雲外蒼天
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燃え盛る炎の中、空洞のような瞳でただ一人立ち尽くす男が居た。
聖杯を得ることは叶わず、自らが求めてやまないものが手に入る機会はもう二度と訪れまい。
あんなにも執着していた男は、蓋を開けてみれば取るに足らぬ矮小な思想の持ち主だった。
皮肉にも、求めてやまなかった聖杯の汚染された中身の残滓によって生き永らえた我が心臓は脈打つこと忘れ、轟々と燃え広がり続ける生き地獄を目の前にしてもまったく揺らぐことは無かった。
噎せ返る死の臭いの中、男は微かな呻き声を耳にした。
「…?」
「…す、けて」
声の先に目をやる。積み重なった瓦礫と人間だったモノの残骸の下、小さな手が僅かに、しかし確かにぴくりと動いた。
男は変わらず空虚な瞳のまま、死の塊を掻き分け続け、声の主である少女にたどり着いた。
辛うじて息はあるが…
ひゅうひゅうと浅い呼吸を繰り返す少女を抱き上げたものの、既に息絶えそうな様子をしており、これは助からないだろう、と判断した。
完全なる気まぐれだった。せめてもう少しマシな場所での死を迎えさせてやろうと、男はゆっくりと歩みを進めた。
「…ぁ、」
抱き上げられた刺激に反応したのか、少女は目を見開いた。
男もそれに気づき少女と『眼を合わせ』た。
その瞬間、身体が一瞬ぞわりと震え上がり、内部から魔力が『抜け落ちて』いく感覚が訪れた。
「……!?」
起こったことが理解出来ず、思わず腕の中の少女を突き飛ばし、当たりを見回した。
生きている人間はこの少女だけだ。
見れば死にかけていた少女は気を失ってはいるが先程よりも規則的な呼吸を繰り返しており、明らかに『回復』していた。
こいつが私の魔力を奪ったとしか考えられない。
「それ程生に固執するか、少女」
男は少しだけ口角を上げ、再び娘を抱き上げた。
「悪運の強いことだ。おまえも、私も」
「死に損ないの小娘を連れ帰って何とする?言峰。魔力の足しにもならんというのに」
冷たく、無感情な声が教会内にこだました。黄金の王は心底興味なさげに、言峰が自らの魔術刻印をもって少女の傷を癒しているさまを一瞥した。
「見殺しにするのは我が信条に反する。それに」
少女の表情が穏やかなものに変わったことを確認し、続ける。
「あれを生きながらえた者の末路が見たい。ただ単純に」
「お前の愉悦の材料というわけか。まあよい。退屈しのぎにはなろう」
言峰は自らの魔力を奪われたことに関してはこの王に伝えることは無かった。
受肉を果たした英雄王はうっすらと笑みを浮かべた。少女の呼吸音だけがうすら暗い教会内で響き渡っていた。
聖杯を得ることは叶わず、自らが求めてやまないものが手に入る機会はもう二度と訪れまい。
あんなにも執着していた男は、蓋を開けてみれば取るに足らぬ矮小な思想の持ち主だった。
皮肉にも、求めてやまなかった聖杯の汚染された中身の残滓によって生き永らえた我が心臓は脈打つこと忘れ、轟々と燃え広がり続ける生き地獄を目の前にしてもまったく揺らぐことは無かった。
噎せ返る死の臭いの中、男は微かな呻き声を耳にした。
「…?」
「…す、けて」
声の先に目をやる。積み重なった瓦礫と人間だったモノの残骸の下、小さな手が僅かに、しかし確かにぴくりと動いた。
男は変わらず空虚な瞳のまま、死の塊を掻き分け続け、声の主である少女にたどり着いた。
辛うじて息はあるが…
ひゅうひゅうと浅い呼吸を繰り返す少女を抱き上げたものの、既に息絶えそうな様子をしており、これは助からないだろう、と判断した。
完全なる気まぐれだった。せめてもう少しマシな場所での死を迎えさせてやろうと、男はゆっくりと歩みを進めた。
「…ぁ、」
抱き上げられた刺激に反応したのか、少女は目を見開いた。
男もそれに気づき少女と『眼を合わせ』た。
その瞬間、身体が一瞬ぞわりと震え上がり、内部から魔力が『抜け落ちて』いく感覚が訪れた。
「……!?」
起こったことが理解出来ず、思わず腕の中の少女を突き飛ばし、当たりを見回した。
生きている人間はこの少女だけだ。
見れば死にかけていた少女は気を失ってはいるが先程よりも規則的な呼吸を繰り返しており、明らかに『回復』していた。
こいつが私の魔力を奪ったとしか考えられない。
「それ程生に固執するか、少女」
男は少しだけ口角を上げ、再び娘を抱き上げた。
「悪運の強いことだ。おまえも、私も」
「死に損ないの小娘を連れ帰って何とする?言峰。魔力の足しにもならんというのに」
冷たく、無感情な声が教会内にこだました。黄金の王は心底興味なさげに、言峰が自らの魔術刻印をもって少女の傷を癒しているさまを一瞥した。
「見殺しにするのは我が信条に反する。それに」
少女の表情が穏やかなものに変わったことを確認し、続ける。
「あれを生きながらえた者の末路が見たい。ただ単純に」
「お前の愉悦の材料というわけか。まあよい。退屈しのぎにはなろう」
言峰は自らの魔力を奪われたことに関してはこの王に伝えることは無かった。
受肉を果たした英雄王はうっすらと笑みを浮かべた。少女の呼吸音だけがうすら暗い教会内で響き渡っていた。