ストップ、松囃子!
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・チョロ松がしれっと新品ブラザーズに加入しています。
ゆる〜くお楽しみください。
─────────
11 新品ブラザーズと絶望クリスマス
ピンポーン。
「はーい」
「こんばんわー、ピザのお届けに参りましたー」
「あー! みんな、ピザの配達きたよー!」
「ご注文こちらでお間違い無いでしょうか」
「ねー見てー! ピザのお姉さんサンタ服きてるー!!」
「超ウケるーー!!」
「お姉さん、クリスマスなのに彼氏との予定ないの!?」
「エッ、ハイ……」
「クリスマスにサンタ服でバイトとか超ウケるー! かわいそー!」
「ねえねえ一緒に写真撮っていいっすか!?」
「イヤ、アノ……」
「はいこっち向いて!! メリークリスマース!!」
「メリー……クリスマス……」
ギャハハハハハハハ!!
「マイドアリアーシタ……」
「おねーさん頑張ってねー!」
「来年は彼氏作るんだよ!」
「ウケるー! マジ悲惨ー!」
──────────────
「……モドリマシター」
「あ、ミョウジさん宅配お疲れ! あのさ、悪いんだけどレジ締めと店の施錠お願いできる?」
「キョウノシメ……テンチョウデハ……」
「いや〜、うちカミさんと子ども待ってっからさ〜。クリスマスだしいいっしょ?」
「ア、ハイ……」
「あ、ピザとチキン余ってるから持って帰っていいからね。ていうか持って帰って。作りすぎた」
「コンナニタベキレナイッス……」
「んじゃあと任せたからね! メリークリスマス!」
──────────────
クリスマスが今年もやってきた。
楽しかった思い出を消し去るように。
大量のチキンとピザの売れ残りを引っ提げて、とぼとぼ歩く帰り道。
思い出すのは子供の頃のことだ。クリスマスは一年で一番楽しみなイベントだった。
サンタさんに手紙を書いて、クリスマスツリーを飾り付けて。家族でご馳走を囲んだクリスマスイブ。サンタさんに会いたくてずーっと起きてるつもりだったのに、でも眠気には勝てなくてそのまま寝ちゃったり。そして翌朝枕元に置いてあるプレゼント。ありがとうサンタさん。ありがとうクリスマス!
そんな純真な気持ちでクリスマスを楽しんでいたのは、今となってはもう遠い昔のこと。
子どもの頃にはまさか、こんな気持ちでクリスマスを過ごすことになるとは思わなかったんだ。
イブの夜に、彼氏もなく、宅配ピザのアルバイト。配達先ではパリピに絡まれ、店長には締め作業と食べきれない量の売れ残りを押し付けられ。二十四日の夜十時を、私は一人寂しく歩いている。
「はあ……」
思わずため息が漏れた。
つい先月まで、「クリスマス一緒にパーティしよ〜!」と誘ってくれていた友人達は、十二月に入るや否や、みんな揃って彼氏をこさえてしまった。寂しさを紛らわすようにバイトを入れたら入れたであの仕打ち。神さまサンタさま、私何か悪いことしましたか。
電飾で彩られた並木道。笑いさざめく男女の声、行き交う人々はカップルばかり……って。
カップル多すぎない?
ああそうだ。この道、クリスマスの時期だけイルミネーションされてるんだった。それで期間限定でデートスポットと化してしまったと。なるほど。
そんな感じでうっかりリア充の巣窟に迷い込んでしまった私は、場違い感に居た堪れなくなってくる。
(しまった……別の道通ればよかった)
普段は単なる自宅への近道。だけども今日は、きらびやかなイルミネーションを目当てに、走光性のカップルどもが羽虫の如くあちこちから集う魔の領域。
恋人同士でロマンチックを堪能する皆々様と、バイトで心身共に疲労困憊の私とでは、落差があまりにも悲しい。端的に言って死にたい。
「……別の道で帰ろう」
そうつぶやいて、踵を返したときだった。
「少女よ!」
「道を変える必要なんてない!」
「え?」
突如響き渡る、ものすっごい聞き覚えのある声。
思わず声の方を振り返った私の前に。
「とうっ!」
ずざざっ! と勢いをつけて登場する、謎の六人組。
一様に白いお面? フルフェイスマスク? のようなものをかぶり、顔の部分には一人一人「お」「カ」「チ」「一」「十」「ト」の一字が刻印されている。
おそろいの白いマントに白い衣装。黄色い一人だけマントに白ブリーフという前衛的すぎる出で立ち。
そして頭には六人それぞれ、申し訳程度にクリスマス要素のサンタ帽をかぶっている。
「真冬であろうと自撮りの背後に全裸で写り込む! 新品のおそ松!」
「忘れないぜ八十六万円。リメンバートゥルーラブ、新品のカラ松!」
「ホワイトクリスマス? 性の六時間? うるせえ世のリア充ども、全員ケツ毛爆破しろ! 新品のチョロ松!」
「………………………………ボケ、殺すぞ。新品の一松」
「サムゥイ!! 新品の十四松!!」
「今年も男六人涙のクリパ! 新品のトド松!」
各々口上を述べたところで、声を揃えて決めてくれました。
「クリスマスなどというふざけたイベント完全抹消! 俺たち、童貞自警団……新品ブラザーズ!」
どぉーん! と背景に爆煙まで入る。演出はまるで戦隊ヒーロー、しかしてその実体は。
「……何してんの、おそ松くんたち」
「違う! 俺たちは童貞自警団!」
「新品ブラザーズ!」
再度名乗りを上げるけど、どこからどう見ても知り合いのニート達です。本当にありがとうございました。
「…………………………」
「…………………………」
「……十四松くん風邪引くよ?」
「あい!!」
「こら新品の五男! 設定はきちんと守れ、新品の五男!」
なんだろうこのノリ。ていうかこんな人通りの多いところで何やってんだろうこの人達。童貞自警団? 新品ブラザーズ?
まったく理解ができないけれど、私がするべきことは一つ。
「それじゃ私帰るから」
「あーーーーっ、ちょっと待ってナマエちゃん!」
ずざざっ、と六人そろって行手を塞ぎにかかるニート達。ていうか設定はどうした。ナマエちゃんって呼んじゃってるし。
くそう、さっさと逃げたかったのに!
「なんで! なんで逃げるのナマエちゃん!」
「や、普通に関わり合いになりたくない。知り合いと思われたくない」
「そんなこと言わないで!」
「その目、キミも我々側の人間だ!」
「どういう意味!」
新品の末弟に、なんだかめちゃくちゃ失礼なことを言われた気がするけど!
「とにかくそこどいて! 私帰る途中だから。あんまりしつこいと通報するよ!」
「フッ、相変わらず素直じゃないな少女よ!」
「ここら一帯のカップルを皆殺しにしたいんでしょ? 正直にそう言えよ……」
「任せて! ボクらは暗黒大魔界クソ闇地獄カーストの救世主!」
「新品ブラザーズ!」
「だからその新品ブラザーズってなんなの!」
今日は全員そろって話が通じないのはなんでなんだろうね!
私の疑問に、ご丁寧にもカラ松くんから解説が入る。
「説明しよう! 我々新品ブラザーズとは、カースト上位のリア充を引きずり下ろし、憂さ晴らしをしてちょっとした快楽を得ている、そういうヒーローだ!」
「そういうヒーローだ!」
「もしもしおまわりさん?」
「こら少女、通報はやめるんだ!」
ともかく、大体想定の範囲内の活動内容だった。なるほどねぇ。クリスマスイブに彼女もおらず、リア充を妬むことしかすることがないと……。
「そうかそうか。みんな憎いんだね、リアルが充実している人たちが」
「分かってくれるかい少女よ!」
「さすが、我々側の人間だ!」
同情を示すと、この哀れな集団は声を震わせながら乗ってきた。でも「我々側の人間」って表現やめてほしいな。悲しくなるから。
そんな彼らへ、私は純粋に親切心からアドバイスを贈ることにします。
「一つだけ、みんなが幸せになれる方法があるよ」
「な、なんだと!?」
「一体どういうことだ少女よ! もしやきみが俺たちを新品卒業させてくれ……」
「働け」
短くそう告げれば、新品ブラザーズは一様に黙り込んだ。
不服。マスクで隠れてて表情は見えないけど、不服そうな顔してることくらい手に取るように分かる。
でも、きみ達が嫉妬から解放されるにはそれしかない。働いてお金稼いで社会的ステータスを得れば、可能性はあるかもしんない。
「……それだけはできない!」
「なんという邪悪過ぎる発想」
「労働など我々にとっては冒涜的な行為!」
「働かずにモテたいんだ! 分かってくれ少女よ!」
そして予想通りのリアクションだよ松野クソブラザーズ諸君!
でも、こんなところで他人に迷惑をかけたり、知り合いにウザ絡みしてたりすればするほど、きみ達は幸せから遠ざかっていくわけで。
「無職で金なし、モテる要素皆無でしょ。きみ達が望みを叶えるには、やっぱり労働は不可避だよ」
「じゃあじゃあ! 仮に僕たちが働いたとしてだよ!」
新品のチョロ松くんが口を挟む。
「職に就いて、お金を稼いだとします」
「うん」
「……ナマエちゃんは僕らと付き合ってくれるの?」
「………………………………」
沈黙。思わず私、目の前のニート達からふいと視線を逸らした。
「ほら!! ほらそうでしょナマエちゃん!! 絶望した!! 働いても希望のない未来に絶望した!!」
「その声で絶望したって言うのやめようか」
いやまあ、きみ達とお付き合いしたくないっていうのは……今までの積み重ねがね?
「アアーーーーーーーー!!!!」
私と三男のやりとりを遮って、突如上がる雄叫び。みんな一斉に声の方を振り向くと……
「新品の五男!」
「目が……目がーーーー!!」
目元を抑え、ふらふらとおぼつかない足取りの十四松くんの姿が。あ、倒れた。
ちょっと目を離してる間に何があったの……?
「大変だ新品達! 新品の五男が、いちゃついてるカップルを直視してしまった!」
「なんてことだ新品!」
「……死んでる」
「新品の十四松ーーーーー!!!!」
なんだこの茶番。
ていうかカップル見ただけで死ぬんだ……へぇ……防御力スペランカー以下じゃない。
「気をつけろみんな!」
「ああ、絶対に周りのカップルを見るんじゃないぞ! 新品の五男の二の舞だ!」
「くそう、こんなにもカップルで溢れているなんて!」
「め、目のやり場が……!」
「自殺しにきたのかな?」
そんな紙防御力でなんでデートスポットに来ちゃったんだろうね。新品ブラザーズ。
呆れる私をよそに、ヒーローショーは続きます。
「こうなったら……!」
「アレを使うしかない!」
「ウォータージャンピングストーン!」
新品ブラザーズは、どこから取り出したのか……手ごろな平たい石を手に持ち構える。
なんだあれ。ウォータージャンピングストーン? いやちょっと待って。それを振りかぶって? 投げようとしてる!? カップルに!?
「だ、ダメダメダメ!! それただの投石!! 傷害罪!! マジ犯罪だからダメだよ!!」
「慌てるな少女よ!」
「解説しよう、ウォータージャンピングストーンとは! 俗に言ういわゆるただの水切り!」
「は? 水切り?」
「ああああ!!!! 大変だみんな!!!!」
私が必死で止めてる最中、新品の末弟が大声を上げた。
「どうした新品のトド松!」
「みんなよく見て!」
兄弟の注目を集め、トッティは重々しく口を開く。
「ここ……川がない!!」
ニート達、一様に虚を衝かれた表情。
「し、しまったーーーー!!」
「本当だ、川がない!!」
「使えないじゃないかウォータージャンピングストーン!!」
「ばかなのかな!」
なんで街中の並木道で水切りしようとしたんだ。もう私、本格的にこのニート達のヒーローごっこについていけない。
新品ブラザーズはそれぞれ道端にうずくまり、無力感に肩を落としている。うち一人は死亡。
そんな彼らへ、道行くカップル達が物珍しげな視線を投げかけては去っていく。
色とりどりのイルミネーションに照らされて、絶望に浸る彼らの姿は……なんだかちょっと悲しい。
「くそぅ、なんなんだよクリスマスってさ」
「トト子ちゃん、今年も相手にしてくれないし」
「野郎六人のクリパってなんだよちくしょう……」
「女の子とパーリーしたかったぜ……」
しょんぼり。
毒づきながら落ち込んでいる、哀れなヒーロー達。
不本意だけど、本当に不本意だけど。
……ちょっと気持ちは分かるんだ。私もさっきまでバイト先で、パリピに絡まれ、店長に締め作業と廃棄押し付けられて、荒んだ気分だったしね……。
ふと、私は手に持った紙袋の存在を思い出した。バイト先の売れ残りチキンとピザ。
……しょうがない。私からみんなへ、クリスマスプレゼントだ。
「ねえみんな……これ、良かったら食べる?」
「何それ」
「ピザとチキン。バイト先の売れ残りなんだけど……良かったら、一緒に」
「!?!?!?!?」
そう持ちかけると、新品ブラザーズは元気を取り戻した。死んでいた十四松くんも生き返る。
「ナマエちゃんも一緒に食べてくれるの!?」
「あ、うん。迷惑じゃなければ」
「そんなことない!! ありがとう少女!! ありがとうナマエちゃん!!」
「救世主!」
「女神!!」
「女子とクリパだーーーーー!!!!」
「ナマエサンタ万歳!」
「ナマエサンタばんざーい!!!!」
いや効果覿面か。新品以下略達は私を囲んでバンザイを繰り返し始めるし! めっちゃ泣いてるし!!
まったくもう、普段はおっさん扱いしてくるくせに……都合のいい時だけ女子扱いなんだから!! あ、いや、今これはサンタ扱い? まあいいや!
「あの子、変な格好の男めっちゃはべらせてる」
「すげえな、逆ハーレム……」
「全然羨ましくない……」
そんでもって周りのリア中からはものすごい誤解招いてるんですけど!! 違います!! 違うんです!!
「あ、そうだ! このチキンとピザ持ってチビ太んとこ行こーぜ!」
「え〜? 持ちこみはチビ太怒るよ?」
「だーいじょうぶだって! ナマエちゃんからだって言えば怒りゃしねーよ」
そんなこんなで、いつの間にかチビ太くんとこに行く事になり。
「よーし、そうと決まったらさっさと行こうぜ!」
「ほら、行こうよナマエちゃん!」
「お持ち帰り! お持ち帰り!」
「こ、こら! 誤解を招く言動は謹んでください!」
変なお面を外して、ヒーローからニートに戻った彼らと一緒に私は歩きだす。
まあいっか。時にはこんな騒々しいクリスマスイブを過ごしたって。
「クリスマス、最高ーー!!」
「はいはい、メリークリスマス」
──────────────
「お、おいナマエちゃん……一体何合飲むんだバーロー!!」
「おい一松ぅ! ケツを出せ一松ぅ! あははははははは!!」
「う……ひっく……ぐす……」
「ぼく、こんなガチ泣きしながらケツ出してる一松兄さん見るの初めて」
「いやー……どう考えても女子とクリパって雰囲気じゃないでしょこれ……」
「絶望した……いやもうこれ、やっぱりただのアルハラおやじだから……」
「女の子といい雰囲気になれると、一瞬でも期待したオレ達が馬鹿だったな……」
「そうだな……なあ、みんな」
「なに? おそ松兄さん」
「これ、女子とのクリスマスパーティ扱いにすんの、ノーカンってことで」
「ウィー」
(おまけ)
「うっ、ぐすっ……最高すぎて涙腺ぶっ壊れた……」
「それ嬉し泣きだったのかよ一松兄さん……」
・チョロ松がしれっと新品ブラザーズに加入しています。
ゆる〜くお楽しみください。
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11 新品ブラザーズと絶望クリスマス
ピンポーン。
「はーい」
「こんばんわー、ピザのお届けに参りましたー」
「あー! みんな、ピザの配達きたよー!」
「ご注文こちらでお間違い無いでしょうか」
「ねー見てー! ピザのお姉さんサンタ服きてるー!!」
「超ウケるーー!!」
「お姉さん、クリスマスなのに彼氏との予定ないの!?」
「エッ、ハイ……」
「クリスマスにサンタ服でバイトとか超ウケるー! かわいそー!」
「ねえねえ一緒に写真撮っていいっすか!?」
「イヤ、アノ……」
「はいこっち向いて!! メリークリスマース!!」
「メリー……クリスマス……」
ギャハハハハハハハ!!
「マイドアリアーシタ……」
「おねーさん頑張ってねー!」
「来年は彼氏作るんだよ!」
「ウケるー! マジ悲惨ー!」
──────────────
「……モドリマシター」
「あ、ミョウジさん宅配お疲れ! あのさ、悪いんだけどレジ締めと店の施錠お願いできる?」
「キョウノシメ……テンチョウデハ……」
「いや〜、うちカミさんと子ども待ってっからさ〜。クリスマスだしいいっしょ?」
「ア、ハイ……」
「あ、ピザとチキン余ってるから持って帰っていいからね。ていうか持って帰って。作りすぎた」
「コンナニタベキレナイッス……」
「んじゃあと任せたからね! メリークリスマス!」
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クリスマスが今年もやってきた。
楽しかった思い出を消し去るように。
大量のチキンとピザの売れ残りを引っ提げて、とぼとぼ歩く帰り道。
思い出すのは子供の頃のことだ。クリスマスは一年で一番楽しみなイベントだった。
サンタさんに手紙を書いて、クリスマスツリーを飾り付けて。家族でご馳走を囲んだクリスマスイブ。サンタさんに会いたくてずーっと起きてるつもりだったのに、でも眠気には勝てなくてそのまま寝ちゃったり。そして翌朝枕元に置いてあるプレゼント。ありがとうサンタさん。ありがとうクリスマス!
そんな純真な気持ちでクリスマスを楽しんでいたのは、今となってはもう遠い昔のこと。
子どもの頃にはまさか、こんな気持ちでクリスマスを過ごすことになるとは思わなかったんだ。
イブの夜に、彼氏もなく、宅配ピザのアルバイト。配達先ではパリピに絡まれ、店長には締め作業と食べきれない量の売れ残りを押し付けられ。二十四日の夜十時を、私は一人寂しく歩いている。
「はあ……」
思わずため息が漏れた。
つい先月まで、「クリスマス一緒にパーティしよ〜!」と誘ってくれていた友人達は、十二月に入るや否や、みんな揃って彼氏をこさえてしまった。寂しさを紛らわすようにバイトを入れたら入れたであの仕打ち。神さまサンタさま、私何か悪いことしましたか。
電飾で彩られた並木道。笑いさざめく男女の声、行き交う人々はカップルばかり……って。
カップル多すぎない?
ああそうだ。この道、クリスマスの時期だけイルミネーションされてるんだった。それで期間限定でデートスポットと化してしまったと。なるほど。
そんな感じでうっかりリア充の巣窟に迷い込んでしまった私は、場違い感に居た堪れなくなってくる。
(しまった……別の道通ればよかった)
普段は単なる自宅への近道。だけども今日は、きらびやかなイルミネーションを目当てに、走光性のカップルどもが羽虫の如くあちこちから集う魔の領域。
恋人同士でロマンチックを堪能する皆々様と、バイトで心身共に疲労困憊の私とでは、落差があまりにも悲しい。端的に言って死にたい。
「……別の道で帰ろう」
そうつぶやいて、踵を返したときだった。
「少女よ!」
「道を変える必要なんてない!」
「え?」
突如響き渡る、ものすっごい聞き覚えのある声。
思わず声の方を振り返った私の前に。
「とうっ!」
ずざざっ! と勢いをつけて登場する、謎の六人組。
一様に白いお面? フルフェイスマスク? のようなものをかぶり、顔の部分には一人一人「お」「カ」「チ」「一」「十」「ト」の一字が刻印されている。
おそろいの白いマントに白い衣装。黄色い一人だけマントに白ブリーフという前衛的すぎる出で立ち。
そして頭には六人それぞれ、申し訳程度にクリスマス要素のサンタ帽をかぶっている。
「真冬であろうと自撮りの背後に全裸で写り込む! 新品のおそ松!」
「忘れないぜ八十六万円。リメンバートゥルーラブ、新品のカラ松!」
「ホワイトクリスマス? 性の六時間? うるせえ世のリア充ども、全員ケツ毛爆破しろ! 新品のチョロ松!」
「………………………………ボケ、殺すぞ。新品の一松」
「サムゥイ!! 新品の十四松!!」
「今年も男六人涙のクリパ! 新品のトド松!」
各々口上を述べたところで、声を揃えて決めてくれました。
「クリスマスなどというふざけたイベント完全抹消! 俺たち、童貞自警団……新品ブラザーズ!」
どぉーん! と背景に爆煙まで入る。演出はまるで戦隊ヒーロー、しかしてその実体は。
「……何してんの、おそ松くんたち」
「違う! 俺たちは童貞自警団!」
「新品ブラザーズ!」
再度名乗りを上げるけど、どこからどう見ても知り合いのニート達です。本当にありがとうございました。
「…………………………」
「…………………………」
「……十四松くん風邪引くよ?」
「あい!!」
「こら新品の五男! 設定はきちんと守れ、新品の五男!」
なんだろうこのノリ。ていうかこんな人通りの多いところで何やってんだろうこの人達。童貞自警団? 新品ブラザーズ?
まったく理解ができないけれど、私がするべきことは一つ。
「それじゃ私帰るから」
「あーーーーっ、ちょっと待ってナマエちゃん!」
ずざざっ、と六人そろって行手を塞ぎにかかるニート達。ていうか設定はどうした。ナマエちゃんって呼んじゃってるし。
くそう、さっさと逃げたかったのに!
「なんで! なんで逃げるのナマエちゃん!」
「や、普通に関わり合いになりたくない。知り合いと思われたくない」
「そんなこと言わないで!」
「その目、キミも我々側の人間だ!」
「どういう意味!」
新品の末弟に、なんだかめちゃくちゃ失礼なことを言われた気がするけど!
「とにかくそこどいて! 私帰る途中だから。あんまりしつこいと通報するよ!」
「フッ、相変わらず素直じゃないな少女よ!」
「ここら一帯のカップルを皆殺しにしたいんでしょ? 正直にそう言えよ……」
「任せて! ボクらは暗黒大魔界クソ闇地獄カーストの救世主!」
「新品ブラザーズ!」
「だからその新品ブラザーズってなんなの!」
今日は全員そろって話が通じないのはなんでなんだろうね!
私の疑問に、ご丁寧にもカラ松くんから解説が入る。
「説明しよう! 我々新品ブラザーズとは、カースト上位のリア充を引きずり下ろし、憂さ晴らしをしてちょっとした快楽を得ている、そういうヒーローだ!」
「そういうヒーローだ!」
「もしもしおまわりさん?」
「こら少女、通報はやめるんだ!」
ともかく、大体想定の範囲内の活動内容だった。なるほどねぇ。クリスマスイブに彼女もおらず、リア充を妬むことしかすることがないと……。
「そうかそうか。みんな憎いんだね、リアルが充実している人たちが」
「分かってくれるかい少女よ!」
「さすが、我々側の人間だ!」
同情を示すと、この哀れな集団は声を震わせながら乗ってきた。でも「我々側の人間」って表現やめてほしいな。悲しくなるから。
そんな彼らへ、私は純粋に親切心からアドバイスを贈ることにします。
「一つだけ、みんなが幸せになれる方法があるよ」
「な、なんだと!?」
「一体どういうことだ少女よ! もしやきみが俺たちを新品卒業させてくれ……」
「働け」
短くそう告げれば、新品ブラザーズは一様に黙り込んだ。
不服。マスクで隠れてて表情は見えないけど、不服そうな顔してることくらい手に取るように分かる。
でも、きみ達が嫉妬から解放されるにはそれしかない。働いてお金稼いで社会的ステータスを得れば、可能性はあるかもしんない。
「……それだけはできない!」
「なんという邪悪過ぎる発想」
「労働など我々にとっては冒涜的な行為!」
「働かずにモテたいんだ! 分かってくれ少女よ!」
そして予想通りのリアクションだよ松野クソブラザーズ諸君!
でも、こんなところで他人に迷惑をかけたり、知り合いにウザ絡みしてたりすればするほど、きみ達は幸せから遠ざかっていくわけで。
「無職で金なし、モテる要素皆無でしょ。きみ達が望みを叶えるには、やっぱり労働は不可避だよ」
「じゃあじゃあ! 仮に僕たちが働いたとしてだよ!」
新品のチョロ松くんが口を挟む。
「職に就いて、お金を稼いだとします」
「うん」
「……ナマエちゃんは僕らと付き合ってくれるの?」
「………………………………」
沈黙。思わず私、目の前のニート達からふいと視線を逸らした。
「ほら!! ほらそうでしょナマエちゃん!! 絶望した!! 働いても希望のない未来に絶望した!!」
「その声で絶望したって言うのやめようか」
いやまあ、きみ達とお付き合いしたくないっていうのは……今までの積み重ねがね?
「アアーーーーーーーー!!!!」
私と三男のやりとりを遮って、突如上がる雄叫び。みんな一斉に声の方を振り向くと……
「新品の五男!」
「目が……目がーーーー!!」
目元を抑え、ふらふらとおぼつかない足取りの十四松くんの姿が。あ、倒れた。
ちょっと目を離してる間に何があったの……?
「大変だ新品達! 新品の五男が、いちゃついてるカップルを直視してしまった!」
「なんてことだ新品!」
「……死んでる」
「新品の十四松ーーーーー!!!!」
なんだこの茶番。
ていうかカップル見ただけで死ぬんだ……へぇ……防御力スペランカー以下じゃない。
「気をつけろみんな!」
「ああ、絶対に周りのカップルを見るんじゃないぞ! 新品の五男の二の舞だ!」
「くそう、こんなにもカップルで溢れているなんて!」
「め、目のやり場が……!」
「自殺しにきたのかな?」
そんな紙防御力でなんでデートスポットに来ちゃったんだろうね。新品ブラザーズ。
呆れる私をよそに、ヒーローショーは続きます。
「こうなったら……!」
「アレを使うしかない!」
「ウォータージャンピングストーン!」
新品ブラザーズは、どこから取り出したのか……手ごろな平たい石を手に持ち構える。
なんだあれ。ウォータージャンピングストーン? いやちょっと待って。それを振りかぶって? 投げようとしてる!? カップルに!?
「だ、ダメダメダメ!! それただの投石!! 傷害罪!! マジ犯罪だからダメだよ!!」
「慌てるな少女よ!」
「解説しよう、ウォータージャンピングストーンとは! 俗に言ういわゆるただの水切り!」
「は? 水切り?」
「ああああ!!!! 大変だみんな!!!!」
私が必死で止めてる最中、新品の末弟が大声を上げた。
「どうした新品のトド松!」
「みんなよく見て!」
兄弟の注目を集め、トッティは重々しく口を開く。
「ここ……川がない!!」
ニート達、一様に虚を衝かれた表情。
「し、しまったーーーー!!」
「本当だ、川がない!!」
「使えないじゃないかウォータージャンピングストーン!!」
「ばかなのかな!」
なんで街中の並木道で水切りしようとしたんだ。もう私、本格的にこのニート達のヒーローごっこについていけない。
新品ブラザーズはそれぞれ道端にうずくまり、無力感に肩を落としている。うち一人は死亡。
そんな彼らへ、道行くカップル達が物珍しげな視線を投げかけては去っていく。
色とりどりのイルミネーションに照らされて、絶望に浸る彼らの姿は……なんだかちょっと悲しい。
「くそぅ、なんなんだよクリスマスってさ」
「トト子ちゃん、今年も相手にしてくれないし」
「野郎六人のクリパってなんだよちくしょう……」
「女の子とパーリーしたかったぜ……」
しょんぼり。
毒づきながら落ち込んでいる、哀れなヒーロー達。
不本意だけど、本当に不本意だけど。
……ちょっと気持ちは分かるんだ。私もさっきまでバイト先で、パリピに絡まれ、店長に締め作業と廃棄押し付けられて、荒んだ気分だったしね……。
ふと、私は手に持った紙袋の存在を思い出した。バイト先の売れ残りチキンとピザ。
……しょうがない。私からみんなへ、クリスマスプレゼントだ。
「ねえみんな……これ、良かったら食べる?」
「何それ」
「ピザとチキン。バイト先の売れ残りなんだけど……良かったら、一緒に」
「!?!?!?!?」
そう持ちかけると、新品ブラザーズは元気を取り戻した。死んでいた十四松くんも生き返る。
「ナマエちゃんも一緒に食べてくれるの!?」
「あ、うん。迷惑じゃなければ」
「そんなことない!! ありがとう少女!! ありがとうナマエちゃん!!」
「救世主!」
「女神!!」
「女子とクリパだーーーーー!!!!」
「ナマエサンタ万歳!」
「ナマエサンタばんざーい!!!!」
いや効果覿面か。新品以下略達は私を囲んでバンザイを繰り返し始めるし! めっちゃ泣いてるし!!
まったくもう、普段はおっさん扱いしてくるくせに……都合のいい時だけ女子扱いなんだから!! あ、いや、今これはサンタ扱い? まあいいや!
「あの子、変な格好の男めっちゃはべらせてる」
「すげえな、逆ハーレム……」
「全然羨ましくない……」
そんでもって周りのリア中からはものすごい誤解招いてるんですけど!! 違います!! 違うんです!!
「あ、そうだ! このチキンとピザ持ってチビ太んとこ行こーぜ!」
「え〜? 持ちこみはチビ太怒るよ?」
「だーいじょうぶだって! ナマエちゃんからだって言えば怒りゃしねーよ」
そんなこんなで、いつの間にかチビ太くんとこに行く事になり。
「よーし、そうと決まったらさっさと行こうぜ!」
「ほら、行こうよナマエちゃん!」
「お持ち帰り! お持ち帰り!」
「こ、こら! 誤解を招く言動は謹んでください!」
変なお面を外して、ヒーローからニートに戻った彼らと一緒に私は歩きだす。
まあいっか。時にはこんな騒々しいクリスマスイブを過ごしたって。
「クリスマス、最高ーー!!」
「はいはい、メリークリスマス」
──────────────
「お、おいナマエちゃん……一体何合飲むんだバーロー!!」
「おい一松ぅ! ケツを出せ一松ぅ! あははははははは!!」
「う……ひっく……ぐす……」
「ぼく、こんなガチ泣きしながらケツ出してる一松兄さん見るの初めて」
「いやー……どう考えても女子とクリパって雰囲気じゃないでしょこれ……」
「絶望した……いやもうこれ、やっぱりただのアルハラおやじだから……」
「女の子といい雰囲気になれると、一瞬でも期待したオレ達が馬鹿だったな……」
「そうだな……なあ、みんな」
「なに? おそ松兄さん」
「これ、女子とのクリスマスパーティ扱いにすんの、ノーカンってことで」
「ウィー」
(おまけ)
「うっ、ぐすっ……最高すぎて涙腺ぶっ壊れた……」
「それ嬉し泣きだったのかよ一松兄さん……」