雲外蒼天
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私たちはアインツベルン城をあとにした。
自室に戻りベッドに腰掛けると、緊張の糸がプツリと切れどっと疲れが増す。
「振り出しに戻る、か…」
「確かに思い通りとは行かなかったが、成果がなかったワケじゃねえ」
「そうだね。バーサーカー陣営の実態はよくわかった」
彼らはおそらく、聖杯戦争参加者が最後の数組になる迄あの城から出てくる気はない。
途中で脱落する者達など眼中に無いのだ、きっと。最強のサーヴァントを名乗るのにふさわしい振る舞いと言えよう。
戦いのさなかでもう一つ、判明したことがある。
「私、あなたの真名わかったかも」
「ほお?」
あの宝具。 因果逆転の呪いを放つ必中の槍はこの世に他の使い手はいないだろう。
「アイルランドの光の御子…クランの猛犬、クー・フーリン…」
「アタリだ。言ったろ?すぐわかるって」
「てっきり、北欧の英雄かと。ルーン魔術を使うなんて知らなかった」
「師匠であるスカサハから教わったものでな。いつも言ってるが、面倒だからあまり行使したくはない」
私の部屋のソファで伸びをしながら語る彼は、激しい戦いの疲れなど微塵も出ていないようだった。アルスターの大英雄の名は伊達ではない。
「は〜〜それにしたって、あんなにけちょんけちょんにコケにされたら凹むなぁ〜…わかってはいたけど…」
自分より遥かに小さな体のアインツベルンの少女に、何度も「赤子」「未熟」と評されたのはちょっと堪えた。
バーサーカーの猛攻は凄まじかった。ただでさえ狂戦士の現界は通常のサーヴァントよりも魔力の消費が激しいと聞いている。
にもかかわらず息一つ乱さず君臨していたイリヤスフィールからすれば、比較的燃費のいいランサーの維持でいっぱいいっぱいな自分など、歯牙にもかけない存在だろう。
「そんなにしょぼくれんなよ。初めて戦いを目の当たりにしたってのに、アンタはちゃんとまっすぐ立ってたんだ。誇っていい」
「ランサー…」
いつになく優しい物言いに、目尻に少しだけ涙が滲んだ。
「ま、気にすんなって。あんなに偉そうなことのたまってはいたが、意外とアッサリ他の誰かに倒されるかもしれねえしな」
「まっさかぁ」
私たちが最後まで生き残っていればきっと再び相見えるだろうが、とりあえず今は深く考えるのをやめよう。これで目下の目標は、キャスターとアサシンの討伐になった。
「ランサーは、キャスターともアサシンとも戦ったことがあるんだっけ?」
「いいや、キャスターとだけだ。しかもその時奴はマスター不在の瀕死の状態だった」
「じゃあ今のキャスターは…」
「ああ。柳洞寺に神殿を構えている上、無辜の民から魔力を吸い上げ増幅している。奴の能力は未知数だ」
未だ見ぬキャスターの姿を想像する。ランサーは『魔女』と呼んでいた。
「キャスターのマスターは柳洞寺の人間と考えるのが事前だよね」
「あぁ、だろうな」
その後の話し合いにより今後の方針は大方定まった。彼の人柄はさっぱりとしていて、話し合いもスムーズにいくし信頼出来る。奔放だが面倒見も良い。私は彼の性質をなかなか好ましく思っていた。
「…ねぇ、そういえば前に、魔力不足は強硬手段で何とかなるとか言ってたよね。アレって結局なんなの?」
以前から気になっていたことを何の気なしに尋ねてみた。彼と契約を交わした夜、そんなことをボソッて言っていたような覚えがある。
「よく覚えてたな」
「…ちょっと、気になってたの」
ランサーはふう、と深呼吸して、寝転がっていたソファから起きあがった。
「あんたの眠っている魔術回路を無理矢理起動させる方法と、俺の宝具のランクを1つ上げる方法。手っ取り早く両方済ませられる手段はあるっちゃある」
「…何をすればいいの、教えて」
「粘膜接触による魔力供給…まあ簡単に言うと、セックスだな」
「…は????」
想像だにしなかった解答に、予期せぬ素っ頓狂な声が口をついて出た。頭の上に大きなハテナがいくつも並ぶ。
「えっ何言ってるの?どうしてそうなるの」
一瞬にして真っ赤に染まった顔は隠すすべもなく。
「マスターの使われていない回路を英霊 の体液で解き放つ。そして、魔力が溶けている魔術師 の体液で俺の能力も向上させる。粘膜での接触により効果的な体液交換が出来る訳だ。わかりやすいだろ」
「た、体液、こうかん、、、」
馴染みのない単語が頭の中を駆け巡った。淡々と説明を続けるランサーに対し、私の頬はどんどん赤みを増してゆく。
「そんなに赤くなるなよ。意識してんのか?」
「ちっ違う、ちょっと驚いただけだから」
本当に。これは彼を男性として意識しているとかじゃなくて、あくまで、私が子どもだからそういう単語に驚いているだけ。
泳ぐ視線が、少しだけ楽しそうな彼の目とぶつかった。
私と、ランサーが。
一瞬でも邪な妄想を繰り広げようとした想像力の豊かすぎる脳みそを慌てて押し留める。
…イヤだ、仮にも聖職者の娘なのに、何考えてるの私は。
「すぐにお前さんを取って食おうってワケじゃねえから安心しろ。ソレはあくまで切り札だ。
…ま、マスターがいいってんなら今すぐここで抱くけどな。オレはけっこう、アンタを気に入ってんだぜ、麻音」
一瞬、いつになく真剣なランサーの瞳が私を射抜いた。伸ばされた手により眼鏡が外される。
「ラン…サー…?」
声が上ずった。
常人離れした端正な顔がゆっくりと近づく。息と息がかかる距離。どうか私の、無駄に脈打つ心臓の音が彼の耳に入りませんようにと願った。彼の瞳越しに見る私の顔はやはり真っ赤で、…自分でも見た事のない表情をしていた。
「…なんてな、冗談だ」
しばらく見つめあっていたものの、一瞬にしていつもの人懐っこい笑顔に戻った彼はわしゃわしゃと私の頭を撫でつけた。
「あ〜〜〜もうやっぱりからかってる!私のことそんな風に見てなんかないくせに変なこと言わないでよね!」
「ハハ、悪い悪い。あまりにも反応が良くてつい」
「はぁ〜…なんかすごく疲れた。まだ夕方だけどお風呂はいってこよ…」
お風呂に入ってご飯を食べてたっぷり寝よう。そうすればきっと思考も冴えるし、必要な魔力も回復する。そう考え、やや早足で脱衣所へと向かった。
「…冗談じゃないんだがなぁ」
主人の居なくなった部屋でうわ言のように呟かれた言葉は誰の耳にも届くことなく、冷えゆく空気に紛れて消えた。
自室に戻りベッドに腰掛けると、緊張の糸がプツリと切れどっと疲れが増す。
「振り出しに戻る、か…」
「確かに思い通りとは行かなかったが、成果がなかったワケじゃねえ」
「そうだね。バーサーカー陣営の実態はよくわかった」
彼らはおそらく、聖杯戦争参加者が最後の数組になる迄あの城から出てくる気はない。
途中で脱落する者達など眼中に無いのだ、きっと。最強のサーヴァントを名乗るのにふさわしい振る舞いと言えよう。
戦いのさなかでもう一つ、判明したことがある。
「私、あなたの真名わかったかも」
「ほお?」
あの宝具。 因果逆転の呪いを放つ必中の槍はこの世に他の使い手はいないだろう。
「アイルランドの光の御子…クランの猛犬、クー・フーリン…」
「アタリだ。言ったろ?すぐわかるって」
「てっきり、北欧の英雄かと。ルーン魔術を使うなんて知らなかった」
「師匠であるスカサハから教わったものでな。いつも言ってるが、面倒だからあまり行使したくはない」
私の部屋のソファで伸びをしながら語る彼は、激しい戦いの疲れなど微塵も出ていないようだった。アルスターの大英雄の名は伊達ではない。
「は〜〜それにしたって、あんなにけちょんけちょんにコケにされたら凹むなぁ〜…わかってはいたけど…」
自分より遥かに小さな体のアインツベルンの少女に、何度も「赤子」「未熟」と評されたのはちょっと堪えた。
バーサーカーの猛攻は凄まじかった。ただでさえ狂戦士の現界は通常のサーヴァントよりも魔力の消費が激しいと聞いている。
にもかかわらず息一つ乱さず君臨していたイリヤスフィールからすれば、比較的燃費のいいランサーの維持でいっぱいいっぱいな自分など、歯牙にもかけない存在だろう。
「そんなにしょぼくれんなよ。初めて戦いを目の当たりにしたってのに、アンタはちゃんとまっすぐ立ってたんだ。誇っていい」
「ランサー…」
いつになく優しい物言いに、目尻に少しだけ涙が滲んだ。
「ま、気にすんなって。あんなに偉そうなことのたまってはいたが、意外とアッサリ他の誰かに倒されるかもしれねえしな」
「まっさかぁ」
私たちが最後まで生き残っていればきっと再び相見えるだろうが、とりあえず今は深く考えるのをやめよう。これで目下の目標は、キャスターとアサシンの討伐になった。
「ランサーは、キャスターともアサシンとも戦ったことがあるんだっけ?」
「いいや、キャスターとだけだ。しかもその時奴はマスター不在の瀕死の状態だった」
「じゃあ今のキャスターは…」
「ああ。柳洞寺に神殿を構えている上、無辜の民から魔力を吸い上げ増幅している。奴の能力は未知数だ」
未だ見ぬキャスターの姿を想像する。ランサーは『魔女』と呼んでいた。
「キャスターのマスターは柳洞寺の人間と考えるのが事前だよね」
「あぁ、だろうな」
その後の話し合いにより今後の方針は大方定まった。彼の人柄はさっぱりとしていて、話し合いもスムーズにいくし信頼出来る。奔放だが面倒見も良い。私は彼の性質をなかなか好ましく思っていた。
「…ねぇ、そういえば前に、魔力不足は強硬手段で何とかなるとか言ってたよね。アレって結局なんなの?」
以前から気になっていたことを何の気なしに尋ねてみた。彼と契約を交わした夜、そんなことをボソッて言っていたような覚えがある。
「よく覚えてたな」
「…ちょっと、気になってたの」
ランサーはふう、と深呼吸して、寝転がっていたソファから起きあがった。
「あんたの眠っている魔術回路を無理矢理起動させる方法と、俺の宝具のランクを1つ上げる方法。手っ取り早く両方済ませられる手段はあるっちゃある」
「…何をすればいいの、教えて」
「粘膜接触による魔力供給…まあ簡単に言うと、セックスだな」
「…は????」
想像だにしなかった解答に、予期せぬ素っ頓狂な声が口をついて出た。頭の上に大きなハテナがいくつも並ぶ。
「えっ何言ってるの?どうしてそうなるの」
一瞬にして真っ赤に染まった顔は隠すすべもなく。
「マスターの使われていない回路を
「た、体液、こうかん、、、」
馴染みのない単語が頭の中を駆け巡った。淡々と説明を続けるランサーに対し、私の頬はどんどん赤みを増してゆく。
「そんなに赤くなるなよ。意識してんのか?」
「ちっ違う、ちょっと驚いただけだから」
本当に。これは彼を男性として意識しているとかじゃなくて、あくまで、私が子どもだからそういう単語に驚いているだけ。
泳ぐ視線が、少しだけ楽しそうな彼の目とぶつかった。
私と、ランサーが。
一瞬でも邪な妄想を繰り広げようとした想像力の豊かすぎる脳みそを慌てて押し留める。
…イヤだ、仮にも聖職者の娘なのに、何考えてるの私は。
「すぐにお前さんを取って食おうってワケじゃねえから安心しろ。ソレはあくまで切り札だ。
…ま、マスターがいいってんなら今すぐここで抱くけどな。オレはけっこう、アンタを気に入ってんだぜ、麻音」
一瞬、いつになく真剣なランサーの瞳が私を射抜いた。伸ばされた手により眼鏡が外される。
「ラン…サー…?」
声が上ずった。
常人離れした端正な顔がゆっくりと近づく。息と息がかかる距離。どうか私の、無駄に脈打つ心臓の音が彼の耳に入りませんようにと願った。彼の瞳越しに見る私の顔はやはり真っ赤で、…自分でも見た事のない表情をしていた。
「…なんてな、冗談だ」
しばらく見つめあっていたものの、一瞬にしていつもの人懐っこい笑顔に戻った彼はわしゃわしゃと私の頭を撫でつけた。
「あ〜〜〜もうやっぱりからかってる!私のことそんな風に見てなんかないくせに変なこと言わないでよね!」
「ハハ、悪い悪い。あまりにも反応が良くてつい」
「はぁ〜…なんかすごく疲れた。まだ夕方だけどお風呂はいってこよ…」
お風呂に入ってご飯を食べてたっぷり寝よう。そうすればきっと思考も冴えるし、必要な魔力も回復する。そう考え、やや早足で脱衣所へと向かった。
「…冗談じゃないんだがなぁ」
主人の居なくなった部屋でうわ言のように呟かれた言葉は誰の耳にも届くことなく、冷えゆく空気に紛れて消えた。
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