんがこんなこと聞いてくるのが最近で一番変わったことと言える程には、平和」
「そうか」
もぐもぐ。
それから暫く、食器と食器が触れ合う時の音と、ふたりぶんの咀嚼音だけが広すぎるリビングに響いていた。テレビのないこの部屋ではいつもの光景である。
「今日のハンバーグは完璧だなぁ。天才かもしれない」
独り言のようにつぶやくと、返事は無かったが、父の皿を見るときれいに完食されていた。上出来である。
ごはんを食べたからなのか、学校にいたときの身体の重さはすっかりなくなっていた。
「麻音」
いつの間にか父が背後に立っていた。
「わっ、びっくりした!音もなく後ろに立つのやめて!」
振り返ると、父は私の眼鏡をはずして両肩を掴み、瞳を覗き込んできた。
しばしの沈黙。
今までも時折こういうことがあった。無言で私の目を見て、やがて満足したように去っていくのだ。意図はわからない。
ふ、と父が笑った気がした。
満足したらしい父は私の肩を離し、背を向けて歩き出した。
「お前に渡す物がある。礼拝堂へ来い」
「右と左、どちらか選べ。麻音」
行くなり、なんの説明もなしにそう告げられた。
「右と左?何が?」
「選べ」
説明する気は無いようだった。父の言うことはいつも難解でわかりづらくて、言葉が足りない。
「なんかよくわかんないけど、左!」
そう答えると、父はポケットから何か取り出した。
「なにこれ…?」
言うが早いか、大きな手が私の左耳に伸びてきた。
「痛みは一瞬だ」
バチン、と激しい音がして、思わず目を強く瞑った。
「いっ…」
耳たぶに一瞬衝撃が走ったが、音に対する驚きの方が大きかった。
どうやらピアッサーで穴を開けられたらしい。驚きと痛みからか、目の端から数滴涙がこぼれ落ちた。
「こういうのは先に説明してからやってよ!」
未だ潤む瞳でキッと睨みつけると、父はいつになく愉しそうに笑みを浮かべていた。私の痛がる様を見るのが好きなのだろう。困った人だ。
「先に言ったぞ。右か左、どちらが良いか」
「全然わかんないよ!でも贈り物がピアスってことだけはわかった!今!」
穴が空いた直後は特になにも感じなかったのだが、少し時間が経ったからかじんじんとした痛みが耳たぶに熱をもたらした。
「今、傷口を塞ぐ」
再び手が左耳に添えられた。私は魔術に詳しくないが、父の治癒魔術が一流ということはわかっている。
「終わったぞ」
左耳に触れてみると確かに痛みは完全になくなっており、かわりに水雷型のピアスが付けられていた。
「これは…」
「いずれお前に必要になるものだ。銀で出来ていて、古の強力な呪 いがかけられている」
「必要…」
父が私に初めて眼鏡を寄越したときもこんな感じに唐突だったな、と思い出す。
「なんかよくわかんないけど、とりあえず大切にするね」
礼拝堂の空気に触れて冷たくなった銀のピアスを手で弄び、私は自室に戻った。
「きれい…」
自室の鏡越しに見る銀のピアスは神秘的な輝きを放っていた。
「いにしえのまじない、って言ってたな」
お守りみたいな感じなんだろうな。この眼鏡とおなじ。
そろそろ寝ようと眼鏡を外し、なんとなく鏡に近づいて自分の両の目をじっくりと見てみた。
「あれ?」
左の目、こんなに濃い色だったっけ。
いや、途中までは『いつもの悪夢』だったはずだ。終盤見たこともない男が現れたのだ。しかしその男の風貌だけはなぜか靄がかかったように思い出せず、名状しがたい微妙な気分だ。
校門をくぐると、ずしんと身体が重くなったような感覚に襲われた。
「…?」
…そんなに疲れているのだろうか?
「おはよー麻音…って!なにそのヒドい顔」
「おはよ〜…ひどいとは何よ、昨日あんまり眠れなかったの」
この倦怠感はきっと寝不足のせいなのだろう。一見してわかるほどひどい顔をしていたとは…
「スキあり!」
「わっ」
友人に眼鏡を奪われた。
「せっかくすっぴんでも可愛い顔してんだから日頃のケアはちゃんとしなさいよ!ほら、コンシーラー塗ってあげる」
友人は慣れた手つきで私の顔にいろいろと施してゆき、私は完全にされるがままだった。
「なんか…恥ずかしいなぁ」
「時間が許す限り可愛くしてあげるわよ〜!」
なんだかスイッチが入ってしまったのか、ポーチからなんやらかんやら化粧品を取り出す友人を横目に前方の時計を確認すると、たしかに十分に時間はあるようだった。
「てか麻音、メガネなくてもそこそこ見えてんじゃん」
「目が悪いわけじゃないんだ。お守りみたいなもので」
「えぇ〜伊達なの!?」
この眼鏡は数年前に父から貰ったものだ。曰く、護符のような意味合いをもつ有難いものらしい。肌身離さずつけていなさいと言われたので、入浴時以外は基本着けている。
「あれ、麻音って――右目と左目、ちょっと色違うんだね」
マスカラを塗りながら、彼女が何の気なしに呟いた。
「え、――――」
そんな筈は。
「よっし終わりっ!ほら、マシになったっしょ?」
背中をどんっと叩かれ、喉から出かかった言葉は押し留められた。
ずい、と鏡を押し付けられ、見るとたしかに隈は隠れていたしなんだか顔色が良くなったように見える。
「おぉ…!すごい、ありがとう」
「あたしにかかれば楽勝よっ」
ふふん、と得意げな友人。
先生が来るまであと15分、教室内は人が集まり始めていた。
「衛宮くん、いるかしら?」
鈴のような声が、ザワつく教室内に凛として響きわたった。
声の主は隣のクラスの遠坂さんだった。その名を冠するに相応しい、容姿も所作もまさに凛とした、つねに皆の注目の的である美少女。
彼女は衛宮くんの席のあたりに目をやり、やがて私と視線が交わった。
「………!」
彼女は私を見るなり少しだけ引きつったような表情をした…ように見えた。本当に少しだけだが、眉がぴくりと動いたのだ。
やや不自然な沈黙。目が合ったのに黙っているのも印象が悪いと思い、不自然にならぬよう精一杯の笑みを浮かべ、返答をした。
「えっと…衛宮くん、たぶん生徒会室にいると思う」
「…あ、そう。ありがとう」
遠坂さんは少し驚いたような顔をして、踵を返していった。
初めて喋ったなぁ…
その後なんとなく惚けたままでいるといつのまにかHRは始まっており、あわてて眼鏡をかけ直し前を向いた。
なんだか今日は思考がまとまらないし、ちょっと身体もだるい。早く帰って、礼拝堂に寄って、早めに寝よう。
今日のお夕飯は何にしようかな。父さんは放っておくといつも激辛麻婆豆腐しか食べないから…
やや痛む頭を回転させ、夕焼けに染まる階段を下る。先生に頼まれたプリントを職員室に持っていく最中だった。
「あれ?言峰じゃん」
げ。
思わず声が出そうになったがすんでのところで抑えられた。顔を上げるとやはり、クラスメイトの間桐慎二が取り巻きの女の子数名を連れて立っていた。
単刀直入に言うと私はこの男が苦手である。
容姿も成績もよく女子には人気があるらしいが、衛宮くんへのつっかかり方を間近で見ているとどうも苛々してしまう。
「…あら。ごきげんよう?」
特に話すこともないし、早く用事を済ませて帰ろう。
「まあまあ言峰さん、ちょっと待てって」
そう言いつつ彼は私の持っているプリントの束に、自分の持っていた封筒を載せてきた。
「今から職員室に行くんだろ?僕いまちょっと忙しくてさ。悪いんだけどこれ、持って行ってくれない?」
貼り付けたような笑みで、私に仕事を押し付けてきた。
私もそれに負けじと、とびきりのつくりものの笑顔を向ける。
「うん、いいよ、ついでだし」
「悪いね悪いね。それにしても言峰さん、今日なんかいつもより可愛いじゃん」
なんだ?この男 忙しいのではなかったのか?
「さらっとそんなこと言うなんてさすが間桐くんだね」
笑顔を崩さぬよう細心の注意を払った。
「どうしたの?心境の変化?最近衛宮と仲良いし、好きになっちゃったとか?」
何言ってんだこいつ
これ以上無駄話をする気はない。放っておけばどんどん彼は話をエスカレートさせていくだろう。それにしても間桐くんの取り巻きは彼の話を面白いと思って聞いているのか?ほとほと疑問である。
「間桐くん、多忙なのに時間を割いてもらって悪いね。私は貴方ほど忙しいわけじゃないけど…全然興味のない人の話を長々と聞く程、暇でもないんだ。じゃあ、また明日ね!」
「なっ」
彼の話を遮るようにして、私は職員室へと再び歩き出した。
後方から癇癪めいた声が聞こえ、歩みを早めた。
思ったより遅い帰宅になっちゃったな。
お夕飯を作り終え、礼拝堂へと向かった。きっと父もそこにいるだろう。
扉に近づくと、うっすらと父と誰かの話し声が聞こえてきた。
ギィーと年季の入った音を響かせ中に入ると、居るのは父だけだった。
「帰ったか、麻音」
「あれ?父さんいま誰かと話してなかった?」
「気のせいだ」
確かに声がした気がしたのだが。
「そう?ご飯出来たから食べよ、父さん」
彩り良いおかずが何品も並ぶ食卓だが、2人で囲むにはいささか広すぎるなあ、と常日頃から思っている。
いただきます。
手を合わせ神に感謝を伝えると、めずらしく父が先に口を開いた。
「麻音、最近、変わったことはあるか」
「変わったこと…?特にないなぁ。父さんがこんなこと聞いてくるのが最近で一番変わったことと言える程には、平和」
「そうか」
もぐもぐ。
それから暫く、食器と食器が触れ合う時の音と、ふたりぶんの咀嚼音だけが広すぎるリビングに響いていた。テレビのないこの部屋ではいつもの光景である。
「今日のハンバーグは完璧だなぁ。天才かもしれない」
独り言のようにつぶやくと、返事は無かったが、父の皿を見るときれいに完食されていた。上出来である。
ごはんを食べたからなのか、学校にいたときの身体の重さはすっかりなくなっていた。
「麻音」
いつの間にか父が背後に立っていた。
「わっ、びっくりした!音もなく後ろに立つのやめて!」
振り返ると、父は私の眼鏡をはずして両肩を掴み、瞳を覗き込んできた。
しばしの沈黙。
今までも時折こういうことがあった。無言で私の目を見て、やがて満足したように去っていくのだ。意図はわからない。
ふ、と父が笑った気がした。
満足したらしい父は私の肩を離し、背を向けて歩き出した。
「お前に渡す物がある。礼拝堂へ来い」
「右と左、どちらか選べ。麻音」
行くなり、なんの説明もなしにそう告げられた。
「右と左?何が?」
「選べ」
説明する気は無いようだった。父の言うことはいつも難解でわかりづらくて、言葉が足りない。
「なんかよくわかんないけど、左!」
そう答えると、父はポケットから何か取り出した。
「なにこれ…?」
言うが早いか、大きな手が私の左耳に伸びてきた。
「痛みは一瞬だ」
バチン、と激しい音がして、思わず目を強く瞑った。
「いっ…」
耳たぶに一瞬衝撃が走ったが、音に対する驚きの方が大きかった。
どうやらピアッサーで穴を開けられたらしい。驚きと痛みからか、目の端から数滴涙がこぼれ落ちた。
「こういうのは先に説明してからやってよ!」
未だ潤む瞳でキッと睨みつけると、父はいつになく愉しそうに笑みを浮かべていた。私の痛がる様を見るのが好きなのだろう。困った人だ。
「先に言ったぞ。右か左、どちらが良いか」
「全然わかんないよ!でも贈り物がピアスってことだけはわかった!今!」
穴が空いた直後は特になにも感じなかったのだが、少し時間が経ったからかじんじんとした痛みが耳たぶに熱をもたらした。
「今、傷口を塞ぐ」
再び手が左耳に添えられた。私は魔術に詳しくないが、父の治癒魔術が一流ということはわかっている。
「終わったぞ」
左耳に触れてみると確かに痛みは完全になくなっており、かわりに水雷型のピアスが付けられていた。
「これは…」
「いずれお前に必要になるものだ。銀で出来ていて、古の強力な
「必要…」
父が私に初めて眼鏡を寄越したときもこんな感じに唐突だったな、と思い出す。
「なんかよくわかんないけど、とりあえず大切にするね」
礼拝堂の空気に触れて冷たくなった銀のピアスを手で弄び、私は自室に戻った。
「きれい…」
自室の鏡越しに見る銀のピアスは神秘的な輝きを放っていた。
「いにしえのまじない、って言ってたな」
お守りみたいな感じなんだろうな。この眼鏡とおなじ。
そろそろ寝ようと眼鏡を外し、なんとなく鏡に近づいて自分の両の目をじっくりと見てみた。
「あれ?」
左の目、こんなに濃い色だったっけ。