tennis【short】
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ごみ捨て場近くの渡り廊下は人気が少ない。
最近、その辺りにはどこから入り込んだのか子猫がいて、遊ぶのが私の日課になっている。少し青みがかった黒猫で人懐っこくないところが彼氏のリョーマに似ているから勝手に"リョーマ"と呼んでかわいがっている。
「かわいいにゃあ、リョーマ。いっぱいお食べ〜」
私の腕に抱かれ、一生懸命エサを食べる姿はかわいすぎてメロメロだ。食べている間だけは大人しく抱かれてくれる現金さがまたかわいい。
ここまで慣れるまでにも結構な時間がかかった。最初は何をしても素っ気なくて知らないフリ。こうやってエサをあげたり遊んだりして少しずつ仲良くなった。
「なまえ先輩、浮気?」
夢中になり過ぎて名前を呼ばれるまで気付かず、びっくりして振り返れば、そこには本物のリョーマ。
え、もしや見られた?いつから?
およそ人に見られて平気ではない猫とのたわむれを思い出す。
「あのー、リョーマさん、ちなみにいつからそちらに?」
「猫に相手にされずにチュール取り出したあたり?」
「ほぼ最初っからじゃん!!声かけてよ!」
私の心からの叫びは華麗にスルーされ、当たり前に隣に座って猫と遊びだすリョーマを横目にこれ以上言っても仕方ないと諦めてため息をこぼす。
「……リョーマ、懐かれるの早くない?」
私が持って来た猫じゃらしを上手に操って仲良く遊んでいるのを眺めて、羨ましさ全開でもらす。私だとこうはいかない。
「まぁ、うちにも猫いるんで」
そういえばそうだった。確か変わった鳴き声するって言ってたかも。
そんなことより、とリョーマは続ける。
「最近の昼休みはずっとここに居たんすか?」
「うん、大体はそうかな」
そしたら、誘ってくれたらいいのに、って小さく聞こえて、確かに最近は一緒にお昼ごはん食べてなかったなと思った。
え、もしかして寂しかった?
だから、猫と遊んでるの見て"浮気"って言ったり?
かわいすぎない??
「ちょっと、変な顔しないでくれる」
じろりと睨まれて、仕方なくハーイと適当に返事をする。恋人に向かって変な顔なんて失礼だと思いますけどね。
「で、なんで俺の名前なんすか」
「え?そっくりでしょ?」
横から猫を撫でながら言えば、ため息をつかれて、全然と返される。
「つり目だし」
「そんなの猫は大体そうでしょ」
「黒猫だし」
「けっこういるじゃん」
「んー、私に全然懐かないし?」
「へぇ、そうなんだ?」
冗談めかして言う私に少し驚いてから、ふっと笑ったリョーマの目が、声が、あまりに優しくて思わず視線を下に向ける。
心臓がドキドキと早鐘を打つ。決定的な何かを言われたわけでもないのに目と声でわからされてしまった。今の流れで言うなら、懐かれていると。それも相当に。
不意に首すじに柔らかい感触がした。
それがキスされたんだってわかって、首がかあっと熱くなる。反射のように抑えた手も熱くて、ああ、ちがう。たぶんぜんぶ熱いんだ。
そんな私を見て当の本人は満足そうに笑っていて、やっぱり"ほらね、こんなに懐いてる"と言わんばかりで、到底チュールでは手懐けられそうにないな、と思うのだった。
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