逆転サンドリヨン
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デフォルト名は「ナマエ」
男装夢主なので、特にこだわりのない方は中性的なお名前にするとしっくりくるかもしれません。
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気がつけば、時刻は夕方。窓から夕焼けの光が差し込んできます。
いつの間にか報道陣は姿を消していて。
部屋では六つ子が悠々自適にくつろいでいました。
もしかして、ぜんぶ夢だったんだろうか。
そう思っていたところに、スマホにメッセージの着信音が。
ロックを解除すると、大臣からの鬼電の形跡。そして家臣達からの鬼メッセージ。
ニュースサイトを見てみれば。
『衝撃! 爽やか王子の裏の顔!』
『バリタチ王子の夜に密着』
『被害者多数!? 鬼畜王子は全裸緊縛陵辱プレイがお好き!』
うわあ。間違いなく現実だ。
目を覆いたくなる惨状です。ナマエ王子、真っ白に燃え尽きます。真っ白にな……
「あ、あのさ、王子さま……」
真っ白燃え尽き王子に話しかけてきたのは、すべての元凶の赤い長男です。
長男はたはは、とお茶目に笑いながら詫びを入れました。
「いまカラ松に聞いたよ。王子さまがやべえ性癖持ってるとか、ぜんぶ俺たちの勘違いだったみたい」
「……………」
「すごいことになっちゃったね。はは、ごめん!」
「軽ーーーーい!」
王子はワッと泣き伏します。でも怒るに怒れません。どうやら彼らは彼らなりに、兄弟のことを守ろうとしていたようなので。なぜかとんでもない性癖持ちだと思われたことは、正直理解が及びませんが。悪いのはあくまで、報道陣の張り込みに気付かなかった己の迂闊さなのです。
「……泣かないでくれ、プリンス」
「その声は……」
聞き覚えのある声に、はっと振り返れば。
金髪のウィッグでもなく、サファイアのアクセサリーもなく、青いドレスでもない。
普通の松野カラ松の姿がありました。
「……女装癖はやめちゃったの?」
「フッ、開口一番それかいプリンス?」
ずこっ。盛大にコケつつ、「あれは性癖じゃないんだぜプリンス」とちゃんと訂正する次男なのでありました。
改めて。松野兄弟は王子へ自己紹介してくれました。
長男おそ松、三男チョロ松、四男一松に五男十四松、末弟トド松。
そして。
「そして……このオレこそ松野家に生まれし次男、松野カラ松……!」
「へぇ、カラ松くんって名前だったんだ」
やっと彼の名前を聞けて、ほっとするナマエ王子です。これから「プリンセス」って呼ばなくてもいいのね。ぶっちゃけ呼ぶのにすごい抵抗あった、プリンセス。
「で、これから王子さまはどうするんです?」
「それは……」
緑の三男に問われて、王子は顔を伏せました。
この状況です。何をどうすればいいのか、皆目検討もつきません。
「いいんじゃねえの? だって王子さまでしょー、下々の声なんか無視すりゃいいじゃん」
おそ松の無責任な発言に、王子はキリッと居住まいを正して口を開きます。
「そういうわけにもいきません。国民あっての王族です」
「聞いたチョロ松兄さん? 真面目ってこういうことだよ?」
「うっせーわ」
六つ子と一緒にいると、なにかと話が脱線します。謎にたしなめる末弟とたしなめられる三男。
「ていうかさー」
たしなめていた末弟が口を挟みました。
「舞踏会のとき、なんで王子さまはクソ松兄さんと踊っちゃったわけ? 割とあれボクら的にも世間的にも疑問の塊だったんだけど」
「そういえばそうだよなー、あの国中から集められた錚々たる一軍のメンバー様に脇目も振らず、女装クソ松選んだんだもんな」
「トト子ちゃんにも目もくれないし」
「大丈夫王子さま? ちんこついてる?」
尋ねられて、王子は思わずカラ松の方へ視線を向けました。こういう疑問が呈されるということは、彼は約束を守ってくれたのでしょう。王子の秘密を守るという約束を。
そんな王子の視線に応えるように、カラ松は「フフン」とウインクしながら口元に人差し指を当てて見せました。一々仕草がキザでやっぱりはらたつ。
「ドSな性癖はないとしても、やっぱ王子さまってソッチ系の人?」
「いや、普通に女の子が好きだとしても、ものすっげーゲテモノ食い?」
六つ子たちは当然の疑問に行き着きます。王子は答えに窮しました。一体どう答えたものか。
そんなとき。トド松のスマホにニュース速報が。
「あ。なんかお城の大臣が緊急記者会見するって」
「なんだって!?」
王子も慌てて自分のスマホを取り出します。同じく届いているニュース速報。アプリで記者会見のLIVE映像も見られるとのことなので、慌てて中継映像を視聴します。
「おいトッティ、これ全然読み込み進まねえんだけど」
「ごめーん、今月もう制限きちゃった。ね、王子さま! ボクにも見せて~!」
「ったく、エロ動画ばっか見てっからだろ童貞」
「うっせーわシコ松!」
「ああン!?」
「静かに!」
ちょうど三男と末弟の小競り合いが終わったところで、画面内にはイヤミ大臣が登場しました。あの巨大な前歯が反射板の役割をしてるのか、カメラのフラッシュの照り返しで若干画面がまぶしい。
『お集まりのみなさ~ん! 今日は王子の変態性癖疑惑について説明させていただくザンス!』
「た、頼む大臣! この状況をなんとかして……!」
祈る気持ちでナマエ王子は記者会見を見守ります。
『えー、まず。昨今報道されてる王子のヤバめの性癖ザンスが……もちろん事実無根ザンス!』
「大臣……!」
普段は頼りない大臣が、輝いて見える瞬間です。ありがとうイヤミ! ありがとう! 私が王位に就いたら宰相にしてあげるよイヤミ!
『我らが王子は皆さんご存知の通り、清く正しい心の持ち主ザンス! このミーが保証するザンス!』
『すみません。大臣に保証されたところで大臣が一番信用なりません』
『シェー!』
頑張れイヤミ! 負けるなイヤミ! でも大臣が一番信用ならないには同意だ記者よ。
『とにかく! 王子は世間で言われているようなドSな特殊性癖の持ち主では絶対にないザンス! なんかの間違いザンス!』
『でも大臣! 先日の舞踏会では、まるで男のようないかつい女性にダンスを申し込んだとか』
『少なくとも女の趣味は最悪なのでは?』
『そこは否定できないザンス』
否定してよ大臣!
『いいザンスか! 王子の性癖があーだとかこーだとか、デタラメを言う者は今後全員死刑ザンス! 分かったザンスね!』
『何言ってんだー! 横暴だー!』
『言論の弾圧だー!』
いやちょっと待って大臣。なんか変な方向に行ってない? 死刑とか持ち出して大丈夫?
『まったく、王家バッシングなんて懲り懲りザンス。ミーはただ王家に寄生して甘い汁を吸いたいだけなのに!』
『本音モロダシだぞ大臣ー!』
王子、ここに至って大臣と記者、どちらを応援していいか分からなくなります。ありもしない変態性癖を追求してくる記者団VS王家に巣食う寄生虫イヤミ。なんだこのバトル。
そして記者会見も佳境。イヤミはついに口を滑らせてしまいました。
『とーにーかーくー! もうこの話はおしまいザンス! まったく、あの王子がバリタチだの鬼畜攻めだの野獣だの! 王子がそんなことできるわけないザンス、なんせあの子は女の子ザンスよ!』
あ。
『あ……』
ざわっ……
会見場がざわつく気配。
『あ、あのイヤミ大臣。いまの発言は、いったいどういう……』
『大臣! 大臣どちらへ!』
『……ミーもう大臣やめるザンス』
『お、おい! おい待て大じ……イヤミ! イヤミこら!』
『逃げたぞあの出っ歯!』
『追え!』
『シェーーーー!!』
ぶつっ。
会見が打ち切られ、スマホの画面は真っ暗になってしまいました。
ナマエ王子が顔を上げると、六人分の視線が王子に集まっていました。一様に、驚いた表情です。ただ一人カラ松だけが「あちゃー」とばかりに片手で顔を覆っています。
「………………え、いまの、マジ?」
「王子さま…………女の子なの?」
「あの、えっと……」
「え、うそ、王子さまちんこついてないの?」
ずずい、とおそ松がナマエ王子へ詰め寄ります。
「ほんとに? マジで? ちんこついてない? ちょっと確認していい?」
「コラおそ松!」
安定のセクハラ発言が出たところで、次男から鉄拳制裁。「いってー!」と長男が脳天を抑えて仰向けに倒れます。
そして残りのニートには動揺が広がっていました。
「う、うわぁ……女の子なのか……!」
「そうだと思うとなんか緊張してきた!」
「男だったらいけすかなくてムカつくけど、女の子だとかわいいね!」
「へへっ……蔑んでもいいですよ……ていうか蔑んでください……」
デレデレするニート達。とはいえ、王子が実は女の子だとなると、不可解だった点が少しずつ分かっていきます。
「なるほど。女の子なのに王子として今まで育てられたと」
「んで、王子として結婚相手を募集するための舞踏会を勝手に開催されたけど、本当は女の子だから乗り気ではなかったと」
「そこへ現れる……オレ!」
「そういやそもそもクソ松兄さんはなんで女装の状態であそこにいたの?」
「フッ、話せば長くなるが……舞踏会へ行きたいオレを、魔法使いデカパンが魔法でお姫さまにしてくれたんだ」
「ごめん、何言ってっか全然わかんない」
ともかく、舞踏会で女装クソ松と出会った王子は、自身と同じく性別を詐称しているカラ松を利用して、舞踏会を乗り切ろうとしたこと。しかし十二時に全裸になるクソプリンセスだったのでやむなく帰宅させ、婚約者選びが結局有耶無耶になったこと。
一連の出来事を、ナマエ王子は一生懸命に説明しました。王子の説明は的確で、日々のんべんだらりと過ごしているニート達にもわかりやすいものでした。
「へぇ……そんなことが」
「ていうか、カラ松は王子が女の子なの知ってたの?」
そして当然の疑問がチョロ松から呈されます。これにカラ松、「フッ、当然……」といつもの勿体ぶりで答えようとしましたが。
彼に先んじて答えたのは、ナマエ王子でした。
「ああ、ちょっとした事故でバレて」
「ちょっとした事故?」
「胸を揉まれて」
王子は特に悪気なくさらりと答えます。あのラッキースケベは、王子にとってはあくまで事故。特にカラ松への怒りはなく、こっちも男のフリしてたし、触っちゃったもんはしょーがないよねーくらいのスタンスでしたが。
「はあ!? 胸を!?」
「揉みしだいた!?」
その行為が童貞ニートに対しどういう意味を持つのか、王子は全く分かっていませんでした。
「おいクソ松ゥゥゥゥ!」
「クソ松ゥゥゥゥ!」
「わ、ちょ、ちょっとブラザー! 落ち着け! だから事故! 事故だったんだって!」
「うっせー! 事故だろうがラッキースケベには変わりねえだろうが!」
「歯ァ食いしばれやクソ松ー!」
突然次男に対し、マックスまで高まる殺意。この家にはありふれた光景でしたが、慣れてない王子は慌てて止めに入ります。
「わ、わわわタンマタンマ! なんで! どうして殺そうとする!」
「だってこいつおっぱいさわった!」
「うらやましい!」
「俺もさわりたい!」
止めに入った王子に対し、童貞たちはリビドー全開です。さっそく兄弟の中で一番スケベの敷居の低いおそ松が、王子めがけて駆け寄ります。
「いーじゃーん! 俺たちもおっぱいさわりたいんだよー! お願い王子ちゃん、俺にも触らせてー!」
「ふんっ」
「一瞬にしてあまりにも正確な目潰し!」
「日頃からフェンシングとかやってるから」
「さすが……王子……」
「ひぇえ……」
バタン、と長男が倒れ伏します。他の兄弟は恐れをなして向かってきません。どうやら王子は、このニート童貞たちとうまくやっていけそうです。
「フッ……プリンス、いやマイプリンセス」
いままで王子の背後で守られていたカラ松が、カッコつけながらサングラスをかけます。そして放たれるクソな一言。
「もう一度オレに触らせてくれても、いいんだぜ? おっぱ……」
「ふんっ!!」
「ノールック目潰し!!」
二発目の目潰しを決めて。ナマエ王子は自分の気持ちが分からなくなってしまいました。
どうしてこんなクソな人、好きになっちゃったのかなぁ。