tennis【short】
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「なまえー」
休憩時間、名前を呼ばれて顔を上げれば教室のドアのところにブン太がいた。
「どうしたの?」
「教科書貸して。現文」
「か、し、て?」
「貸してください、なまえサマ!」
「うむ、よかろう」
腕を組み大げさに深く頷いてみせる私を見て、真田かよって笑うブン太に笑い返しながら自分の席に戻って教科書を持って来る。
「テニス部は教科書持って来てないの?この前仁王も借りに来た…」
そこで、はたと思い出した。そういえば仁王に貸して、その後…。
「大変申し訳ないが、教科書は貸せなくなりました」
「え、なに、どゆこと?」
「友達多いんだから他の方に借りろください」
「いや、意味わかんねーけど」
そりゃそうだと思う。だけど、見られるわけにはいかない。仁王が私の教科書に落書きした、ブン太と私の名前で書かれた相合傘を。
私がブン太を好きなことは仁王は知っていて、むしろ愚痴なんか聞いてもらっていて。仁王が教科書を返しに来たときもやっぱり愚痴をこぼしていたと思う。気付けば勝手に私の教科書に何か書いていて、途中で止めたから相合傘の上のハートはなくて不完全なまま。
それでも本人に見られるのは無理!しぬ!はずかしぬ!
そんなこんなで教科書を貸すわけにいかない。全力で阻止するため、教科書をしっかり握りしめる。
「俺は他のやつじゃなくてなまえに貸してほしいんだけど」
「へ」
間抜けな声も出るというものである。なんで、私?それは期待していいやつ?そんな考えで頭がいっぱいになって、緩んだ私の腕から教科書は消失していた。
「じゃ、借りてくな。今度、お菓子でも作ってくっから!」
「ちょ、こらー!貸せないってば!」
ブン太が言葉を発したあたりでちょうど始業のチャイムが鳴り、私の言葉は届いたのか届いてないのか。届いていても結果は変わらない気がするけど。絶望のあまり呆然とする私は授業のため教室にやってきた先生に注意を受けるまで立ち尽くしていた。
*
「なまえ、助かったぜぃ。サンキューな」
休み時間になり、教科書を返しに来たブン太は思った以上に普通だった。
まさかバレてない?でも、たぶん今授業で進んでるあたりに書いてあったはず。
「ボーッとして、どうした?」
「え、いや、あの……授業中寝てた?」
「おまえは…、教科書あるのにいきなり貸さねーって言ったり、授業中寝てたかって聞いてきたり失礼だな」
頭をぐりぐりとされながらお叱りを受けて、ごめんなさいと項垂れる。でも、こんなやり取りも不謹慎ながら嬉しい。
「おまえこそボーッとしてだろ。さっきの授業寝てたんじゃねーの?」
「ね、寝てないよ!」
むしろそんな心の余裕はなかった。言い訳をするべきか、玉砕覚悟で告白するか、ずっと考えていたから。結局、ドギマギする必要はなかったってことなのかな。
「まぁ、そんななまえのために分かりやすく大事なとこマーカーしておいてやったから、ちゃんと見とけよぃ」
「は、ちょっとなに勝手に人の教科書にマーカー引いてんの!?」
どいつもこいつも人の教科書を何だと思ってんだと思いながら、返却された教科書を開いて確認する。
マーカーはなぜか一字一字散り散りに引かれていて本当にただの嫌がらせのようだった。
でも、仁王が落書きしたページ、そこには相合傘の上にハートが足されていた。それも同じマーカーで。そうしたらマーカーの意味もわかって、いつの間にか居なくなっていたブン太を追いかけるため私の足は走り出していた。
マーカーが引かれた文字を順番に繋げて
”なまえがすき”