tennis【short】
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放課後の靴箱前。
今日は朝からずっと雨が降り続けている。
だから、きっとアイツがもうすぐやってくる。
ふいにあたしの肩を誰かがトントンと叩く。
反射的に振り返ると頬にぷすとソイツの指がささった。
「おー、見事にひかかったのぅ」
「……仁王、もしかしてまた?」
ほら、きた。
「クックッ、お見通しみたいじゃな」
まったく仕方ないなぁ、なんてウソ。
雨の日はいつだってコレを期待してる。
こうやって仁王があたしに傘を借りに来るのを。
「いい加減傘くらい自分で持って来なよ。ていうか、朝だって雨降ってたでしょ。朝はどうやって来たの?」
でも、喜んでるなんて思われるのは癪だからわざと呆れ顔で文句を言う。
「ちょっと仁王、聞いてるの?」
「ちゃんと聞いとるよ。おまえさんの可愛らしい声を聞き逃すわけなかろ」
ああっもう、この詐欺師め!
あたしなんて好きじゃないくせに、そんな甘いセリフをさらりと言うんだから困る。
しかも、あたしの所有物である傘はいつの間にか仁王の手の中にあって。
なんだかなぁ…。
いつもは意地悪ばっかするくせに、ときどきなぜかこうやって紳士になる仁王。
だから、つい、もしかして柳生くん?なんて疑ってみたりして。
見分けるコツとかあればいいのに。
「のぅ、なまえ。おまえさん、俺と柳生を見分けるコツ知りたいと思わんか?」
一瞬、心を読まれたかと思ってドキリとする。
でも、仁王を見れば別段変わった様子もなくてホッとする。
「実はの、立海のレギュラー陣だけには見分けがつくようになっとるんじゃ」
「え、うそ!なんで?」
そう訊けば、仁王は大袈裟なため息をついて笑う。
「最初の頃は黙ってやっちょったんじゃが、真田に怒られてな…。じゃから仕方なくレギュラー陣には教えることにしたんよ」
「へぇ~…そうなんだ。でも、どうしてあたしに教えてくれるの?」
「お礼じゃ、お礼。いつも傘に入れてもらってるからの。ま、別に知りたくないなら構わんが」
「え、いや、知りたい知りたい!教えてっ!」
「じゃあ、もうちょい近くに来たら教えちゃるき。もっとこっち来んしゃい」
この時、あたしは好奇心のあまりすっかり忘れていた。コイツは詐欺師だということを。
ほんの数秒だった。
仁王に近づいたほんの数秒の間あたしの体も思考も全てが停止させられた。
自分の唇に触れたこの目の前の男の唇のせいで。
「な、なななな…!」
「顔真っ赤じゃ。おまえさん、本当にかわええのぅ」
本当はね、気付いてた。
仁王が毎回傘を忘れる理由も。
恥ずかしくなるくらい甘い言葉だってあたしにしか言わないことも。
だから、見分けるコツなんて知らなくてもわかっちゃうことも、自分で気付いてた。
「なまえ、好いとうよ」
でも、ごめんね…素直じゃないから。
バカじゃないの、ボソリと呟いた。
あたしも好き
(相合傘の中、ぎゅっと握った手で伝わって)