私と兄の話
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予想通りの事態になったと私は思った。叔父は頭を悩ませていたけれど、これは仕方が無いことだと私は思う
学校から帰り夕飯の支度が終わっても兄が部屋から出てこないから、部屋を優しくノックする
少しすると鍵が開く音はしたけれど、扉が開くような気配はなかった。心配そうにこちらを伺う叔父に先に食べててと伝え兄の部屋に一人で入る
兄はシングルサイズのベットの上シーツにくるまっていた
「…鍵は閉めて」
『うん…』
鍵が閉まる音が静かな部屋に響く
そうするとシーツから顔を出し腕を広げる兄の腕の中にゆっくりと驚かせないように潜り込む
私を抱きしめ深呼吸する兄の息遣いと早い心拍音が聞こえる。兄の背に手を回し優しく宥めるように撫でると抱きしめる力が強まった
「…ジェイは間違ってる」
『うん』
「あの人のしてることは殺人だ」
『うん』
「黙認してるカナリアもおかしい」
『うん』
「貴方たちは間違っている」
『うん』
「…でも、僕はここから逃げられない」
『…』
最後の言葉には頷かずに目を閉じる
逃げることは簡単なんだよ。警察に言えば叔父は捕まるし、黙認している私も同罪だろう
きっと、それが正解で…それでどんな罰を受ける事になろうと私は受け入れるつもりで叔父と暮らしている
叔父は兄に納棺師の仕事を引き継がせたいみたいだけれど、常識人で優しい兄にはそれは無理だろうと私は思ってる
「…….…人が怖いんだ」
『…兄さん』
「人と話すのが…怖い」
…兄は先日から自閉症と言われ学校に行けなくなり叔父の学徒になったと聞いた
それから、たまに仕事の後はこのように部屋に引きこもってしまうようになった。私以外の人を部屋にいれない
今にも壊れてしまいそうな彼はとても儚く綺麗で…いつかは叔父のように壊れてしまったらどうしようかと、でもそうなってしまった方が楽になれるだろうと矛盾した考えが頭を行き交う
「カナリア…僕とここから逃げ出そう…」
『…ごめんなさい、それはできないの
ジェイを一人にはできないから』
「そう…だよ、ね…」
首筋に顔を埋めながら呼吸を繰り返す兄の頭を優しく撫でる
私よりも大きいはずの体はまるで小動物かと錯覚しそうな程に頼りなく震えている
それを少しでも止めてあげたくて強く抱きしめると、小さく嗚咽が聞こえた
「僕を…一人にしないで…」
『大丈夫、大丈夫だよ
ここに私がいるから…』
「………」
何か小声で呟いたから聞き返そうと顔を上げようとすると、手が私の後頭部に周り顔を兄の胸板に埋められてしまった
撫でてくれる兄の優しい手つきに身を任せるように目を閉じ、体の力を抜くと少し落ち着いた心音が伝ってきた
…きっと、私の言葉のせいもあって彼はここに縛られている
でも、私はジェイを…壊れてしまっている人を放っておくことはできない…それがいけないことだとしても
【第2話】
(どうすれば貴方の1番になれるかなんて問い。答えてはくれないでしょう?)
fin