ストップ、松囃子!
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4 お酒はほどほどに
人間、頑張ったらご褒美がほしくなるものだ。
なんて言っても、学生一人暮らし、かつ彼氏ナシの私には、ご褒美をくれる人なんていない。
だから必然的に自分へのご褒美、という形になる。
……うん、言っててちょっと悲しくなってきた。まあでもしょうがないよね。気分切り替えて、美味しいものでも食べよう!
そんなわけで、私は大学の難解な課題をやり遂げた自分自身を労るべく、赤塚団地の公園近くへ足を運んでいた。
私のご褒美。それは……
「こんばんわ、チビ太くん!」
「おー、いらっしゃいナマエちゃん!」
そう、おいしいおでんだ!
「くぅー、やっぱチビ太くんのおでんが一番おいしいよー!」
「そうかい? へへへ、褒めてもおでんしか出ねぇぞ? ほらがんも」
「ありがとう! がんも大好き!」
私がチビ太くんの屋台を見つけたのは、2ヶ月前のことだった。
バイトで疲れていた帰り道、ご飯を作る気力なく立ち寄ったこの屋台。うっかり味わったおでんのおいしさに、私はすっかり魅了されてしまったのだった。
以来、事あるごとにご褒美気分で、時々ここを訪れている。
店主のチビ太くんも気さくな人柄だし、お値段もリーズナブルだし。Wi-Fi通じるし。いいお店を見つけちゃったなぁ。
「ねぇ、聞いてよチビ太くん!」
がんもをつまみに熱燗をすすりながら、私はチビ太くんへ話しかける。
「なんでぇ。いつにない剣幕で」
「いやさぁ、最近すっごい変なのと知り合っちゃってね!」
「変なの?」
食いついてきたチビ太くんへ、私はここ数日で溜まりきった鬱憤を語り始める。
「無職でニートでどーしよーもない人間! それも六人!!」
「ん? ニート? 六人……?」
「しかもそいつら六つ子なんだよ! 信じられないでしょ!?」
「えっ、六つ子……」
「もー、あんなダメ人間な六つ子初めて見たよ! この間なんかそいつらに勝手にアパートの部屋を無理矢理リフォームされちゃってね……」
「お、おいナマエちゃん……」
チビ太くんが震える声で続ける。
「その六つ子って……」
「俺たちのことかなぁ?」
呆然と私の背後を見つめるチビ太くん。
後ろからは聞き覚えのある声……
振り返り、のれんをめくればそこには……!
「どーもー、無職でニートでどーしよーもない六つ子でーす」
「あ……」
六つ子の皆さん、勢揃い。
私は固まるしか無かった。
「うそっ! チビ太くん知り合いだったの!?」
困ったようにうなずくチビ太くんに、驚愕する私。
六つ子の登場により、長椅子を彼らに譲り、私はカウンターの端へ移動。パイプ椅子に腰掛けておでんを食べている。
「そーそー、チビ太と俺ら、幼馴染!」
「ひえー、そうだったんだぁ」
世の中狭いもんだね。馴染みの店主と、我がにっくき天敵が幼馴染だなんて。
「ねーチビ太、ナマエちゃんよく来るの? なんか仲よさげじゃん」
「あー、2ヶ月くらい前からたまに来るよな? ナマエちゃん」
「うん、そうだけど」
「えっ!? 2ヶ月前から!?」
ダンッとカウンターに手をついて、おそ松くんが立ち上がる。
「てか、俺らも結構な頻度でここに来てるのに、なんで今まで会わなかったわけ!? 逆に奇跡じゃね!?」
「え、結構な頻度って、そんなに通い詰めてるの? ニートで金欠なのに?」
「いやナマエちゃん、こいつらいつもツケで食ってるから……」
チビ太くんの補足説明に、私は目が点になる。いや、チビ太くんそれ儲けになってるの?
「ツケにして返ってくる?」
「さっぱりだな」
「うわー……」
「えー!? 何その目!? 俺なんか悪いことした!?」
「いやこれが普通の反応だからね、おそ松兄さん……」
うわー。聞きたく無かった。チビ太くんにいつかツケが返ってきますように。
「それよりマイスイートナマエ……聞きたいことがある」
唐突に口を開いたのはカラ松くんだ。私のすぐ近くの席で格好つけている。
「会って間もない頃、確かオレはキミに『カラ松さん』と呼ばれていた」
「あー、そうだったね」
「しかしだ。この間は『カラ松くん』だった」
ほほう、どうやら呼び方の変化を気にしている模様だね。
「これはキミとオレの距離が近づきつつある証拠……違うかい?」
「全然違うね」
「えっ?」
的を外しまくった推理を軽く否定して、私は大根を頬張る。
「単にさん付けする程の敬意をきみらに持てないってだけだよ。でも呼び捨てする程親しくもないから、くん付けにしてる感じかな」
「しれっと『きみら』って、俺達まで巻き込んだよね、ナマエちゃん……」
「ナマエちゃん……オイラは?」
「もちろんチビ太くんに関しては、百パー親しみを込めてのくん付けだよ」
「そ、そうか! はぁ、よかった〜」
「ケッ!」
扱いの差に六人が揃ってむくれてるけど、日頃の行いを顧みれば至って妥当ってもんだよ。
そんな彼らを脇目に、私は大根をごくりと飲み込み、熱燗を煽る。ちょっとぬるくなってきたかも。
「ていうかナマエちゃん。友達いないの?」
「こんなところで一人で飲んでるとか、まるでダメなおっさんだよね」
「う……」
憂さ晴らしのつもりか、絡んできた長男と末弟。いいじゃない、一人で飲んでても。
「うるさいなぁ、いるに決まってんでしょ友達くらい」
「じゃあ今度その友達ここに連れてきなよ!」
「えー?」
おそ松くんの提案に、私は少し考える。
友達連れておでんかぁ……結構いいかも。私だけチビ太くんの美味しいおでんを独り占めしてるのも、なんだかもったいない話だし。
「うーん、そうだなぁ……」
「ナマエちゃん、ダメダメ。こいつらナマエちゃんをダシに女子大生とお近づきになりたいだけだって」
「えっ」
チビ太くんのナイスな横槍に、はっと私の酔いが醒める。
「ばっ! チビ太! 何バラしてんだテメエ!」
「えーとナマエちゃん? 別にそんな下心あったわけじゃないからね! 合コンとかエロいイベントとか全然期待してなかったし……」
「いや本音だだ漏れだぞトッティ」
野郎共め、なるほどそういうことだったか。
「前言撤回。私の大事な友達に無職なんか紹介できません。他を当たって」
「そんなこと言わないでナマエちゃーん!」
お願いお願ーい!とまとわりついてくる長男を適当にあしらいながら、私はチビ太くんに熱燗のおかわりを要求。ついでにがんもも。
「ナマエちゃん、こいつらいない時にまた連絡するから。そん時かわいい子連れてきてくれよな! な!?」
「おいこらチビ太くん……」
「てかチビ太ナマエちゃんの連絡先知ってんの!? いつの間に!」
「あー……今から教えてもらおうかと」
えへへ、と後ろ頭をかきながら照れ笑いのチビ太くん。
まあチビ太くんならしょうがない、後で教えてしんぜよう。それに六つ子不在情報はこれから大いに役立ちそうだし。うん。
そしてJDとの出会いを諦めきれないクソ長男は、まだなにごとかグダグダ言っている。
「ねー、お願いだよナマエちゃーん。俺たちに出会いを恵んでくれよー! 女子大生とアレコレしたいんだよー!」
「もー、しつこいよ!」
ちょっとキツめに叱ると、しゅんとうなだれるおそ松くん。子どもか。
「まったく、女子大生ならここにもいるでしょーに」
「えっ、ナマエちゃん女子大生だっけ?」
いやいやいや。散々女子大生だなんだってみんなでいじってきてたじゃない。トッティくんに至っては学生証写メってたし。
「あーごめんごめん、俺らナマエちゃんのことおっさんだと思ってるから」
「は? なにそれ!」
「顔可愛くても中身おっさんはねー。ボクはちょっとないかな」
「トッティ!?」
いや、こいつらと付き合いたいとかは無いけど!
何なの、この上から目線の酷評ぶり! さすがに傷つくんですけど!
「いや、この間初めてナマエちゃんと会った時にも思ったんだけどさ」
おそ松くんはいかにも「やれやれ」といった調子で続ける。
「ナマエちゃん、男六人の巣窟に連れ込まれたのに、妙に堂々としてたじゃん?」
「あー、あんときね。ボクも思った」
トッティまでもが同調する。思ったってなんなの。
「なんかこう……ボクらが欲しかったリアクションてさ、もっとこう……きゃあ! 私こんなにたくさんの男の人と話すの緊張しちゃう! 恥ずかしい! ……みたいな?」
「そうそう、もっと恥じらいほしかったよね」
「なのにさ、そういう可愛げ皆無で開き直っちゃって。しかも言うにことかいて、自己紹介ー、好きな食べ物ー、たこわさー……だって」
「あのねナマエちゃん。ああいう開き直りっぷりは女子じゃない。おっさん」
「そして食べ物の好みもおっさん」
「う……」
いやもう言いたい放題じゃないかきみ達……!
そして話題は私のアパートの部屋にまで及ぶ。
「そして極め付けがあの部屋」
「おっさんくさい部屋におっさんくさい家具」
「だ、だって家具はお父さんの知り合いからの貰い物だし、部屋だって、家賃安いのあそこくらいで……!」
部屋と家具については弁解させて欲しい。
都内で風呂トイレ別で家賃五万以下なんて、あの部屋くらいしかなかったんだ。多少古くても、前の住民がおっさんでも致し方ないところ。家具も今言った通り、うちのお父さんの知り合いのおじさんからもらったものばかりだ。新しく買い揃えるお金もなかったんだし、しょうがないじゃない。
「でも徳用の焼酎ボトルとワンカップ買い溜めしてるのは正直なくない!?」
「うっ」
「部屋と家具よりもそこが一番問題だからねナマエちゃん!!」
「んぐっ……」
い、痛いところを突いてきおる……!
確かに! 確かにそこは一番言い逃れできないかもしれない!
「ダメだよーナマエちゃん。花のJDが大○郎とか鬼○ろしとかを夜な夜な浴びるように飲んでんのは」
「若いうちから肝臓を痛めつける鬼の所業」
「まるで日々の寂しさを酒で逃避する独身のおっさん」
「おっさんおっさん!」
ニート達、ここぞとばかりにおっさんコール。
おっさん! おっさん! の大合唱に包まれて。私は改めて自己の存在を知りました。そうか、私はおっさんだったのか。
いやんなわけあるか。ていうかニート連中に上から目線でダメ出しされるの普通に腹たつ!
「フッ、オレにとっては素敵なレディ……」
ダンッ!!
「ヒッ!」
私、思い切りカウンターに拳を叩きつける。カラ松くんがビビってるけど知らん。
「なに? なに? 乱闘? 悪役レスラー!? 電流金網デスマッチ!!?」
「うーわー、怒ってはりまんなーナマエさん」
「いや呑気に言ってる場合!? ほらおそ松兄さん、トッティ! 言い過ぎだよ謝って!」
「はぁ!? 謝る? なんで!? ほんとのこと言っただけじゃん!」
「おそ松ぅううう!!」
「やばっ、おそ松兄さん後お願いねー」
逃げるトッティ、しかし私の一番の敵は赤いやつだ! 絶対に許しはしない!
「まずはおそ松くん! その後でトド松くんを処す!!」
「ボクナマエちゃんに初めて本名で呼ばれたと思ったらこういう展開!? 最悪だよ!!」
「上等だ、やってみろおっさん!」
屋台から距離を取り、お互いメンチを切ること数秒。
ハラハラしているチョロ松くんと呆れているチビ太くん、観戦モードの四男五男に、ビビってる次男と末っ子の視線を浴びながら、勝負の時はやってきた。
「行くぞ!」
「応ッ!」
その瞬間、龍虎相打つーー!
「あっはっはっは! いやー、愉快愉快!」
私とおそ松くんは、ビールジョッキを掲げた腕をお互いクロスさせ、飲み交わしながらくるくるスキップしていた。
「……いや、なんでこうなってるわけ?」
チョロ松くんが疑問を挟むけど、それは私にも分からない。
「なんつーか、酔っ払いのテンションだよな」
「チビ太、ちくわぶおかわり!」
「はいよ」
ナマエVSおそ松くん大決戦は紆余曲折あり、乾杯エンドに収束した。仲良きことは良きことかな! あー楽しい! あはははははは!
「あはははははは!!」
「あ、あはははは……」
おそ松くん! おそ松くんなんか元気ないぞ! どうしたおそ松くん! すごいぐったりしてる!! ウケる!! あははははははは!!
「も、もう無理……ナマエちゃん、スキップしながらくるくるすんのやめて! 俺別の意味で酔ってるから……うぷっ」
「オラー! 全然酒が進んでないぞもっと飲めー!!」
「や、やめっ……おえっぷ!」
「ナマエちゃん酔い過ぎでしょ……」
「まるでアルハラおやじ……」
「いやー、あれは女の子としてさぁ……」
ないよね。
六つ子の皆さんとチビ太くんの意見が満場一致したことに、私は未だ気付いていない。
人間、頑張ったらご褒美がほしくなるものだ。
なんて言っても、学生一人暮らし、かつ彼氏ナシの私には、ご褒美をくれる人なんていない。
だから必然的に自分へのご褒美、という形になる。
……うん、言っててちょっと悲しくなってきた。まあでもしょうがないよね。気分切り替えて、美味しいものでも食べよう!
そんなわけで、私は大学の難解な課題をやり遂げた自分自身を労るべく、赤塚団地の公園近くへ足を運んでいた。
私のご褒美。それは……
「こんばんわ、チビ太くん!」
「おー、いらっしゃいナマエちゃん!」
そう、おいしいおでんだ!
「くぅー、やっぱチビ太くんのおでんが一番おいしいよー!」
「そうかい? へへへ、褒めてもおでんしか出ねぇぞ? ほらがんも」
「ありがとう! がんも大好き!」
私がチビ太くんの屋台を見つけたのは、2ヶ月前のことだった。
バイトで疲れていた帰り道、ご飯を作る気力なく立ち寄ったこの屋台。うっかり味わったおでんのおいしさに、私はすっかり魅了されてしまったのだった。
以来、事あるごとにご褒美気分で、時々ここを訪れている。
店主のチビ太くんも気さくな人柄だし、お値段もリーズナブルだし。Wi-Fi通じるし。いいお店を見つけちゃったなぁ。
「ねぇ、聞いてよチビ太くん!」
がんもをつまみに熱燗をすすりながら、私はチビ太くんへ話しかける。
「なんでぇ。いつにない剣幕で」
「いやさぁ、最近すっごい変なのと知り合っちゃってね!」
「変なの?」
食いついてきたチビ太くんへ、私はここ数日で溜まりきった鬱憤を語り始める。
「無職でニートでどーしよーもない人間! それも六人!!」
「ん? ニート? 六人……?」
「しかもそいつら六つ子なんだよ! 信じられないでしょ!?」
「えっ、六つ子……」
「もー、あんなダメ人間な六つ子初めて見たよ! この間なんかそいつらに勝手にアパートの部屋を無理矢理リフォームされちゃってね……」
「お、おいナマエちゃん……」
チビ太くんが震える声で続ける。
「その六つ子って……」
「俺たちのことかなぁ?」
呆然と私の背後を見つめるチビ太くん。
後ろからは聞き覚えのある声……
振り返り、のれんをめくればそこには……!
「どーもー、無職でニートでどーしよーもない六つ子でーす」
「あ……」
六つ子の皆さん、勢揃い。
私は固まるしか無かった。
「うそっ! チビ太くん知り合いだったの!?」
困ったようにうなずくチビ太くんに、驚愕する私。
六つ子の登場により、長椅子を彼らに譲り、私はカウンターの端へ移動。パイプ椅子に腰掛けておでんを食べている。
「そーそー、チビ太と俺ら、幼馴染!」
「ひえー、そうだったんだぁ」
世の中狭いもんだね。馴染みの店主と、我がにっくき天敵が幼馴染だなんて。
「ねーチビ太、ナマエちゃんよく来るの? なんか仲よさげじゃん」
「あー、2ヶ月くらい前からたまに来るよな? ナマエちゃん」
「うん、そうだけど」
「えっ!? 2ヶ月前から!?」
ダンッとカウンターに手をついて、おそ松くんが立ち上がる。
「てか、俺らも結構な頻度でここに来てるのに、なんで今まで会わなかったわけ!? 逆に奇跡じゃね!?」
「え、結構な頻度って、そんなに通い詰めてるの? ニートで金欠なのに?」
「いやナマエちゃん、こいつらいつもツケで食ってるから……」
チビ太くんの補足説明に、私は目が点になる。いや、チビ太くんそれ儲けになってるの?
「ツケにして返ってくる?」
「さっぱりだな」
「うわー……」
「えー!? 何その目!? 俺なんか悪いことした!?」
「いやこれが普通の反応だからね、おそ松兄さん……」
うわー。聞きたく無かった。チビ太くんにいつかツケが返ってきますように。
「それよりマイスイートナマエ……聞きたいことがある」
唐突に口を開いたのはカラ松くんだ。私のすぐ近くの席で格好つけている。
「会って間もない頃、確かオレはキミに『カラ松さん』と呼ばれていた」
「あー、そうだったね」
「しかしだ。この間は『カラ松くん』だった」
ほほう、どうやら呼び方の変化を気にしている模様だね。
「これはキミとオレの距離が近づきつつある証拠……違うかい?」
「全然違うね」
「えっ?」
的を外しまくった推理を軽く否定して、私は大根を頬張る。
「単にさん付けする程の敬意をきみらに持てないってだけだよ。でも呼び捨てする程親しくもないから、くん付けにしてる感じかな」
「しれっと『きみら』って、俺達まで巻き込んだよね、ナマエちゃん……」
「ナマエちゃん……オイラは?」
「もちろんチビ太くんに関しては、百パー親しみを込めてのくん付けだよ」
「そ、そうか! はぁ、よかった〜」
「ケッ!」
扱いの差に六人が揃ってむくれてるけど、日頃の行いを顧みれば至って妥当ってもんだよ。
そんな彼らを脇目に、私は大根をごくりと飲み込み、熱燗を煽る。ちょっとぬるくなってきたかも。
「ていうかナマエちゃん。友達いないの?」
「こんなところで一人で飲んでるとか、まるでダメなおっさんだよね」
「う……」
憂さ晴らしのつもりか、絡んできた長男と末弟。いいじゃない、一人で飲んでても。
「うるさいなぁ、いるに決まってんでしょ友達くらい」
「じゃあ今度その友達ここに連れてきなよ!」
「えー?」
おそ松くんの提案に、私は少し考える。
友達連れておでんかぁ……結構いいかも。私だけチビ太くんの美味しいおでんを独り占めしてるのも、なんだかもったいない話だし。
「うーん、そうだなぁ……」
「ナマエちゃん、ダメダメ。こいつらナマエちゃんをダシに女子大生とお近づきになりたいだけだって」
「えっ」
チビ太くんのナイスな横槍に、はっと私の酔いが醒める。
「ばっ! チビ太! 何バラしてんだテメエ!」
「えーとナマエちゃん? 別にそんな下心あったわけじゃないからね! 合コンとかエロいイベントとか全然期待してなかったし……」
「いや本音だだ漏れだぞトッティ」
野郎共め、なるほどそういうことだったか。
「前言撤回。私の大事な友達に無職なんか紹介できません。他を当たって」
「そんなこと言わないでナマエちゃーん!」
お願いお願ーい!とまとわりついてくる長男を適当にあしらいながら、私はチビ太くんに熱燗のおかわりを要求。ついでにがんもも。
「ナマエちゃん、こいつらいない時にまた連絡するから。そん時かわいい子連れてきてくれよな! な!?」
「おいこらチビ太くん……」
「てかチビ太ナマエちゃんの連絡先知ってんの!? いつの間に!」
「あー……今から教えてもらおうかと」
えへへ、と後ろ頭をかきながら照れ笑いのチビ太くん。
まあチビ太くんならしょうがない、後で教えてしんぜよう。それに六つ子不在情報はこれから大いに役立ちそうだし。うん。
そしてJDとの出会いを諦めきれないクソ長男は、まだなにごとかグダグダ言っている。
「ねー、お願いだよナマエちゃーん。俺たちに出会いを恵んでくれよー! 女子大生とアレコレしたいんだよー!」
「もー、しつこいよ!」
ちょっとキツめに叱ると、しゅんとうなだれるおそ松くん。子どもか。
「まったく、女子大生ならここにもいるでしょーに」
「えっ、ナマエちゃん女子大生だっけ?」
いやいやいや。散々女子大生だなんだってみんなでいじってきてたじゃない。トッティくんに至っては学生証写メってたし。
「あーごめんごめん、俺らナマエちゃんのことおっさんだと思ってるから」
「は? なにそれ!」
「顔可愛くても中身おっさんはねー。ボクはちょっとないかな」
「トッティ!?」
いや、こいつらと付き合いたいとかは無いけど!
何なの、この上から目線の酷評ぶり! さすがに傷つくんですけど!
「いや、この間初めてナマエちゃんと会った時にも思ったんだけどさ」
おそ松くんはいかにも「やれやれ」といった調子で続ける。
「ナマエちゃん、男六人の巣窟に連れ込まれたのに、妙に堂々としてたじゃん?」
「あー、あんときね。ボクも思った」
トッティまでもが同調する。思ったってなんなの。
「なんかこう……ボクらが欲しかったリアクションてさ、もっとこう……きゃあ! 私こんなにたくさんの男の人と話すの緊張しちゃう! 恥ずかしい! ……みたいな?」
「そうそう、もっと恥じらいほしかったよね」
「なのにさ、そういう可愛げ皆無で開き直っちゃって。しかも言うにことかいて、自己紹介ー、好きな食べ物ー、たこわさー……だって」
「あのねナマエちゃん。ああいう開き直りっぷりは女子じゃない。おっさん」
「そして食べ物の好みもおっさん」
「う……」
いやもう言いたい放題じゃないかきみ達……!
そして話題は私のアパートの部屋にまで及ぶ。
「そして極め付けがあの部屋」
「おっさんくさい部屋におっさんくさい家具」
「だ、だって家具はお父さんの知り合いからの貰い物だし、部屋だって、家賃安いのあそこくらいで……!」
部屋と家具については弁解させて欲しい。
都内で風呂トイレ別で家賃五万以下なんて、あの部屋くらいしかなかったんだ。多少古くても、前の住民がおっさんでも致し方ないところ。家具も今言った通り、うちのお父さんの知り合いのおじさんからもらったものばかりだ。新しく買い揃えるお金もなかったんだし、しょうがないじゃない。
「でも徳用の焼酎ボトルとワンカップ買い溜めしてるのは正直なくない!?」
「うっ」
「部屋と家具よりもそこが一番問題だからねナマエちゃん!!」
「んぐっ……」
い、痛いところを突いてきおる……!
確かに! 確かにそこは一番言い逃れできないかもしれない!
「ダメだよーナマエちゃん。花のJDが大○郎とか鬼○ろしとかを夜な夜な浴びるように飲んでんのは」
「若いうちから肝臓を痛めつける鬼の所業」
「まるで日々の寂しさを酒で逃避する独身のおっさん」
「おっさんおっさん!」
ニート達、ここぞとばかりにおっさんコール。
おっさん! おっさん! の大合唱に包まれて。私は改めて自己の存在を知りました。そうか、私はおっさんだったのか。
いやんなわけあるか。ていうかニート連中に上から目線でダメ出しされるの普通に腹たつ!
「フッ、オレにとっては素敵なレディ……」
ダンッ!!
「ヒッ!」
私、思い切りカウンターに拳を叩きつける。カラ松くんがビビってるけど知らん。
「なに? なに? 乱闘? 悪役レスラー!? 電流金網デスマッチ!!?」
「うーわー、怒ってはりまんなーナマエさん」
「いや呑気に言ってる場合!? ほらおそ松兄さん、トッティ! 言い過ぎだよ謝って!」
「はぁ!? 謝る? なんで!? ほんとのこと言っただけじゃん!」
「おそ松ぅううう!!」
「やばっ、おそ松兄さん後お願いねー」
逃げるトッティ、しかし私の一番の敵は赤いやつだ! 絶対に許しはしない!
「まずはおそ松くん! その後でトド松くんを処す!!」
「ボクナマエちゃんに初めて本名で呼ばれたと思ったらこういう展開!? 最悪だよ!!」
「上等だ、やってみろおっさん!」
屋台から距離を取り、お互いメンチを切ること数秒。
ハラハラしているチョロ松くんと呆れているチビ太くん、観戦モードの四男五男に、ビビってる次男と末っ子の視線を浴びながら、勝負の時はやってきた。
「行くぞ!」
「応ッ!」
その瞬間、龍虎相打つーー!
「あっはっはっは! いやー、愉快愉快!」
私とおそ松くんは、ビールジョッキを掲げた腕をお互いクロスさせ、飲み交わしながらくるくるスキップしていた。
「……いや、なんでこうなってるわけ?」
チョロ松くんが疑問を挟むけど、それは私にも分からない。
「なんつーか、酔っ払いのテンションだよな」
「チビ太、ちくわぶおかわり!」
「はいよ」
ナマエVSおそ松くん大決戦は紆余曲折あり、乾杯エンドに収束した。仲良きことは良きことかな! あー楽しい! あはははははは!
「あはははははは!!」
「あ、あはははは……」
おそ松くん! おそ松くんなんか元気ないぞ! どうしたおそ松くん! すごいぐったりしてる!! ウケる!! あははははははは!!
「も、もう無理……ナマエちゃん、スキップしながらくるくるすんのやめて! 俺別の意味で酔ってるから……うぷっ」
「オラー! 全然酒が進んでないぞもっと飲めー!!」
「や、やめっ……おえっぷ!」
「ナマエちゃん酔い過ぎでしょ……」
「まるでアルハラおやじ……」
「いやー、あれは女の子としてさぁ……」
ないよね。
六つ子の皆さんとチビ太くんの意見が満場一致したことに、私は未だ気付いていない。